連続起業家として知られる佐藤俊介さんが最近、「CEOセオ」という名前で活動しているのをご存じでしょうか。肩書は連続起業家兼アーティスト。これまでもアーティストとして著名人との多彩なコラボを展開してきましたが、トランスコスモスの退職を機に、これからはビジネスでも佐藤俊介ではなく「CEOセオ」という名前で活動していくそうです。
それにしても、なぜ名前を変える必要が?不思議に思って話を伺うと、「個の時代」の本格的な到来を見据えた興味深い考え方に大いに刺激されました。
今回は佐藤…いやCEOセオさんに話を聞きました。
(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)
目次
大企業に感じた強さと優しさ。従業員は「社畜」とは大違い
――取締役上席常務執行役員兼CMOを務めていたトランスコスモスを6月下旬に退社されたとのこと。何があったのですか。
トランスコスモスは社会に本当に必要な会社で業績も絶好調、オーナーの奥田(耕己)ファウンダー、奥田(昌孝)社長ともに私に対して全幅の信頼を置いてくださり、贅沢な話で何の不満もなくて…無い物ねだりですかね(笑)。私の持っている能力や適性を最大限に活かして、もっとサプライズを感じるイノベーションを起こすには、固定観念や忖度のない個人としての活動を強化し、やりたいこと全てに挑戦できる環境がベストであると考えました。今後はアーティスト活動だけでなくビジネス全般においても、「佐藤俊介」ではなく「CEOセオ」という名前で活動していこうと思っています。
トランスコスモスは本当に素晴らしい会社でした。在職中に学んだことはたくさんありますし、私自身も会社の対外的なイメージ向上や収益性の改善などさまざまな点で少しは貢献できたと思います。今も感謝の気持ちでいっぱいですね。
――例えばどんなことを学びましたか。
トランスコスモスに限らず、大企業は基本的に「仕組み」で商売をしており、多くの人員を抱えることができる環境、そして一従業員の能力に依存しない層の厚さが強みです。一方、スタートアップにはそんな強みはほとんどないですから、「できる人と仕事をする」という文化で、極端な話、仕事ができない人は切り捨て、できる人だけ残ってくれ、という発想になりがちです。私はずっとスタートアップの世界で生きてきましたので、あまりバリューを発揮できていない人でも、どこかに活躍できる居場所や役割があるはずだと考える大企業の強さと優しさを同時に感じました。
トランスコスモスはとても従業員に優しい会社です。実は私が入社したとき、経営陣に「もっと筋肉質な組織にして生産性を上げましょう」という話をしたのですが、「今の組織の在り方で売り上げを上げよう」と提案されました。
よく大企業のビジネスパーソンのことを「社畜」と揶揄する人がいますが、やめたほうがいいですね。社畜どころか、毎月給料をもらえるだけでなく、福利厚生もあり、そもそも辞めたければすぐに辞められるわけですから働く側は文句を言うより感謝ありきで発言したほうがいいと思います。
――個人の能力や適性を活かす方向に進もうと考えた背景をもう少し詳しく教えてください。
大企業とスタートアップではカルチャーが大きく異なります。組織内で求められることは「改善」が中心で、100を130に、1000を1200にする「getting better(より良くする) 」を目指すのが基本です。一方、立ち上がりのスタートアップはイノベーション活動が主軸で、これまでありそうでなかった製品やサービスを作る、あるいは桁違いの展開を示したり、「cannot」を「can」にしたりすることを目指します。そう考えると、自分の強みをより発揮しやすいのはやはりゼロイチのスタートアップかな、と思ったのです。
これも極論ですが、大企業では1兆円の売り上げが2兆円になっても、従業員の給料が倍になるわけでもないですし、画期的なイノベーションが誕生するケースも思ったほど多くはありません。雇用は増やせるかもしれませんが、もちろん株式会社ですし当然正しいこととはいえ、「資本家との向き合い」が全てです。つまり金持ちをより金持ちにするためにどうするのかという、より格差を生み出すエコシステムでもあります。
個々の従業員についても同様です。仕組み化が進んでいますから、厳しい言い方をすると、大企業では良くも悪くも「あなた」である必要がないのです。私が辞めても売り上げが変わるわけではないですし、社長が辞めても変わらないと思います。例えば、柳井正さんや三木谷浩史さんがファーストリテイリングや楽天のトップの座から退いても一時的に株価に影響はするかもしれませんが、すぐに回復すると思うのです。実際ZOZOTOWNはあれだけワンマンで影響力を持ったオーナーである前澤友作さんが辞めてからも株価は倍以上になっていますよね。たとえ創業社長で圧倒的なトップであっても、会社が傾くことがないように日頃から仕組みを強化しているわけです。その半面、突出した個性の育成に課題が生じるのは、仕組み化の一側面として仕方ないことだと思います。
一方、スタートアップでは個性を十二分に発揮して働いてもらわないと困るわけで、「あなた」である必要があります。これまでは大きな会社にするためには仕組み化が必要なので「属人化を排除すべき」と言われてきましたが、「個の時代」を迎えた今、そもそも大きな会社にする必要すらなかったり、属人的なほうがむしろユニークな個を作りやすかったりする気がします。そういう時代の流れも踏まえて、これからはビジネスの顔だけでなくアーティストの顔を持つユニークな個であるCEOセオを前面に打ち出して活動するほうがシンプルで理に適っていると考えました。
オンリーワンの「個」として、自分にしかできないことを追求する
――あれ!?でも、昨年4月に公開した記事では「個の時代というけど、1兆円稼ぐ個人はいないのではないか。大企業ならゴロゴロ存在する」として、大企業を前にしたら個人ができることなんて霞んでしまうと言っていましたよね。
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