インタビュー
2021.01.07

おやつカンパニー専務/マーケティング本部長・髙口裕之が語る「ベビースターラーメン再活性のポイントと、新規事業創出の戦略と勝算」

The Marketing Native #27

おやつカンパニー 取締役専務執行役員/マーケティング本部長

髙口 裕之

ベビースターラーメンで有名なおやつカンパニーがこの春、同社にとって新たな歴史の1ページとなる新商品を発売します。商品名は「BABY STAR」(ベビースター)にちなんで命名されたタンパク質訴求のスナック菓子「BODY STAR」です。

新商品の発売にはおやつカンパニーで専務/マーケティング本部長を務める髙口裕之さんの意向が色濃く反映されています。ほかにも祖業品であるベビースターラーメンを料理に活用することで売り上げを向上させるなど、マーケティング思考の注入で同社の活性化に尽力中です。

今回は老舗企業で奮闘する株式会社おやつカンパニー取締役専務執行役員/マーケティング本部長の髙口裕之さんに、既存品の再活性策と新商品開拓に伴うマーケティングのポイントについて聞きました。前後編でお届けします。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、写真:矢島 宏樹)

目次

物事の別の側面に光を当てるマーケティングの価値、魅力

――おやつカンパニーに参画されたのは2017年。どのようなきっかけで、どんな点に惹かれて入社を決めたのですか。

おやつカンパニーの筆頭株主であるファンドさんからお声がけを頂いたことがきっかけです。会社にマーケティングの知見を埋め込み、ハンズオンで人や組織を育てつつ業績を上げ、さらに新しい軸となるブランドを作ってほしいとの依頼でした。私自身、20年以上の経験でマーケティングの価値や威力を肌で感じていますし、日本の企業にもマーケティングをもっと普及させたいと考えていましたので、やりがいを感じてジョインしました。

また、これまで加工商品(調味料)や和日配(キムチ)、少しですが冷凍食品、アイスクリームのマーケティングを事業会社で経験してきましたが、スナック菓子は初めてだったことも知見になると思い、興味を持ちました。

――「マーケティングの価値や威力を肌で感じている」とのことですが、マーケティングによって業績を大きく伸ばせるという意味ですか。

間違ってはいませんが、いきなり業績を大きく伸ばせるというよりも、マーケティングによってニーズを捉え、我々の提供価値に反応してくれる人が少しずつ増え、次第に市場が形づくられていくとの捉え方が近いと思います。業績はその先に見えてくるものです。マーケティングは物事を解決する一つの方法論であり、課題を抱えている人や、もっと幸せになりたいと望んでいる人に対して、「ありがとう」と感謝されることを提供するのが役割の一つだと思います。そうした形を通してファンが増えていけば、お金を支払っていただけるようになり、売り上げにつながるでしょう。

ですから、いきなり業績の話に行くのではなく、「そうそう、こういう商品やサービスが欲しかったんだ!」と言ってくれる人を少しずつ増やしていくイメージです。そんなインサイトを当てる感覚が面白いですし、ゼロの状態から次の世代に受け継がれるヒット商品やサービスを新たに生み出せれば、それはすなわち誰かの役に立てたり、喜びを与えられたりできたということです。実際に「こういう商品を待っていました。ありがとうございます!」と言われると、純粋に涙が出るほど感激するものです。そんな感動の瞬間が刺激的だからこそマーケティングの仕事がやめられないという人も少なくないと思います。

――それなのになぜ日本の企業でマーケティングは今ひとつメジャーな存在ではないのですか。

個人的な考えですが、マーケティングに対して、何か騙しているような印象を持つ人が一定数いるのかもしれないですね。

――その話はたまに聞きます。「企業のマーケティングで自分の心が動かされていると考えると嫌だ」と。

エスキモーに冷蔵庫を売る有名な話(※1)がありますが、物は同じで、見せ方や売り方を変えているだけなのに、どこか騙しているように感じる人がいるようです。嘘をついているわけではなく、角度を変えて見せているだけで、それによって喜ぶ人もいるのに、なぜか心理的な抵抗を覚えてしまうのでしょうね。

※1
冷蔵庫などいらないはずのアラスカで、あるセールスマンがエスキモーに「この中は適温なので、食品が凍らないし、腐らない」という営業トークで冷蔵庫の大量販売に成功したという話。

確かに冷やしたいというニーズに応えるために作ったウォンツでしょうから、その目的以外は邪道だと思ってしまう感覚もわかりますが、エスキモーにとっては凍らせたくないニーズに応えられるウォンツでもあるわけです。同じウォンツでもニーズが違うことを受け入れにくくなる、行動経済学でいうアンカリング効果ではないでしょうか。

ペットボトルの水も飲用ではなく、洗顔や入浴で使うと言ったら、反発する人や違和感を持つ作り手がたくさんいると思います。気づかなかっただけで、本当は飲むだけでなく体を洗うことに向いているかもしれないのに、です。

見せ方、売り方を変えて祖業品の再活性に成功

――髙口さんが入社して、おやつカンパニーは何が、どう変わりましたか。

マーケティングの実践によって成果につながった事例が2つ生まれています。1つは、既存品のリテンションです。具体的にはベビースターラーメンの再活性で、ここ数年売り上げが落ち続けていた祖業品であるベビースターラーメンを、商品を変えずに商品回転や総需要を回復させることができました。

菓子というカテゴリー特性は、「売り上げを上げる=新商品の投入」になりがちです。それも年に200以上に上ります。

――200!?年に200種類も出すんですか。

そうです。コラボレーション品、○○味、特定のコンビニエンスストアさん専用などたくさん出しています。それはプラスの面もあります。スナック菓子やドレッシングなどは商品に不満がなくても、そのときの気分で変える傾向の強いカテゴリーですから、数を出していく戦略が正しいという考え方も理解できます。

しかし、既存品を育てたり、見せ方、売り方を変えることで数字を伸ばしたりできないと、「そのまま食べる」という完成食品の性格上、「売れなかったら次の商品を」となり、「質より量」の考え方のままプロダクトアウトへ自らはまってしまいます。バラエティシーキング(※2)という特性を甘受して商品の種類を乱発しすぎるとブランド価値は上がらず、結果としてブランドアイデンティティも形成されずに、差別化された知覚イメージによる選択肢(エボークドセット=想起集合)に挙がりにくくなります。それではブランド指名率は向上しませんし、もともと安価な嗜好品ですから他の菓子と価格で比較される状況になって、収益性も上がりません。

※2
多様性の追求。物を選ぶ際に1つのブランドだけでなく、いろいろなブランドを買い求める消費者の行動。

そこでまず、会社の代名詞であるベビースターラーメンの再活性から着手して、マーケットインで市場環境やニーズ、知覚価値の変化に合わせた見せ方、売り方をすれば、既存品の売り上げを伸ばすことは可能なのだと示すことにしました。

――その結果が、ベビースターラーメンの料理への活用ということですか。これはどの辺りからの発想ですか。

もんじゃ焼き屋さんに行くと、ベビースターラーメンを置いている店が多いことに以前から気づいていました。おやつカンパニーにジョインしたとき、メンバーに「この会社がもんじゃ焼き屋さんに働きかけた結果、店に並ぶようになったのか」と聞いたところ、「何もしていません」と言うのです。つまり、もんじゃ焼き屋さんは自分たちで、ベビースターラーメンともんじゃ焼きが合うと感じていたということです。

その話を受けて、料理レシピの検索アプリで調べてみると、ベビースターラーメンを料理に使う例がいくつもあることがわかりました。それは他のスナック菓子にはない特徴です。「ということは、消費者が本能的に“ベビースターラーメンは料理にも使える菓子”という感覚を持っているのだ」と気づき、料理展開への基礎体温を感じたのがきっかけです。

マーケティングの基本である3C、STP、4Pのスタイルでリテンションを検討すると、「料理に使える側面」を打ち出すことがスナック菓子市場の中で独特のポジショニングとなり、競合ブランドとの意味のある差別化に有効であるという仮説がすぐに見えてきたため、2018年から料理の方向へ舵を切り、レシピ本も発売。結果的に店頭回転は回復し、2年連続で前年越え、総需要量も2014年時を超えるまでになっています。

また、「料理に使える」というパーセプション付与のコミュニケーションは情報に実用性があるため、広告、宣伝コストを中長期的にセーブしやすいと考えたことも意思決定の重要なポイントでした。

――年に200種類以上出していた状況に変化はありますか。

いや、今も近い数字を出しています。流通さんとのお付き合いもありますし、急に減らすと他の菓子に売り場を一気に奪われますので、自分たちの陣地を守り続けることも大事です。ただ、少しずつ減らしていく取り組みは始めています。

食品を数字で選ぶ時代に生まれた新ブランド

――マーケティングの実践で生まれたもう1つの事例は何でしょうか。

市場やニーズの変化に対応したマーケットインでの新ブランド創出です。「菓子は味が全て」という声を社内外に多く聞きますが、私はマーケターとして必ずしもそうだとは思いません。消費者の価値観は変わります。これだけ健康志向や美しい体づくりに関するニーズと市場が拡大しているのであれば、間食にもそれを求める層が出現、増加するのは不自然ではないと考えました。

私は調味料メーカーにおける自身の経験で、それを実際に見ています。例えば、食酢はお寿司や酢の物として食べられていますが、酢の味そのものを好きな人は少数派です。ただ、酢の酢酸菌は体に良いとされ、その情報は広く知られています。ですから、「1日15ミリ摂取することで、血圧などに良い影響がある」などのPRを出すと、消費者は積極的に取ろうとします。つまり、味の良さではなく脳内の納得感で選ぶのです。

野菜ジュースにしても同じです。もちろん、美味しいに越したことはないですが、仮にそこまで美味しくなくても、嗜好以外の意味があることは購買、需要を生みますし、むしろそのほうが差別化されたブランドが確立され、継続性も高くなると思います。なぜなら味覚は右脳的で主観的なため、飽きがきやすいですが、味覚以外の意味を創造できれば左脳的判断が働いて継続してもらいやすくなるからです。

それはCLV(カスタマー・ライフタイム・バリュー)の形成に直結しますので、ブランドとして顧客と長く寄り添うことができ、ビジネスとしてのリターンを最大化することにつながります。

最近ではエナジードリンクの買われ方が象徴的で、カフェインの含有量で商品を選ぶ人が多いとチェーンドラッグストアの方から伺いました。つまり、食品を数字で買う(選ぶ)時代になってきたのだと思います。

そこで、数ある栄養成分の中で、今最も注目されている成分の1つ、タンパク質に着目しました。市場には粉末プロテインの周辺品として飲料や甘いバー、ソーセージなど、タンパク質を機能価値として売りに出ている関連食品が増えていますが、スナック菓子ではまだ存在しません。味もソーセージなどを除けば大半が甘い味ばかりで、スナック菓子でセイボリー(塩味)というポジショニングはホワイトスペース。そもそもスナック菓子市場は約2500億円ありますからポテンシャルは大きいですし、自社の強みはスナック菓子の製造販売なので、これも3C→STP→4Pが当てはまります。

このようにロジックがきちんとつながるので、新しいプロテインスナック菓子ブランドを立ち上げました。それが「BODY STAR」(ボディスター)です。ブランド名がコンセプトそのものを意味し、かつ「BABY STAR」(ベビースター)とコンセプトの対極に位置しながら、語呂が近いことから名付けました。

美味しく楽しいのは「BABY STAR」、体に美味しいのは「BODY STAR」というすみ分けです。3月に全国発売の予定で、現在は特定チャネルで限定販売中ですが、安定した滑り出しで、ターゲット層からの評価も狙い通りです。また、ジムやフィットネスブランドとの協業の問い合わせも多く、新しいチャネル、新しい売り方の創造にもなるとマーケター視点ではメリットたっぷりに感じています。

「BODY STAR」の戦略と勝算

――スナック菓子の大手メーカーでソラマメから作った塩味の菓子がありますよね。私もよく食べます。あれもタンパク質訴求だと思いますが、どう差別化するのですか。

戦略が大きく異なります。私に言わせれば、あちらはあくまでも健康的な雰囲気の菓子です。一方、「BODY STAR」はプロテイン売り場の横に置ける、数字で語れるスナック菓子です。体のコンディションに気を使っている人が、「毎日プロテインとささみばかりでは張り合いがない」「たまにはスナック菓子を食べたい」と感じたときに、ぜひ召し上がっていただきたい位置付けです。

タンパク質が20グラムも入っている商品は、プロテインバーや周辺品を見てもほぼありません。しかも1グラム当たり10円を切った商品も、ほぼ存在しないと思います。

――最初「BODY STAR」の話を聞いたときはサラダチキンやプロテインバーなどタンパク質訴求の食品がたくさんあるのに、なぜなのかと思ったのですが、理解できました。

単なる間食としてのスナック菓子の市場がこれ以上大きく伸びることはないと思います。また、ポテトチップスの価格が下がってきている上、いろいろな種類が次々と出てきて、ある意味市場をかき回している状況です。

一方、ベビースターラーメンは市場で一定の位置を占めているとはいえ、良い悪いではなく、もう4番打者の座を取って代われるだけの存在ではなくなっています。そのような状況下でベビースターのラインナップだけ山ほど増やしても限界があるだろうとジョインしてすぐ感じました。既存品は既存品でじっくり丁寧に活性化させるとして、もう1つスナック菓子市場で戦い続けなくてもいい新しい事業を入れないと会社全体として厳しいというのが私の見立てです。

もともとスナック菓子は、派手でポップな売り場に行くとわかる通り、「美味しい」「楽しい」雰囲気一辺倒です。息抜きのための間食ですから基本はそれでいいのですが、市場自体が成熟して、シェアの位置もほぼ固まっている状況を考えると、これまでと同じ考え方、行動では大きく伸びることはありません。シェアが固まっていても市場が伸びていれば業績も上がりますが、市場の伸びが止まっている上に少子化ですから、今後はさらに厳しくなるでしょう。

美味しくて楽しい間食市場だけではリスキーで、異なる領域で収益が取れるビジネスを考える必要があると考えたときに、健康志向というよりも「体を引き締める」「美しくシェイプする」という意識がアスリートの枠を超えて一般にも広がっていることに着目しました。

といっても、オフィスにプロテインの粉末とシェイカーを持ち込んで飲むこともなかなか難しいですから、既存の食品市場にタンパク質訴求の商品がたくさん登場しています。ただし、その中にタンパク質が十分に含有されていてセイボリーなスナック菓子はありませんでした。それで、これは伸びるに違いないと考え、新しいブランドビジネスとして打ち出したというわけです。

――「BODY STAR」はどこに置かれるんですか。

健康食品売り場からスタートします。一部ドラッグストアで試験展開していますが、おかげさまで評判が良く、順調です。

――将来的にはスーパーやコンビニでも買えるようになるといいですね。

一定の実績が出てくれば、流通さんが必ず多くの買い物客が訪れる売り場に持ってくると思います。流通さんだって売り上げを上げたいわけですから、最初は様子見でも「売れている」という評判を聞けば、思い切って仕入れてくれるスーパーさんやコンビニさんが出てくるはずです。

実際に、ミツカン(Mizkan Holdings)時代に「レトルト鍋つゆ」を開発、上市(※3)した際、大手GMS(総合スーパー)さんはこぞって「こんな軟包材を定番に並べるのか?」と、それまでの常識だった瓶やペットボトル入りと違うというだけで初年度は様子見でした。一方で、差別化したかったSM(スーパーマーケット)さんで採用され、売れた事実ができたことを契機に次年度から一気に拡がりました。

※3
初めて市場に出すこと。

――「BODY STAR」の価格はいくらですか。

今は180円で試験販売しています。ただ、ポテトチップスも78円、88円が当たり前の時代です。社内も当初は「売れるわけがない」という認識でしたが、私はきちんと意味さえあれば200円を切っているのは安いと主張していました。なぜかというと、タンパク質20グラム入りで180円の商品はそんなにないからです。

でも、より受容性を高めるため、3月の発売時には上代(定価)を20円下げて160円で出すことにしました。これでおそらく一層、お買い求めいただきやすくなったと思います。

後編はこちら

Profile
髙口 裕之(たかぐち・ひろゆき)
株式会社おやつカンパニー取締役専務執行役員/マーケティング本部長。
1969年、神奈川県生まれ。大学卒業後、中埜酢店(現Mizkan HD)に入社。営業からマーケティングの部署へ移り、さまざまなグループのブランドマネジャーを歴任、多くの新商品を開発する。MBAを取得後、規格外農産物流通会社の起業や食品マーケティングコンサルタントを経て、日系PEファンド投資先食品メーカー代表取締役就任。バイアウト後の2017年、米系PEファンド投資先のおやつカンパニーに参画、現在に至る。

早川巧

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
Twitter:@hayakawaMN
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