「Contents Innovation Conference 2020」では、KEYNOTEのほかに6つのトークセッションが開催され、総勢18名の登壇者がマルチチャネル戦略やコミュニティ形成、YouTube活用などのテーマで「マーケティングの今」を語りました。
今回はそのうちの3つのトークセッションの中から、興味深い事例や具体的なノウハウ、思考形態など印象に残った内容を中心にご紹介します。マーケターの皆さまが業務に取り組む際の一助となれば幸いです。
(取材・文:Marketing Native編集長・佐藤綾美)
※掲載は順不同
※内容、肩書ともに2020年9月当時。
目次
セッション「顧客接点の最適化とマルチチャネルが実現する次のマーケティングの姿」
このセッションでは、新型コロナウイルスの影響により変化したユーザーの消費行動や、それに伴うプラットフォームの動き、マルチチャネル戦略を展開する企業の取り組みが語られました。
▼登壇者(順不同)
株式会社ナノ・ユニバース 経営企画本部 WEB戦略部 部長 越智 将平さん
株式会社コメ兵 執行役員 マーケティング統括部長 藤原 義昭さん
LINE株式会社 りょかちさん
株式会社 電通 電通メディアイノベーションラボ 主任研究員 天野 彬さん(モデレーター)
ユーザーの消費行動に合わせ、プラットフォームもアップデート
りょかちさん
2020年は新型コロナウイルスの影響によってオフラインでできていたことができなくなり、ユーザー行動にも大きな変化があった。ソーシャルメディアに関しては、LINE、Twitter、Instagramのいずれも利用数が伸びている。LINEの場合は今年5月のメッセージ数(テキスト、スタンプ、画像送信数)が4月に比べて1.4倍ほど増加しているほか、グループ通話やビデオ通話の利用数も増えている。
コロナ禍でデジタル化が否応なく推進されたこともあり、ユーザーはソーシャルメディア上で投稿を見るだけでなく、情報を検索したり、商品を購入したりするようになった。プラットフォーム側も、変化したユーザーの消費行動に合わせてアップデートを図る。LINEではグループビデオ通話中に表示される人数を増やすなど、ビデオ通話の機能をアップデートしたほか、企業・店舗のLINE公式アカウントとユーザーで通話ができる「LINEコール」を追加、LINE上で予約が可能になる「LINEで予約」の提供も開始している。
プラットフォームでは、一つのチャネル内でCVまでの動線を設計し、ユーザーが情報検索や問い合わせ、購入といった一連の動作を行えるよう、実現に向けて動いている。また、これまでオフラインで行っていた接客や問い合わせなどのコミュニケーションをオンラインでもできるように準備している。企業のデジタル化への挑戦を今後より一層応援したい。
これからのリアル店舗を考える三つのポイント
藤原 義昭さん
これからのリアル店舗について考えるときのポイントは三つある。一つは答えのないVUCAの時代に突入すること。これまではお客さまの行動を数値で測れる「Science」の時代だったが、今後はそれに加えて「Art」も必要な時代になると考えている。二つ目がDX(デジタルトランスフォーメーション)で、ここ1年近くでリアルとデジタルが溶け合うような時代になってきた。三つ目がカスタマーエクスペリエンスの重要性で、顧客満足をいかに実現していくかが重視されている。
これまでの小売業は売場床面積至上主義のようなところがあった。しかし、今は少しずつデジタルも含めた世界観を重視する考えになり、一人のお客さまを大切にする重要性に気付き始めている。計算式で言うと、「面積×商品陳列率×売上」から、「顧客数×年間利用回数」を重視するようになってきている。
顧客の満足には、機能的満足と感情的満足の2種類がある。安い、早い、近いなどの機能的満足は、他社のほうが優れているとそちらにスイッチされやすい。一方で、嬉しい、楽しいなどの感情的満足をお客さまに与えられると、LTVが上がる。お客さまとスタッフの間に信頼関係が構築されると、「△△(お店)で買う」から「○○さんから買う」に変わり、次第に値段も関係なくなる。値段が関係なくなると、マージンが大きくなり、ビジネスにとっても良い状態になる。
お客さまはデジタルとリアルを切り分けて考えていない。そのため、マーケティングではデジタルとリアルの施策を一貫して行っていくことが重要だ。コメ兵ではOMO(Online Merges with Offline)のプロジェクトを立ち上げ、SNSからECにランディングしたお客さまをコールセンターへの問い合わせやリアル店舗に誘導し、最終的にはスタッフとLINEでつながるように設計している。我々が最も注力したいのは、お客さまとスタッフがLINEでつながる顧客体験の最もエモいところで、リアルで行っていたような信頼獲得をデジタルでも実現したいと考えている。
お客さまのファン化を目指すクロスユース戦略
越智 将平さん
お客さまとの接点を生み出すために、リアル店舗は重要なポイントだ。ナノ・ユニバースは2000年代にECの伸び体験を味わっているものの、データを見ると、LTVを高くしてくれるお客さまはリアル店舗を起点に顧客化した方が多い。
ナノ・ユニバースでは今、お客さまの都合に合わせて店舗もECもご利用いただくクロスユース戦略に取り組んでいる。ECはリアル店舗のような声掛けや接客のストレスがないが、ECだけで良いわけではない。アパレルの場合はECだけで完結しづらく、似合うか否かを判断するには試着が最も良い手段になる。
クロスユース戦略では、店舗でアプリをダウンロードし、アプリ上でコンテンツを見たり、情報を得たり、商品をお気に入り保存していただく。コンテンツは動画に注力しており、連載形式の動画コンテンツを用意し、毎週アプリを開いてもらえるきっかけを作っている。アプリ上でお気に入り登録した商品の店舗在庫をリアルタイムで表示したり、来店するとたまるポイントを用意したりするなど、リアル店舗に誘導する仕組みも設計している。コロナになってからは、店舗の混雑状況を15分単位で表示し、お客さまに安心して来店いただけるようにした。店舗で感情的な体験を提供することで、初めてファン化できる。店舗での体験や顧客接点などはまだ増やす必要があり、スタッフの教育も含めて取り組んでいる。
セッション「コミュニティマーケティング・ファンマーケティングの真相に迫る」
このセッションでは、コミュニティの構築やファン形成を実現している3名が登壇。「コミュニティは狙って作れるものではない」「ファンを作ろうと思ったことはない」と、トークテーマを覆す形でセッションが始まり、熱い議論が交わされました。
▼登壇者(順不同)
株式会社Mr. CHEESECAKE 代表取締役 田村 浩二さん
ブランディングテクノロジー株式会社 執行役員 経営戦略室 室長 黒澤 友貴さん
株式会社ホットリンク 執行役員 CMO 兼IS責任者 いいたか ゆうたさん
圧倒的に突き抜けるものを作り、ブランドを意識してくれる人を増やす
田村 浩二さん
コミュニティは狙って作れるものではない。とにかく良いものを作ることを意識していて、SNSでは自分の考えを過不足なく伝えるようにしている。自分はものを作る人間なので、作ったもので評価されたい。限定フレーバーのチーズケーキを定期的に販売しているのは、フレーバーごとに味を評価していただき、おいしいと感じる人が増えてほしいと考えているからでもある。
人の感情は難しく、良いものを作れば口コミが勝手に広がるわけではない。口コミで広げたくなるもの、そうではないものの基準も難しく、不確定要素が多いので、マーケティングで口コミ数を伸ばそうとするよりも、手に取った人が確実に喜ぶ商品を作り続けることが重要だと考えている。ただし、SNSで拡散してくださる人がいることを想定し、誰かに伝えたくなるポイントをあらかじめブランド側で用意しておくことは最低限できるはず。
Mr. CHEESECAKEと顧客のつながりを作ることももちろん重要だが、チーズケーキを購入したことのある人が誰かに伝えたくなる状態を作らないと、コミュニティもできないと思う。ブランドを意識してくれる人をいかに増やすかが重要で、ほかよりも圧倒的に突き抜けていなければ比較対象にも話題にも上らない。だからこそ、今後ももの作りを頑張っていきたい。
自分にとっての「ファン」の解像度を上げることが大切
黒澤 友貴さん
ファンを意図的に作ろうと考えたことはないが、コミュニティは意図的に作っている。自身が主宰する「マーケティングトレース」は学習コミュニティと定義していて、アウトプットを出しやすいようにフレームワークのワークシートを用意する、誰かが作ったアウトプットにはすぐ反応するなど、コミュニティに参加しやすい仕掛けを設けている。型に沿ってアウトプットを出すとフィードバックがもらえるので、学習を継続しやすく、コミュニティ全体の学びの質も上がると考えている。
自身の作りたい世界観を考えることにもつながるので、自分にとってのファンや意味のあるフォロワー、思いを伝えたい人は誰なのかを特定すると良い。ファンという漠然とした言葉で考えるのではなく、顧客を深く知ろうとしたり、コミュニティの空気感や熱量を把握しに行ったりして、良い商品やブランド作りに活かすことを忘れないのが大切だ。
企業は「ちょっとしたファン」にもアプローチを
いいたか ゆうたさん
自分たちが支援する企業には、いつも「良いものを作ってほしい」と伝えている。口コミは自然と発生するもので、意図的に出すのは難しい。重要なのはやはり、「何を作りたいのか」「誰に届けたいのか」だと思う。
ファンの中には階層がある。ユーザーは日々いろいろなものを購入するため、「常にそれでなければならないもの」は限りなく少ないはず。企業はユーザーの購入頻度を上げることに意識を向けたほうがいい。
「意味のあるフォロワー」の定義は人によって異なると思うが、自分にとっては、マーケティング以外にサッカーや自分の体調のことをつぶやいても、それをノイズと感じない人、または自分自身の行動や取り組み事態に興味を持ってくれている人。単純にフォロワーを増やすなら、一つのテーマに軸を絞ってツイートしたほうが確実だが、「自分が伝えたいのはそういうことではない」との思いがある。
商品を何回購入すればファンなのか、定義はない。例えば10回購入すればファンと言えるとしたとき、1回~9回購入した人たちはファンではないのか。そうではなくて、ファンの中には「ちょっとしたファン」もいるので、企業はもっと彼らにアプローチし、寄り添うべきだと思う。
セッション「プラットフォームをハックせよ!事業を急加速させる次の一手」
このセッションでは、モデレーターの佐藤俊介さんがYouTube専門家ママのなーちゃんさんに、企業がYouTubeに参入する際に取り組むべきことや、動画制作時に意識すべきポイントなどを伺いました。
▼登壇者(順不同)
YouTube専門家ママ なーちゃんさん
トランスコスモス株式会社 取締役 上席執行役員兼CMO 佐藤 俊介さん(モデレーター)
参入したいジャンルの動画を徹底的に研究すること
なーちゃんさん
YouTubeはここ2~3年でプレイヤーがかなり多くなり、レッドオーシャンのジャンルも増えてきた。参入の余地があるジャンル、飽和状態でもポジションの空いているジャンルはまだある。どのジャンルであっても参入するには明確な目的やターゲット、戦略が必要で、ポジションを獲得するには視聴者のニーズを満たす動画を作ることが重要。
YouTubeをこれから始めようと考えているなら、参入を検討しているジャンルの動画をとにかく見ること。メイク系なら照明、料理系ならカメラなど、ジャンルによってこだわるべきポイントが異なり、動画を数多く視聴して研究することでつかめるようになる。
企業のYouTube活用法
企業がYouTubeチャンネルを運用する際の目的は、認知と集客に大きく分けられる。一般的には公式チャンネルとして企業名を出す運用方法がイメージされやすいが、演者を起用して企業がスポンサーになるような方法もある。企業がスポンサーになっているチャンネルでは、概要欄から企業のWebサイトに遷移できるようになっていたり、動画の中でその企業の商品がさりげなく登場したりすることが多い。
マネタイズする方法は広告収益以外に物販があり、自身がプロデュースした商品を販売するYouTuberもいる。ある企業がプロテインを販売するために作ったチャンネルでは、筋トレの動画を配信し、20万人を超えるチャンネル登録者数を獲得している。概要欄に公式サイトへのリンクを記載し、サブスクリプション形式でプロテインを販売しており、利益を上げていると聞く。
YouTubeはマスを狙いにくいプラットフォームで、チャンネルはターゲットを狭めて作る。ターゲットと商品がピタリとはまれば、もともと興味関心の高い視聴者がチャンネルに集まっているため、商品も売れやすい。
一からチャンネルを作って伸ばしたり、インフルエンサーを育成したりするのは難しいため、もの作りに長けている企業は、すでに人気のあるインフルエンサーと手を組み、オリジナル商品をプロデュースすると良い相乗効果が生まれるだろう。
今日から使えるYouTubeテクニック
すでに動画制作を始めている人は、以下の点を意識すると良い。
- 動画の構成を問題提起→解決とし、動画の中できちんと解決案を提示する
- BGMや雑音、セリフなど、音に気を付けて聞き心地の良い動画にする
- スマホ視聴者を意識し、テロップは大きめにする
- きちんと照明で明るくする
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