「マーケティングトレース」とは、企業のマーケティング戦略をフレームワークに落とし込んで分析し、言語化や図解をしながら思考力を鍛えるトレーニング手法です。SNSを情報収集経路の一つにしているマーケターなら、マーケティングトレースという言葉を一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
そのマーケティングトレースを考案し、コミュニティを運営しているのが、ブランディングテクノロジー株式会社 執行役員 経営戦略室 室長の黒澤友貴さんです。黒澤さんはマーケターとして感じていた課題の解決方法を模索するうちに、マーケティングトレースの実践に至り、今では生活の一部となるくらいルーティン化しています。
マーケティングトレースを継続すると、マーケターの実務にどのような効果があるのでしょうか。継続的に取り組むコツなども含めて、お話を伺いました。
(取材・文:Marketing Native 編集部 佐藤綾美、撮影:稲垣純也)
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専門性のなさに焦ることが多かった
――今回、黒澤さんにインタビューをお願いしたのは、株式会社ホットリンクの飯髙悠太さん(※1)より「Marketing Innovatorで紹介するのにふさわしい方」とご推薦いただいたからです。飯髙さんと黒澤さんの関係は「ferret」での連載時(※2)からでしょうか?
不思議な感じです(笑)。飯髙さんがベーシック在籍時に一度お会いし、ホットリンクにジョインされた後、定期的にお会いするようになりました。たくさんお会いしているわけではないので、推薦していただき驚きました。後ほどお礼の連絡をしておきます。
※1:株式会社ホットリンク 執行役員CMOの飯髙悠太さん。「Marketing Innovator:02」 でご登場いただいた。
※2:「ferret」は飯髙さんが創刊編集長を務めていたWebメディア。黒澤さんも記事を執筆している。
――仲良くなられたのは、意外と最近なんですね。黒澤さんの革新的な活動と言えば、「マーケティングトレース」ですが、黒澤さん自身がこうしたトレーニングを行うようになったのはいつからでしょうか?
2016年くらいからです。最初はNewsPicks でニュース記事に対してコメントをすることから始め、企業の戦略を要約したり、自分の中で成功要因を言語化して吸収したりしながら無意識にやっていました。
黒澤さんがnoteに執筆した「マーケティングトレース(マーケターにとっての筋トレ)とは何かについて」はこちら
――トレーニングを始めたのは、どのような理由からですか?
「このままだと出遅れる」という危機感からだと思います。私は自分のことをゼネラリストと考えていて、エンジニアやデザイナー、データサイエンティストの方々と話すと、自分の専門性のなさに焦ることが多かったんです。「マーケターと名乗っているけれど、マーケターって何なんだろう」と。そこで、企画力や分析力、仮説力などで差別化を図る必要性を感じて、トレーニングを行うようになりました。
――黒澤さん自身はマーケティングトレースに必要な知識をどのように身に付けたのですか?
社会人になったばかりの頃から、MBAや経営の本で理論を学んで、そこからケーススタディを行い、クライアント企業の経営者との話の中で活かす…といったことの反復を意識してやっていました。
弊社は中小企業向けにデジタルマーケティングの支援などを行っているので、もともと新卒のときからクライアント企業の経営者などと議論する場が結構あったんです。デジタルマーケティングの中でもネット広告をメインで扱っていましたが、経営者にネット広告の話をしてもあまり盛り上がりません。また、ネット広告の運用だけで終わってしまうと、提供するサービスの質においてもバリューを出せないということもあり、経営戦略などを学ぶ必要性を感じて勉強するようになりました。
――マーケティングトレースに「自分がその会社のCMOだったら」という視点で考えるフローがありますが、そうした考え方も新卒当時からされてきたのでしょうか?
新卒のときはあまり意識できていませんでしたが、複数のクライアントと仕事をしていく中で「自分がその会社のCMOだったら」という視点も持つようになったと思います。
マーケティング部門が機能している企業とそうでないところ、マーケティングの力を活かせている企業とそうでないところの違いは何かというと、CMOと名乗っていなくても、それに似た役割の存在がいるかどうかです。そのことを複数のクライアントを比較する過程で理解したので、CMOや似た役割の存在がいない企業には、自分がその立ち位置で関わるようにし、存在する企業については、その人をもっと動きやすくさせるにはどうすれば良いかを考えるようになりました。
――マーケティングトレースの「トレース」という言葉には、「模倣」のようなニュアンスも含まれます。トレーニング方法を表現するにあたって、例えば「構造化」などの言葉もあり得たと思うのですが、「トレース」という言葉をあえて選んだのはなぜでしょうか?
私自身は「トレース」に含まれる「模倣」という意味合いをポジティブに捉えていて、それを反映させるために使ったとも言えます。
例えば、私が教科書として使う『模倣の経営学』(井上達彦著、日本経済新聞出版社発行)にも「革新的なビジネスモデルは模倣から生まれる」とありますし、「アイデアは既存の要素の組み合わせ」(※3)というのも、よく言われていますよね。自分のようにオリジナルを作る力が弱い人がビジネスで生き残っていく上では、いい模倣ができるかどうかがとても重要だと思っています。
まずは、頭の中に既存の良質なビジネスモデルをストックし、次第にその量を増やしていくことが大切だと考えているので、そうした意味を込めてトレースという言葉を使っています。
マーケターにとってのトレーニングを最初に考えたとき、戦略思考を鍛えるにはMBAを学ぶくらいしか思いつかなかったんですよね。そんなときにデザイナーがやっているUIトレースを見て、「マーケティングトレースという言葉を使えば浸透しやすいだろうな」と考えたのも、理由の一つです。
※3:『アイデアのつくり方』(ジェームズ・W・ヤング著、今井茂雄訳、CCCメディアハウス発行)という書籍で、著者のジェームズ・W・ヤングは「アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」と語っている。
――見事に浸透されていますね。
完全に名前勝ちです(笑)。「マーケティングトレースより『マーケターの筋トレ』のほうがいい」と言ってくれる方も多いですけどね。
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