「Books&Apps(ブックスアンドアップス)」をご存じでしょうか。月間200万PV超を誇る、仕事や知識社会での生き方をテーマにしたWebメディアです。
その「Books&Apps」を運営するのが、ティネクト株式会社 代表取締役 安達裕哉さんです。このほど、安達さんの最新刊『頭のいい人が話す前に考えていること』が、発売から4カ月を経たずに25万部を超えるベストセラーになっています。話し方のノウハウではなく話す前に考えることに焦点を当て、思考の質を高める法則を紹介しており、安達さんが「読み返さなくていい本を目指した」と書いているだけあって「わかりやすい」と評判です。
それにしても、本がなかなか売れないと言われるこの時代に、25万部とは驚異的な数字です。売れ行きの秘密や制作の裏側、コミュニケーションに苦手意識を持つ人へのアドバイスについて、ティネクト株式会社 代表取締役 安達裕哉さんに聞きました。
(取材・文:Marketing Native編集長・佐藤 綾美、撮影:矢島 宏樹)
目次
原稿の一部を切り出し、PDCAを回しながら執筆
――著書『頭のいい人が話す前に考えていること』については、安達さんのX(Twitter)の投稿で「コロナ前から企画がスタートし、1年以上にわたって少しずつ書き溜めたもの」と拝見しました。初めに、書籍執筆のきっかけから教えてください。
そもそもの執筆のきっかけは、友人でコピーライターの梅田悟司さんに「安達さんの文章は、淡路さんと組ませたらいい本ができるよ」とダイヤモンド社の編集者・淡路勇介さん(当時は別の出版社に在籍)を紹介されたことです。
コロナ禍になる前から書籍の企画が始まり、当初は全く異なる内容で検討していました。「会社で起こる理不尽なエピソードを集めて本にしよう」「マネジメント系の本にしよう」など、さまざまな案が出ていましたが、淡路さんも私もピンと来ていなかったので、一度企画を寝かせて再検討することにしたのです。
その後、2022年6月に「今までの話を総合すると、安達さんが言いたかったことはこうですよね」と淡路さんから出てきたのが、『頭のいい人が話す前に考えていること』の企画書でした。
――タイトルがすでに決まっていたのですか。
そうですね。タイトルも企画書の中身も私の言いたいことそのままだと感じました。ただ、「売れる書籍のタイトル」が私にはわからないので、このタイトルで本当に売れるのか、正直言って全然ピンと来ていませんでした(笑)
話し方ではなく、話す内容について問題視したのがこの本の出発点です。
「こう話せばうまくいく」「短く話しましょう」など、話し方に関する本は世の中にたくさんありますが、私と淡路さんの中では「話し方が本当に重要なのか」が論点になりました。頭がよく見える話し方を鍛えると、賢いふりはできますが、本当に賢いかどうかは不確かです。自身の仕事上の経験を踏まえても、「話し方より、話す前に考えることのほうが実は重要なのでは」という考えがありました。
――ターゲットとして想定したのは、ビジネスパーソンでしょうか。
話し方に関する本を購入したけれど、話す中身について悩んでいる人たちがターゲットです。
『伝え方が9割』シリーズや『人は話し方が9割』『雑談力が上がる話し方』など、話し方に関する本には50万部、100万部を超えるベストセラーがあり、「上手に話したい」と考えている人が相当数いることはわかっていました。今回の書籍は、話す手前にある「考え方」を提供でき、話し方の本とマーケットは同じなので、一定の需要があるだろうと考えたのです。
しかも、何を話すかに関する考え方の類書はほとんどありません。思考術の本はありますが、内容が小難しく一般向けではなかったり、ロジカルシンキングに焦点が当たっていたりするので、もっとカジュアルに役立つ本が必要だと思いました。
――結果、発売から4カ月を経たずに25万部を突破したとのことですが、ここまで売れたのはなぜだと思いますか。
読者の方の反応を見ていると、「話すたびに頭がよくなるシート」を付録で付けたのが、仕掛けとしてよかったようです。本を何度も読み返さなくても、シートを見れば思考法のポイントを復習できるように作っています。
内容については、「Books&Apps」を活用して細かくPDCAを回したのが、よく機能しました。書籍の内容が読者にウケるか否かは出版しないとわからないものですが、私には「Books&Apps」というメディアがあります。そこで、「いったん書いて、メディアに記事を出してみます。ウケがよかったら本に載せましょう」と編集の淡路さんに提案し、書籍に載せたい内容と類似する記事を「Books&Apps」に投稿して反響を確認しました。そこでバズった記事をさらに深掘りしたり、事例を変えたりして、本に載せる内容をより優れたものにしていきました。
つまり、発売前に原稿の一部を切り出しながら、マーケターの方が行うA/Bテストのようにテストして作った本と言えます。
――安達さんならではの提案ですね。
実験する場所があれば、誰でもできると思います。
この1年くらい私が「Books&Apps」で書いた記事の中には書籍の元ネタがいくつかあるので、探していただくと、当初の考え方や書籍で変化している部分などがわかって面白いかもしれません。
コミュニケーション能力を構築した「ルール」と「教育」
――安達さんご自身もかつてはコミュニケーション能力がそれほど高かったわけではないそうですが、書籍に書かれているような思考法や話し方をどのように身に付けたのでしょうか。
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