就活や転職で利用した人が多いであろうリクルート。採用をはじめ、住まい、結婚、旅行、飲食など多彩な領域で数百にも上るプロダクトを有していることで知られます。
そのリクルートで、オンライン・オフラインともに、戦略策定から実行までマーケティングに関するほぼ全てを担っているのが「マーケティング室」です。
リクルートのマーケティングにはどんな特徴があるのでしょうか。日頃マーケターはどのような教えを受けていて、どんな強みを持っているのでしょうか。
今回はリクルート プロダクト統括本部 マーケティング室 販促領域マーケティング1ユニット(住まい)ユニット長・石井智之さんに話を聞きました。
(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、写真:矢島 宏樹)
目次
団体戦をリードしつつ、個人としても最前線に
――まず、略歴から教えてください。
2008年に新卒でリクルートに入社して、3~4年後にGoogleに転職。フリーランスの期間を経験した後、2013年にリクルートに戻りました。2回目の入社からはそろそろ10年になります。
――マーケティング室のユニット長とは、どんな仕事ですか。
リクルートの中で「SaaS」と呼ばれる領域(事業者の業務支援)と、「住まい・不動産」領域の2つのマーケティング組織をオンライン・オフラインの両方で統括しています。組織と人のマネジメントに軸足を置きつつ、マーケティング自体の進化についてもミッションとして追求するイメージです。
――リクルートという大きな会社で、マーケティング部門を統括するユニット長を務めるのは大変なことだと思います。これまでのキャリアで、石井さん自身が成長を感じたエピソードがあれば、教えてください。
成長という点で大きなきっかけだったと感じるのは、5年ほど前に人をマネジメントする立場になったことです。もともとマーケティングの現場に立つ仕事が好きなのですが、マネジメントの立場になると、どうしても現場の最前線から離れざるを得ません。マネジメントとして俯瞰的に、捉え方を広げれば広げるほど現場から離れていくと気づいたとき、自分がこれ以上、最前線に居続けるのは難しいと実感したのは大きな転機となりました。
――最前線から離れることで、後輩に追い抜かれるのではないかという怖さはありましたか。
怖かったですね。今も怖いです。みんな優秀ですから、特定の領域に関しては自分より詳しい人が何人もいます。ただ、自分には俯瞰して全体を見られるメリットもあります。今は最前線からなるべく離れないように頑張って食らいつきつつ、そこにマネジメント力をプラスして自分の価値を保っています。
――ということは、まだ現場の最前線に立っていたいという思いも捨てられていないのですね。
捨てられていないです。捨てるつもりもありません。ただ、マーケティングの特定の戦術、施策に関して「自分が一番詳しくなる」「自分がアイデアを出して、大きな花火を打ち上げる」という「自分、自分」のような感情は薄れてきたかもしれません。
――それが石井さんの成長と、どうつながるのですか。
自分の中の認識が個人戦から団体戦に変わったということです。団体戦だから、自分がシュートを打たなくても、メンバーが得点を挙げればいいと考えられるようになりました。それはプレイヤーと合わせて、マネジメントの視点も持てるようになった点で転機であり、成長だと感じます。今では組織全体がレベルアップして高い成果を上げられた瞬間や、目立った活躍をしたメンバーが表彰されるときに喜びを感じるようになりました。
知見を独占せず、「人に影響を与えた人が偉い」という社風
――わかりました。石井さんはマーケティングのどこに面白さを感じますか。
フィールドの広さです。私の解釈なのですが、ビジネスでマーケティングに全く関係なく完結することなどあるのだろうかと感じるほど、マーケティングのフィールドは広いと感じます。また、マーケティングには「態度変容」「行動変容」のような不変の部分と、InstagramやTikTokの台頭のときのように流行り廃りの早い技術的な部分があり、戦い方は無限に存在すると考えています。その戦い方次第で結果が変わりますから、どんな施策を選択して組み合わせるべきか、それを考えることがとても面白く、魅力的です。市場全体で見れば、プロダクトが少し劣位でも、マーケティングの戦い方次第で勝つことは普通に起きますし、そこがマーケターの腕の見せどころでもあります。担当したプロダクトをどのように勝たせるか、その思考を深掘りするプロセスがマーケティングの醍醐味だと思います。
――石井さんが考えるリクルートのマーケティングの特徴は何でしょうか。
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