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起業の種の見つけ方と定石にとらわれない事業戦略の考え方――日本初の家具のサブスク、ソーシャルインテリア町野健にグロースX山口義宏が迫る!

最終更新日:2023.05.17

日本で初めて家具のサブスクサービスを手掛け、0→1、1→10、そして10→100と事業を成長させているソーシャルインテリア。現在は「法人向け事業」「個人向け事業」「オフプライスマーケット」の3事業を展開し、中でも好調な「法人向け事業」は大きな成長を遂げているそうです。

BtoCとBtoBの両方を展開し、コロナ禍を乗り越えながら、ソーシャルインテリアはどのように事業を伸ばしてきたのでしょうか。また、フェーズごとにどんなマーケティング戦略を打ち出してきたのでしょうか。

今回は「事業を1→10、10→100に伸ばすマーケティング戦略」をテーマに開催されたMarketing Native LIVE vol.7から、ソーシャルインテリアの成長のポイントを事例として取り上げながら、事業成長の本質に迫ります。

出演者は株式会社ソーシャルインテリア 代表取締役社長 町野健さん、モデレーターは株式会社グロースX 取締役COO/インサイトフォース株式会社 取締役の山口義宏さんです。

(文:和泉ゆかり、構成:Marketing Native編集長・佐藤綾美)

※本記事は、Marketing Native LIVE vol.7の内容について、登壇者の方々の許可を得たうえで読みやすく編集したものです。

目次

2019年のサブスクブーム到来が追い風に

山口 「ソーシャルインテリア」について、よくご存じない方もいらっしゃると思いますので、まずはビジネスの概要からご紹介いただけますか。

町野 私たちはもともと「サブスクライフ」という社名で2018年3月に日本で初めて家具のサブスクサービスを提供した会社です。これまでは主に個人・法人向けのサブスク事業で拡大してきました。「よいものが長く使われ、最適に配置・循環する社会の実現」というミッションを達成すべく、サブスクはあくまでも手段と位置づけして事業を進めています。

事業は「オンライン販売事業」「オフライン販売事業」「インテリアDXサービス」の大きく3種類に分けられます。オンライン販売事業とオフライン販売事業を展開する過程で、家具の選定の大変さを知り、現在インテリアDXサービスの立ち上げを行っている状態です。

  • オンライン販売事業
  • オフライン販売事業
  • インテリアDXサービス

オンライン販売事業では、サブスクサービスの「サブスクライフ」のほか、ユーザーに貸していた家具や家電を売却するマーケット「サブスクライフ オフプライス」を展開しています。課金体系が特殊で以下6つのポイントがあり、短期から長期まで金利負担なく新品を利用でき、気に入れば購入も可能で、定価以上の請求はないところなどがユーザーのメリットです。

ソーシャルインテリアのサブスクモデルのポイント(提供:株式会社ソーシャルインテリア)画像提供:ソーシャルインテリア

また、倉庫や在庫を保有せず、ユーザーの発注を都度メーカーさんに行い、メーカーさんから家具を発送してもらっています。メーカーさんへの支払いは金融機関から借り入れて一括で行っており、ユーザーからの支払いの一部で金融機関に返済しています。債権保証などを組み合わせ、ユーザーがデフォルト(債務不履行)した場合のリスクも極小化しています。

ソーシャルインテリアの競合優位性の1つ、アセットライトな事業モデル(提供:株式会社ソーシャルインテリア)画像提供:ソーシャルインテリア

ユーザー・メーカーさん・弊社が三方よしのモデルを構築したことで、メーカーさんがサブスクビジネスに参入するハードルが下がり、大手家具ブランドをはじめ、バルミューダなどの家電ブランドなど、あわせて600ブランド11万種を取り扱えるようになっています。ブランドの数は毎月増えており、国内ほぼ全てのブランドを利用できる日も近いかもしれません。

ソーシャルインテリアの競合優位性の1つ、豊富な取り扱いブランド数(提供:株式会社ソーシャルインテリア)画像提供:ソーシャルインテリア

山口 ありがとうございます。ちなみに、売上規模はどれくらいでしょうか。

町野 2桁億は超えていて、累積の契約金額は優に50億円を超えています。ありがたいことに昨対比で倍以上の成長で伸びています。

町野健さんと山口義宏さん。

山口 ありがとうございます。では、最初のテーマです。2018年というと、まだ日本でサブスクは浸透していなかったと思いますが、ソーシャルインテリアで展開しているビジネスに、どの段階で「イケる」という手応えを感じましたか。いつ頃からPMF(プロダクトマーケットフィット)を感じるようになったのでしょうか。

町野 2019年1月から始まったサブスクブームが追い風になったと思います。

2018年3月にサービスをローンチしたときは、toCのみをターゲットに自社製造の家具の販売から始めたのですが、ラインアップも少なく、手応えはほとんどありませんでした。「これではダメだ」と家具を仕入れる形に切り替え、2018年9月からはBtoBとBtoCの両方を展開することにしました。すると年末頃から「使いたい」という法人が少しずつ出てきたんです。

年が明けた2019年に日本にサブスクブームが到来し、ラーメンやコーヒーなどさまざまな分野のサブスクが登場しました。私たちの事業もブームに後押しされ、BtoBの売り上げが伸び始めたことから、これは「イケる」と感じるようになりました。

山口 初期は取り扱うメーカーの種類もまだ少なかったと思います。BtoBのお客さまにはサブスクの形態自体が魅力となり、需要が伸びたということでしょうか。

町野 そうですね。特に中小企業のお客さまには、初期費用を抑えてリーズナブルに始められる点が魅力だったのだと思います。また、ちょうどその頃から大手の家具メーカーさんにも「廃棄物を減らし、良いものを長く使ってもらおう」と考える企業が増え始め、家具を卸していただけるようになったので、ラインアップが一気に増加し、需要の拡大を後押ししました。

2020年からのコロナ禍も、私たちにとっては追い風になりました。一瞬だけ問い合わせがゼロになったものの、企業活動自体は止まっておらず、特に法人が新規投資へのリスクヘッジを検討するようになったためです。自宅のテレワーク環境を整えたい個人をはじめ、キャッシュフローの軽減を目的とする大手企業や縮小移転・フリーアドレス化に伴い必要な家具が変わった企業など、法人からの問い合わせも急増しました。

山口 BtoBのほうが反応は良かったとのことですが、2020年頃には本格的にリソースをシフトしたのでしょうか。事業ピボットや事業転換後のBtoB、BtoCの優先順位付けなど判断の変遷を教えてください。

町野 BtoCも伸びていたので、社内のリソースはBtoB、BtoC、両方とも増やしていきました。ただ、100人の個人に販売するより、100人が在籍する1社に販売するほうが理論上の効率はいいので、BtoBの成長スピードのほうが速かったと思います。

家具を自社製造から仕入れに切り替えたのがピボット1、BtoBとBtoCの両方を展開しつつ、力点をうまくコントロールする意味でBtoBに少し強めに軸足を置くようになったのがセミピボットと言えるでしょう。

ちなみに今年(2023年)からはBtoCが爆発的に伸びています。

山口 可能性を残しながら機会をうかがえるように、両方の事業を行っているということですね。一般論では、BtoBとBtoC両方の事業展開は、マーケティングのリソースの分散につながると言われるので、社内でも議論になりませんか。

町野 はい、常にその問題は背後にあります。原理原則に従うなら、一つの事業に絞って撤退しているかもしれません。ただBtoBもBtoCも仕入れ先は同じなので、バリューチェーンが全く違うわけではないのです。

私としては、どの事業も平等に可能性があると考えています。今の事業展開が正しかったかどうかは、後世の歴史家に判断をお任せします(笑)

市場の優位なポジションがマーケティングを後押し

山口 続いて、「0→1」と「1→10」のフェーズで、マーケティング施策をどう変えてきたのかをお聞きします。顧客層を拡大させていくにつれて、変化させた打ち手があれば教えてください。

町野 「0→1」の段階では、広告費をほとんどかけませんでした。資金に余裕がなかったこともありますが、家具のサブスクを日本で最初に始めたことからPRがうまく機能したのです。メディアにもたくさん取り上げられましたし、家具の仕入れ先のメーカーさん経由でもかなりの数の案件を紹介してもらいました。

山口 ECの場合、新規参入時は広告を打たなければ集客が難しいとされていますが、まずメディアや取引先が紹介したくなるサービスにすることを重視したのですね。

その後「1→10」と規模を大きくしていくステージでは、何を行ったのですか。

町野 「0→1」でPR基盤を整え、さらに受注を重ねる中で、社内のフロー整備や仕入れ先の増加などを行ってビジネスも強靭にできたので、「1→10」では広告を含めて、より踏み込んだPRをするようになりました。

また、「家具 サブスク」などの検索キーワードで流入してくるユーザーが多いことも、私たちの事業の特徴として挙げられます。サブスクブームの追い風が依然として効いており、今でも獲得しているリードのほとんどはインバウンドマーケティング経由です。問い合わせが発生したものに対して、営業提案できるチームを拡充することなどで、事業を成長させてきました。

山口 「伸びているトレンドのリーダー」というポジションと想起が取れたことで、サブスクの需要拡大と一緒に事業を伸ばせたわけですね。

「1→10」の段階で、表向きのマーケティング以外に裏側のオペレーションで行った施策はありますか。

町野 提案書作成や納品調整など、非効率な面を少しずつ変えていきました。業界内でも先行していたと思います。また、法人オフィスのレイアウトのコーディネート提案も無償にし、顧客獲得のための投資と考えリソースを確保しました。

BtoBマーケティングは凡事徹底が基本

山口 資金調達である程度資金を得たからこそ、行えたマーケティング施策はありますか。実際は一つではなく複数の施策の組み合わせによって事業は伸びると思いますが、「特に効いたな」と感じる施策があれば教えてください。

町野 私たちの場合はありません。もしBtoC事業をメインにしていたら認知獲得などが重要となり、一極集中でそのための施策を行っていたと思うのですが、法人向けの家具メインでマーケティングを行ってきてわかったのは、「凡事徹底」、つまり施策は一つずつの積み上げであり、その組み合わせでしかないということです。

「この施策をやっておけばいい」というヒントを得たい方も多いかもしれませんが、「そのようなものはない」と知っておくことも重要だと思います。

山口 「一発で数字を大きく伸ばす施策がある」という幻想を捨てることから始めたほうが良さそうですね。

町野 もちろん販売する商品やサービス、外部環境、初期条件によっても大きく変わると思います。

私たちの場合は「営業やリード獲得のプロセスを良くしていこう」「商談率を上げるにはどうしたらいいか」「1人が持てる案件を増やすにはどうしたらいいか」など、試行錯誤しながらも少しでも前へ進むべく、徐々に改善していきました。その延長線上に今があると考えています。

実施すれば明日大成功する施策などはなく、だからこそ、それが参入障壁になっていると思います。お金をかけて成功するなら、お金のある人は皆成功するでしょう。業界によってはそうした戦いもあるのかもしれませんが、私はあまり好きではありません。

よいものを長く使う社会に

山口 ここまでのお話を聞いて、家具のサブスクビジネスは製造するのも、在庫を抱えるのも大変で、いわゆるインターネットサービスだけ取り組んできた方々はおそらく参入したがらない業界だと感じました。

町野 きっとそうでしょうね。スピードを重視する方には向かないかもしれません。

山口 どうして町野さんは、そんな大変な領域にあえて挑戦しようと思ったのですか。

町野健さんと山口義宏さん。

町野 私は家具業界で働いたことはないものの、家具が非常に好きなのです。プライベートで引っ越しをする際に目黒通り(東京都道312号の通称)の家具店を巡って話を聞いているうちに、「物を作ることは得意だが、売ることは得意ではない方が多い」と気づき、私にできることがあると感じました。

私には「革命」という人生の命題があり、「革命を起こせることにしか時間を使いたくない」と考えています。市場規模が大きいのに、進化が遅れている業界を選ぶのは起業家の定石です。ビジネスで革命を起こせるような領域を探していたところ、面倒がられて参入されずにいた家具業界を発見し、「革命のにおいがする」と胸が高鳴りました。

山口 まさにブルーオーシャンと考えたわけですね。歴史があって、新しい方法があまり取り入れられていない業界となると、新参者の参入障壁は相当高かったのではないですか。しかも低価格帯のものが売れている中、高価格帯のものを売ろうとするなんて、メガトレンドに逆らっているように感じます。

町野 あまのじゃくで、逆張りが好きなんです。最初の頃は、「絶対にうまくいかない」と周囲からよく言われていました。

ただ、仕入れ先である家具メーカーさんからの理解・協力を得られたことは大きかったと思います。多くの消費者は、高価な家具には手が届きづらく、とはいえ生活必需品なので、仕方なく低価格なものを購入する傾向があります。しかし、私たちはその流れを変えたい。高くても上質な家具を長く使ってもらうほうが廃棄物も減るはずで、そんな社会のほうがいいと思っています。この話を家具メーカーさんにしたところ、それは面白いと言ってくださり、当時売り上げゼロの私たちにも卸していただけました。本当にありがたかったです。

また、仕入れ先と良好な関係を構築するために、年1回は事業戦略発表会を開いています。会には広告代理店やパートナー提携をしている会社も呼んで、私たちの考えをお伝えしています。

山口 参入障壁の高さのほかに、事業の成長プロセスで直面した課題や失敗談はありますか。

町野 私たちの存在矛盾は、3つの事業を展開していることです。常にリソースの分散と事業進捗が思い通りにいかない苦悩があります。

山口 複数の事業を同時に走らせることで得ている機会と展望もある一方で、同時にリソースの分散という課題も抱えており、常に両者のバランスを取りながら進めているのですね。

一般論として、思い浮かぶ機会にチャレンジしないと納得できない気質を持つ経営者の方は多いと感じます。戦略のセオリーとして違うのはわかっていても、実際に挑戦して、うまくいかないと実感してこそ気持ちが成仏するみたいな面がありますよね(笑)。でも、やってみて納得するからこそ、それを捨て、次にフォーカスできることがあるのではないでしょうか。町野さんが最初に家具の自社製造に取り組んだのも、それに近いことだと感じました。

理想的な参入時期はブームの1年から1年半前

山口 町野さんは、まだ過程と考えているかもしれませんが、ひとまず現時点を一定の成功とするならば、ここにたどり着くまでに大きく寄与した意思決定は何でしょうか。

町野 結果論ではありますが、まず自分なりにブームを察知して参入したことです。私の持論では、ブームの1年から1年半前にプロダクト開発を始めるか、ローンチするのが理想です。早すぎても遅すぎてもダメで、ブームの3年前にローンチすると早すぎてわかってもらえず、資金がショートする可能性があります。2006~2007年頃に日本でも話題になった「Second Life(セカンドライフ)」が典型例です。メタバースでさえ、少し早すぎたのではないかと言われることがあります。

家具のサブスクの場合は2017年にアメリカに行ったとき、物のサブスクの会社が登場しているのを知って、日本でサブスクブームの始まる1年前(2018年)にサービスをローンチしました。

もう一つは、メンタリティです。どんなに成功しているベンチャーも序盤は地獄を見ています。たとえ自分がつぶれたとしても人生をかける意義があると口先だけでなく本当に納得できているか。もっと踏み込んで言わせてもらうと、人間は効率よく稼げる方法を選びがちなので、お金の魔力に勝てるかが重要です。

山口 ここまでお話を伺って、町野さんの個性がわかった気がします。極論を言えば、パッションがなくても時流に乗ってスケールすれば儲かるようになった事業は世の中にあります。しかし、町野さんにはトレンドを読む力だけでなく、粘り強さを生む強いパッションもある。家具は物流コストが高いし、提案や納品の労働集約性も高い。そういう大変な世界に突っ込んでいくのは、パッションがないとできません。

最後にチームを救うのは人のよさ

山口 社員の採用や育成面で意識しているポイントは何ですか。それは事業のフェーズごとに、どのように変化してきましたか。

町野 事業フェーズでは、あまり変わっていないのですが、初期フェーズはリスクテイカーが入社するので、そのような社員の心に響き、モチベートする話を意識的にしていました。

次の「0→1」フェーズでは、セミリスクテイカーが入社するようになります。セミリスクテイカーはリスクテイカーと響く内容が異なり、リスキーな話をすると恐怖感が勝ってしまいます。恐怖を抱くのはその人のタイプの違いであって、もちろん悪いことではないので、セミリスクテイカーにも入社してもらえるよう話す内容を調整しています。

正直なところ、育成にかける時間の余裕はまだありません。だからこそ、採用の際はメンタリティを非常に重要視しており、2つのポイントを見ています。まず、「その人がこの会社で頑張る理由」について多種多様な質問を通して必ず確認しています。それがわかっていないと、大変なときに乗り越えられないですから。もう一つは、性格のよさ。最後は人のよさがチームを救うと思っています。笑いがあれば最低限のことは何とかなると思うので、私自身はつらいときでもオフィスで笑いを交えながら話すようにしています。

山口 確かにベンチャーへの入社は、いわば海賊船に乗り込むことなので、嵐の日を笑って楽しめるメンタリティが大切だと思います。人の良さで事業が成長するほど世の中は甘くないけれど、人が良くないと組織の崩壊は早まるし、人の良さが大事という点は私も同意です。

今後、「10→100」のフェーズを乗り越えるにあたっての展望はありますか。

町野 取引高が上がるにつれて周囲からの期待値も高まっており、チームとしての力を強化していく必要性を感じています。「10→100」のフェーズでは、事業の強さではなく、人の強さに戻ってくるのではないでしょうか。

山口 ある意味「1→10」くらいまでは創業者が引っ張っていくことで実現できたとしても、そこからはやはり組織自体のステージが上がらないと「10→100」を実現できないということですね。

町野 これからまた新たな問題が出てくると思いますが、人も育ってきていますし、一つずつ乗り越えていけると信じています。

視聴者からの質問コーナー

対談後は町野さんに視聴者からの質問に答えていただきました。質疑応答の一部をご紹介します。

Q. マーケティングリサーチを活用する機会は、どの程度ありましたか。

町野 「そうしてください」という意味ではありませんが、私はリサーチしない派です。

山口 町野さん、マクロミルご出身なのに(笑)

町野 そうですね(笑)。リサーチは、失敗率を下げるために時間をかけて実施するもの。例えば消費財の大手企業がラインアップを増やすために行うのであれば、有効だと思います。でもベンチャーが同じことをしたら、参入のタイミングを逃してしまうでしょう。

山口 同意します。特にBtoBにおいては、「こんなトークをしたら好意的な反応があった」など、日々の商談がマーケティングリサーチの代替になっていると思います。商談のトークは色々試すことでA/Bテストにすることができます。

町野健さんと山口義宏さん。

Q. SEO流入でのリード創出について具体的な施策を聞いてみたいです。

町野 SEOは、ベタな方法でしっかりと行うことが重要です。ただ、皆同じ額の予算があるならば、ほぼ同レベルで対策できるものとも考えています。つまり、あとはもうお金の勝負になってしまうので、そこでいかに効率のいい優位性を出せるかにかかってくるのではないでしょうか。

山口 お金の消耗戦の手前で、どう構造的な優位性を作るかが大切ですね。

町野 私たちは家具のサブスクを展開する日本で初めてのプレイヤーだったこともあり、もともとアドバンテージを持っていたので「家具 サブスク」で1位を獲得できています。ブームに乗ることも含め、SEOに取り組む前の段階でブランドをどう構築するかが重要だと思います。

Q. BtoBマーケティングの効率的な手法などがあれば知りたいです。

山口 効率的に成果を出せている手法はありますか。

町野 お金がないときは、セミナーを開催してサービスの認知を広めるようにしました。ターゲットに響くセミナー内容やワーディングをしっかりと考えられれば、少ない回数でもすべらないマーケティングができると思います。

山口 セミナー開催はBtoBマーケティングの鉄板だと思います。営業は1対1で時間がかかりますが、セミナーなら100社同時に営業が可能です。高単価で丁寧な説明が必要なBtoB商材は、セミナーを開催しない選択肢はないと考えています。

Q. サブスクサービスでの損益分岐はどのように想定しましたか。

町野 事業アイデアを思いついたときに、涙目になりながらシミュレーション表を作りました。本当に難しかったです。黒字になると出るときもあれば、そうはならないと出ることもあり、何案も作り直して計算しました。しかし、そのプロセス自体がリスクの洗い出しなど、意味のあるものにつながっていると思います。

結果的に2桁億で黒字になるとシミュレーションで読んでいた通り、黒字になりました。

山口 数字に弱い経営者では、どうにもならないので、町野さん自身が数字に強いということですよね。

町野 私は金融出身ではないですし、潤沢な知識があったわけでもありません。結論、人間は追い詰められると何でもできるということです(笑)

Q. ブームがひと段落し、競争が激化したときは、次なるブームを察知し、また別の会社や事業に着手するのでしょうか。

町野 ブームは絶対にひと段落するものなので、そこへ次に何を乗せるかだと思います。大手企業の方がサブスクに参入する場合は、サブスクをすれば儲かるという発想は捨てたほうがいいと思います。大切なのは、サブスクをどう使うかです。

私たちの場合は、2019年にサブスクブームが来て、2020年も追い風でイケると思ったのですが、あらゆるジャンルにサブスクが浸透していたので「このブームの後には暴落が来る。このままではダメだ」と気づきました。ありがたいことに投資家の方も同じことをおっしゃっていたので多角化することに決め、3つ目の事業としてメーカーアウトレットや展示品、中古家具をオフプライスで販売する「サブスクライフ オフプライス」を始めたのです。

山口 昨年社名を「サブスクライフ」から「ソーシャルインテリア」に変更したのも、サブスクの概念がコモディティ化したときに、コーポレートのブランドも一緒に引きずられないようにするためですか。

町野 そうですね。繰り返しになりますが、サブスクは目的ではなく、手段と考えています。

山口 ありがとうございます。本日はとても楽しく学びのある時間になりました。マーケティングの話というと、どのような施策を打てばいいのかなどテクニックの話に終始しがちですが、町野さんからはその背景にある市場の見立ての話を厚めに伺うことができ、学びが多かったです。

今までも町野さんから話を伺う機会はあったのですが、こうして90分も時間をいただくと、あらためて気づいたことや理解が深まることがたくさんあったと思います。

町野 私も楽しかったです。山口さんの話を聞くことで他己分析ができ、ありがたかったです。なるほどと思うことがたくさんありました。ありがとうございました。

――本日は皆さん、ありがとうございました。

町野健さんと山口義宏さん。

Profile
町野 健(まちの・けん)
株式会社ソーシャルインテリア 代表取締役社長。
上智大学大学院修了。日本ヒューレット・パッカードでコンサルタント、マクロミルにて経営企画、海外事業立ち上げを経て、2012年にキュレーションマガジン「Antenna(現:antenna*)」立ち上げのため、グライダーアソシエイツを創業。3年で500万ダウンロードを達成し、黒字化まで育て上げる。その後、2016年にソーシャルインテリアを創業。2018年3月に家具のサブスクリプションサービスを開始。事業立ち上げ、メディア、マーケティングが専門。
URL:https://corp.socialinterior.com/

山口 義宏(やまぐち・よしひろ)
株式会社グロースX 取締役 COO/インサイトフォース株式会社 取締役。
ソニー子会社で戦略コンサルティング事業の事業部長、東証一部(当時)上場コンサルティング会社でブランドコンサルティングのデリバリー統括などを経て、2010年に企業のブランド・マーケティング領域特化の戦略コンサルティングファームとしてインサイトフォースを創業(現・取締役)。2022年6月よりマーケティング人材育成サービスを提供するグロースXの取締役COOに就任、インサイトフォース取締役と兼務で担う。最新の著書に『マーケティング思考 業績を伸ばし続けるチームが本当にやっていること』(翔泳社)がある。
Twitter:@blogucci

 

記事執筆者

和泉ゆかり

いずみ・ゆかり
IT企業にてWebマーケティング・人事業務に従事した後、独立。現在はビジネスパーソン向けの媒体で、ライティング・編集を手がける。得意領域は、テクノロジーや広告、働き方など。
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