インタビュー
2020.08.04

オープンハウス・マーケティング本部長 加藤勤之が語る「コロナ禍でも快進撃が続く理由と急成長を支えるマーケティングの役割」

The Marketing Native #22

株式会社オープンハウス マーケティング本部長

加藤 勤之

オープンハウスは令和を代表する急成長企業の1つとして注目されています。よく知られているのは営業力の強さですが、コロナ禍においても飛ぶように売れる背景には、営業力に加えてマーケットインの考え方に貫かれた商品力と、営業をサポートするマーケティングの力がありました。

では、オープンハウスでマーケティングはどのような役割を果たしているのでしょうか。

今回は博報堂から2018年12月にオープンハウスに転職し、現在同社でマーケティング本部の本部長を務める加藤勤之さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、人物撮影:豊田 哲也)

目次

住宅購入希望者の「親」に届くテレビの大きな影響力

――緊急事態宣言下の5月にあって、戸建て仲介契約件数が前年同月比43%増(6月は52.3%増)と、世間の自粛ムードをものともしない快進撃です。営業の強さはよく知られていますが、マーケティングはオープンハウスの中でどのような位置づけなのでしょうか。

オープンハウスのマーケティングには大きく3つの役割があります。1つ目はデジタルマーケティング。2つ目は、長瀬智也さんや田中みな実さん、清野菜名さんらが出演しているテレビCMの制作。3つ目がテレビを中心にメディアへの露出を増やすPRです。私は現在、その3本柱を統括するマーケティング本部の責任者を務めています。

――テレビへの露出というのは、具体的にどんなことでしょうか。また、露出を増やすために実行していることがあれば教えてください。

テレビへの露出とは、番組の企画として、オープンハウスという会社や商品の魅力、ユニークさを取り上げてもらうことです。番組に取り上げていただくのは簡単なことではありませんので、常に切り口を考えながら、前職・博報堂時代のネットワークなどを活用し、「こういう打ち出し方で企画になりませんか?」と愚直にテレビ局の方々にお願いしています。

――手応えのあったPRには何がありますか。

3つあります。まず昨年4月に、加藤浩次さんがMCを務める『がっちりマンデー!!』(TBS系列)で、12~13分間にわたって特集していただきました。ほかには、昨年末に『どっちの家を買いますか?』(テレビ東京系列)と『大みそか列島縦断LIVE 景気満開テレビ』(フジテレビ系列)という2つの番組で取り上げていただきました。いずれも反響が大きく、中でも『景気満開テレビ』では商品の魅力や売れている理由、元気が良くて多彩な人材が活躍できる企業文化を包括的に取り上げていただき、大きなPR効果を獲得できました。

CMで商品の魅力を紹介しようとすると説明調になってしまいがちですが、こうして番組の企画として取り上げていただけると、オープンハウスの魅力を自然な形で多くの人に伝えられます。営業にも良いサポートができたのではないかと思います。

――テレビの力は大きいですか。

「テレビを見ない」とおっしゃる方もいますが、今も非常に影響力は大きいと思います。当社で住宅購入を検討されるお客さまは、20代から30代前半の比較的若いご夫婦が半分ほどを占めます。その世代の方々が家を買うときは、多くの場合、親御さんに相談するのが一般的です。ただの報告の場合もあれば、経済的サポートを求めることもあるでしょう。いずれにせよ、そのときに親御さんが知らない不動産会社では、「大丈夫なの?」と心配されてしまうおそれがあります。

当社の商圏は東京、名古屋、福岡が中心ですから、CMもその地域にしか出稿しておらず、他の地域にお住まいの方の認知度はそれほど高くないと思います。全国ネットの番組で取り上げていただけると、基本的には老若男女オールターゲットでメッセージを届けられますので、メリットは大きいですね。

――なるほど。親御さんにテレビは有効そうですね。

テレビで取り上げられるとWeb集客にも効果的です。以前より「新築 戸建て 東京」などのキーワードでオープンハウスが出てくるように取り組んでいますが、番組で取り上げられると、「オープンハウス」というカタカナ7文字を入力して指名検索してくださる方が増えます。『がっちりマンデー!!』で放送される前は自社サイトへの流入の1%強しか指名検索がなかったのですが、今は3~4倍に増えました。それに伴い、検索広告にかかるコストもリーズナブルに効率化されている形です。

ほかには、採用面に良い効果があります。当社は実力主義の会社なので、成果を上げられないと生き残るのはなかなか大変かもしれません。そのことを年末の番組で包み隠さず紹介していただいた結果、面接に来る方々があらかじめ企業文化を理解した上で、「そういう実力で勝負できる会社に入社したいです」と話してくれることが増えました。その結果、入社後のミスマッチ減少につながっています。

――現状はWeb集客、テレビCM、PRの3つがうまく回っている感じですね。

CMについても想定以上に「面白いですね」「インパクトがありますね」と言っていただけますので、費用対効果が十分に取れていると思います。自社サイトで取っているアンケートによると、オープンハウスを知ったきっかけの約40%がCMでした。また、おかげさまで会社の業績が良いので、メディアの皆さまにも興味を持たれやすい状況にあります。CM、PR、そしてWebと、その3つがうまく連動して相乗効果を上げられています。

好決算を支える3つの時代背景

――現在、売上高・利益ともに8期連続で過去最高の更新を見込んでいるとのこと。オープンハウスはなぜこんなに好決算を続けられるのでしょうか。そこにマーケティングはどのような貢献をしているのですか。

急成長を支える要因は、商品力と営業力です。商品についてはマーケットインの発想が貫かれていて、世の中の現実を反映しているからこそ、多くのお客さまに選ばれるのだと思います。

その現実というのは主に3つです。1つ目は少子化。出生率は1985年の1.76から2019年には1.36に低下していて、特に都心部では大家族が少なくなっています。したがって、それほど大きな土地は必要なく、コンパクトでありながら核家族が十分に団欒を楽しめる家が求められていると考えています。

2つ目は共働き率。直近のデータを見ると、63%、つまり10組の夫婦のうち6組が共働きです。小さなお子さまがいる場合、誰かが保育園や幼稚園に迎えに行く必要がありますので、職場に近い都心で、駅チカにある通勤に便利な物件が求められます。その代わり、平日の日中はほとんど家にいませんから、家のサイズ自体は多少コンパクトでも問題は生じないはず。当社の物件の特徴は「都心・駅チカ」であり、この点が支持されているのだと思います。

私が子供の頃の80年代半ばにヒットした『金曜日の妻たちへ』などのドラマを見ると、東京郊外に家があって、夫は会社まで1時間半くらいかけて通勤し、妻は友達とお茶をして…という生活が描かれていますが、もうそんな時代ではありません。就業時間ぎりぎりまで働いて、会社を出たらすぐに子供を迎えに行って、帰宅したら夕食を作って子供を寝かせて…という生活スタイルの共働き夫婦は大勢いらっしゃると思います。

3つ目は世帯所得の低下です。2018年の1世帯あたり平均所得金額は約552万円で、ピークを迎えた1994年の約664万円から100万円以上低下しています。そうなると、やはり価格がリーズナブルであることが住宅購入にあたっての重要条件となります。

その点、オープンハウスの商品は、土地はコンパクトだけど核家族の方々にご満足いただける居住空間を確保していて、都心・駅チカの便利な立地にあり、普通なら6000万円くらいする家を5000万円でご提供しているところに特徴があります。時代背景に基づく3つのポイントを押さえた商品設計になっていることが、当社が注目される理由だと考えています。

ただし、こうした点をお客さまに知っていただくのは簡単なことではありません。そこで求められるのが営業力であり、我々マーケティング部は営業パーソンがお客さまにご説明しやすいようにWeb、CM、PRの3つの力を活用してサポートしています。

ユニークなCMに込めた仕掛けと意味

――長瀬智也さんらが出演しているCMが話題ですが、工夫しているのはどんな点ですか。

企業認知という点でCMは強力です。営業パーソンがお客さまにお話ししたときに「ああ、長瀬智也さんのCMの会社ね」と想起していただくことも大事ですが、今年1月から挑戦しているのは「長瀬智也さんのCMの会社ね」から

「オープンハウスね」と社名を覚えてもらえるところまで落とし込むことです。

昨年まではラストカットに「オープンハウス」と出していたのですが、それでは少し弱いと感じました。そのため、劇中にどのように盛り込めば「オープンハウス」というワードを効果的に印象づけられるかを考えて作ったのが現在のCMです。例えば、劇中で田中みな実さんが「時代が変わっても価値が変わらないものってなーんだ?」と聞いて、長瀬智也さんと清野菜名さんが「愛」と答えると、田中さんが「駅チカの土地だから」と言いながら右方向を指さします。するとそこには「OPEN HOUSE」の文字が入った看板が立っているという仕掛けです。私はここで社名だけでなく、「駅チカ」という機能性も訴えようとしました。

「夢見る小学生 下校」篇(30秒)- オープンハウスTVCM

2つ目のCMでは柄本明さんが「OPEN HOUSE」を「オペンホウセ」とローマ字読みするコミカルさを演出しています。これも名前を覚えてもらいやすいように、そして検索時に入力しやすいようにという意図を込めています。

――同じCMでも住宅は数千万円しますので、食品や日用消費財とは訴求の仕方がいろいろ異なると思います。クリエイティブで意識していることはありますか。

3本目のCMで、柄本明さんが清野菜名さんに告白するところを長瀬智也さんが「ちょっと待った!」と言って止めるシーンがあります。そのときに「おうちは、若いうちに。」とちょっとダジャレを込めたクリエイティブが出るのですが、これは「駅チカの物件ならリセールできますよ」と訴えたい我々の意図を込めています。

家は一生に一度の買い物と思われがちですが、ライフステージが変わるたびに買い替える人もたくさんいらっしゃいます。今は住宅ローンの金利が低いので、家賃程度で戸建てを購入することが可能です。ずっと家賃を払い続けても何の資産にもならない賃貸より、家を買ったほうがいいというのが当社の考えで、その点、都心の駅チカ物件なら資産価値が落ちづらく、リセール力が強力です。

若いうちに家を買い、家族が増えたら売って、また買い替える――「好立地、ぞくぞく。」という我々のタグラインをもっと打ち出して、これから都心・駅チカ物件の便利さやリセール力をもっと知っていただきたいと考えています。

――確かにリセールできると考えると、購入に対する心理的ハードルが下がりますね。基本的なことですが、CMは潜在層、顕在層、準顕在層などどのあたりに向けて作っているのですか。

住宅購入を考えている方はほとんど意識していません。

――そうなんですか。

家をいますぐに買いたいと思っている人は、おそらく世の中に数%程度しかいないでしょう。そうした方々には、価格、便利さ、リセール力などの点で、最終的には当社の商品を選んでいただけると信じています。そうではなく、CMは買いたいと思っていない圧倒的多数の方々に魅力をお伝えするために制作しています。

以前、ある保険会社の方が、「保険に入りたいと思っている人など少なくて、入るつもりがない人のほうが多い。だから、入るつもりがない多数派をターゲットにしたほうがチャンスが広がる」と話しているのを聞き、我が意を得たりと感じました。我々も同様に、現段階で家を買おうと思っていない方々に向けてCMを作っています。

また、当社の営業パーソンも同様で、家の購入など頭になかった人と接触を持って「買ったほうが良いですよ」と営業しています。そうでなければこのコロナ禍の中で、会社がこれだけ成長することなどあり得ません。

「炎上」に対する基本的な考え方

――マーケティング本部長の役割として、ブランディングもあると思います。その点はどうお考えですか。

私が考えている中期的なゴールは、家を買おうと思ったときに、検討する人の8割以上が「オープンハウスは見ておいたほうがいいな」と思われる状態を作ることです。イメージはユニクロさんのヒートテックですね。防寒着を購入するときに、ヒートテックを一度も検討しない人はもはや少数派だと思います。

同様に、購入するかどうかは別として、「家を買うなら、とりあえずオープンハウスだけはチェックしておかないと損するかも」とみなさんに思っていただけるようにすることが私にとってのブランディングに近いと捉えています。

――加藤さんが今、最も注力していることと、課題だと感じていらっしゃることを教えてください。

注力しているのはやはり番組露出ですね。PRと、あとはCMです。Web集客は以前から注力していて比較的成果が出ていますし、CMとPRがうまくいけば、Webにかけるコストは下げられます。

課題は、社内のことになりますが、どんどん上の結果を求められることでしょうか(笑)。昨年、社内外で話題になる長尺の番組露出を3つ成功させた結果、それが社内で当たり前の基準として捉えられるようになりました。「次は何をやるの?」「どんな番組に出るの?」と聞かれることもありますので、そのプレッシャーは確かにあります。

――ノルマはあるんですか。

会社から与えられた目標ではなく、自分で計画したものならあります。ただ、それもハードルが低かったのか、容易にクリアしてしまいましたので、これからどのように高い目標を自分で設定して毎年クリアしていくか、そこが課題だと思います。

――課題という点に関連して大変お聞きしづらいことなのですが、オープンハウスは営業力の強さの裏返しで、いわゆるブラック企業ではないかという声が一部であります。例えば、オープンハウスの記事が出ると、Webで批判的なコメントが取り上げられているのをたまに目にします。この点、加藤さんはどのようにお考えですか。

そうですね。実は、年末の番組でもTwitterが少し荒れまして…。

――そうだったんですか。

当社は元気な朝礼をするのですが、その様子が放送されたところ、「昭和か」「今どきこんな体育会系ゴリゴリの営業会社があるのか」「広報はよくこの番組をOKしたな」といったツイートがいくつか見られました。放送日が12月31日だったのですが、1月6日くらいまで批判的なツイートが続いたと思います。「オープンハウス 朝礼」で検索して、私も少し驚きました。

――そんなにしつこく…。

私も3~4日で終わると思ったのですが、5日にも6日にもまだ出てくるんです。新年は8日から出社で、9日には新CMの放送が控えていました。

――会社で何か言われました?

年末年始には社員のみなさんと会わないので、8日に出社したら怒られるかなあと思ってドキドキしていました。正直、1日から5日まで毎晩のようにその夢を見たくらいです。

――初夢にも(笑)

ところが、8日に出社したとき、これがまたいかにも当社らしいのですが、みなさんから「よかったじゃん」「あれすごくいいよ」と言われたんです。朝礼のシーンに出てきた社員に「あのシーンを使われるとは思わなかったけどね」と笑顔で言われたくらいですね。

どんなことをしてもTwitterにいろいろと書く人はいます。「書かれるということはそれだけ注目されている証拠だし、そんなに気にする必要はない」とみなさんから言われて、とても救われた気になりました。

――みなさん、優しいですね。

そうなんです。それで、9日からの新CMが放送されると、「長瀬智也さんの新しいCMだ」「田中みな実さんがまた面白いことを言っている」という話題が拡散して、ネガティブなコメントは消えていきました。

確かにTwitterの炎上には注意する必要がありますが、悪いことをしているならともかく、朝礼が昭和的と言われても、そこは潔く「当社の文化はこうです」とお伝えしていこうと思います。いちいち気にするのではなく、ネガティブなコメントをポジティブな話題で上回る勢いで広報・PRしていきます。

コロナ禍で行った「誤解を解く」作業

――コロナ禍の影響でマーケティング戦略に変化はありましたか。

マーケティング戦略は変わっていません。ただし、「誤解を解く」という作業はしました。

――誤解を解く?

はい。コロナになると「都心の家って、もう必要ないんじゃないの?」「これからは郊外でしょ」という意見が一部で見られました。Twitterでは「『駅チカの土地はずっと価値が変わらない』という価値が変わるかもしれない」というコメントもありました。

そこで、その「郊外」とは具体的にどこら辺を指しているのかと思い、調べてみたんです。テレワークでも週に1回くらい出社する人は多いと思うのですが、例えば東京から茨城や栃木に引っ越して、東京まで通勤できるのか。お子さまも一緒に転校するのか、など現実的な生活面を考えていくと、郊外といっても吉祥寺や川口、浦和、横浜などその辺をイメージしているんですね。そこは当社の商圏です。

「東京からどんどん人が出ていく」と変な切り取り方をされると、「オープンハウスは大丈夫か!?」となりがちですが、お客さまに聞くと、「もう満員電車に乗りたくない」といった要望のほうが強いんです。それなら自転車通勤するために、もっと会社の近くに家があったほうが便利です。私もいろいろと調べてみて、実際に子供がいる共働き夫婦で都心から遠く離れたところに出ていっても問題ない人は、ごくわずかだと感じました。そうした点で、都心・駅チカの需要はコロナ禍でも強いということをお伝えして、世間の誤解を解くことに努めました。

――最後に、加藤さんがオープンハウスという会社のマーケティング本部長としてこれからどういうことをやっていきたいのか、今後の抱負を教えてください。

誤解を恐れずに言うと、オープンハウスは良くも悪くも注目されやすい会社です。一方で、世の中にとってニーズの高いものをきちんと提供していることも間違いないと思います。その良い部分がまだまだ十分に浸透していません。

ですから、マーケターとしてのゴールは、世の中の人たちに「オープンハウスがあってよかった」「価格も適正だし、住宅事情も良くなった」と思われるような存在の会社にすることです。それを因数分解すると、先ほど申し上げた「家を買うとき、必ず一度はオープンハウスを検討する」という状態を作り出すことだと思います。

もちろん、そこは個人プレーではなくチームとして追求していきます。それに加えて「加藤勤之が広告会社から転職してきた結果、オープンハウスはこんなふうに良くなった」と何か1つでも胸を張って言えるようなことを達成したい。今はそう考えています。

――本日はありがとうございました。

Profile
加藤 勤之(かとう・のりゆき)
株式会社オープンハウス 社長室 室長 兼 マーケティング本部 本部長。
東京工業大学卒。2002年博報堂入社、営業を中心に経営企画や新規事業開発、働き方改革部長などを務める。2018年12月オープンハウス入社、マーケティング本部 副本部長。2019年10月マーケティング本部 本部長就任。

早川巧

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
Twitter:@hayakawaMN
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