インタビュー
2020.10.22

ベイジ代表・枌谷力インタビュー。物事の「本質」に対する考え方とコミュニケーション力の磨き方

CEO Interview #07

株式会社ベイジ代表

枌谷 力

株式会社ベイジ代表・枌谷力さんが運用するTwitterアカウントのフォロワー数が5万9000人(2020年10月22日現在)に達しています。

Marketing Nativeの読者の中にも枌谷さんのツイートやブログに惹かれる人が少なくなく、理由は書かれている内容が本質的で納得感が強いと感じているからのようです。

では、どうすれば枌谷さんのように納得感の強い表現ができるようになるのでしょうか。

今回は株式会社ベイジ代表・枌谷力さんにTwitterを中心にコミュニケーション力の磨き方について話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:豊田 哲也)

目次

「本質」は人それぞれの見方で異なる抽象的な概念

――Twitterのフォロワー数が約5万9000人。Webデザインの仕事が優れているからという理由だけで、これほど多くの人にフォローされることはないと思います。それで、フォロワー数が多い理由を考えてみたのですが、Marketing Nativeの読者の中には枌谷さんのツイートに本質的な内容が多いと受け止めている人もいて、私もそれが大きいのではないかと感じました。ご自身ではどうお考えですか。

まず前提として、私はもともと物事の本質を見抜くことが得意ではないと思っています。皆さんの周りにも、核心を突いた鋭い指摘をする人がいると思いますが、私はどちらかというと、そういう人に憧れを抱く立場の人間でした。それに対して私がやっていることは、誰かの発言をカスタマイズしているだけですね。ですから、物事の本質を見抜く観察眼の優れた人がたくさんいる中で私がこういう取材を受けるのは恐れ多いと思っていることを最初にお伝えしたいです。

取材はマスク着用で行われた。

その上で、本質的な話をするのが苦手だと思っている私がなぜそのような評価を一部であったとしても頂けるようになったのかという視点でお話しします。

そもそも「本質」といっても、実は人によって異なる抽象的な概念だと考えています。ある意見を批判するときに「それは本質的ではない」と言われることがありますが、それはその人に都合のよい本質であることも多く、実は中身のない虚像になりがちだと感じます。ですから、私自身が本質を握れているわけではありませんし、私が握れるような唯一無二の本質が世の中に存在するわけでもなく、おそらく私の話し方や話のフォーマットが本質を突いているような印象を持たれているだけではないでしょうか。私自身、頭がいいわけでも、物事の真贋を見極める力を持っているわけでもありません。

――なるほど。では今度「それは本質的ではない」と言われたら、「それはあなたにとって都合のいい本質ですよね」と言い返すことにします(笑)

それは嫌われるからやめておいたほうがいいかもしれませんね(笑)

――枌谷さんは社員に対して「それは本質的ではない」と言うことはないんですか。

ありますよ。しかし、それは私が望んでいる本質であって、見方を変えれば本質ではなくなるかもしれないという前提は忘れないようにしています。議論が会社経営の話であれば、経営に直結する話が本質的だと思いますが、Twitterのようにいろいろな立場の方が参加する場になると、人それぞれにいくつもの本質がある気がします。

私のツイートを本質的だと受け止める人がいるとしたら、それは本質かどうかよりも、「逆張り」だからではないでしょうか。逆張りの意見に納得すると、人は本質的だと感じる習性があるのだと思います。

――逆張りだけでは納得感は得られにくいですから、納得感を与えられるような逆張りができるからこそ本質を突いていると受け止められるのではないですか。

それは、皆さんが好みそうな逆張りのパターンを私が繰り返しているからでしょう。パターンはいくつかありますが、よく使うのは「そもそも論」です。そもそも論に立ち返ると、大抵は「本質的にはそうですね」となりやすくて、議論が過熱したり脱線しかかったりしているときにそもそも論を投げかけると、「本質的な話をする人だ」という印象を与えやすい気がします。

では、何がそもそも論かというと、また少し難しいのですが、軸を変えると、そもそも論になりやすいと考えています。例えば、短期的な売り上げの議論をしているときに中長期的な観点の話をすると、軸が変わって別のアイデアが出やすくなり、「確かに本質的にはそうだよね」と話が前向きに動き始めることがあります。

軸をずらす思考法と構造化の鍛え方

――「軸をずらす」とよく言われますが、難しいと感じる人も多そうです。

例えば、短期と中長期の話を続けると、「ブランディングは中長期的に取り組むべきものであって、短期的な成果を求めてはいけない」という意見があるときに、「いや、企業は短期的な成果の積み重ねで継続するものなので、ブランディングの進捗に関する意思決定をするためにも、短期的な数値指標を持たなければならない」と話すと、本質論のように聞こえます。逆に短期的な売り上げやコンバージョンの話をしているときに、「企業は継続的に売り上げを上げることが重要なので、短期的な売り上げだけでなく、中長期的な観点で投資対効果のあることをすべきだ」と言うと、これも本質論に聞こえます。

企業目線の話のときは顧客目線、顧客目線のときは企業目線と、相対する概念をそのときの会話の中で冷静に投げかけると、本質的という印象を持たれやすいと思います。それだけ本質という概念は、立場や視点によって変わるものだという認識です。

――ツイートをするときも軸をずらすことを意識していますか。

そうですね。私のTwitter構文に多いのは、「〇〇って言うけど、〇〇だよね」です。「〇〇って言うけど」が多くの人がそのときに言及している意見や固定観念で、後半の「〇〇だよね」が、前半に対する軸をずらした考え方です。

――ディベート思考のように2つの意見を自分の頭の中で議論させているということですか。

ディベートを体系的に学んだことがないので何とも言えません。ただ、いつも2つ以上の意見を持って、「絶対にこれが正しい」とは考えないようにしています。意思決定はしますが、自分の考えが間違っている可能性もありますから、間違いと判明したときにどう対処するかをいつも考えています。

――ロジカルシンキングなどの思考訓練はいかがですか。

意識して思考訓練をしたことはありません。ただ、Webデザインの仕事は情報を構造化・細分化して親子関係・孫関係を作り、親類関係を分けてカテゴリーを作り、その上で階層構造を作っていく作業です。仕事をしているうちに、文章を書くときもh1、h2、h3を自然と意識してロジカルにブロック分けする考え方が身に付いてきますので、コーディングやワイヤーフレームの情報設計が、ロジカルシンキングの強化につながっている実感はあります。

――子供の頃から階層構造を作るのは得意だったのですか。それともデザイナーになるときに学んだのでしょうか。

子供の頃から階層構造があるものは好きでしたね。小さい頃は生き物に興味があり、「脊椎動物」から「哺乳類・鳥類・爬虫類・両生類・魚類」などに階層が分かれて、さらに「○○目」「〇〇科」「○○属」などを経て、その下にカバやキリンなどの動物が出てきます。ほかにも、大学で史学科を専攻するくらい日本史が好きだったのですが、平家や源氏の家系図を見るのがとても好きでした。そういう情報ネットワーク構造に子供の頃から興味があったのは確かです。

――階層構造化が苦手な人にアドバイスはありますか。

階層構造に興味のない人には難しいかもしれませんが、オタク型の人、コレクター気質のある人はグルーピングされたカテゴリーを話すのがもともと好きではないでしょうか。私は大学の頃から音楽をよく聴くようになったのですが、音楽にもジャンルがあり、ジャンルに属するアーティストがいて、アーティストが持っている作品があり、その作品にはアルバムがあって、アルバムに紐づく曲があるというふうにデータベース構造になっています。音楽に限らず、世の中の多くのものがそういう構造だと思いますので、自分が好きなことについて階層構造を意識しながら文章を書くと鍛えられる気がします。

Twitterが苦手な人は、別のことにリソースを

――情報収集の仕方はいかがでしょうか。例えば、読書習慣などについて教えてください。

ビジネスパーソンとして、それほど多くの本を読むタイプではないと思いますが、読むときはアウトプットを意識しながら目を通します。例えば、「この本を基にブログを書こう」という前提で読みますので、ブログを書きながら何度も読み返します。アウトプットを意識しながら読むと自然と血肉化して自分の言葉で語れるようになってきます。ただ本を読むだけではなかなか記憶に定着しないので、アウトプットを意識した本との向き合い方が自分には向いています。

――ツイートする際のネタの見つけ方はいかがですか。

これもアウトプットを意識しながら日常生活を送る中で自然と見つかります。Twitter用にネタを考えようと思ったことはほとんどないですね。例えば、この取材の前に交わした「マスクを着用するかどうか」「ペットボトルのお茶のラベルを撮影時にはがすかどうか」という話でも1つのツイートなります。そんなふうに日常の暮らしのほとんどがツイートになり得ますので、後はアウトプットを意識して生活するかどうかではないでしょうか。Twitterやブログをよく更新する人は、常にアウトプットを意識してアンテナを立てているのだと思います。

また、仕事の中で生まれたアウトプットをTwitterに流用するという観点も大切です。そうしないと仕事が停滞してしまいます。仕事はきちんと回しつつ、その中で生まれた気づきをツイートしているイメージです。

――クソリプのタイプ別分類は9700以上の「いいね」が付きました。これはどうですか。

これもB to B企業を対象に開催しているTwitter道場の資料の1枚です。ツイート用にわざわざ作ったわけではなく、「道場生」を笑わせるつもりで作りました。

――「積極的にTwitterに取り組もう」と会社から指示されても、なかなかできない人も大勢います。そもそも「日常生活で気づいたことを」と言われても、それが難しいと感じる人のほうが多数派ではないかと思うのですが、アドバイスはないでしょうか。

そういう場合、私はどちらかというと諦めてしまうタイプです。なぜかというと、社員全員がツイートするべきだとは思っていなくて、Twitterを楽しめる人が社内にいるのであれば、その才能を活かしましょうという考え方だからです。

Twitter道場についても最初は興味を持ってたくさんの方が参加してくれるのですが、継続できる人は1~2割ではないでしょうか。でも、楽しめない人を無理やりTwitterの世界に引き込むのが良いとは思いません。Twitterはしていないけど仕事ができる人なんてたくさんいるわけで、Twitterをしないと世の中に評価されないわけではないからです。Twitterに向いている人がやればいいだけで、私の話を聞いて「自分には難しい」と感じた人は、自分の得意なことにリソースを割くべきだと思います。

炎上させないために意識していること

――枌谷さんは頻繁にツイートしている割に、それほど炎上しないタイプだと思います。その理由についてはどうお考えですか。

SNSの空気感を意識しながら書いていることが理由の1つかもしれません。例えば、経営者が「お前ら必死で働けよ」と書いたら炎上しやすいし、批判を浴びやすいと思います。いわゆる「強者の論理」のような内容はSNSでは受け入れられにくくて、「実は自分にはこんな駄目なところがある」「自分はこんなことに悩んでいる」という話のほうが共感されやすいプラットフォームだと感じます。私の中にも根性論的な考え方はありますが、SNSで書くと「ブラック企業」と批判されやすくなるので、避けるようにしています。

――炎上することもあるんですか。

どこからが「炎上」なのか線引きがわからないのですが、以前「SNSでは愚痴を書かないほうがいい」という趣旨のツイートをしたら、クソリプのような反応が予想以上に来たことがあります。「お前にそんなことを言われたくない」「Twitterは愚痴るものだ」などいろいろなリプライを頂いて驚きました。そのときになぜだろうと考えた結果、「仕事目的の実名アカウントではSNSで愚痴を書かないほうがいい」という書き方でツイートしていたら、おそらく大丈夫だったのではないかと思いました。それなのに、文字を削ってメッセージの中核だけを抜き出そうとした結果、愚痴全部を駄目と受け止められるような書き方をしてしまったのは良くなかったかもしれないですね。そのように、いろいろな前提に言及しないと誤解を与えかねない内容はツイートに向かないと思います。

――Twitterで参考にしたり、手本にしたりしている人はいますか。

jigen_1(@Kloutter)さんは勝手に心の師匠だと思っています。以前jigen_1さんからSNSに関するお話を聞く機会があったのですが、納得感の強い講義を受けているような気持ちになって、自分の中でTwitterに関するいろいろなことがつながり、知識が深まりました。だからjigen_1さんからの影響はすごく受けていると思います。

――jigen_1さんはリツイートこそ目立ちますが、ご自身の意見はあまりつぶやかないですね。

書こうと思えばいくらでも書ける方だと思うのですが、jigen_1さんはおそらくアルゴリズムを極める派ですね。「競合かどうか関係なく、自分のツイートに言及してくれたら積極的にリツイートする」「フォロワー数が少ない人を大切にする」など、Twitter運用に関する考え方についてjigen_1さんから学んだことはとても大きいと感じます。

枌谷さんが実践する文章校正の方法

――次に言語化力についてお聞きします。Twitterとブログのような長めの文章で意識して書き分けているところはありますか。

基本は同じです。文章は言葉選びが重要だと考えていますので、例えば「難解」と書くべきか「難しい」とすべきか、どちらが伝わりやすそうかを全体の文章の流れやプラットフォームの性質などを考えて常にチェックしています。

異なる点は、Twitterは基本的に1ツイート140字までしか書けないので、前提条件を省略し、余計な表現はできる限り削除することです。そういう意味ではTwitterは誤解を受けるおそれがあるものの、勢いで書けるラフスケッチのような感覚を持っています。一方のブログは前提からきちんと書きますので、「清書」という捉え方です。

――「誰か一人を意識しながら書く」「書いたら音読して推敲する」といったテクニック的なことはどうでしょうか。

常に誰かを意識して書くことは、確かにしています。例えば、「仕事のストレスを軽減させる8つの思考」というブログは社員を対象にした内容です。

また、ブログのように「清書」として作るコンテンツは、直接声には出さないものの、頭の中ではよく音読しています。いつも文章は3、4回くらい見直します。よく行うのは、一度最後まで書いたらWordで文章全体に黄色のハイライトをつけることです。その後で上からまた書き直していくのですが、書き直したところから黄色のハイライトを消して無地にしていくと、綺麗に潰していく感じがして気持ちがいいんです(笑)。そういうふうにブラッシュアップする作業を1、2回、WordPressに投稿してブログが公開される前にもう1回と、何回か書き直します。そのつど頭の中で言葉のリズムを意識しながら音読しています。

――話し方はいかがですか。テキストのコミュニケーションは得意でも、オーラルコミュニケーションが苦手な人、その逆の人などそれぞれ得意不得意があると思いますが、枌谷さんは両方優れている気がします。

私は話し方には苦手意識があって、Zoomで録画された自分の音声を聞くたびに、「話し方教室に行こうかな」と感じるくらい自信がありません。

もし理路整然としているように受け取っていただけているとしたら、それは過去にどこかで書いた内容を話していることが多いからだと思います。その点ではTwitterが役に立っていて、ブログにまとめるほどでもない、ちょっとした考えをTwitterで言語化しておくと、次に同じことを話すときに、いきなり話すよりは理路整然と伝えられます。日頃から言語化する作業を繰り返しているからわかりやすく聞こえているのかもしれないですね。

――イベントで不特定多数の方に話すときと、クライアントさんにプレゼンするときで話し方に違いはありますか。

それほど大きな違いは意識していません。あえて言うと、その場にいるリテラシーが一番低そうな人に合わせて話している気がします。なぜかというと、一番知識がなさそうな人が理解できる言葉を選ぶと、リテラシーが高い人も理解できますし、低い人もそれなりにわかっていただけますので、必然的にわかりやすいと感じる人の母数が増えると思うからです。

三密の回避が意識されたベイジ社内の様子。

コミュニケーション力を鍛えるには、まず好きなことから

――最後にあらためて、コミュニケーション力に自信がない人にアドバイスをお願いします。

コミュニケーションとは普遍的な概念なので、素材は何でもいいと思います。私は小中学校時代に文章をそれほど書いていたわけではなく、うまいと言われた記憶もありません。人より文章を書けるほうだと気づいたのは社会人になってからです。

いつの間に文章力を鍛えられたのかと考えてみたら、自分で音楽のブログをやっていたときに毎日数百字くらいのレビューを書いていたのが良い訓練になっていたと思い当たりました。あとは、当時はSNSがなくて掲示板だったのですが、書き込んでくれた人に対して300~500字くらいの返信をよく書いていました。それらをほぼ毎日、3~4年ほど続けていたのが文章力強化にかなりつながっていると思います。

極端な話、音楽を評価する表現は「いい・悪い」「カッコいい・カッコ悪い」などごくわずかしかないので、それを500字くらいの文章にするには、なぜ「いい」かを説明する必要があります。「ギターソロのこの部分が好き」「このコード進行がいい」など、曖昧で抽象的かつ感覚的なものの理由を探り、言葉に置き換える作業を3~4年続けると言語化力が鍛えられると思います。

仕事が大好きで仕事でそんなふうに文章を書けるのならそれでいいですし、いきなり仕事では難しいと思ったら、漫画でも映画でも自分の好きなことで文章を書いてみるのがいいのではないでしょうか。

――いいお話ですね。枌谷さんはもともと言語化力や思考力が優れているのかと思っていたのですが、「日常生活で常にアプトプットを意識する」「抽象的で感覚的な内容を言語化することを3年くらい継続する」など、そうした努力あってこそなのだとわかりました。

自分は天才型では全くないですが、努力家かというとそうでもなくて、好きなことに没入しているだけです。だから言語化力を高めたい人は、自分の好きなことを中心にコミュニケーション力や文章力を磨くのがいいと思います。

――本日はありがとうございました。

Profile
枌谷 力(そぎたに・つとむ)
株式会社ベイジ代表。
新卒でNTTデータに入社。営業職を経験後、Webデザイナーとして転職。2007年に独立、2010年ベイジ設立。BtoBマーケティング、Web制作、UX/UIデザインなどを得意とするデザイナー兼経営者。2017年にはナイル株式会社顧問に就任。登壇、執筆多数。

枌谷力Twitter
@sogitani_baigie

株式会社ベイジ
https://baigie.me/

早川巧

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
Twitter:@hayakawaMN
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