インタビュー
2021.09.07

記事更新は月500本!メディアグロースからのD2Cブランド成功で勢いに乗るビジネスアスリート企業TENTIALの強さとは――中西裕太郎代表インタビュー

CEO Interview #14

TENTIAL 代表取締役CEO

中西 裕太郎

自信に満ちた力強い言葉から感じられる並々ならぬ情熱とエネルギー。TENTIAL(テンシャル)代表取締役CEO中西裕太郎さんを取材して、はるか高みを目指すスタートアップの気持ちのいい野心と向上心を肌で感じることができました。

テンシャルはスポーツ・ウェルネスメディア「SPOSHIRU」と、インソールやマスク、スリープウエアなどのウェルネスD2Cブランドを事業展開する会社です。これまでもD2Cの世界では有名でしたが、コロナ禍でマスクがヒット商品になるなど事業拡大に伴ってクローズアップされる機会が増えてきました。なぜ今テンシャルが注目されているのでしょうか。今回はテンシャル代表取締役CEO中西裕太郎さんに話を聞きました。

(取材・構成:Marketing Native編集部・早川 巧、文:椎原 よしき、撮影:矢島 宏樹)

目次

アスリート経験者だから気づいたビジネスチャンス

――TENTIALの愛用者が私の周りにもいまして、プロダクトは良いし、会社も注目されていると聞き、興味を持ちました。まず起業のきっかけから教えてください。

私自身がサッカーでプロ選手を目指していた原体験があります。子供の頃からサッカーに夢中で、埼玉県の強豪高校に特待生として入学し、インターハイにも出場しました。しかし17歳で心臓の病気を患いサッカーを続けられなくなったため、代わりに夢中になれることを探していたところ、アメリカのオバマ大統領(当時)が若い世代に向けて「ゲームを買う代わりに、自分で作ってみよう」「プログラミングを学ぶことがアメリカの未来を作る」という趣旨の話をしているのを見て感動し、そこからプログラミングにのめり込みました。

その後、プログラミング学習サービスを手掛ける会社の創業メンバーとして参画したり、リクルートで事業開発をしたりしながら起業の準備を進め、2018年2月にテンシャルを創業しました。ビジネスというスポーツ以外の分野で自分を評価される経験がうれしかったのと、プログラミングの追求によって自分が他人の人生に良い影響を与えられるのであれば、その影響力の幅を広げたいと考えたことが起業の原動力になっています。

――健康・ウェルネス領域を選んだのは、アスリートとしての経験からですか。

アスリートの多くはトレーニングや健康に関する豊富な知識やノウハウを持っていても、その知見をWebで発信できる人はそれほど多くありません。私自身、アスリートが当たり前のように考え、実行していることも、スポーツ以外の世界ではあまり知られていないと感じていましたので、そうした情報をデジタルで発信すれば、アスリートと一般の人たちの間にある情報の非対称性を埋めることができるし、そこにビジネスチャンスがあると目をつけました。ただの思い込みと言われるかもしれませんが、自分たちにしかできない独自性だと信じています。そこで、アスリートと同レベルの知見を持ち、かつデジタルに強いビジネス集団を作ろうと考えたのです。

――とはいえ、健康・ウェルネス領域でデジタルを活用しながら事業を展開する企業も増えていますし、今後競争環境が厳しくなりそうです。

大切なのは顧客解像度だと思います。その点、お客さまのことを本質的に理解できている企業はまだ少ないと考えています。我々は自社のWebサイトやメディアなどを通して日々お客さまと接しながら大量のデータを集めて分析していますので、変化を続ける顧客ニーズをいち早くつかむスピード感や正確性において、どこにも負けない強みを持っていると思います。

月500本の記事でメディアグロース

――その自社メディア「SPOSHIRU」について伺います。「SPOSHIRU」は2018年のオープン以来ユーザーを増やし続け、現在は月間120万PV、80万UUと公表されています。メディア立ち上げからブランドを展開するというD2Cのお手本のような事例ですが、最初からターゲットユーザーを集客して、データを基に自社ブランドの販売・収益化を考えていたのでしょうか。

スポーツや健康など我々の勝てる領域でECを立ち上げたいと思っていましたので、ユーザーとの接点をデジタルできちんと確保するにはメディアが最適だと最初から考えていました。ローンチの半年後くらいには月間PVが60万、UUが40万から50万くらいになりましたので、順調に伸びたと捉えています。

――PV数を伸ばしたのはSEOですか。

安定的なPV数を確保できている要因は、ほぼSEOによるものです。我々は何事もその領域に一番詳しそうな人たちに徹底的に教えてもらうという方法を取ります。SEOも支援会社に相談して教わりながら、スタート当初はひたすら記事を作って月に400本から500本くらい公開していました。その結果、ナレッジがかなり蓄積されて、今はSEOに非常に強い会社になったと思います。

――月に400~500本…。やりきりましたね。中西さんはもちろん、社員の方も大変だったのではないですか。

そうですね(笑)。当時、ある有名メディアが月に1500本くらい記事を出しているとの噂を聞いて我々も目指そうと思ったのですが、マンパワーも違いますし、さすがに無理がありました。

社員が書くのではなく、外部のライターから上がってきた原稿を校正校閲するのですが、私も含めて社員は当時1人あたり月50本ほど担当記事を持っていました。当初はお願いできるライターの数も限られていて、社内でライターの争奪戦のようになったこともあります。ハードワークが続く日々もありましたが、やりきって残った人たちは今のコアメンバーになっています。

公開する記事本数は現在、月に150本から200本ほどに落ち着いています。

――スポーツの世界で頑張っていた人らしく、熱いですね。中西さんのTwitterを見ても、熱いメッセージが書かれているときがあります。そういう中西さんの情熱に惹かれて入社する人もいれば、興味はあるけど腰が引けてしまったり、離れていったりする人もいるのではないですか。

難しいところです。ただ、目指すビジョンは絶対にブレてはいけないという信念があります。我々は「スポーツと健康を循環させ、世界を代表するウェルネスカンパニーを創る」というビジョンを掲げています。だからその高みを一緒に目指していける大きな熱量を持った人に来ていただきたい。パワハラのようになるのはもちろん厳禁ですが、一方では「そんなに甘くないぞ」という思いもあります。バランスが重要ですね。

――「SPOSHIRU」が急成長する中、D2Cブランドの立ち上げはいつ頃から着手したのですか。

具体的に動きだしたのは「SPOSHIRU」をローンチしてから半年後の2018年8月です。そこから4カ月後の12月にはMakuakeのクラウドファンディングで、インソールのテスト版を出品しました。その後改良を加えながら、TENTIALブランドとして正式版をローンチしたのが2019年8月です。

――商品開発には「SPOSHIRU」のデータが大いに活用されたわけですね。

まさにそうです。最初にインソールから入ったのは、「SPOSHIRU」のトラフィック分析などを通して、足の課題へのニーズが高いことがわかったからです。最初は私の思い入れが強すぎて、「どうせ作るならスポーツブランドらしい商品を作りたい」「サプリメントやプロテインがいい」と模索していましたが、中長期的に勝つためにはどうすれば良いかを考えた結果、スポーツ系、健康系のブランドとして認知を獲得するには足まわりから入るのが良いと気づきました。ナイキやニューバランス、アシックスなど有名企業の多くは足まわりから入っているのです。

足まわりから入ることによって、その後ウエアを出したとしても機能性の高いウエアとしての認知を取りやすくなります。一方、ウエアから始めるとアパレル会社として見られやすくなる可能性がありますので、健康・ウェルネス領域のブランドとして確立させるためには足まわりから入ることが戦略的に重要だという結論になりました。

――足まわりの中でも、なぜ最初がインソールだったのでしょうか。

シューズはサイズを0.5センチ刻みにして、各サイズでまとまったロット数を作らなければならないので、当時の我々には高いハードルでした。また、顧客ニーズの分析を基に機能面を考えた結果、インソールが足の健康課題だけでなく、腰痛や肩こりのニーズにも対応できることがわかり、最初に作るプロダクトとして最適だと判断しました。

メディア運営からものづくりのD2Cへ

――それまでのメディア運営とは異なるものづくりビジネスに参入し、最初は生産管理や商品流通のノウハウも何もなかったと思います。何から手をつけたのですか。

SEOと同じで、詳しそうな人を見つけては教えを請うことをひたすら繰り返しました。インソールの会社に電話をして話を聞かせてほしいと頼んだり、展示会に行って名刺交換したり、ビザスクを活用して詳しそうな人に次々連絡したり、商社の人をつかまえて商流について教えてもらったりと、徹底的にやり込みました。そうするうちに知らない土地で地図ができていくように、業界の仕組みや構造が見えてきました。

――BMZさんというインソールの会社を提携相手として見つけ、2018年12月にはMakuakeでクラウドファンディングを実施したわけですが、手応えはどうでしたか。

友人、知人に声をかけ、ぎりぎり100万円を超えたくらいですね。手応えがあった感じはしなくて、正直「結構、厳しいな」と……。

――厳しかったのはなぜだと思いますか。

設定したターゲットへのコミュニケーション不足だったと思います。私たちはアスリートだけでなく、アスリートのように健康意識の高いビジネスパーソンやスタートアップの若手経営者ら「ビジネスアスリート」をターゲットとして定義して、そういう人たちからカッコいいと思ってもらえるブランドを目指していました。しかし、インソールは必要性が高い商品ではなく、ビジネスアスリートの多くも購入体験がほとんどありません。そういう人たちに買っていただくのは非常に難しいことでした。本来は腰痛や肩こりに悩んでいる人に訴求すればうまくいったのかもしれませんが、あくまでもターゲットはビジネスアスリートに設定していましたので、その人たちに向いている商品であることを理解してもらうためのコミュニケーションが足りていなかったと反省しています。

――その後、改良を重ねて正式版をローンチした結果、インソールは高い評価を受けて成功しました。何が良かったと思いますか。

機能性ですね。結局、品質が優れていなければ、アスリートやビジネスアスリートの方々と信頼関係を築くことはできなかったと思います。マーケティングも重要ですが、やはり一番はプロダクトの品質であり、その点で信頼を勝ち得たことは本当に良かったと感じます。なぜならこの信頼が数字には換算できない無形資産となり、これからスイミングウエアなど他のプロダクトをリリースしたときも「TENTIALだから、きっと高品質に違いない」と思っていただきやすくなったからです。

――TENTIALのインソールは競合商品と比べて、どんな点が優れているのでしょうか。

機能性と権威性、そしてクリエイティブの3点です。機能性については特許を取得しています。2点目の権威性とは、アスリートや医師だけでなく、経営者層やビジネスパーソンが推してくれていることです。健康・ウェルネス領域のプロダクトは、アスリートが推していても、経営者層やビジネスパーソンに支持を表明されているものは意外と多くありません。3点目のクリエイティブとは、カッコよさを意味します。インソールは古い業界で、パッケージも古い印象を受けるものが多かったこともあり、TENTIALのデザインは差別化要素になりました。

TENTIALのインソール。

経営に手応えを感じた瞬間と、苦しかった時期

――起業して「この会社でいける」と感じたのはいつ頃ですか。

ずっと自信はありますが、不安を感じるときももちろん何度かありました。「手応え」という点で言えば、メディアがグロースしたとき、インソールが売れ始めたとき、さらに昨年マスクが非常に売れたときもある程度感じることができました。

――話を伺っていると、メディアの記事作成や生産管理体制の構築などの点で大変なご苦労はあったものの、企業としては順調に来ている印象を受けます。

私はチャレンジこそしますが、確実性を求めるタイプで、負けそうなことには手を出しません。「勝つべくして勝つ」を常に意識しています。といっても、STP分析、3C分析、4P分析などの手法でマーケットや競合、顧客、自社の強みなどを緻密に突き詰めるという当たり前の思考を徹底的に行っているだけです。情熱を持って、負けない状況を組み立てられたと納得できるまで、とことんやりきることが大事です。

――マスクやスリープウエアのBAKUNEシリーズなど商品開発のアイデアはどんなふうに考えているのですか。

基本的には自社メディアから得られる情報を基に、大手ECモールなどの売れ筋商品を見ながら顧客ニーズがどこにあるかを考えます。現在は私だけでなく、事業部長クラスが商品開発のアイデア出しを行っています。作りたいプロダクトの候補はたくさんありますので、あとはどこから着手するかを考えているところです。

――コロナ禍でさまざまな種類のマスクが発売されましたが、全ての商品が売れたわけではないと思います。TENTIALのマスクはなぜヒットしたのでしょうか。

やはり機能性が評価されたのだと思います。加えて競合の多くは昨年、リアル店舗を中心に攻めていましたので、Webに販売チャネルを持ち、かつ自社でマスクを作れる会社があまり存在しなかったことも大きかったと考えています。我々はオンラインストアだけでなく生産ラインも持っていますので、機能的でカッコいいマスクを自分たちで作って売ることができます。その利点がありましたので、圧倒的に有利な状況が半年くらい続きました。

――これまでの経営で、うまくいかなかったことはないのでしょうか。

失敗談を聞かれるだろうと思って考えてみたのですが、嘘でも隠しているわけでもなく、お話しできることがなかなか思いつかなくて…。もちろん、大変なことや想定外のことはいくつかありました。しかし、それを「失敗」とは捉えていないですね。

――例えば、どんなことがありましたか。

インソールの販売を始めた最初の3カ月くらいは売り上げが伸びず、苦しい時期を経験しました。理由は広告がターゲットにリーチできていなかったからです。当時はWeb広告を自社で運用していました。知り合いのD2C企業の方に話を聞いても大体社内で運用しているとのことでしたので特に疑問を感じていなかったのですが、インソールという靴同様にWebで売るのが難しい商材の特性を理解できていませんでした。

そこで、Web広告が専門の支援会社に外注したところ、売り上げがどんどん伸びていきました。SEO記事の作成やD2Cビジネスを始めたときと同様に、専門家の知見を取り入れる重要性をあらためて感じます。

「SPOSHIRU」以外にメディアを立ち上げるとしたら?

――ちなみにですが、今後もし「SPOSHIRU」以外に新しくメディアを立ち上げるとしたらどんなメディアがいいですか。

目的とゴールの設定が大切で、メディア単体で短期的なマネタイズを目指すなら、競合も多いですが、人材紹介など単価も手数料も高いアフィリエイト系のサイトを作ると思います。私は以前、仮想通貨に関するメディアを作って、アフィリエイトで月数千万円稼いでいたことがあります。その後、ある程度まとまった資金を手にしたら、メディアを拡充したり新しいメディアを立ち上げたりして選択肢を広げていくのが良いと思います。

メディア運営には質の高い記事と拡散するためのチャネルが必要です。SEOやSNS、インフルエンサーの起用など記事を拡散したりPV数を上げたりする手段はいろいろありますが、ゴールがPV数を上げることだとしたら、今後はYouTubeでメディアを作って高い視聴回数を狙うかもしれません。

一方、「SPOSHIRU」のようにメディアからブランド化を目指すのは、KPIを合理的に設定するのが難しく、なかなか大変だと思います。

――最後に今後の事業展開や目標について、短期と中長期の両方で教えてください。

短期的には、既存事業のD2Cブランドをしっかりと伸ばしていくことが大前提です。それもこれまでの売り上げ推移からつながる連続的な成長ではなく、昨年マスクで一気に拡大したような、非連続的な成長をこれから何度も繰り返していくことを目指しています。我々が事業展開する健康・ウェルネスの領域は今や世界で約500兆円にも上ると言われる巨大マーケットです。ビジネスパーソンの健康意識も今後さらに高まるのは確実と見られ、我々には強い追い風が吹いています。だからまずはD2CブランドだけでIPOできるくらいに事業を育てていくつもりです。

さらに同時並行で新規事業を仕込んでいきます。具体的にはスポーツや健康・ウェルネス領域に関するマーケットプレイスのようなECモールです。よく「選択と集中」が大切でスタートアップは1つの事業に集中すべきと言われますが、私は両方やりますし、両方とも勝つべくして勝てると思っています。

――上場を目指しているのですね。

はい、視野に入れています。準備はいろいろと大変ですが、CFOも採用しましたし、最短3年で上場できるように進めています。

一方、中長期的な目標はグローバル展開です。「世界を代表するウェルネスカンパニー」になるためには、グローバルで戦えるだけの組織作りが重要です。

短期的には事業の非連続的な成長、中長期的にはグローバルに戦える組織作り。それをどれだけ再現性を持った型として構築できるか。これから我々が取り組む課題です。

――本日はありがとうございました。

Profile
中西 裕太郎(なかにし・ゆうたろう)
株式会社TENTIAL代表取締役CEO。
埼玉県出身。高校時代はサッカーでインターハイに出場。心疾患のためにプロを断念し、プログラミング学習サービス「WEBCAMP」を手掛けるインフラトップの創業メンバーとして参画。その後リクルートで新規サービスの事業開発を経て、2018年2月テンシャルを創業、代表取締役CEOに就任。

早川巧

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
Twitter:@hayakawaMN
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