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3月1日開業!「人生、全とっかえ。」を謳うイマーシブ・フォート東京の全貌と刀が込める思い

最終更新日:2024.01.31

マーケター・戦略家として知られる森岡毅さん率いる刀が、新しいテーマパーク「イマーシブ・フォート東京」を東京・お台場で2024年3月1日(金)に開業します。西武園ゆうえんちやハウステンボスなどを支援してきた同社が企画から運営まで行う初めてのテーマパークであることと、「人生、全とっかえ。」のコピーのインパクトもあり、開業前からSNSを中心に話題です。

イマーシブとはそもそも「没入」を意味する英語。イマーシブ体験(完全没入体験)ができるエンターテインメントの代表例は、観客が物語の当事者として演出に巻き込まれるタイプの「イマーシブシアター」です。そのイマーシブ体験に特化したアトラクションを、イマーシブ・フォート東京は12種類も用意しているとのこと。人生が全とっかえされるような、そんな強烈なイマーシブ体験とは、一体どのような体験なのでしょうか。

今回は、イマーシブ・フォート東京のプレジデントを務める株式会社刀 シニアパートナー マーケティングの田村考さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集長・佐藤 綾美、撮影:永山 昌克)

目次

演者と観客の垣根を越え、当事者として楽しめるイマーシブ体験

――イマーシブ・フォート東京とはどのようなテーマパークか、あらためてご説明をお願いいたします。

イマーシブ・フォート東京は、イマーシブ体験ができるエンターテインメント(イマーシブエンターテインメント)だけで構成された世界初(※)のテーマパークです。パーク内にある12種類のアトラクションでは、それぞれの世界の登場人物になりきり、感情を揺さぶられるような体験ができます。子どもから大人まで幅広い世代の方々に1日中楽しんでいただけるテーマパークを目指し、3月1日の開業に向けて準備を進めているところです。

※イマーシブシアターを中心とする、複数のイマーシブ体験のみで構成されるテーマパークとして世界初(2023年9月 刀調べ)。

株式会社刀 シニアパートナー マーケティング 田村考さん

――これまでのイマーシブ体験とは何が異なるのでしょうか。

我々刀はイマーシブ・フォート東京を作るにあたって「突き抜けた当事者性」「百人百様の個別体験」「Live Intensity(ライブ感の圧倒的な強さ)」の3つに注力しており、その徹底的なこだわりがおそらくこれまでのイマーシブ体験との大きな差分になるだろうと考えています。

1つめの「突き抜けた当事者性」は、イマーシブ体験の特徴でもある「当事者性」を高いレベルで実現すること。お客さまが体験の当事者であることを自然に感じられるよう、世界観やストーリー展開、演出などを作り込んでいます。

2つめの「百人百様の個別体験」は、参加者それぞれが異なる個別体験を楽しめるようにしていること。例えば、一緒にアトラクションに参加しても、ある人は衝撃の瞬間を目撃し、ある人は毒殺の容疑者になるなど、1人として同じ体験はしません。また、ストーリー展開が多数あるので、同じアトラクションでも訪れるたびに異なる体験をできるのが特徴です。

3つめの「Live Intensity」は、ライブ(生)だからこその力強い体験を作り上げること。それがお客さまの感情を強烈に揺さぶり、没入感を与えることにもつながると考えています。

そして、このような強い感情を生み出せる特徴を持ち、ライブでイマーシブな体験を、玄人向けのコンテンツの枠に閉じてしまうのではなく、一気に多くの方に楽しんでいただけるメジャーなエンターテインメントとして裾野を広げられる規模とバリエーションでお迎えしたいと考えています。

イマーシブシアター「ザ・シャーロック THE SHERLOCK -ベイカー街連続殺人事件-」のイメージ(画像提供:イマーシブ・フォート東京)画像提供:イマーシブ・フォート東京

――田村さんご自身は、イマーシブ体験のどのような点に魅力を感じていますか。

仕事柄もあり、テーマパークなどのエンターテインメントは好きでよく体験していますが、イマーシブシアターをはじめとするイマーシブ体験は、演者と観客の垣根を越えて自分も演者側に取り込まれていくような感覚があり、終わった後も余韻が長く続くのが魅力です。体験していると、次第に「自分は今このアトラクションを楽しんでいる」と俯瞰する余裕がなくなり、目の前で繰り広げられるストーリーの当事者としての感情で満たされていきます。そうしたイマーシブ体験の可能性をお客さまにも伝えたいです。

テーマパークの構想は刀の立ち上げ当初から

――イマーシブ・フォート東京の構想はいつ頃からありましたか。

刀を立ち上げた2017年頃から、「イマーシブ体験の魅力を世の中に伝えたい」というアイデアがありました。そのため社内では、「どこで、どれくらいの規模ならできるか」「作るには何が必要か」などの話し合いや思考実験が繰り返し行われました。使われなくなった建物の再活用に関するご提案を外部の方からいくつかいただいた中に、2022年3月に閉館した東京・お台場のヴィーナスフォートの話があり、具体的な検討が進んだ結果、イマーシブ・フォート東京の実現に至ったのです。

「ヴィーナスフォート」時代の館内の様子(画像提供:イマーシブ・フォート東京)1999年に開業し、2022年3月に閉館した「ヴィーナスフォート」の様子(画像提供:イマーシブ・フォート東京)

――立ち上げ当初から構想があったのですね。自社で企画から運営まで行うことも注目されていますが、その点についてはどうお考えでしょうか。

刀が持つ知見やノウハウをマーケティングとエンターテインメントの領域で活用し、日本を元気にすることが会社全体の大きな目標であり、エンターテインメント領域以外での企業のマーケティング支援、既存のテーマパークの支援、自社での企画・運営、いずれも日本を元気にするための手段に変わりはありません。偶然にも良い条件やタイミングが重なり、今回は自分たちで企画・運営できることになりました。

イマーシブ体験を日本が誇るカルチャーの1つにすることができれば、日本の皆さまにエンターテインメントを届けられるだけでなく、海外の方々が日本に興味を持ち、来日するきっかけにもなると思います。また、今回の事業をフレームワークとして成立させ、どこでも展開できるようにすれば、我々が海外のエンターテインメントビジネスに技術やノウハウをライセンス化する可能性もあり得るでしょう。

――自社で企画し、運営していくうえで、難しさはありますか。

刀はマーケティングのエキスパートから、エンターテインメントの制作や運営、ひいては建築、飲食物販の企画開発まで、一貫して専門性の高いメンバーがそろっています。そのため実現が難しいと感じることはあまりないのですが、イマーシブ体験という全く新しいエンターテインメントでアトラクションの種類を取りそろえ、1つの集客施設を運営するハードルはあります。ただ、それを作り上げるためのノウハウやリソースがすべて社内にそろっている点は良かったと思います。

株式会社刀 シニアパートナー マーケティング 田村考さん

来場者の感情を揺さぶる多種多様なアトラクション

――昨年(2023年)12月18日にアトラクションの詳細が発表されました。どのようなアトラクションがあるのか、教えてください。

代表的な形式であるイマーシブシアターに限らず、フィールド内を駆け回るメイズや謎解きしながら進むラリー、ショーを楽しみながら食事ができるレストランなど、さまざまなイマーシブ体験を用意しています。例えばメイズでは、突然何かに追われる状況に陥り、四の五の言わずに逃げなければいけなくなったり、パーク内を歩いていて、いきなり巻き込まれるタイプのアトラクションもあったりします。

「第五人格 イマーシブ・チェイス IdentityV Immersive Chase」は、非対称対戦型マルチプレイゲーム「Identity V 第五人格」の世界を再現したイマーシブ・アクションメイズ。参加者はミッションに挑み、チームで脱出を目指してメイズを駆け回る(画像提供:イマーシブ・フォート東京 ©Joker Studio 2023 NetEase Inc. All Rights Reserved)

ストリート・エンターテインメントの「スパイ・アクション!」(画像提供:イマーシブ・フォート東京)

――田村さんのおすすめは何でしょうか。

どれもお気に入りではありますが、私のおすすめはイマーシブシアター「江戸花魁奇譚」です。江戸時代の遊郭を舞台に物語が繰り広げられるシアター形式のアトラクションで、最上級に濃密な体験を追求し、これまでのイマーシブ体験の粋(すい)を集めました。ストーリーの詳細はお伝えできませんが、100パターン以上の物語があるので、お客さま自身の行動によってエンディングが変わることもあります。初めてイマーシブな体験をする方はもちろん、これまでイマーシブシアターを体験したことのある方も、必ず楽しんでいただけるでしょう。

画像提供:イマーシブ・フォート東京

――イマーシブ・フォート東京のクリエイティブ・ディレクターはユニバーサル・スタジオ・ジャパンや西武園ゆうえんちでイマーシブシアターを手掛けてきた方々が務めているとのことですが、過去のアトラクションとの共通点や違いはありますか。

2018年に当時メンバーが在籍していたユニバーサル・スタジオ・ジャパンでイマーシブシアター『ホテル・アルバート』を実現した頃から、「多くの皆さまに没入体験をお届けしたい」という思いで制作してきたので、その点は共通していると思います。

異なるのは、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンや西武園ゆうえんちにはそれぞれ長年積み上げてきたブランドがあり、お客さまに届けたい感情にもテーマがある点です。例えばユニバーサル・スタジオ・ジャパンは、わくわくやドキドキなどの「興奮」が届けたい感情のテーマであり、『ホテル・アルバート』シリーズも「興奮」が叶えられるアトラクションでした。

一方、イマーシブ・フォート東京は「イマーシブ体験」による「人生、全とっかえ。」をコンセプトとして、1人でも多くの方に興味を持っていただけるよう、お客さまには喜怒哀楽さまざまな感情を体験してほしいと考えています。そのため、ハラハラドキドキするようなホラーやサスペンス系のアトラクションだけでなく、ロマンティックなシチュエーションにうっとりするもの、ほのぼのとした雰囲気であたたかな気持ちになるものなど、多彩な種類を展開できるのが違いです。

――『【推しの子】』や『東京リベンジャーズ』とコラボレーションしたアトラクションがあることも驚きました。開業時のアトラクションとして、この2つの作品に注目した理由はありますか。

画像提供:イマーシブ・フォート東京 ©赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会

前提として、日本の漫画やアニメなどのコンテンツは独自の世界を作り上げており、イマーシブエンターテインメントと相性が良いコンテンツの1つであると考えています。善が悪を切る勧善懲悪のわかりやすい物語というより、多種多様なキャラクターによって作られる世界観や、キャラクターたちの複雑な感情の動きを楽しんでいるファンの方が多いと感じるからです。

そのうえで、日常生活で体験できないような世界観を描いている作品は、よりイマーシブエンターテインメントとの相性が良いと考えています。『【推しの子】』や『東京リベンジャーズ』はまさにそうした独自の世界観があり、お客さまを日常とは異なる体験へと連れ出すことができる作品です。

――では、日常生活で体験できないような世界観を持つコンテンツとのコラボレーションが、今後もあり得るということですね。

はい。今後もどんどん作りたいと思っています。

感動をシェアしてもらうための仕掛け

――イマーシブ・フォート東京のメインターゲットは、10代から30代のテーマパークが好きな人とのこと。イマーシブ体験を経験したことのある方のほうがまだ少ないと考えられますが、今後どのようにプロモーションしていく予定でしょうか。

まずは実際に訪れて体験し、良さを知っていただく必要があるので、どうすれば来ていただけるかを考えています。「テーマパーク」という形態を取ったのも、テーマパークが好きな方に興味を持っていただくためです。『【推しの子】』や『東京リベンジャーズ』などのアトラクションも用意しているので、そうした人気コンテンツをきっかけに興味を持ってくださる方もいると思います。

パークに来ていただければ、感情が強く揺さぶられるような体験を与えられる自信があります。

株式会社刀 シニアパートナー マーケティング 田村考さん

――ネタバレにつながるおそれから、ストーリー展開のあるアトラクションはSNSでシェアしづらいのではないかと感じます。そのあたりはどうでしょうか。

お客さまには体験した感想を自由にシェアしていただきたいと考えていますが、後から来るお客さまの体験価値を損なうことは避けたいので、「ここまではSNSで投稿してOK」などと明確に線引きをして制限をかけることになると思います。

ただ、アトラクションの根幹に触れる内容に制限をかけるぶん、そうでないところではお客さまがシェアしやすいよう、撮影スポットなどの仕掛けを取り入れる予定です。

パーク内には、アトラクションを体験し終わった後、その余韻を楽しんでいただくスペースも用意します。アトラクションの中には体験時間が1時間以上におよぶものがあり、そのぶん余韻も長く続くでしょうし、1回の体験でアトラクションの隅々まで把握するのは難しいので、一緒に行った人と「あなたのところはどうだった?」と確かめ合って盛り上がると思います。

――映画を観終わった後にカフェで感想を言い合うような感じですね。

まさにそうです。

アトラクションに没入する感覚を途切れさせないためにも、演目に集中していただける環境を作るようにしているので、おそらくネタバレをシェアする余裕もなくなるほどの体験ができると思います。

――最後に、イマーシブ・フォート東京の成功に向けて、意気込みを教えてください。

イマーシブエンターテインメントを確立させて一定の評価を得ることで、国内にとどまらず世界にも拠点を広げ、ビジネスを大きくしていきたいと考えています。そうすれば、結果的に日本のコンテンツ産業、またはエンターテインメント産業を豊かにすることにもつながるからです。

また私個人は、1人でも多くのお客さまがイマーシブ・フォート東京での体験を通じて、「楽しかった」「良かった」と笑顔で帰っていただけるようにしたいとの思いもあります。過去、私自身がユニバーサル・スタジオ・ジャパンで1つのシーズンイベントを担当した際、苦労して迎えたイベント初日の夕方に、満足した顔のお客さまが続々とパークから帰られていくのを見たときの感動が忘れられません。そのとき、仲間とともに作り上げたものを通してお客さまにご満足いただける仕事を続けたいと思ったので、こうしてイマーシブ・フォート東京に携われるのは、自分にとってまたとないチャンスです。

東京で成功させたら他の地域の方にも楽しんでいただきたいですし、日本だけでなく世界にも喜ぶ顔を増やしたいと思っています。そのためにも、まずはイマーシブ・フォート東京を成功させたいです。

――3月1日の開業が楽しみです。本日はありがとうございました。

株式会社刀 シニアパートナー マーケティング 田村考さん

Profile
田村 考(たむら・こう)
株式会社刀 シニアパートナー マーケティング。
広告会社にて多数の事業会社のマーケティングを担当。2010年にユニバーサル・スタジオ・ジャパンに参画し、ブランディング&コミュニケーション、プロダクト開発のマネージャーを歴任した後、デジタルマーケティングチームを率いてマス・PR・デジタルが三位一体となった認知形成および購買行動を変革させるコミュニケーションモデルを完成。ハリー・ポッターエリアのローンチ時には、デジタルを中心としたクロスマーケティングの指揮を担当した経験を持つ。2017年より刀に参画。イマーシブ・フォート東京のプレジデントを務める。

イマーシブ・フォート東京:https://immersivefort.com/

記事執筆者

佐藤綾美

株式会社CINC社員、Marketing Native 編集長。大学卒業後、出版社にて教養カルチャー誌などの雑誌編集者を経験し、2016年より株式会社CINCにジョイン。
X:@sleepy_as
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