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インタビュー

1200億円の巨大なプラットフォームでいかに変革を起こし、戦っていくか? 株式会社ディノス・セシール 石川森生さんインタビュー(前編)

最終更新日:2023.05.31

ディノス・セシール CECO

石川 森生

画期的な戦略でEC業界を席巻し、各方面から熱い視線を浴びている人物がいます。それが、カタログ通販大手の株式会社ディノス・セシールでCECO(Chief e-Commerce Officer)を務める石川森生(いしかわ・もりう)さんです。石川さんは2016年にディノス・セシールに中途で入社し、同社のEC事業を強化するべく多様な改革を打ち出してきました。石川さんが取った施策の何が凄いのか?ディノス・セシールが誇る売上高1200億円という巨大なプラットフォームの中で、どのように変革を起こしてきたのか――?

今回はディノス・セシールのキーパーソン、石川さんのインタビューを前編と後編の2回にわたり、たっぷりとお届けします。

(取材・文:Marketing Native編集部、人物写真:稲垣純也)

目次

2年間の運用改革を経てデジタルマーケティングの施策に着手

――何かと注目されている石川さんですが、あらためてお聞きしたいことがいくつかあります。まず、ECサイトの運用に関してですが、最も力を入れた施策は何ですか?

ECの運用方法自体を2年がかりで変えたことが大きいですね。

カタログ通販業界全体では緩やかにシュリンクが始まっていると言われていますが、おかげさまでディノスのWebの売り上げ自体は伸長基調で、EC自体は軌道に乗っていると思います。

このようにECが軌道に乗っている一番の要因は、マーケティングの成果というわけではなく、実は「運用改善」なんです。当社はカタログ通販の会社なので、例えば、ファッション部門はファッションのカタログを専門で制作し、そのほか、リビング、美容健康、食品といった部門があり、各部門がそれぞれのカタログを制作しています。そのため、以前は各部門が各事業PLを追いかけているという構図になっており、組織を横断するという概念が生まれづらい環境でした。Web担当者もそれぞれの部門に所属していました。

そのような状態でディノスという一つのサイトを運営する場合、例えば「クリスマス特集を立ち上げましょう」となったときに、部門ごとに複数のクリスマス特集ができてしまいます。そうすると、制作コストにおいても、SEOの面でも無駄が発生してしまいますし、ディノスとして一つのまとまった提案になっていないので、お客さまにとっても親切ではありません。そうした状況を受けて、私がディノス・セシールに入社して最初に行った仕事は、分散していた会社のWebリソースを一旦まとめて、EC本部という部門を立ち上げることでした。

EC本部は各事業部門にいたWeb担当者が集まった組織で、ディノスとセシールを合わせて100人近いチームです。各部門が別々に特集ページを立ち上げて商品を販売していたものを、EC本部が統括してWeb上でお客さまにオファーを出す形式に変えました。そのために特集を立ち上げるタイミングとオファーの内容をMD(マーチャンダイザー)に伝え、当てはまる商品をエントリーしてもらうようにしたのです。その結果、それまでバラバラだった特集が一つになり、売り上げもまとまって山が大きくなりました。成果が出始めると、今度は山が大きくなっているタイミングで「別の施策を打ち出してみよう」という攻めの発想がどんどん湧いてきます。

具体的にはメルマガの送り方、特集を打ち出すタイミングの取り方、日々追いかけるべきKPIの見方など、「カタログ通販の受注ツール」としてだけではなく、EC単独の事業としても成立するようにビジネスのスキームを変えました。結果的にそれが成果につながり、同じリソースでも効率的に運用すれば売り上げは伸びる、ということが事業部門全体に共通認識として浸透しました。その段階に至るまでに結局2年ほどかかっています。

ECの運用体制は整いましたので、ここ1年でデジタルマーケティングの施策に着手しています。例えばMA(マーケティングオートメーション)ツールを導入したり、サイト内検索にAIを利用して精度を高めたりすることです。

中でもMAツールが稼働し、成果を出し始めている点に注目しています。弊社のMAツールには「Salesforce」を採用していますが、現場のメンバーに「適切なタイミングで適切なオファーをお客さまに対して行うことで、購入につながる」というノウハウが蓄積された後に導入しました。MAツールでは、接客を自動化するルールである「シナリオ」を設計、設定する必要があります。例えば、お客さまがカートにアイテムを入れたまま、未購入となっている場合にメールを送信する「カート放棄」のシナリオなどが、一般的によく知られています。弊社では、そうしたベストプラクティスだけでなく、商品ごとにある「勝ちパターン(商品が売れるパターン)」をシナリオとして自動化しています。商品数も多いので、これから短期間のうちに日本で最もシナリオが動いている状態を目指しています。

▲「勝ちパターン」の例

「勝ちパターン」の例として、弊社で販売しているスティッククリーナースタンドを挙げましょう。この商品は自立しないスティッククリーナーを立てるためのもので、価格は1万円程度です。スティッククリーナー自体の価格が数万円程度と掃除機としては比較的高価なため、スタンドを初めからセットで購入する方はあまりいません。ところが、スティッククリーナーを購入してから数週間後にスタンドをメルマガなどで提案すると、購入に至るケースが数多くあります。それは、例えばユーザーが購入したスティッククリーナーを何度か倒すということを経験し、スタンドの必要性に気がつくからです。しかしながら、スティッククリーナーを購入したお客さまのデータを抽出し、逐一メルマガを送るのは手間がかかります。「手間さえかければ売り上げを上げられるのに…」となった状態からシナリオとして自動化することで、初めてMAツールを使いこなすことができると考えます。

デジタルマーケティングとアナログの融合施策で得た実感と課題

――はがきのDMを24時間以内に自動的に送付するシステム(※1)も印象的でした。まさにデジタルマーケティングとアナログ施策の融合ですよね。テスト段階で、Webのみの施策と比較して購入率が約20%向上したとのことでしたが、逆に課題に感じた点はありますか?

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記事執筆者

Marketing Native編集部

Marketing Native(マーケティングネイティブ)は株式会社CINC(シンク)が運営しているメディアです。 CMOのインタビューやニュース、Tipsなど、マーケターに役立つ情報を発信しています。
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