編集者として『ドラゴン桜』『働きマン』『宇宙兄弟』などのメガヒット作を世に送り出してきた佐渡島庸平さん。現在はクリエイターのエージェント会社である株式会社コルクで代表取締役を務め、インターネット時代における新たなエンターテインメント市場の創造に取り組んでいます。
人々の価値観、趣味嗜好が多様化した現代にあっても、テレビ、映画、音楽、小説、漫画などの各ジャンルで大ヒット作が誕生しないことはありません。最近では『100日後に死ぬワニ』が記憶に新しいところです。
では、この時代にヒットを生みだすポイントはどこにあるのでしょうか。
今回は佐渡島庸平さんに話を聞きました。
(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、画像提供:株式会社コルク)
目次
『100日後に死ぬワニ』が大ヒットした2つの理由
――漫画家のきくちゆうきさんがTwitterで連載していた4コマ漫画『100日後に死ぬワニ』が最終回の100日目に220万いいねと74万リツイートを記録するなど大ヒットしました。その直後、死の余韻に浸る間もなく、すぐマネタイズに走ったとして一部で批判の声が上がりましたが、それも瞬間風速的で、あっという間に話題に上らなくなりました。このワニをめぐる一連のトピックをどうご覧になりましたか。
まず、『100日後に死ぬワニ』をただ「漫画」と呼んでいいのかということです。漫画として捉えると、「なぜ当たったんだろう?」と疑問が湧くと思います。いまスマホ上の漫画は「ウェブトゥーン」と呼ばれていて、もはや漫画ではなく、スマホコンテンツだという認識が一般的です。
Twitterのタイムラインには、検索しなくても大量の情報が流れてきます。中にはたくさんの「いいね」が付いている投稿もありますが、だからといってすべてを読みたくなるわけではありません。なぜなら興味の対象ではないからです。では、なぜ『100日後に死ぬワニ』は興味の対象ではないのにこれだけ多くの注目を集めることができたのか。それはコンテンツの量や長さがリツイートされてタイムラインで流れてきたときに圧倒的に読みやすいからだと思います。きくちさんが作り出したのは漫画というよりも、Twitterで読むのに最適化されたコンテンツだったということです。
――『100日後に死ぬワニ』はTwitterに最適化されたコンテンツだった、と。これがもし週刊の漫画誌に載っていたら、ここまでヒットしなかっただろうということでしょうか。
漫画誌に1週間分まとめて載っていても、面白いとは思われず、ヒットはしなかったでしょう。
例えば、もし『宇宙兄弟』を絵巻物で渡されたらどうでしょうか。どれだけ面白いと評判を聞いていても、今ほど読まれることはないと思います。内容が面白くても、絵巻物のフォーマットでは読みにくいからです。
今デジタルテレビのリモコンは、チャンネルが変わるまでに1秒ほどタイムラグがあります。その1秒にイライラして、テレビの中のコンテンツまで快適に感じられなくなる人もいるんです。「1秒も待てないの?」と思うかもしれませんが、それくらい見やすさはコンテンツへの好き嫌いにおいて大事な要素になっています。
もうひとつのポイントはタイミングです。メディアに最適なコンテンツが誕生して話題になるまでには、メディア自体が認知されて流行してからタイムラグがあります。
テレビを例に挙げると、『笑っていいとも!』が始まったとき、「こんなにゆるい番組が成立するのか」と冷ややかに見ている人たちが大勢いました。しかし、結果的には生放送で雑談したり、友達同士が毎日つないでいったりするスタイルが最もテレビ的だったわけです。だから他の番組が最終回を迎えても、『笑っていいとも!』は長く続き、テレビの歴史と一緒に発展していきました。
YouTubeも同様で、新しいメディアとして登場した頃はどんなコンテンツが最適なのか、なかなか見つかりませんでしたが、いまでは多数のYouTuberが活躍しています。
つまり、見やすさとタイミングの両面において、これまで相性の良いコンテンツを見つけられていなかったTwitterというメディアに、『100日後に死ぬワニ』がぴったりとはまったのだと思います。
マネタイズ批判の背景と課題
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