facebook twitter hatena pocket 会員登録 会員登録(無料)
インタビュー

エアークローゼット代表・天沼聰インタビュー。コンサル出身経営者が描く、徹底した「ビジョン基点」の事業構築

最終更新日:2025.07.10

キーパーソン深掘り!#07

エアークローゼット 代表取締役社長 兼 CEO

天沼 聰

50万着・300ブランド以上のアイテムの中から、プロのスタイリストが一人ひとりに合わせたコーディネートを選び、自宅に届けてくれるファッション・サブスクリプションサービスのairCloset(以下「エアークローゼット」)。

30代後半〜50代前半の女性を中心に支持を集め、会員数はすでに130万人を突破しています。

創業メンバーは、代表取締役社長 兼 CEOの天沼聰さんをはじめとする、当時ファッション業界未経験の3人。3人はゼロの状態からどのように発想を広げ、数々の壁を乗り越えてきたのでしょうか。

みる兄さんの「キーパーソン深掘り!」。第7弾の今回は、エアークローゼット代表の天沼聰さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)

目次

「顧客の時間価値を高める」という独創的なビジョン

みる兄さん まず、エアークローゼットを2014年に立ち上げたきっかけから伺えますか。

天沼 私はそれまでアビームコンサルティングさんでIT・戦略コンサルタント、楽天さんでWebのグローバルマネージャーをしていたのですが、あるときコンサル時代の後輩2人に「起業したい」と声をかけたのがきっかけです。

天沼聰さん

その際、会社を創業するにあたり、大事なことを2つ決めようと言いました。1つは会社が何を目的として存在するのかというビジョンと、ビジョンをどう実現するかというビジネスモデル。もう1つは、ビジョンを実現するのにどんな組織であるべきかということです。

ビジョンについては、人のライフスタイルの豊かさにつながるものをやりたいということになりました。議論するうちに、「人生を豊かにするためにすべての人が平等に持っているけど、使い方や感じ方によって不平等になるのが時間の価値だ」「同じ1分、同じ1時間でも“億劫”“面倒”という気持ちになる時間と、ワクワクする時間なら後者のほうが時間の価値が高い」「人生の限られた時間の中で、ワクワクする時間の量が多いほうが人生が豊かになる」と考え、時間の価値を高める会社を作ろうと決めたのが起業の原点になります。

その上で、「お客様の感動が第一」「スピード感を持ち、動く」などと定めた「9Hearts」という9つの行動指針をまとめました。

次に「誰の、どんな時間の価値を高めるか」について議論していたときに、「ライフスタイルを豊かにすることが目的なのであれば、BtoCの領域がいい」「ライフスタイルという衣食住の中でも、ファッションが一番ワクワク体験を作れそうだ」と感じ、ファッションで起業することにしました。

ファッション領域で時間の価値を高めることについて話し合っていたところ、時間の価値を感じやすいのは女性のほうだという意見でまとまりました。一般的には女性のほうが朝の準備に時間がかかりやすいだろうという判断です。また、ライフステージが切り替わるタイミングで、ファッションへのこだわりを半ば諦めてしまう人もいると思います。例えば、仕事が忙しくなったらゆっくりファッション誌を見る時間も、ウインドーショッピングに行く時間も少なくなりがちです。結婚したら自分の時間の使い方も変えざるを得ません。マタニティ期がある方は歩く速度すら変わります。子育てが始まって子供にかける時間が増える一方、自分がファッションにかけられる時間が減っていく人が多いでしょう。

そうなると総じて起きがちなのが、マンネリ化して同じようなデザインのファッションにまとまってしまうことです。その現象を我慢するのではなく、時間の価値を高めることで対処できないかと考えたときに、気づいたのが、今の生活リズムを変えなくても新しいファッションにたくさん出合えるようなサービスを作ろうということでした。物探しをする時間もなければ、新しいブランドを知る時間もないし、トレンドを勉強する時間もない。なるべく今の時間軸を変えないように配慮しつつ、自分に似合う新しいアイテムに出合えるサービスにできたら素敵だなと思ったのです。

みる兄さん

9割の人に「うまくいかない」と言われながらも、前へ

みる兄さん なるほど。サービスを立ち上げる前にリサーチやヒアリングは行いましたか。

天沼 リサーチはほとんどしていません。ヒアリングについては、ファッション業界の知り合いが1人もいなかったので、業界の人の意見を聞いて勉強しようと思い、知人らの伝手でいろいろな方をご紹介いただきました。100人くらいにご意見を頂いたのですが、見事に90人くらいの方から「うまくいかないから、やめておけ」と言われました。

自分としてはすごくいいアイデアだと思っているので、「なぜだろう」とショックを受けました。ただ、そのヒアリングは「やる・やらない」の可否を決めるために行ったのではなく、「やる」と決めた上でどういうご意見があるのかを聞くのが目的だったので、逆に「なぜそんなに否定的なのか」と思い、きちんとお話を聞くことにしました。例えば、「ブランドさんがお洋服を卸さないよ」とおっしゃっている方には、「なぜですか?」と。その「なぜか?」を深掘って聞いていくと、裏側の理屈が見えてきます。

その上で、「小売が成立しなくなりかねないので卸さない」というご意見には、「我々は小売の邪魔をしているのではない。お洋服との出合いが作られていくと、そのブランドのファンも増えるし、小売にもプラスの影響が起きると思う」と、1つずつ受け止めて回答していきました。そのスタイルを繰り返す過程で、我々のビジネスモデルが強固に構築されていったと思います。

みる兄さん ありがとうございます。会社が立ち上がって11年、サービス開始10年ということですが、「仮説が当たった」と感じたティッピングポイントのようなきっかけはありますか。

天沼 正直、まだありません。今はまだ、前期40億円を少し上回るくらいの売り上げ規模ですし、「ファッション・アパレル業界全体の10%から15%くらいがキュレーションやレンタルによるファッションとの出合いで成立するようになる」という我々の目標を考えると、スタートラインに立っていないという認識です。

ただ、一定のファンの方は付いてくださっています。その方々の継続率など具体的な数字を見ても、エアークローゼットが生活の一部になっている方がそれなりの数いらっしゃることは確かなので、その方々を大切にしつつ、しっかりと広げていきます。

もちろん、自分たちのサービスが「全くズレているわけではない」と感じたことはあります。2段階あるのですが、最初はサービス開始前に、ティザーサイトを作って「こういうサービスを春にローンチする」という記事にしていただいたところ、約3カ月で約2万5000人が事前予約登録してくれたことです。広告費はかけられないから0円。それなのに、ある種クチコミだけでそれだけの人数を獲得できるということは、わかりにくいサービスではなく、興味関心をある程度、広げられていると感じました。

みる兄さん 記事とリリースの範囲で、自分たちの仮説にそれだけの事前反応があるということは、一定のマーケットが存在すると感じられますね。

天沼 そうです。もう1つは、2018年にデロイトトーマツ主催「2018年日本テクノロジー Fast 50」で、テクノロジー・メディア・テレコミュニケーション業界の急成長企業ランキングにおいて、直近3年間の売上高成長率6,048.33%を記録し、50位中1位を受賞したことです。そのときも、さまざまな業界がある中でもシュリンクが伝えられるファッション・アパレル業界で1位を取れたのは、サービスに対して一定のニーズがなければできないことだと思い、しっかりと拡大していこうという気持ちになりました。

得意だからではなく、「使命だから」やる

みる兄さん これまでもサービス拡張のためにテレビCMをはじめ、いろんなプラットフォームごとの広告施策に取り組んできたと思いますが、サービスと相性が良さそうなプロモーションについては何か仮説を持たれたり、うまくいっていると感じたりしていることはありますか。

この記事は会員限定です。無料の会員に登録すると、続きをお読みいただけます。
残り6,611文字

・インサイトを刺激する、みる兄さんの提案
・ギフト、福利厚生…メンズ領域への構想
・みる兄さんの取材後記|「やらない」選択がブランドを磨く――エアークローゼットが実践するブランドロイヤルティの高め方

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
執筆記事一覧
週2メルマガ

最新情報がメールで届く

登録

登録