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2021.09.21

「とりあえず20代のうちに何をしておけばいいの?」――トップマーケターに直接質問!若手マーケターのお悩み解決Q&A (Marketing Native LIVE vol.4【前編】)

企業でマーケティング業務に従事している人は、事業会社、支援会社を問わず、日々多くの課題解決と成果創出に取り組んでいることと思います。ただ、多忙を極める中でも、ふとこれからのキャリア形成のことが頭をよぎる瞬間はないでしょうか。

情報も選択肢も多い現代の20代にとっては、隣の芝生が青く見え「このまま今の会社に居てもいいのだろうか?」「マーケティングの仕事を続けて、将来どんなキャリアが待っているのか?」「デジタルマーケティングの仕事をしていて、事業全体を俯瞰する経営視点を養うことができるのか?」などと思い悩む人も多いのではないかと思います。

そこで今回のMarketing Native LIVE vol.4では、ニューバランス ジャパン マーケティング部ディレクターの鈴木健さんとアクサ損害保険(アクサダイレクト)上級執行役員CMOの小原奈名絵さんというトップマーケター2人をお迎えし、若手マーケターから寄せられたキャリアに関する質問に答えていただく企画としました。

前後編とも興味深い内容になったと思います。ぜひお読みください。

(進行:Marketing Native編集長・佐藤 綾美、構成:編集部・早川 巧)

目次

興味の赴くままに挑戦を。時には無駄遣いもあり

佐藤 早速1人目の若手マーケターの方の質問にいきたいと思います。SO Technologiesの神宮啓さんです。

神宮 はい、よろしくお願いします。最初の質問です。マーケティング職が最近、人気になっていると感じるのですが、その背景についてお二人はどうお考えですか。

鈴木 質問ありがとうございます。私の感覚として、マーケティングの名前はまだポピュラーではないと思います。国内の企業でマーケティング職はそれほど一般的ではないですし、マーケティング職として採用している会社も少ないのではないですか。神宮さんはデジタルマーケティングの仕事に携わっていて、日頃からソーシャルメディアをよく利用しているからマーケティング職が人気になっているように見えるのだと思います。おそらく神宮さんが勤める会社のクライアントである多くの中小企業からすると、マーケティングという言葉自体、まだそんなに浸透していないのではないでしょうか。

ただ、マーケティングという言葉を使っていないだけで、マーケティングの機能自体は企業の業務の中にもともと含まれていますから、「この仕事のこの部分は本来、マーケティングと呼ばれるものである」と取り上げて、マーケティングの認知を高めていきたいと考えています。

小原 私もソーシャルメディアを見ていると、マーケティングという言葉がバズらせるための表層的なテクニックであるかのような、あまり良くない意味で使われることが時折あると感じます。一方で、それではいけないと感じている人の数も増えている気がしていて、お客さまに価値を提供するというマーケティングの本質をしっかり追求していきたいと考えている若い方も多いのではないかと思います。鈴木さんがおっしゃる通り、マーケティング職は定義されていないだけで、マーケティングの機能自体はどの会社にも一定程度備わっているものです。そういう意味では今、マーケティングと名前の付いた仕事に光が当たり始め、浸透していく過渡期にあるのかなと思っています。

神宮 ありがとうございます。2つ目の質問です。お二人がもし今の時代を20代として過ごすとしたら何をしますか。

小原 プロダクト開発やサービス開発に興味がありますね。社会はコロナ禍によって大きく変わりました。もともと底流でじわじわと動いていた変化が一気に加速した気がします。そんなふうに価値が激変するタイミングを、感覚の鋭い20代で過ごせることをとてもうらやましく感じます。私、「劇団ノーミーツ」のファンなのですが、今の時代だからこそ打ち出せる価値を若い方たちが軽やかに表現していくのを目の当たりにすると、この時代ならではのプロダクト開発やサービス開発に携われたらきっと楽しいだろうなと思います。

鈴木 私も今の20代がうらやましいですね。私が20代の頃と比べるといろんなものが揃っていて、興味の赴くままに挑戦しやすい環境が整っています。昔はメジャーなトレンドを押さえておかないとコミュニケーションを取るのもなかなか難しいところがありましたが、今は自分と同じ興味を持つ人同士がインターネットなどを通じて可視化されてつながれますし、つながりを「わらしべ長者」のようにたどりながら興味のある方向に進んでいったらいつの間にか海外にいたり、田舎で農家をやっていたりすることが可能な社会になりました。情報化が進んで選択肢の多さに悩んでしまう人もいると思いますが、それでも20代なら体力やパッションは十分あるはずなので、ひたすら興味の赴くままに好きなことを追求していくと、後でConnecting the dotsをすごく得られる気がしますね。

神宮 ありがとうございます。3つ目の質問は2つ目と少し関連するのですが、若手マーケターが日常的に勉強したり、行っておいたりしたほうが良いことを教えてください。

鈴木 無駄遣いですかね。なるべく無駄遣いしたほうがいいと思います。20代は多くの場合、お金がないので限度はありますが、あまり合理的に「今ここに投資すれば、こんなリターンが期待できる」などと考えずに、成功するかどうかはわからないけど、興味のあることはやってみるという訓練を日常的にしておいたほうがいいですね。大人になるとチャレンジ自体が難しくなりますし、「それはやったことがない」と言いづらくなりますので(笑)、今のうちにやりたいことは全部試しておいたほうが後々良いと思います。

勉強にこだわる必要性は特に感じません。勉強は何歳になってもできますし、しなければなりませんから。

小原 鈴木さんがおっしゃったことその通りで、最短の近道で何かにたどり着くことにこだわりすぎると、見落としていくものもあるだろうなと感じます。

もう1つは、若手の方だからこそ、今ご担当されている仕事以外のマーケティング領域にたまに越境して情報収集すると、発想法や定石に対する考え方の違いなどに触れられて学びになると思います。例えば、SEOにはSEO、テレビCMの買い付けには買い付けとそれぞれ別の考え方があって、定石のようなものも領域ごとに違いますので、本を読んだりセミナーに出てみたりすると、それが最終的には自分の仕事に還元されてくることがあります。私自身がそうしてきましたし、周りの皆さんにもおすすめしている方法で、すごく価値があると思います。

厳しい状況で、もがいた経験が将来生きる

神宮 過去にお二人が何か失敗した経験はございますか

小原 失敗したというより、いろんな浮き沈みがありましたから、悩むことは多かったです。例えば、所属していた会社が突然買収されて半年くらい仕事がなくなり、ひたすらネットサーフィンをしていた時期もありました。「転職徒然草」というブログ(後に書籍化)を一日中読んでいる日もありましたね(笑)。ただ、いろいろと浮き沈みがある中で一定期間は腐ってもいいですけど、ある時点ではきっぱりと前向きになって、ネガティブな状況の中でもがきながらキャリアについてしっかりと考えることが大切です。つらいときにもがいた体験は、後になってきっと生きてくると思います。

鈴木 最初は広告代理店にいたので、競合他社にプレゼンで負けて受注できないのが一番の失敗ですね。割と頻繁にあって(笑)、最初はなかなか買ってもらえませんでした。Marketing Nativeの記事にもありますが、先輩から「お前は営業に向いていない」と言われたこともあります。ただ、そのときは代理店の仕事にしっくりきていなかったこともあって、「そうなのか」と思っただけで、あまりネガティブな気持ちにはなりませんでした。

だから初期の頃は広告の理論もなかなか頭に入らなくて、「本を読め」と渡されてもほとんど読まないで「読みました」と言って返したりして、「思っていた世界とちょっと違うな」と業務に違和感を覚える日々を送っていた記憶があります。

もっとも、プレゼンで負けたり何かで失敗したりすると、そこからそれなりに学びはありますし、次第に何が足りないか、自分にフィットする方向はどこなのかがわかるようになってきます。そうすると自然に自分が向いている方向へ進みたくなりますし、興味の出てきた領域の本に手が伸びて、「少し勉強してみよう」という気になってくると思います。

神宮 わかりました。ありがとうございます。

今だから思う「やってよかったこと」「やらなくてよかったこと」

佐藤 続いて2人目の若手マーケターからの質問に移ります。才流の金森悠介さんです。

金森 はい、よろしくお願いします。1つ目の質問です、マーケティングを軸にキャリア形成をしてきた今だからこそ思う、「やってよかったこと」と「やらなくてよかったこと」を教えてください。

小原 私は今CMOという役割で経営陣の一人でもありますから、事業運営のことを考える機会がよくあります。その際、経営側の視点で「事業をどう伸ばしていくか」を考える方向にどうしても立ち位置を引きずられがちになります。マーケティングをやってきて良かったと感じるのは、そういうときにふとお客さまのほうに心の中でピンを立て、顧客視点で物事を見つめ直すことができる点にあります。それが私自身の役割だと考えています。

一方、「やらなくてよかったこと」を考えてみたのですが、思いつかなかったですね。

ちなみにマーケティング以外にやっておいてよかったことは、ロジカルシンキングです。鈴木さんの記事にある抽象と具体の行き来もロジカルシンキングの1つのテクニックだと思いますが、私も何回も講座を受けて自分なりにかなり訓練しました。マーケティングは進化のスピードがとても速いですし、DXやAIの実装などと無縁ではいられないですから、ロジカルに物事を思考できる力を身に付けておくと新しいことに取り組むときに適応しやすくなる気がします。

金森 そうですよね。私が勤めている会社の代表(栗原康太さん)もロジカルシンキングの重要性をよく説明しますし、私自身も一番の基本だと考えています。ありがとうございます。

鈴木 やってよかったのは、ブランドを軸にしてコミュニケーションを考えることですね。私は広告代理店出身でもともとコミュニケーションを考えるのが好きなのですが、幸いにも今スポーツブランドにいて、「ブランドとしてどういうコミュニケーションを取るべきか」をよく考える機会があります。ここは自分にとって一番面白いところで、抽象度は高いのですが、決してブランド側だけで勝手に考えているわけではなく、消費者一人一人に共感されるコミュニケーションの取り方を常に思考しています。これは競合他社やカテゴリーなどを超えたところでの思考であって、マーケターの成長という点でも役に立つと思います。マーケターはどうしても「金融」「小売」など業界を基にマーケティングを考えがちですが、ブランド軸の話はあまりズレがないので、もし仮に他の業界に移った場合でもブランドをベースにした思考方法を鍛えておくと活かせるのではないかと思います。

やらなくてよかったかなと思うのは、自分の反省も込めてですが、流行りものに手を出すことですね。面白そうなものをすぐ試してみることも大切ですが、半面、面白そうだと思って広告を出したらアプリ自体が消滅したり、サービスそのものがなくなったりしたことがありました。ですから、企業として流行りものにすぐ投資する前に一旦立ち止まって考えてみることも大事だと思います。

金森 手段ベースでやらないという意味ですよね。

鈴木 そうですね。手段ベースではやらない。流行り言葉を付けただけの悪い意味での「なんとかマーケティング」に振り回されないようにしたほうがいいですね。

金森 個人のキャリアとしては新しいことが出てきたらトライしてみるのはいいけど、ことマーケティングにおいては目的ベースであって、手段ベースでやろうとすると失敗することもありますよ、という意味ですね。

鈴木 ただ、1つだけ良かったことがあります。新しいサービスを提供してくれる人たちとの関係性を築けることです。新しいサービスを開発して私のところに話を持ってくる人の中にはスタートアップやベンチャー企業にいる人がたくさんいます。そういう人たちは起業家精神が強くて、売り上げだけでなく実績が欲しいのです。つまりお金だけでなく、「ブランドに買ってもらった」という事実と、それを達成したことの価値を重視しているわけです。

そういう人たちの多くは1つの事業が失敗しても、また別の会社を立ち上げて新しい事業を始め、「今度はこんなサービスを始めたから話を聞いてくれ」と言ってくるので、私も刺激を受けますし、人のネットワークが残ります。そもそも新規サービスの考え方自体は参考になるものが多いですし、私のところに持っていくと話だけは聞いてくれそうだという噂が広がることもちょっと嬉しい気持ちになります。もちろん相手は本気ですから、私もサービスの採否を真剣に考えて、正直な感想を話します。

ですから、そういう若く、新しい会社とコミュニケーションができる点については「Win-Win」の関係性が築けて面白いと思いました。

金森 確かにそうですね。ありがとうございます。

さらに深掘りした後編「ずっとマーケティングでキャリア形成して、飽きませんか?」はこちら

Profile
鈴木 健(すずき・たけし)
株式会社ニューバランス ジャパン マーケティング部ディレクター。
1991年に広告代理店の営業からキャリアをスタートし、2002年ナイキジャパン入社。ナイキゴルフの広告、Web、PRを担当。2009年ニューバランス ジャパン入社。ブランドマネジメント、PR、広告などマーケティング全般に幅広く携わる。

小原 奈名絵(おばら・ななえ)
アクサ損害保険株式会社(アクサダイレクト)上級執行役員CMO。
早稲田大学卒業後、鎮痛薬のブランドマネージャーなどを経て、外資系金融機関のダイレクトマーケティング部門でデジタルマーケティングやコーポレートブランディングを担当。2014年にアクサ損害保険に入社。社内のデジタルトランスフォーメーション推進のほか、2019年に手掛けたテレビCMがCM総合研究所「消費者を動かしたCM展開10選」に選定される。グロービス経営大学院の第16回「グロービス アルムナイ・アワード」(2020年度)変革部門を受賞。

早川巧

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
Twitter:@hayakawaMN
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