[最終更新日]

2020/03/04

 

クラフトチョコ「Minimal」山下貴嗣が語る、起業への原動力と再現性のポイント、一流のマーケターへの道(後編)

前編に引き続き、Minimal-Bean to Bar Chocolate-代表(株式会社βace代表取締役)山下貴嗣さんのインタビューをお届けします。
後編では、問題意識から生じた起業への情熱、ファン作りのポイント、マーケターが成長するために必要な考え方や行動についてお聞きしました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)

    

目次

ビジネスを成功へ導く再現性のポイント

――お話を伺っていると、山下さん自身がマニアックに突き詰めるタイプだと感じます。山下さんならプロダクトがチョコレートでなくても、同じようにビジネスを成功させられたと思いますが、再現性についてはどのようにお考えですか。

再現性については、我々自身の中に明確なポイントが1つあります。それは世の中に対する問題意識です。

日本という国をあらためて俯瞰してみると、少子高齢化でこれから労働人口が減少し、GDPも次第に落ち込んでいくと予想されています。一方、東アジアにおける中国の存在感はさらに増大し、東南アジア諸国の多くは成長スピードをますます加速させていくでしょう。

そうした状況にあって、日本がいくら労働生産性を上げたところで、内需の減少傾向に歯止めをかけるのは難しく、豊かな社会を維持する方法は外貨を稼ぐ人材をもっと増やす以外、ほとんど残されていないと思います。

では、どうすれば外貨を獲得できるのか。いろいろな方法が考えられますが、人口減少によって「量」では戦えなくなった日本を救うのが、日本人のきめ細やかさや繊細さに裏打ちされた「質」という武器だと思います。質こそがこれからの日本であらためて大きな価値となり、日本人がマニアックに深掘りしたプロダクトが、グローバル時代における日本のプレゼンスを再び押し上げる原動力となるでしょう。

高品質な日本のプロダクトが評価されるようになれば、日本の職人たちが織り成す技術の粋に世界中の注目が集まるはず。私はそういうことを実現したいんです。

社名にもそんな思いを込めました。「βace」の「β」はβ版、「ace」はエースで、最高級品、一級品を表しています。つまり、「試行錯誤しながら最高のプロダクトを作りたい」「トップレベルのプロダクトを発信する基地、プラットホーム、コミュニティハブでありたい」という願いを込めているんです。

我々の問題意識は「2050年、2100年になったときに、この国が豊かであってほしい」「そのために我々は今、何をなすべきか」という点にあります。その問題意識を基に設定したβaceの課題は、高品質なプロダクトを作り続けて、グローバルで評価されるブランドにすることです。その最初の挑戦がチョコレートだったと捉えています。

私は今年36歳になりますが、一番働ける30代から50代のうちに、面白いこと、興味を持てることをベースにしながら、この国の未来に対して少しでも貢献をしていきたい。その思いが起業の原点です。たまたま「Bean to Bar」との出合いがあり、さらに「Bean to Bar」が注目されるタイミングに合わせてお店をオープンできたのはラッキーだったと思います。ですから、再現性のポイントがあるとするならば、世の中に対する創業メンバーの問題意識であると言えます。

ビジネスとは、問題意識を持って課題を設定し解決すること

――熱いですね!山下さんのようにEC+リアル店舗の起業に憧れている人は多いと思います。何かアドバイスをお願いします。

やはり問題意識をどのように持つか、問題解決をどう図るかがポイントになると思います。

若い世代の中には「やりたいことが見つからない」と悩んでいる人がたくさんいると思います。実は私も20代のとき、やりたいことが1つもありませんでした(笑)。ビジョンなんて全くなかったのです。でも、ビジョンがある人には憧れました。

私も悩んでいたのですが、あるとき「現代でも歴史上でも何かを成し遂げた偉人や著名人の話は、よく知られている『達成』というゴールから逆算して描かれるからすごいと感じるのではないか」と気づいたんです。実際は9割くらいの人はそんなことはなくて、おそらく無我夢中で頑張っていたら、たまたまゴールに辿り着いた感じではないでしょうか。

私もその典型です。20代のときは、ひたすら目の前の仕事を一生懸命に頑張っていました。前職は「リンクアンドモチベーション」で、入社した2000年代初めにはまだ「モチベーション」という言葉が一般化していませんでした。そのため「モチベーションという概念は競争優位性が高いし、これからの日本を元気にする鍵になるはず」と考えたのが入社の動機です。

結局、どのレイヤーに問題意識を持つかということです。ビジネスとは全て問題解決だと捉えていまして、要するに何を解決したいのか、どういう世の中になれば社会が良くなり、みんながハッピーになれるのかを考えて課題を設定し、それを解決する手段として新たなビジネスを立ち上げるのが起業だということです。どんなビジネスなら世の中の問題を解決できるのか、それを考え続けることの重要性を前職で学びました。

ファン作りのポイントは「Eat First , Learn Later」

――まさにそういう問題意識を持ってβaceを創業したわけですね。

そうですね。今の私の役割はファン作りで、講演や取材をなるべくたくさん引き受けて、我々の考えを少しでも多くの人に伝えることです。日本では手間暇をかけて優れたプロダクトを作っても、適正価格での販売がなかなか難しく、どうしても価格を引き下げざるを得ない状況になりがちです。それはなぜなんだろうと考えていて、我々はそこにアンチテーゼを出したい。素晴らしいプロダクトを作っているのに、安くしか売れない日本の現状に、「いや、そうじゃない。良い物を作ったら、適正価格で売れてブランドになっていくんだ」と証明したいんです。

それをまずチョコレートで実現し、将来的には日本的な思想や哲学、技が根底にあるブランドのコングロマリットのようになり、日本の優れた商品をたくさん扱える存在になりたいと考えています。

――ファン作りという点で、意識していることはありますか。

「コト消費」「モノ消費」と言われて、「これからはコト消費が大事だ」とよく聞きます。一方、Minimalを展開している我々は「モノ」が最初であり、それを取り巻く体験が「コト」になると設定していて、その順番を大事にしています。だから一番はプロダクトです。つまりファン作りという点で最も力を入れているのは、チョコレートをすごく美味しく作ることであり、カカオを何千レシピも使って作ることです。

これが(前編で紹介した)2階建て理論で、私は「Eat First , Learn Later」と呼んでいます。美味しいと感じるから、初めてチョコレートのストーリーに興味が湧いてくるんです。まず食べてもらうことが大事。その後で重要になるのがリアルなコミュニケーションです。この5年間、お客さまにチョコレートを食べていただきながら我々のことを伝えるワークショップを毎週2回やってきました。

――週2で5年間。大変ですね。

地道な積み重ねですが、我々の熱意を聞いていただくとチョコレートの味も変わってくると思うんです。ここで大事なのは、Webではなくリアルで声の強弱をつけながら熱量を持ってお話しすることです。だからお店のKPIは、こんなふうに設定しています。

Minimal店舗のKPI=試食の量×滞在時間

普通は逆で、試食を出すと原価が高くなるし、滞在時間は短いほうが回転率が良くなります。しかし、我々は1万人が1回買うよりも、100人が100回買うLTVの高いブランドにしたいんです。だから少しでも滞在時間を長くするために、アルバイトスタッフを含めて全員、毎月1回必ず3時間の勉強会をアルバイト代を出して行っています。

一流のマーケターになるために必要なこと

――すごい取り組みですね。勉強会に関連してですが、若手マーケターの成長という点でもアドバイスを頂けないでしょうか。

「マーケター」という言葉は良くも悪くも便利なマジックワードだと思っていて、自分がマーケターとして何をすべきか今ひとつ認識できていない人もいるのではないでしょうか。

そこでお伝えしたい考え方が「1万時間の法則」です。1つのことを1万時間、集中力を持って継続すればプロレベルになれるなんて、これはもう希望でしかないじゃないですか。一日8時間勤務で平日のみ働くだけでも、5年2カ月で1万時間を超えます。残業したり、土日も頑張ったりすれば、期間はもっと短縮されます。

私も創業から5年間、無我夢中で働いたら、ようやくチョコレートの領域がわかってきました。とても貴重な経験でしたし、自信も少しつきました。だから、まずは1万時間、頑張ってみてほしい。

焦る必要はありません。人生100年時代にわずか5年間、一生懸命頑張ったらプロレベルになれるんだから、焦らなくて大丈夫じゃないですか。81歳でiPhoneアプリを開発した女性が以前、話題になりましたが、本当に素敵なことですよね。

もう1つは藤原和博さん(※)の「100万分の1理論」です。これは1000分の1×1000分の1という2つの分野の掛け合わせ、もしくは3つの分野の掛け合わせで100分の1×100分の1×100分の1の存在になれれば一流の仲間入りができるという意味です。いきなり100万分の1を目指すと気が遠くなりそうなほど大変なので、視野を狭くせず、自分の領域から前後左右に半歩ずらした世界で100分の1の存在になれるよう、まずは目指すのがいいと思います。

※教育改革実践家。東京都で初めて中学校の民間人校長を務めたことで知られる。

難しければ、10分の1の存在でもいいと思いますよ。それを4つ組み合わせれば1万分の1になります。100万分の1になれなくても1万分の1の存在になれれば、食べていけますよ。だから自分の前後左右で、100分の1、または10分の1になれる領域をたくさん作りなさいと若い人には言っています。その掛け算によって、1万分の1や100万分の1の人材を目指してほしいですね。

マーケターも同様です。先ほど「自分が何をすべきか今ひとつ認識できていない人もいるのでは」と述べましたが、マーケターに必要な要素とは何か、自分の中できちんと要素分解できているんでしょうか。要素分解して、それぞれの要素で10分の1、100分の1の存在を目指せば、それだけで特異な存在になれます。焦らなくていいから、そこから始めてみるのが良いと思います。

――お話に圧倒されました。本日はありがとうございました。

Profile
山下 貴嗣(やました・たかつぐ)
株式会社βace 代表取締役。
1984年、岐阜県生まれ。慶應義塾大学卒業後、リンクアンドモチベーションに新卒入社。在職中に東証一部上場を経験したほか、新規事業立ち上げにも参画。Bean to Barとの出合いを機に起業し、クラフトチョコレートブランド「Minimal-Bean to Bar Chocolate-」を展開。年に4カ月間は、赤道直下のカカオ産地を訪れる。世界最高峰のチョコレート品評会「International Chocolate Awards」および「Academy of Chocolate」の出品部門で受賞。2016~2019年の4年連続、合計61賞を受賞。

株式会社βace
https://mini-mal.tokyo/

[記事執筆者] 早川巧
株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writerとして30年のキャリアあり。Twitter:@hayakawaMN

 

 

 

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