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インタビュー

おやつカンパニー専務/マーケティング本部長・髙口裕之が語る「ベビースターラーメン再活性のポイントと、新規事業創出の戦略と勝算」

最終更新日:2023.08.01

The Marketing Native #27

おやつカンパニー 取締役専務執行役員/マーケティング本部長

髙口 裕之

ベビースターラーメンで有名なおやつカンパニーがこの春、同社にとって新たな歴史の1ページとなる新商品を発売します。商品名は「BABY STAR」(ベビースター)にちなんで命名されたタンパク質訴求のスナック菓子「BODY STAR」です。

新商品の発売にはおやつカンパニーで専務/マーケティング本部長を務める髙口裕之さんの意向が色濃く反映されています。ほかにも祖業品であるベビースターラーメンを料理に活用することで売り上げを向上させるなど、マーケティング思考の注入で同社の活性化に尽力中です。

今回は老舗企業で奮闘する株式会社おやつカンパニー取締役専務執行役員/マーケティング本部長の髙口裕之さんに、既存品の再活性策と新商品開拓に伴うマーケティングのポイントについて聞きました。前後編でお届けします。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、写真:矢島 宏樹)

※肩書、内容などは記事公開時点のものです。

目次

物事の別の側面に光を当てるマーケティングの価値、魅力

――おやつカンパニーに参画されたのは2017年。どのようなきっかけで、どんな点に惹かれて入社を決めたのですか。

おやつカンパニーの筆頭株主であるファンドさんからお声がけを頂いたことがきっかけです。会社にマーケティングの知見を埋め込み、ハンズオンで人や組織を育てつつ業績を上げ、さらに新しい軸となるブランドを作ってほしいとの依頼でした。私自身、20年以上の経験でマーケティングの価値や威力を肌で感じていますし、日本の企業にもマーケティングをもっと普及させたいと考えていましたので、やりがいを感じてジョインしました。

また、これまで加工商品(調味料)や和日配(キムチ)、少しですが冷凍食品、アイスクリームのマーケティングを事業会社で経験してきましたが、スナック菓子は初めてだったことも知見になると思い、興味を持ちました。

――「マーケティングの価値や威力を肌で感じている」とのことですが、マーケティングによって業績を大きく伸ばせるという意味ですか。

間違ってはいませんが、いきなり業績を大きく伸ばせるというよりも、マーケティングによってニーズを捉え、我々の提供価値に反応してくれる人が少しずつ増え、次第に市場が形づくられていくとの捉え方が近いと思います。業績はその先に見えてくるものです。マーケティングは物事を解決する一つの方法論であり、課題を抱えている人や、もっと幸せになりたいと望んでいる人に対して、「ありがとう」と感謝されることを提供するのが役割の一つだと思います。そうした形を通してファンが増えていけば、お金を支払っていただけるようになり、売り上げにつながるでしょう。

ですから、いきなり業績の話に行くのではなく、「そうそう、こういう商品やサービスが欲しかったんだ!」と言ってくれる人を少しずつ増やしていくイメージです。そんなインサイトを当てる感覚が面白いですし、ゼロの状態から次の世代に受け継がれるヒット商品やサービスを新たに生み出せれば、それはすなわち誰かの役に立てたり、喜びを与えられたりできたということです。実際に「こういう商品を待っていました。ありがとうございます!」と言われると、純粋に涙が出るほど感激するものです。そんな感動の瞬間が刺激的だからこそマーケティングの仕事がやめられないという人も少なくないと思います。

――それなのになぜ日本の企業でマーケティングは今ひとつメジャーな存在ではないのですか。

個人的な考えですが、マーケティングに対して、何か騙しているような印象を持つ人が一定数いるのかもしれないですね。

――その話はたまに聞きます。「企業のマーケティングで自分の心が動かされていると考えると嫌だ」と。

エスキモーに冷蔵庫を売る有名な話(※1)がありますが、物は同じで、見せ方や売り方を変えているだけなのに、どこか騙しているように感じる人がいるようです。嘘をついているわけではなく、角度を変えて見せているだけで、それによって喜ぶ人もいるのに、なぜか心理的な抵抗を覚えてしまうのでしょうね。

※1
冷蔵庫などいらないはずのアラスカで、あるセールスマンがエスキモーに「この中は適温なので、食品が凍らないし、腐らない」という営業トークで冷蔵庫の大量販売に成功したという話。

確かに冷やしたいというニーズに応えるために作ったウォンツでしょうから、その目的以外は邪道だと思ってしまう感覚もわかりますが、エスキモーにとっては凍らせたくないニーズに応えられるウォンツでもあるわけです。同じウォンツでもニーズが違うことを受け入れにくくなる、行動経済学でいうアンカリング効果ではないでしょうか。

ペットボトルの水も飲用ではなく、洗顔や入浴で使うと言ったら、反発する人や違和感を持つ作り手がたくさんいると思います。気づかなかっただけで、本当は飲むだけでなく体を洗うことに向いているかもしれないのに、です。

見せ方、売り方を変えて祖業品の再活性に成功

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・食品を数字で選ぶ時代に生まれた新ブランド
・「BODY STAR」の戦略と勝算

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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