Marketing Native LIVE vol.4後編は、若手マーケターのキャリアや仕事に関する悩みをさらに深掘りしてお届けします。中でも多くの20代マーケターが考えているであろうテーマを才流の金森悠介さんからストレートに質問していただきました。
受けて立つのはニューバランス ジャパン マーケティング部ディレクターの鈴木健さんとアクサ損害保険(アクサダイレクト)上級執行役員CMOの小原奈名絵さんというトップマーケター2人です。
ぜひお読みください。
(進行:Marketing Native編集長・佐藤 綾美、構成:編集部・早川 巧)
前編はこちら。
※肩書、内容などは記事公開時点のものです。
目次
ずっとマーケティングでキャリア形成しても大丈夫?
金森 2つ目の質問です。職種の軸をマーケティングに絞る意思決定をするまでのプロセスを知りたいと考えております。私はBtoBマーケティングに約3年間携わってきて、将来を考えたときに、このままマーケティングを軸にキャリア形成をするか、それとも事業開発やプロダクト開発に手を広げてみるか、などさまざまな選択を頭に描いています。最終的には個々人のやりたいこと次第だと思いますが、小原さんや鈴木さんにも同様の悩みがあったのか、あったのならどのような思考プロセスで現在に至ったのかを伺いたいです。
小原 まさに私もアラサーでブランドマネージャーから金融のダイレクトマーケティングに転身したときに、同じことを考えました。ブランドマネージャーは商品開発にも一定程度は関わりますので、ひと通りは理解した上で商品開発・プロダクト開発・事業開発よりも自分はプロモーションに軸足を置いたマーケティングのほうに進みたいと考えました。
そう考えたプロセスですが、例えば「どのようなプロダクトを作るか」という点は、お客さまのインサイトやポジショニングを深掘りするマーケティングの本質的な仕事に含まれます。一方でそのフェーズを越えると、制約条件の中でどのように物理的に製品を生み出していくかという現実解を探すための調整作業のような、内向きの仕事の時間も結構あると感じました。その上で、自分はどういう仕事がメイン業務なら毎日を快適に、やりがいを持って過ごせるかを考えたときに、私は外向けに発信していく仕事のほうが楽しいし、向いているだろうと思ったのです。つまり、日々楽しく仕事ができるかどうかという点を重視してキャリアチェンジした感じですね。
金森 自分が楽しいと思えるか、興味を持てるかどうかを大事にされていたということですね。ありがとうございます。
鈴木 自分の場合、やっている領域はあまり変わっていないと思います。代理店から事業会社に移っても、マーケティングではありますが、商品開発ではなくコミュニケーションやプロモーションがメインなので、広告に近いところです。私自身、そこに面白さを感じています。
ただ、この10年くらいデジタル領域が大きくなるにしたがって、単純にメッセージだけを考えるのではなく、顧客にどういう体験をしていただくかというコンシューマーエクスペリエンス、サービス設計がコミュニケーションよりも進んだ形に発展してきていますので、そういうところを考えることが面白いと思うようになりました。
そもそも事業開発やプロダクト開発とマーケティングが完全に分かれているわけではないですから、自分の能力や関心がうまく合致して、しかもチャレンジができる領域を設定できれば、それがいつの間にか事業開発になっていたというほうが良いのではないかと思います。
1つヒントになりそうなのは、自分が興味のある人がやっている領域を探すことです。自分が惹かれる人が活躍している領域を観察していると、今は自分の領域と直接関係なくても、いつか合体してまた違う領域になるかもしれません。それがマーケティングと呼ばれるかもしれないですし、商品開発と呼ばれるかもしれない。それくらいフレキシブルに考えたほうがいいのではないかと思います。
金森 違う領域も見てみるということですね。
鈴木 そうですね。マーケティングとは広い意味では「商売」ですから、どの領域も全部かじってないとなかなか思うような成果は出せません。マーケティングが面白くても、経営や商品開発をある程度理解した上でマーケティングをするのと、マーケティングのスキルしか知らないのとでは大きく違いが出ますから、自分の能力を活かせると思ったところを深掘りしつつも、いろんな領域をやってみるのが良いと思います。そんなふうにできたらおそらく小原さんのようなポジションに近づけるのではないでしょうか。
金森 お二人の話を聞いていると、いろいろ経験されているので、飽きることもなかったのかなと思いました。
小原 飽きてきたら違うことを始めるためにちょっと動いてみるのが良いと思います。確かに自分自身の成長に合わせて関心事も自然に変化していきますから、「わらしべ長者」のようにつながっていくものを楽しんでみると面白い経験を積める気がします。
鈴木 小原さんがおっしゃる通りですね。難しいのは、自分が思った通りに世の中が動くわけではないので、「Connecting the dots」ではあるけど、先見的にはつなげられず、必ず振り返ってからでないとつながりがわからないことです。そこはマジックではありますが、とはいえ視野を広げて面白いと思った要素をつなげていくことは、後で何かの形でキャリアの役に立つはずです。ですから金森さんが将来の選択をいろいろと考えているのは悪いことではないと思います。
金森 ありがとうございます。
「なぜ売れているのか?」を考えることを習慣づける
佐藤 ここからは視聴者の皆さんから頂いている質問に移ります。1つ目は小原さんあての質問です。「消費財の商品企画を担当しています。ドラッグストアで販売している商材から金融のマーケターへキャリアチェンジされて、マーケティングの手法や考え方は異なりましたか。別領域のマーケティングを知るというお話を伺っている中で興味が湧きました」。
小原 ありがとうございます。大きな違いは、金融のマーケティングはお客さまの情報をお預かりしていますので、どこに住んでいて、どういうプロファイルの人なのかがはっきりとわかることです。お客さまを知るという観点では精度が格段に良く、そこが面白味の1つと感じます。一方、消費財のマーケティングを振り返ると、お客さまという集団やトレンドを少し大きめの粒度で考えますので、データが少ない分、それはそれで仮説構築力や顧客を見極める力が磨かれる部分もあったと思います。そういう違いはありますね。
佐藤 ありがとうございます。次からはお二人に向けた質問です。ざっくりとしていますが、「マーケティング業務において必要な知識を教えてください」という質問を頂いております。いろいろある中で、特に若手の方が押さえておくべきものがあれば教えてください。
鈴木 最近『「嵐」に学ぶマーケティングの本質』という本が出ましたが、好きなタレントでもいいし、ブランドでもいいので、なぜ人気があったり売れたりしているのかを考えることがベースかなと思います。「マーケティング」と付いた本を読む前に、その現象がなぜ起きているのかを考える訓練を習慣づけたほうがいいですね。自分が好きなものなら興味が湧いて、わかりやすいでしょう。
小原 鈴木さんと同じ回答です。「売れているものがなぜ売れているのか」「話題の企業はなぜそういう戦略を取ったのか」などいろいろなパターンについて、唯一の正解を見つけるのではなく、さまざまな可能性を想定しながら考えていくことがとても大切だと思います。
もう1つ全然違う話を付け加えると、マーケティング以外に経営戦略などのセオリー本を一度読んでみることをお勧めします。マーケティングは戦略性が求められる仕事です。環境に影響されますし、競合の動きによって自分たちも影響を受けたり、自分たちが競合に影響を与えたりします。ですから経営戦略の本を1冊読んでおくと、日頃自分がしている仕事の意味合いが別の角度から見えて、新たな視点を得られることがあると思います。
佐藤 何かお勧めの経営戦略の本を教えてください。
鈴木 私も聞きたいです。
小原 マイケル・ポーターの競争戦略論ですね。オリジナルの本を読めたら理想ですが、難しいのでエッセンシャル版でもいいから手に取ってみてはどうでしょうか。私は頑張ってオリジナルの本を読んだときにすごく世界が開けましたので、時間があればお勧めしたいです。
経営陣に長期投資を促すインナーマーケティングの方法
佐藤 続いての質問です。「BtoB企業に勤めています。規模が小さく予算も限られているのですが、出版や広告掲載など長期的な投資をしていくよう社内に働きかけていきたいと考えています。どのように上長や社内のメンバーを説得すれば良いでしょうか。そういうご経験があればご教示ください」。
小原 私の仕事でも長期施策と短期施策のバランスの取り方は常に悩みどころです。基本的に余剰資金はないことが多いので、課題は資金をどのように手当てするかであり、それは多くの企業でも同じではないかと思います。ただ考えてみると、長期投資の本質の1つはお金を投下したときと効果が発現するタイミングのズレであって、しかも効果がじわじわとしか現れにくいところにあると思います。そのため、資金を長期投資に振り向けたときに短期的に凹んでしまうところに対する手当てを抱き合わせで考えた上で、長期と短期のバランスを調整するのがやはり現実的な方法ではないでしょうか。若手マーケターの皆さんが直接取り組めるかどうかは別としても、どうすれば実現できるのかを考えてみる価値はあると思います。
あと、これはいつも弊社のメンバーにお伝えしていることなのですが、マーケティングのコストの質を意識することも重要です。コストの種類もさまざまで、中には相手先と交渉して安く買っても価値が変わらないものもあります。例えば視聴率の高低は広告主がテレビCM枠を買い付ける値段とは関係ないわけで、そういう安く買っても価値が変わらないところはできるだけ頑張ってコスト削減を図ります。一方、クリエイティブやコンサルティングについては、やはりそれなりのお金を出すと良い人材をアサインされて優れたアウトプットが出てきやすいという実態が現実的にありますので、そういうところにはきちんとお金を使うようにします。そんなふうにコストの質を意識すると、意外と余剰資金は自分たちでも生み出せることがありますし、生み出せればその分を長期投資に振り向けられます。経営目線としては、そんなことができるマーケティング組織にしたいと思って日々運営しています。
鈴木 想像なので間違っているかもしれませんが、こういう場合、おそらく経営者は何か考えているものです。ただし、伝わっていないのですね。ですからストレートに経営陣に「長期的にどんなことを考えているのですか?」と質問したほうがいいでしょう。それで、経営陣の長期的な考えを自分が理解していなかったり、社員に伝わっていないと感じたりしたら、その長期的な考えを社員全員に伝えるようなインナーのマーケティング努力をしたほうがいいと思います。
長期的な投資をするためには、当たり前ですが、自分たちの会社が長期的に存続できるという信念がないとできません。それは言い方を変えると「リーダーシップ」なのですが、まず自分の会社にリーダーシップがあるかを確認しつつ、もし仮になかったり不明確だったりした場合は、リーダーシップを明確な形にすることを経営者に考えさせるお手伝いをするのが良いと思います。マーケターはコミュニケーションのエキスパートでもあるので、社長が考えているモヤモヤしたビジョンを「こんなふうに伝えたほうがいいですよ」とアイデアをたくさん出してあげて、その上で最終的に会社の外に伝わるようにするために「広告の掲載や出版などのコミュニケーションを取りましょう」と話していくのが次のステップになります。ただし、実行するには確実にお金がいりますから、先ほどの小原さんの話にあったような考えを基にして資金計画を立てたり、今キャッシュがないからできないのであれば、いつくらいを目途に長期投資を実行できるか、売り上げのベンチマークを立てましょうと説得したりしていくと、少しずつビジョンがはっきりしていくと思います。
佐藤 お二人とも具体的にお答えいただきまして、ありがとうございます。最後の質問です。「マーケターにとって顧客のニーズなどを察して言語化するのは大事だと思うのですが、言語化する能力を鍛えたり改善したりするのにお勧めの方法があれば教えてください」。
小原 自分の中に言葉のストックが少ないと、いざというときになかなか出てきませんので、私は他人の言語化したアウトプットを見て、良い部分を真似したり引用したりしています。ですから日頃から良い表現をたくさんインプットしておくのが良いと思います。
鈴木 言語化は大事ですが、結局は伝わればいいので、自分に適切なインプットとアウトプットの形を選んだほうがいいと思います。必ずしも言葉の使い方がうまい人が偉いわけでも、感受性が高いわけでもありません。人によっては音楽のほうが伝えやすかったり、映像や写真など視覚的なものが得意な人もいたりしますので、その人の得意な手段を鍛えれば特に問題はないと感じます。言語化といっても文字に限定する必要はなくて、アウトプットの方法は映画でも漫画やアニメでも良いと思いますよ。
佐藤 ありがとうございます。最後、神宮さんと金森さんからひと言ずつ感想をお願いします。
神宮 本日はこのような機会を設けていただきまして、ありがとうございました。お話を伺って終わりではなく、これから何をやるかが非常に重要だと感じます。また、今日お話しいただいた内容を社内だけでなく、いろんな人たちに伝えることで、マーケティングをもっと世の中の多くの方々に浸透させるお手伝いをしていきたいと思います。
金森 本日はありがとうございました。先輩方のお話を聞くのは本当に面白いと思いました。一番印象的だったのは、今は素晴らしいキャリアですが、そこに至るまでにさまざまな試行錯誤があったというところです。そういう話を伺うと、やはり勇気をもらえます。自分もいろいろトライして、時には失敗を積みながらも、もっと成長していきたいと感じました。また機会がありましたら、よろしくお願いします。
佐藤 鈴木さんと小原さんからもひと言ずつお願いします。
鈴木 小原さんの回答が非常に興味深くて、自分にとっても意義のあるウェビナーでした。神宮さんや金森さんの話も面白く聞けたので、また機会があればよろしくお願いします。
小原 時代が変わっても、また業界が違ってもマーケティングの本質的な部分は変わらないのだとあらためて感じました。神宮さん、金森さんのご質問にも楽しく回答させていただけました。
佐藤 皆さま、本日はありがとうございました。
Profile
小原 奈名絵(おばら・ななえ)
アクサ損害保険株式会社(アクサダイレクト)上級執行役員CMO。
早稲田大学卒業後、鎮痛薬のブランドマネージャーなどを経て、外資系金融機関のダイレクトマーケティング部門でデジタルマーケティングやコーポレートブランディングを担当。2014年にアクサ損害保険に入社。社内のデジタルトランスフォーメーション推進のほか、2019年に手掛けたテレビCMがCM総合研究所「消費者を動かしたCM展開10選」に選定される。グロービス経営大学院の第16回「グロービス アルムナイ・アワード」(2020年度)変革部門を受賞。
鈴木 健(すずき・たけし)
株式会社ニューバランス ジャパン マーケティング部ディレクター。
1991年に広告代理店の営業からキャリアをスタートし、2002年ナイキジャパン入社。ナイキゴルフの広告、Web、PRを担当。2009年ニューバランス ジャパン入社。ブランドマネジメント、PR、広告などマーケティング全般に幅広く携わる。
金森 悠介(かなもり・ゆうすけ)
株式会社才流 コンサルタント。
BtoBコンテンツの受託制作を契機に、2019年才流に新卒入社。得意領域はコンテンツを軸とした新規リード獲得、MA・CRMを活用したリードナーチャリング。
SaaS事業者向けメディア「おすすめSaaS.com」を運営。1.5年でゼロからCV30件/月程度のメディアへ成長。
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神宮 啓(しんぐ・はじめ)
SO Technologies株式会社 AG-Boost・CUSTA事業本部。
高校卒業後から20代前半までお笑い芸人として活動。引退後はコンサルティング会社を1社、広告代理店を2社経て、2021年7月からソウルドアウトグループのSO Technologiesに入社(現職)。主に中小企業のWebプロモーション支援に従事。
@haji28290