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推測せずに、計測せよ。「マーケのホンネ」で語られたスタートアップ企業のマーケティングのリアルとは?

最終更新日:2022.02.10

マーケターがリアルを語る場として、月1回の頻度でイベントを開催している「マーケのホンネ」。毎回異なるテーマで登壇者を招き、マーケティングのリアルを語らう本イベントの第9回が7月17日(水)に東京の原宿subaCOで開催されました。

テーマは「少数精鋭で急成長するスタートアップのマーケティング」。コスメのクチコミアプリ「LIPS(リップス)」を運営する株式会社AppBrew Marketing Managerの中川亮さんと、Instagramマーケティング事業を行い、ライフスタイルメディア「Sucle(シュクレ)」を運営する株式会社FinT CEOの大槻祐依さんを登壇者に招き、ライトニングトークとパネルディスカッションが行われました。

「LIPS」や「Sucle」が短期間で成長できた理由は?スタートアップのマーケターが、限られた人数やコストで成果を上げるために、意識すべきこととは?イベントで語られた内容をお届けします。
(取材・文:Marketing Native編集長・佐藤綾美)

目次

推測せずに徹底的にデータを計測する

イベント前半は登壇者2人によるライトニングトークです。AppBrewの中川さんは、「LIPS」のマーケティング戦略の変遷を紹介しました。

中川 「LIPS」というコスメアプリのマーケティングを担当しています。2018年12月から2019年1月にかけて、タレントのローラさんを起用したCMを打ち出し、アプリのダウンロード数も伸びてきたので、ある程度は認知されていると思います。本日はそのマーケの裏側などの話をするつもりです。

コスメのクチコミが集まる「LIPS」は、累計ダウンロード数350万を超えるプロダクトです。90%以上のユーザーが29歳以下で、80%以上のユーザーが週4日以上もアプリを利用しています。バーティカルに作られたSNSで、頻度高く利用するユーザーが多く、コスメに関心の高い人が集うアプリになっています。

今回は「LIPS」のマーケの変遷をまとめてみました。

シード期

CGM(※1)、つまりクチコミ系のメディアは、投稿がないとユーザーが増えないし、ユーザーが増えないと投稿がたまらないといった「ニワトリとタマゴの問題」があります。まずは投稿を増やす視点に切り替えて、クラウドワークスでテストユーザーに依頼し、クチコミをためていくようにしました。そのおかげで主婦層のクチコミが集まったのですが、「若年層にも広まるのでは?」という思いがあったので、次に美希ぽん(かわにしみき)などのYouTuberとのタイアップを行いました。これによって、熱量が高く「LIPS」が刺さるはずのユーザーにリーチでき、アプリ内の投稿数が増えて、リテンションが改善したのがシード期です。

※1:Consumer Generated Mediaの略。ユーザー投稿によって形成されるメディアのことを指す。

シリーズA

アプリの起動率の改善とYouTuberマーケがある程度進み、ユーザーを拡大していく時期に、私は入社しました。新卒で入社したFreakOutで運用型広告のコンサルタントをやっていたので、その経験を活かし、広告でユーザー規模をスケールさせることにコミットしました。

まずは、InstagramやTwitter、Googleといった運用型広告の各チャネルにおける獲得効率の良さや獲得数の伸びしろの検証と、ユーザーの認知と関心を得られるような訴求の勝ちパターンを模索するところから始まりました。例えば、Twitter広告において、単に美容系のアカウントをフォローしている人にターゲティングするだけでは獲得数に限界がありますし、いずれは効率も悪化してしまいます。それだとユーザー規模の拡大に寄与しないので、どのようなターゲティングをすべきか、仮説検証を繰り返していきました。

▲左がリニューアル前のデザイン。右がリニューアル後のデザイン。

もう一つ、デザインのリニューアルも行いました。もともとは左のポップでかわいい、10代にウケそうなデザインでした。しかし、「LIPS」はクチコミのプラットフォームです。洗練された印象を与えつつ、より幅広い層に受け入れられるようにリニューアルしたのが、右のデザインです。タカヤ・オオタさんというCIデザイナーの方にお願いしました。

シリーズB

運用型広告を伸ばし、TVCMを実施して、ユーザー規模においてコスメアプリNo.1の地位を強固にする戦略を打ち出しました。to Cのアプリは年末など可処分時間が増える時期に打ち出すCMの効果が高いということもあり、2018年12月から2019年1月にCMを打ちました。

そのほかにチームが注力していることとしては、データの可視化が上げられます。SQL(※2)を叩いてデータに基づいて広告運用を行っていました。アプリには使われる時間帯や曜日があるので、そのデータを活かして広告を運用すると、やっていない人と比べて差を付けられます。

AppBrew社は「推測せずに計測する」ということを大切にしています。広告運用以外の話でいうと、「LIPS」のInstagramはフォロワーが33万7千人いるので(2019年7月時点)、「広告運用にうまく活かせないか?」というところから、「そもそもInstagramで『いいね』が伸びない訴求は、当たらないのではないか?」という仮説を試したところ、これが結構当たったんです。Instagramの投稿で当たった訴求を広告クリエイティブにしたほか、「こういうのが当たるのでは?」という訴求をInstagramで投稿してみて、伸びたら当たる、というのがわかりました。普通のマーケターや広告代理店は両方回してみて、「いいほうを残しましょう」となると思いますが、予算や時間を消費せずに自社内のデータを用いて、当たり訴求にたどり着けるような仕組みを築けたのは組織としてもインパクトが大きい施策だったと思います。

画像出典:@lipsjp

例えばInstagramでの検証をもとに、デザイン経験数カ月の男子大学生が広告クリエイティブを作成しましたが、それでも当たっていて、CM期間中はCPI(Cost Per Install)=100円、200円といった数値が出ていました。

※2:データベース言語の一つで、リレーショナル型データベースを操作するのに使用する。

マーケターのキャリアとして大事なスキルやマインド

「課題解決につながる、もしくは創造的であるためのスキルやマインドを磨いたほうがいい」というのが私の意見です。前職のFreakOutの経営理念に「人に人らしい仕事を。」とあったのですが、人らしくない仕事は機械にリプレイスされるという話があり、マーケターの仕事の一部もリプレイスされる対象の一つだと思っています。私が自分の強みと思っていた広告運用や分析も簡単に置き換えられているんです。だから、例えば「Instagramの投稿を活用して広告の訴求軸を探す」ような、創造的なところに時間を割くといったマインドが大事ではないかと考えています。

また、マーケターのキャリアとしてスタートアップを推していきたいです。「どうやってスタートアップを選べばいいか?」という疑問も挙がりますが、得意な点を活かせるか、自分が伸ばしたいスキルを定義できる場所がいいと思います。自分自身の1年を捨てられる覚悟ができる環境であることも大事です。どれほどしんどくても、その分、何かが得られる環境があるなら、皆さんに「この地獄に突き進む」という覚悟ができるタイミングがあれば、スタートアップで一緒に盛り上げていきたいと思っています。

Instagramアカウントの伸ばし方

続いてFinT CEOの大槻さんによるライトニングトークです。最近のInstagramの動向や、FinTのクライアントの事例、大槻さんが注目しているアカウントが紹介されました。

大槻 2017年3月に起業し、その年の12月に女性向けメディア「Sucle」を始めました。それから1年くらいでSucleが伸びて、ほかの企業からもInstagramの運用を任されるようになり、2019年3月からInstagramマーケティング事業に本格的に参入しました。

会社自体は「自信を持つ人を増やしたい」というのをコンセプトにしていて、「Sucle」は「今日のわたし、愛しいわたし」がコンセプトです。「Sucle」のInstagramアカウントのフォロワーは14万人います(2019年7月時点)。ハッシュタグ「#sucle」を広めようとしていて、アカウント運用当初は5件くらいだったのが、今では13.6万件くらい集まり、たくさんの人に投稿してもらえるメディアに成長しています。姉妹アカウント(※3)も含めると、総フォロワーの数が35万人を超えました。

画像出典:@sucle_
※3:@sucle_のほかに、@sucle_pink @sucle_lifestyle @sucle_gourmet の3つを運用している。

投稿のみでアカウントを育てるこだわり

FinTのInstagram運用代行実績

Choole:約半年の運用で1万フォロワーを達成
てづくりおべんと365:約半年の運用で4万フォロワーを達成
わたしの節約:約2カ月で10万フォロワー、半年で30万フォロワーを達成

上記事例のように成果を上げているので、再現性のある施策を提供できていると思います。ツールや広告を使わずに、ただ投稿のみで運用している点がこだわりです。フォロワーを買うことも行っていません。投稿によってユーザーから愛されるアカウントに育てるというところにこだわっています。

情報収集ツールに変化するInstagram

最近のInstagramは、インスタ映えから情報収集ツールに変化しています。

初期のInstagramは、典型的なかわいい、おしゃれな写真が多かったのですが、利用者に写真家が多く、コスメ系もきれいな写真を載せてフォロワー数を伸ばしているアカウントが多く見られました。

それが今は、ユーザーが有益な情報を得る情報検索・収集ツールに変化していると思います。「LIPS」も文字ありのコンテンツが多いと思うのですが、ユーザーが画像から有益な情報を得ようとしている結果かなと考えています。先ほど紹介した「わたしの節約」も文字コンテンツがメインで、アップされている画像からユーザーは情報を得ています。世界観があるというよりも、有益なものがメインになってきているのかなと思います。

画像出典:watashino_setsuyaku

メディア化して成功した「COLORIA」の例

Instagram運用当初は香水の写真を中心とした投稿で、フォロワーが1700人くらいしかいませんでした。そこで、香水メディアを提案し、運用を始めたところ、今では5万7000人くらいのフォロワーがいます (2019年7月時点)。

▲香水の写真中心の投稿から…

▲香水メディアのアカウントを開設。フォロワーは5万7000人まで増えている。

画像出典:@coloria_official @coloria_magazine

なぜメディアにしたほうがフォロワー数が伸びるかと言うと、そのアカウントを「毎日見る」となったときに、「フォローする理由がある」からです。多様な角度から撮影したきれいな写真よりも、ランキング情報などのように、毎日見ていても面白いコンテンツであることが重要かなと思っています。

またInstagramは、ストーリーやDMの活用で、情報を与えるだけのSNSから、ユーザーと双方向のコミュニケーションを取れるように変化しています。初めは発信することがメインだったのが、Instagramがストーリーという最強の機能を作ったおかげでユーザーからの声を聞けるようになっていて、質問コーナーなどを展開しているメディアが多く見られます。

「Sucle」では、Instagramのストーリーでユーザーに「作ってほしい商品はありますか?」と聞いて、1位だったポーチを作りました。今使っているポーチの不便なところや欲しい機能を聞いたり、インスタライブをしながらリボンの長さや袋の大きさを決めたりしたので、多くのユーザーが買ってくれました。そうしたことができるのも、Instagramの良いところだと思います。

メディア系アカウントは記事への流入も期待

メディアの場合は、ブランディングとして使うところが多いです。フォロワー数が1万人を超えると、ストーリーにURLを記載できるようになり(※4)、記事リンクに飛ばせるので、メディアのPVも上がります。「Sucle」もやっていて、SEOよりもInstagramから流入するユーザーのほうが、会員登録が多く、回遊率も高いです。

ブランドで有名なアカウントとしては「17kg(イチナナキログラム)」が挙げられますが、1日6投稿くらいしていて、カタログのように見られるのが良いのかもしれません。

商品数が多いものや、季節性があるものは写真だけの投稿と相性が良いですが、コスメなどのように商品数が少ない場合は、メディア化がおすすめです。

※4:ストーリーに「swipe up」「もっと見る」などが表示され、ユーザーがスワイプアップすると、設定されたリンク先に飛ぶ。

大槻さんおすすめのアカウント

247ダイエッター編集部

全国61店舗を展開するパーソナルジム。文字中心の情報を発信していて、フォロワーが32万3000人います。集客も成功しているそうです。

わたしの節約

主婦向けのアカウントはよく伸びると感じています。自社コンテンツも混ぜながら、アフィリエイトでさまざまなコンテンツを売っていて、ユーザーに有益な情報を提供できているのだと思います。

madree(マドリー)

間取りだけをアップしているアカウントで、コメントが参考になります。

ヤング日経(β版)

日本経済新聞社が毎日のニュースのポイントをまとめていて、1日5投稿くらいしています。日本経済新聞社自体も画像中心の投稿をしていますが、こうしたまとめ方のほうが今後伸びるのではないかと見ています。

Woman.CHINTAI

都市ごとにイラストで紹介していて、ユーザーに「この街に住みたいな」という気持ちを起こさせるようになっています。

17kg(イチナナキログラム)

投稿しているアイテム1個ずつのKPIを売り上げにしていて、売れたものについては再現性を持たせて掲載しています。アクセサリーや雑貨など、ファッション性のあるものは参考になるのではないでしょうか。

cohina.official

身長155㎝以下の女性向けの洋服を販売しているブランドで、身長の低い人が試着するとどうなるか、毎日ライブ配信で伝えています。試着している様子を体験できる場としてライブ配信を活用しているところや、毎日見ている人たちによってコミュニティができているのがいいなと思います。

少数精鋭で行うマーケティング戦略を成功させるには?

イベントの後半は、事前に寄せられていた質問をもとに、パネルディスカッションが行われました。ここでは、その中でもいくつかのテーマをピックアップしてご紹介します。

KGI/KPIはどのように設定している?

中川 マーケティング戦略で言うと、てっぺんにあるのがDAUやMAUで、そこに紐づく形で追っていく数値が、ダウンロード数、7 day retention rate(7日後の起動率)です。retention rateは7日後、14日後、1カ月後とありますが、よく引き合いに出されるのは7日後の起動率です。あとは1人あたりのユーザー獲得単価CPI。これらを割り戻したりして、7日後起動単価なども見ます。 広告予算的にいくらいるかによってCPIを出すほか、1ユーザーあたりの売り上げ(ARPU:Average Revenue Per User)を出して、LTVに見合うように広告を打つ必要があるからです。

堀田 ちなみに、「LIPS」のマネタイズのポイントはどこにあるのでしょうか?

中川 ユーザーからはお金を取らずに、広告主からの収益で成り立っています。

堀田 「Sucle」はどうですか?

大槻 会社はInstagram運用代行事業がメインのため、案件獲得数と解約率を見ています。「Sucle」に関してはフォロワー数を重視しているほか、投稿ごとのリーチ数、アイテム販売時は売り上げもチェックします。運用代行しているアカウントのKPIは企業によってさまざまで、売り上げやクリック率、リーチ数、メディアへの流入数などです。

堀田 クライアントからの依頼は、KPIを一緒に作っていく案件と、すでに決まっている案件、どちらが多いんですか?

大槻 KPIが決まっているクライアントが多いです。認知なのか、売り上げに直接つなげるのか、そのどちらかですね。

堀田 売り上げに直結させるのって難しくないですか?

大槻 確かに難しいですが、ファッションブランドなどは売り上げに影響します。「17kg」も月商で数億円を売り上げている中でInstagramがメインなので、ファッションブランドにとってInstagramは良いチャネルではないかと思います。

1個の商材の場合は、指名検索を増やしてから購買につなげることをやっています。Instagramの投稿を1回見るだけでは購入に至らないので、面(投稿)を増やします。ユーザーは何回も見ることによって、思い出して検索したり、Amazonに飛んだりします。

私たちはGoogleやAmazonを指名検索のプラットフォームとして見ていて、Instagramは衝動買いをする場や情報収集ツールとしてあるのではないかと考えています。Instagramは検索をさせていないし、新しいものに会うためのツールとして成り立っていると思います。Googleは「シャバシャバなカレー」のようなふわっとした言葉も検索できますが、Instagramはスペースをあけて検索したり、ふわっとした言葉で検索したりできません。ユーザーがサーチタブで費やす時間を増やして、新しい情報と出会うようにしていると思います。

マーケチームの体制や構成は?

中川 2人でやっています。現状は、私が全体KPIのマネジメントとデータ分析でやっていて、もう1人の女性が運用型広告を運用しながらクリエイティブ部門も担保しています。インハウスだけでなく広告代理店の方ともマーケティングで連携しており、それぞれ役割を明確に分けながら進めています。

クリエイティブ制作はインターン生のデザイナーが3人います。動画1人、静止画2人です。マーケティング戦略で使うバナーのデザイナーは、数値を見ながらクリエイティブを作ることに興味持ってくれる人を採用しています。

少数精鋭で成果を出すチーム作りするために心がけていることは?

中川 2つあります。1つは情報共有のプロトコルを合わせることで、もう1つは「推測せずに計測する」です。

情報共有のプロトコルを合わせるというのは、スタートアップだからこそ、やるべきところを徹底しています。例えば対面でのコミュニケーションのほうが楽に思えますが、2人で非同期的に自律分散で進める場合は、情報共有の設計が重要で「この情報ってここにあって然るべきだよね」というところをすり合わせながら行うのを大切にしています。ミーティングを実施する際もブレストや時間管理をどうするか、意思決定は誰がどのタイミングでやるかといったことは、事前にすり合わせています。

もう1つは数字ベースで話そう、ということです。仮説に仮説を重ねて話すのはやめました。ログを叩こう、という感じです。弊社プロダクトはWebもアプリもアクセスログを取っているので、ログを取得している範囲なら、データを見られるようにしています。確度の低い仮説を重ねると事故が起きるので、気をつけましょう。

大槻 数字で語ることはやっていますが、アプリほど難しくはないです。(アプリに比べて)見られる数字が少ないので、シンプルです。インターン生と仮説を立てて、効果測定しています。

一人ひとりのKPIをシンプルにしていて、一人につき一つの目標を持つようにしています。「この数字を伸ばそう→そのために何をするのか」だと思うので、逆算していって数値を決めています。逆算で数値を決めていく考え方は、Candleで身に付けたものです。私たちはまだ組織として大きくないので、全員がKPIを立てて、その目標に向かって行動できる体制にすることが大切だと考えています。

限られた予算の中で成果を出すために工夫していることは?

堀田 Instagramのアカウント立ち上げ時期に工夫していたことはありますか?

大槻 ユーザーの求めていることを考え、競合調査をします。0から始めるときは投稿数を増やしていって、伸びる投稿をつかんでいきます。Instagramは伸びると、サーチタブに出たり、ハッシュタグで上位表示されたりして、世の中のユーザーに見られます。だから、上位表示されるにはどうすればいいか、アルゴリズムを研究しています。InstagramもおそらくSEOと一緒で、ユーザーが何を求めているのかを理解することで上位表示されます。それが、いいねや保存、コメントの数によって表れるんです。上位表示されているかどうかは、ハッシュタグで検索してチェックするか、インプレッション数で判断します。

堀田 中川さんは、予算が限られている中で、成果を出すために工夫していることはありますか?

中川 抽象的な話で言うと、解くべき課題の設定かなと思っています。「何を課題として設定するか」と、「その課題を解決すると、インパクトが大きいのか?」という、インパクトの大小です。

優先度の高い課題に対して、どれだけ選択と集中をして解決できるかだと私は思っています。「これだけを検証する」と決めたら、ほかは手を出さない。そのためにもSQLを叩けるとか、GAで数値を見るといったことは大事にするべきだと思っています。

堀田 業務レベルで言うと、具体的にどのような例がありますか?

中川 TVCMを打つときは、運用型広告の獲得も伸びるので、CMを打つまでに勝ちクリエイティブを見つける必要があったのですが、それができていませんでした。そのときは、いかに短期間で勝ちクリエイティブを見つけられるかが重要でした。

今だから言える失敗談

中川 数字を見ないことによる失敗は経験があります。一方で、「数字を見たら正義」というわけではなく、本質としては、ユーザーと向き合えていないことがよくあるんです。

「LIPS」は、コスメだけでなく雑談の投稿も多く見られます。「雑談タグ以外にもいろいろなタグを用意して、グノシーやスマニューみたいにユーザーが選べるようにしたら良いのでは?」と提案したんです。でも、それって情報を選り好みする負担をユーザーに強いることになりますよね。我ながら、良くない施策だなと思います。そもそも施策の優先度付けをするステップを踏まなかったので、工数という数字を見ていなければ、ユーザーの改善要望も考慮していませんでした。

大槻 Instagramで雰囲気アカウントを運用していて、フォロワーが全然増えないことがありました。かわいい女の子に、かわいいアカウントを運用してもらって、私はとてもいいと思ったのですが、フォロワーを1万人にするまですごく時間がかかったんです。数字が伸びなかったですし、データドリブンでやっていなかったので、きちんと数字を見て、Instagramを研究して運用したら伸びました。

あとは、事業を立ち上げるのが好きで、色々と試してしまうのですが、失敗したこともあります。だから、事業を立ち上げたり、大きな施策を打ち出したりするときは、徹底的に情報収集します。

今後、マーケティングにおいてチャレンジしたいこと

大槻 動画やショッピング機能、IGTVなどはInstagramが注力して伸ばそうとしているので、私たちも早く参入したいです。ほかのSNSも「Sucle」や自分自身で試してみているので、やっていきたいと思っています。Instagram以外で特に注意して見ているのは、TikTokやPinterest、YouTube、LINE@などです。

中川 新しい情報を収集し続けることと、課題設定にこだわることを引き続きやっていきたいと思います。TikTokやPinterestを試すといったことも「情報収集」という意味ではやるべきだと思いますが、試すことがゴールではなく、結局は「どこに課題を設定するか」なので、盲目的に新しいものに飛びつかず、引き続き粛々と取り組むことが私のチャレンジかもしれません。

【取材後期】

マーケティングの現場で活躍するマーケターがホンネで語るイベント、「マーケのホンネ」。この回の定員は45名でしたが、あっという間に申し込みが満席になったそうです。スタートアップ企業に勤める人や個人事業主の人などが集まり、イベント終了後は参加者同士で交流を深めていました。

取材したイベント全体を通じ、大切なポイントとして語られていたのは「数値データをきちんと見て、確度の低い仮説を重ねないこと」です。LIPSが広告クリエイティブの当たり訴求をInstagramの投稿から見いだしたように、限られたコストで成果を上げるには、計測したデータに基づく仮説が重要と言えるでしょう。

また、大槻さんによる最近のInstagramの変化やおすすめアカウントに関するトークも、筆者にとっては大変学びがあるものでした。FinTは多数のアカウントで実績を上げていますが、運用には限られた人数で携わっているとのこと。大槻さんが「事業部長やマーケティング担当者を募集しています!」と話されていたのも、急成長を遂げるスタートアップ企業らしい悩みだと感じました。

【登壇者プロフィール】

※写真左から
大槻祐依(おおつき・ゆい)@yui_ohtk
株式会社FinT CEO。2019年3月、早稲田大学文化構想学部卒業。EastVenturesでインターン、株式会社Candleで動画メディアMimiTVのPMを務め、大学在学中の2017年3月に株式会社FinTを創業し、同年12月に女性向けメディア「Sucle(シュクレ)」を立ち上げ。2019年3月より、Instagramマーケティング事業に本格参入。

中川亮(なかがわ・りょう)@ryo117n
株式会社AppBrew Marketing Manager。京都大学法学部を卒業後、2017年に株式会社フリークアウトに新卒入社。運用型広告のコンサルタントとして大手広告主・専業広告代理店を担当。2018年1月より株式会社AppBrewに参画し、「LIPS」のマーケティングとエンジニアリングを担当。データ分析体制の構築、CM制作など幅広く施策を推進。

モデレーター:堀田遼人(ほった・りょうと)@ryo10hottie
株式会社スペースマーケット マーケティング担当。一橋大学商学部卒業。新卒で株式会社リクルートホールディングスに入社し、不動産ポータルの企画・開発に従事。その後、株式会社スペースマーケットに参画し、マーケティング業務を全般的に担当

記事執筆者

佐藤綾美

株式会社CINC社員、Marketing Native 編集長。大学卒業後、出版社にて教養カルチャー誌などの雑誌編集者を経験し、2016年より株式会社CINCにジョイン。
X:@sleepy_as
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