「なるほど」と何度も膝を打つお話でした。ネスレ日本 専務執行役員CMO、石橋昌文さんのインタビューです。
スイスに本社を置くネスレは、「ネスカフェ」や「キットカット」など有名な商品を数多く取り扱う世界最大の食品・飲料会社です。ネスレ日本はネスレグループの日本法人で、石橋さんはCMOとして事業を強力に推進していく重責を担っています。
ネスレ日本の高収益を支えるのは、他の多くの日本企業とは異なる徹底したマーケティング・ファーストの組織形態と思考法にありました。
今回はマーケティング業界の「気は優しくて、力持ち」、ネスレ日本 専務執行役員CMOの石橋昌文さんに「成果を上げるためのマーケターの思考法」を中心に話を聞きました。
(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、人物撮影:稲垣 純也)
※肩書、内容などは記事公開時点のものです。
目次
マーケティング・ファーストに貫かれた組織形態
――以前からぜひ一度、お会いしたいと思っていました。理由はネスレ日本さんがマーケティングに非常に注力されている会社だと伺っていたからです。なぜ社を挙げてマーケティングに力を入れているのでしょうか?
CEOの高岡(浩三社長)が「経営は『マネジメント』と訳されているが、『マーケティング』と言い換えられるべきである」と常々言っておりまして、ネスレグループでは各事業部がそれぞれマーケティング組織になっています。
例えば、「ネスカフェ」を扱っている飲料事業本部、「キットカット」を扱うコンフェクショナリー事業本部などは、それぞれ事業部であるとともにマーケティング部門です。事業部ですから、売り上げと利益目標を達成するために、製品のイノベーション・リノベーション、消費者コミュニケーションを大きな柱として事業を推進しています。その設計図となるビジネスプランを作成し、実行するのがマーケティングの役割です。
それを縦軸として、横軸には各事業部をサポートしていくファンクショナルユニットを置いています。製造、営業、サプライチェーン、購買、ファイナンス、人事・総務、法務、そして私が所属しているマーケティング&コミュニケーションズが横軸のファンクショナルユニットに当たります。
――日本では営業や製造の中にマーケティングの部署が置かれている企業が一般的なようです。ネスレさんの組織形態はかなり異色ですね。
おそらく日本の企業とかなり違うと思います。ただ、我々からするとこれが本来の姿で、海外のネスレも同じような組織形態で運営しています。要するに、マーケティングがビジネスをドライブしていくということです。
――マーケティング・ファーストですね。
逆に日本企業の方々と話をしていて腑に落ちないのは、先ほどの質問のように製造や営業の中にマーケティング部門があり、マーケティングの定義が広告や調査、製品開発といった狭い範囲にとどまっているように見えることです。そこは我々からすると、「なぜなのかな?」と感じます。
もっとも、理由は大体わかっています。日本はこれまでものづくり中心、商品ありきで来ましたから、まず技術があり、良いものを作ることが先で、作った良いものをどのように売るかを考えるのがマーケティングの仕事だ、という認識で成長してきたからです。
以前、私がこの組織形態の話を日本の大手企業に勤める知人にしたところ、「ネスレってメーカーでしょ?なぜ製造が真ん中じゃないの?」と驚かれたことがあります。それで私が知人に「製造って、ものを作るだけですよね?」と言ったら、さらにショックを受けて、「ものを作るのがメーカーの仕事じゃないか」と言うので、私は「消費者のニーズがどこにあり、自社の商品とサービスがお客さまのどのような問題解決につながるのかを考えた上で、そのアイデアを商品づくりやサービスの開発に落とし込むのが本来の順番ではないですか」と返したんです。そこで議論は終わってしまったのですが、マーケティングが中心に来るという発想は、いまだ理解されないことが多いようです。
顧客の潜在的な問題を発見する難しさと重要性
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