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インタビュー

紆余曲折から学んだ、成長する会社と人に共通する考え方の基本――アスクル取締役・木村美代子インタビュー

最終更新日:2023.05.09

The Marketing Native #33

アスクル 取締役

木村 美代子

日本中の仕事場で利用されているアスクル。木村美代子さんは創業メンバーとしてアスクルの立ち上げから中心人物の1人として活躍し、現在は取締役としてBtoBのASKUL(アスクル)、BtoCのLOHACO(ロハコ)の両事業に取り組んでいます。

コロナ禍におけるEコマースの拡大やメディカル領域を中心とした生活用品の売上増で業績好調が伝えられますが、ここに至るまでには紆余曲折があり、挫折や困難に直面しては1つずつ乗り越えながら事業を成長させてきたといいます。

今回はキャリアがそのまま社史とも言うべき、アスクル取締役の木村美代子さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)

※肩書、内容などは記事公開時点のものです。

目次

価値創造に欠かせない「大アスクル」のリレーション

――木村さんは最近までアスクルでCMOを務められていたとのこと。アスクルのCMOとは、どんな仕事ですか。

お客様の声を聞いてメーカーさんと共に価値創造をするのがアスクルCMOの役割です。私は販売促進ではなく主に商品開発に携わっていまして、消費財メーカーと一緒にお客様の課題解決と暮らしを豊かにすることを最優先に考えながらアスクルとして進化することを目指しています。

商品開発においてはデザインも大切ですから、国内メーカーのデザイナーだけでなく、スウェーデンやデンマークのデザイナーとも15年ほど前からネットワークを作り、一緒に新しい価値の創造に取り組んでいます。そのように企業の枠を超えて役割を分担するパートナー企業を「大アスクル」と呼んで、アスクルだけの「小アスクル」と区別しています。

アスクルの社員だけでは、できることは限られます。外部のメーカー、デザイナー、大学の先生や学生、その他さまざまな組織と協働して「大アスクル」を形成し、お客様のために価値創造を目指すまとめ役が私の主な仕事です。

――木村さんが考える価値創造とは具体的にどのような意味ですか。

お客様の課題解決だけでなく、「そう、これが欲しかったの!」と感じていただけるインサイトを捉えた商品をご提案して、彩りや豊かさ、便利さなどさまざまな観点から生活を進化させること全般を広く意味しています。

インサイトの発見は容易ではありませんが、「お客様をよく見て、意見に真摯に耳を傾けること」「内なる自分を1人の顧客として、本当に欲しいかどうか何度も自分に問うこと」「世の中の流れやトレンド、世界情勢の変化に敏感になること」の3つを日頃から心がけ、ひらめきのヒントを探すようにしています。コロナのように変化は急に訪れることが多いので、常にアンテナを張って情報収集を行っています。

――「顧客を見る」といっても、大手企業でCMOの立場では、見方も俯瞰というか、粗くなる可能性もあると思いますが、何か工夫していることはありますか。

はい、やはり俯瞰だけでは不十分なので、お客様サービスデスクから毎日共有されるお客様の声にしっかりと目を通すようにしています。そこにはTwitterのツイートも含まれていまして、お叱りの声、お褒めの声などを真摯に受け止め、参考にしています。

もちろんお客様と直接お話ししたり行動観察したりすることも大切ですから、LOHACOならZoomでグループインタビューを行ったり、ASKULの場合はご利用いただいているお客様にインタビューしたり、プライベートでも飲食店や美容院、医院などに出かけたときに商品の活用のされ方をじっくり観察したりしています。

グループインタビューでは私が役員であることを伝えずに話を聞いているのですが、先日は「LOHACO沼にハマった」とおっしゃるお客様がいたり、4年前にご迷惑をおかけした物流センター火災の話題に触れて「あのときは自分の中でLOHACO応援キャンペーンをやっちゃった」と言ってくださる方がいたりして感激しました。そういう方々に継続してご利用いただける商品開発や、アスクルが進化するための仕組み作りについてあらためて思考するきっかけになっています。

異例だった翌日配達の徹底と競合商品の取り扱いでサービスが拡大

――アスクルは同じ文具業界に存在しなかったBtoBサービスとして新たなマーケットを開拓し、成長してきました。最初の認知を獲得するまでは大変だったのではないですか。

シンプルな話で、まず信頼を獲得することから始めました。それがアスクルの社名で、「明日来る」から命名したものです。今でこそ都心部にお住まいの場合は、商品を発注したら翌日に届くのが当然のようにお考えの方も少なくないと思います。しかし、総合事務用品メーカー「プラス」の一事業としてアスクルを立ち上げた1993年頃は、翌日配達の納期を守るのはなかなか大変でした。そのような状況下、「アスクル」の名前を付けることで退路を断ち、絶対に届ける、品切れの商品は買ってでも届けることを厳しく守り抜いた結果、信頼を少しずつ獲得することができました。

認知拡大のもう1つのきっかけは、競合他社の商品を取り扱い始めたことです。アスクルはプラスの文房具の拡販策としてプロダクトアウト的な発想で作ったサービスだったのですが、受発注用のファクス下にあるメモ欄を見ると、お客様の「A社のファイルが欲しい」「B社のホチキスを入れてほしい」などのリクエストが書かれているのです。文房具だけでなく、インスタントコーヒーやトイレットペーパー、ティッシュペーパーを希望する意見もありました。

そうしたご要望を集計して何度かプラスの役員会に諮ったのですが、最初は当然「なぜ競合の商品を取り扱わなければならないのか」と反対されました。そこから少しずつ説得して壁を乗り越え、最後は業界トップメーカーのカタログ掲載まで認められました。プラス文具の拡販を目的に始めたサービスで競合他社の商品や文房具以外の生活用品まで取り扱うのは自分たちの発想だけでは実現できなかったと思います。これもお客様の声が業績拡大に結びついた事例で、実際、現在では生活用品がアスクルの基軸の1つになっています。

――日本全国に存在する多くの企業にアスクルのサービスを浸透させた方法は何ですか。

そこはアスクルのユニークな特徴で、全国に多数存在する文具店さんが地場で築いた信頼を活かしてエージェント(担当販売店)となり、お客様の開拓と債権管理を担当していただきました。もともとプラスは文具店さんが顧客ですから、役割を明確にした上で文具店さんと一緒に新しいビジネスを作ろうとしたわけです。お客様の開拓についてはエージェントさんが一生懸命尽力してくださいました。まさに「大アスクル」です。

※豊かな自然と生命力が感じられる開放的なオフィスの様子(提供:アスクル株式会社)

キャリアの転換点になった「アスマル」での悔しい思い出

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・ブランディングされつつあるLOHACOの魅力
・成長する社員の特徴は、仲間と一緒に高め合えること

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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