クラフトチョコレート「Minimal – Bean to Bar Chocolate –」(ミニマル)を展開する株式会社βace代表取締役の山下貴嗣さんをMarketing Nativeで取材したのは昨年(2020年)2月上旬。そこから新型コロナウイルス感染症が急速に広がり、世界は大きく変わりました。
店舗を中心に営業していた飲食業が軒並み壊滅的なダメージを受ける中、Minimalは販売経路の主軸をECに切り替え、ECで売れる商品開発をすることで売り上げの拡大に成功しています。
しかし、そこに至るまでにはスタッフのマインドセットの変革や店舗の閉鎖、物流やカスタマーサクセス(CS)チームの立ち上げ、システム整備など並々ならぬ努力が必要だったといいます。
Minimalはどのようにしてこの危機を乗り超えようとしているのでしょうか。今回はMinimal – Bean to Bar Chocolate – 代表の山下貴嗣さんに話を聞きました。
(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:永山 昌克)
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緒方恵さんを取締役COOに迎え入れた背景
――デジタルに強い人材の採用が続いているようですが、中でも緒方恵さんのジョインはデジタルマーケティング業界でよく知られた方でもあり、驚きました。まずここからお聞きしたいと思います。緒方さんとどういうきっかけで知り合われ、なぜMinimalに迎え入れようと思ったのか、取締役COOとしてどんなことを期待していますか。
出会いは2017年のグッドデザイン賞の授賞式でした。緒方さんは中川政七商店さん、我々はMinimalでそろってグッドデザイン特別賞を頂いたのですが、その授賞式でたまたま席が隣だったことがきっかけです。その後、意気投合して中川政七商店さんのお店を見学させていただいたり、定期的に情報交換したりする中で良い関係性を築いてきました。
――会社の取締役に迎え入れようと考えたのはなぜですか。
私が言うのはおこがましいかもしれませんが、人柄が抜群でした。誠実で、まっすぐで、本質をずらさずにコミュニケーションが取れるので、信頼できる方だと感じたのが理由の1つです。もう1つは東急ハンズさん、中川政七商店さんと、店舗とデジタルの両方に携わった経験を持ち、かつミッション、ビジョンから導かれるブランドの在り方を真剣に考えて業務に取り組まれている点に我々との共通点を感じました。ここまで肌の合う人はほかにいないと感じたため、緒方さんが次のステップに進まれるタイミングで声をかけさせていただいた次第です。
最も大変だったのはマインドセットを変えること
――以前、取材したのは2020年2月。それから世界は大きく変わり、緊急事態宣言の発出も東京では4回に上ります。そんな状況にもかかわらず、Minimalは店舗2店の売り上げが前年比40~50%増、ECは3~4倍に伸びたとのこと。「血のにじむような努力」だったそうですが、何があったのでしょうか。
去年2月の雰囲気をよく覚えています。2月14日はチョコレート業界最大のビッグイベントの1つ「バレンタインデー」で、その頃はまだ世の中が少しざわつき始めたくらいでした。
ところが、そこから事態が一気に急変し、緊迫の度を強めます。いつもご指導いただく先輩経営者の方々からも「普通の危機とは様相が異なる。しっかり対策したほうがいい」とアドバイスされました。その時点では緊急事態宣言も出ておらず、「自粛」という状況さえ想像できなかったのですが、3月のホワイトデーの催事が軒並み中止になり、ご来店されるお客さまの数が大きく減少するに至って私も強い危機感を覚え、キャッシュフローなどを全部計算した上で、販売経路を店舗中心からデジタルの積極的な活用に一旦、切り替える決断をしました。
私がMinimalを立ち上げたのが2014年で、コロナ前まではリーマン・ショック(2008年)や東日本大震災(2011年)など経済が大きなダメージを受けるレベルの不景気を経験したことがありませんでした。そのため「まさかの事態が起きたとき、経営者としてすぐに対応できるだろうか」という問題意識を日頃から抱いていたことが、大きな意思決定を迅速に実行するのに役立ったと思います。
――いきなりデジタルに全振りするのは大変だったのではないですか。
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