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インタビュー

あと払い「ペイディ」の戦略とマーケティングの最高責任者が語る「好奇心を失わず、自分を飽きさせない工夫と挑戦」――コバリ・クレチマーリ・シルビア

最終更新日:2026.10.26

The Marketing Native #61

Paidy CSO & CMO

コバリ・クレチマーリ・シルビア

スマホひとつで手軽にあと払いができる「ペイディ」(サービス名、社名は「Paidy」と表記)。2014年のサービス開始以降、手続きの容易さなどが好感されて着実にユーザー数を伸ばし、現在では1,300万アプリダウンロードを超えています(2024年2月28日現在)。

そのPaidyでCSO(最高戦略責任者)とCMO(最高マーケティング責任者)を務めるのがハンガリー出身のコバリ・クレチマーリ・シルビアさんです。

まだまだ「現金主義」の多い日本で、シルビアさんはどのようにペイディのシェアを拡大しようとしているのでしょうか。今回はPaidyのコバリ・クレチマーリ・シルビアさんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)

目次

競合は現金。日本人の「現金主義」に行動変容を

――シルビアさんがどんな方なのか、どういう経緯でPaidyに入社されたのかを教えてください。

私はハンガリー出身で、幼稚園の頃に折り紙が好きになったことをきっかけに日本の文化に興味を持ちました。最初は外交官を目指していたのですが、心境の変化でビジネスの世界に進むことを決め、東大卒業後は広告代理店に戦略プランナーとして入社しました。その後、ニューヨークに渡ったり、イギリスの大学でMBAを取ったり、Netflixで働いたりして、Paidyには2019年12月にジョインしました。私のキャリアは基本的にストラテジストで、これまではグローバルで有名な国内外の大手・有名企業各社のビジネス戦略策定やマーケティングを担当してきました。

コバリ・クレチマーリ・シルビアさん

――すごい経歴ですね。

経歴はそう見えるかもしれませんが、私はむしろその時代ならではの面白い課題に挑戦してきたキャリアだと考えています。例えば私がNetflixに入社した当時はまだDVDが主流で、ビデオストリーミング、動画ストリーミングの時代が来るとは想像もしていませんでした。その状態でどのように日本の皆さんに行動変容を促してストリーミングの良さを伝え、Netflixのビジネスを成長させるのか。難しい課題ではありましたが、難しければ難しいほどやりがいを感じるタイプです。

Paidyに入るときも同様で、よく「ペイディの競合は何ですか?QR決済ですか?」と聞かれるのですが、ペイディの最も大きな競合は現金です。

――ペイディの競合は現金ですか。

はい、断言していいと思います。日本の皆さんは現金が大好きで信頼もしています。そんな生活者たちにキャッシュレス、しかもペイディのような「Buy Now Pay Later」(バイナウペイレーター、BNPL=あと払い)という新しい決済手段を浸透、定着させるのは大変なことです。でも私は、そういうある種の“文化”や“習慣”を変えて、ユーザーの意識や行動にペイディを追加するいう大きな課題に挑戦することをとても興味深く思います。それがマーケティングの醍醐味です。

――CSO&CMOを務めているとのこと。重責だと思いますが、具体的にどういう仕事をしているのですか。

マーケティングというと、プロジェクトの工程の最後のほうに位置するプロモーションだけを担っているイメージがある人もいると思います。しかし、私はCSO&CMOとして顧客体験全体の責任者を務めていますので、上流から下流まで、つまりプロダクトのアイデアや戦略設計からプロモーションまで主体的に携わって、生活者の皆さまの態度変容、行動変容につなげて、ビジネスの成長に貢献するのが役割です。上流から下流まで一気通貫に全部責任を持って取り組めるから、マーケティングにおいても認識のブレなく、十分に力を発揮して、良い結果が出せるのだと思います。ですからペイディというプロダクトの戦略立案からエグゼキューションまで全責任を取る形で毎日楽しんで仕事をしております。

コバリ・クレチマーリ・シルビアさん

認知獲得のために注力する3つの施策

――現在アプリが1,300万ダウンロードまで来たとのこと。とはいえ、まだペイディのことを知らない人も多いと思います。認知獲得のために主にどんなことを行っていますか。

主に3つの手段を講じています。1つめはテレビCM。流す時期があったりなかったりしますが、年間を通して定期的に流しています。おっしゃる通り日本では認知が低いと、ブランドやサービスに対する信頼度もなかなか獲得できないですし、テレビも他の先進国と比べるとまだまだ力があります。

ただ、我々としては戦略的にいろいろな媒体に投資するようにしています。理由は、認知度を上げれば質を問わないわけではなく、信頼につながる認知獲得が重要と考えているからです。その観点で2つめに投資しているのがコンシューマーPR(※)です。

※コンシューマーPRの例:「みんなの推し活大調査 2023年」
https://corp.paidy.com/news/article/45YFdnJDoTAAXkI4CIthHY

PRなので、お客さまの興味関心事に基づきながら長期的に多様なアングルで良いコンテンツを作成できますし、大型ポータルニュースをはじめニュースサイトや雑誌にピックアップしてもらえます。ですから、例えば「Z世代の買い物トレンド」ならZ世代がよく目にするメディアに取り上げてもらえるように、コンテンツのテーマ、内容を工夫しています。名前を連呼してブランド認知を上げても共感は得られにくいもの。「ペイディは私にピッタリだな」という共感や信頼をユーザーに持っていただくためにも、コンシューマーPRへの投資は重視すべきと考えます。

3つめはソーシャルです。ペイディのユーザーの年齢層は幅広く分布しますが、メインはやはり20~30代。ソーシャルには必然的に注力せざるを得ません。これも日本のユニークさではありますが、X(旧Twitter)が日本ではまだ元気です。ほかにもTikTokなど注目のSNSがいくつかありますから、クリエイティブ、コンテンツなどアジャイルにPDCAを回して、結果を見ながら次の投資先を判断することを繰り返しています。結局、マスマーケティング、コンシューマーPR、ソーシャルの3本柱は今までも、そしてこれからも注力していく方針です。

――次にペイディの将来性について聞きます。PayPayがローンチ5年で6,000万ダウンロードとのこと。ペイディは今、1,300万ダウンロード。ペイディは今後、PayPayのようにユーザー数を伸ばしていけますか。もし伸ばしていけるとすれば、何が決め手になるとお考えですか。

他社のことはわかりませんが、我々もまだ毎年2倍くらい成長していますので、今後も大きく伸びる余地はたくさんあると思います。一方、2年ほど前から「ペイ疲れ」という言葉が聞かれるようになりました。決済手段がたくさんあふれているので、ユーザーの一部に「選べない」「ちょっと距離を置きたい」という感情が出ているのかもしれません。それはあまり良い状況ではなく、最終的には決済手段は淘汰されて、もっと少なくなると予測しています。

その中で生き残るには何が必要かというと、ユーザーの生活に本当に価値のあるサービスかどうかだと思います。価値にはいろいろあります。我々ペイディもBNPLというポジションや、分割手数料がかからない分割あと払いなどユニークな特徴を軸に成長を続けていますので、これからも買い物するときの手続きにまつわる面倒くささを1つずつつぶしていって、よりスムーズな顧客体験を得られるようになっていけば、それがお客さまに選ばれる決め手になると考えています。

――「面倒くさくない」「便利で使いやすい」という特徴を追求することがサービスの価値、便益になるとして、追求していくと。

そうですね。アイデアはたくさん上がってきます。でも、本当にお客さまにとって価値があるのか、買い物にまつわる面倒くささを本当につぶしているアイデアなのかなど、我々は厳しく精査しています。これからアタックしたい領域はたくさんありますので、日本における買い物のニュースタンダードとしてペイディを進化させていきます。

コバリ・クレチマーリ・シルビアさん

好奇心を失ったり、飽きないためにしていること

――わかりました。次に会社のことについてお聞きします。Paidyは日本の会社ですが、Webサイトを見ると、多国籍な社員構成に驚きます。日本の会社なのに多国籍という点で、日本人にはない視点で物事を遂行できるメリットや、日本人の心や文化が理解しづらいなどのデメリットがあると一般的には考えられると思いますが、実際はどうですか。

Paidyには今、約40カ国から社員が集まっていて、私もこんなにダイバーシティのある会社で働いたことはありません。確かにいろんな国から集まっていますが、共通点が1つあります。それは皆さん、日本のことが大好きだということです。おっしゃる通り、日本人の心を日本人のようにはわかっていないかもしれません。でも、日本が好きだから日本に来たわけですし、日本や日本人のいろんなことを知りたいのです。知りたいから、日本人とは別のアングルから物事を見て、たまに日本人以上に日本人のことを理解する瞬間があるかもしれません。そこがPaidyの強みで、ダイバーシティがイノベーションの源泉になっていると信じています。

一方、デメリットを感じたことはそんなにないのですが、やはり暗黙知の世界はないですね(笑)。私が当たり前と思っても、例えば隣のインド人は当たり前と思っていないので、説明する必要があります。しかし、説明することによって、新しい発見があり、さらなるアイデアにつながることがありますので、暗黙知の世界でスムーズに進むことはなくても、互いにコミュニケーションを取る過程で実はもっとスムーズに、深く進行することは可能と信じています。だからそんなにデメリットは感じません。

――ありがとうございます。次に、シルビアさんがこれまで世界でいろんなタイプの人と働いてきて、優秀なマーケターだと思う人の特徴や条件はありますか。

好奇心のある人です。好奇心を失うと、新しいことが見えなくなってきます。今までのやり方で結果が出てきたわけだから…と考えて、レイジーになる人が多いと思います。でも、それでは猛スピードで変化する今の時代に対応するのが難しくなってしまいます。そうではなく、旺盛な好奇心を持たせ続けて、世の中でなぜこんな流行が起きているのか、人が何を考えているか、なぜそんな行動を取るのかなどに常に敏感でいられる人が優秀なマーケターの基本条件ではないでしょうか。

――それが難しいんですよ。年を取ったり、同じことを繰り返したりしていると、枯れていく人が多い気がします。シルビアさんは好奇心が枯れないように、レイジーにならないように心がけていることはありますか。

いっぱいあります。例えば、チーム作り。私は自分より何かしら優秀なところを持つ人を採用して、切磋琢磨、刺激し合いながら互いに向上できるように努めています。マネージャーの中には、自分の地位を追われることを恐れて、自分より優秀でない人を採用する人もいますが、自分がいつまでもリーダーでいられるような仕組みづくりは、結局ものごとが失敗する原因になると思います。

もう1つあって、これは戦略プランナーとして仕事をし始めたときからしているのですが、カメラが好きで、カメラのフレーム、ファインダーを通して物事を見ると、いろいろな発見を得られることがあります。例えば、通勤時に同じ道を通る際、今日のテーマを決めます。いつも楽しいテーマではなく、ある日は「憂鬱」にしたとします。その憂鬱がどう写真に残るかで、同じ道を通っているのに全然違う目で物事を見ていることに驚きます。それが仕事でも重要で、毎日同じことをして、同じ目で見ていても、新しい発見がないとアイデアも得られにくくなります。自分の感覚をより研ぎ澄ますためにも、テーマを決めて毎日の風景を写真に収めることは私にとって効果的です。

もともと私は多趣味ですが、趣味を追求するのは大事なことです。仕事にしか興味のない仕事人間になっても、人間として視野が狭くなりがち。それでは好奇心を幅広く持ち続けることも難しいのではないでしょうか。だからチームの皆さんにもたくさんの趣味を楽しむよう促したり、サポートしたりしています。

コバリ・クレチマーリ・シルビアさん

常に挑戦して、自分も周囲もポジティブでハッピーに

――シルビアさんのようになりたいと考える若手マーケターにアドバイスはありますか。

好奇心を持つことと、一生学ぶことですね。人生100年時代と言われますが、ポジションがいくら上がっても日々勉強ですし、優秀な部下たちを通して学ぶことができます。あとはプライベートでも好奇心を持って学び続けることで、人生をより豊かにできますので、それも重要だと思います。

――シルビアさんが日常生活で勉強していることは何ですか。

いろいろありますが、この1年ほどハマっているのがクラシックバレエです。子どもの頃からバレエに憧れてはいたのですが、踊ったことはありませんでした。最近になって、近所に有名なバレエカンパニーのスタジオができたので、今こそチャンスと思い、入学しました。

「スワンレイク」(白鳥の湖)という有名な曲が典型ですが、白鳥は優雅に水面を移動しているように見えて、実は水面下で一生懸命足を動かして泳いでいます。バレエダンサーも同様で、優雅に見えるけど、実は身体とメンタルをものすごく強く鍛えないと踊れません。でも表向きには、優雅でしなやかな、余裕のある動きに見せなければならないのです。

これは仕事にも通じる話だと思います。プレッシャーがかかったり、ピンチに陥ったりする場面はありますが、そこで必要以上に頑張っている感をアピールしても周囲は疲れてしまいます。特にリーダーは、バラバラになりそうなメンバーの気持ちをまとめるためにも、力強さと優雅さを兼ね備えた動きで、みんなを安心させて余裕を持たせることが求められます。クラシックバレエの強さと優雅さの絶妙なバランスの世界に浸りながら、「仕事にも活かせるところが多いな」と感じて、学んでいるところです。

――それでも成果が出ないときがシルビアさんにもあると思います。そんなときのメンタルの持ち方、上げ方で意識していることはありますか。

これは日本のユニークさだと思うのですが、仕事でもプライベートでもどうしても悪かったところ、できなかったところに焦点を当てがちです。例えば、ピアノを弾いたときも、合気道や居合道の稽古をしていたときも「あそこがダメだった」「ここをもっと練習したほうがいい」とダメ出しばかりされていました。もちろん、それも重要なことです。

一方、ニューヨークに渡ったときは、アメリカ文化の特有さと思うのですが、何でも素晴らしい、そこそこの出来でも「Good job!」「Great!」と言うのです。それも良し悪しで(笑)、どっちもどっち、一長一短だと思います。私は自分やチームに成果が出ないときは冷静に事態の把握に努めて、何が起きているか、どこに課題があるかを振り返るようにしています。振り返ってみて、たとえ数値進捗としての成果が良くなかったとしても、プロジェクトを通して良かったことや、昨年や一昨年と比べて進化したこと、成長したことを見つけだして、みんなで称賛し合います。それは非常に重要だと思っていて、「以前は5の力しかなかったけど、今では8までできるようになった」「目標の10まではあと一息だ」と互いに確認し、認め合うことでモチベーションアップにつながります。だからそこは意識的にやりますし、チームでも実行するように促しています。もちろん、できなかったことも事実なので、例えば来期はどうするのか、何をどう改善すべきかについても、きちんとレビューしながら次につなげることは同時に行います。

――最後に、これからの夢や抱負を教えてください。

仕事面ではPaidyで、「シルビアがいたからこそできた」「シルビアがいなかったら、ここまで来るのは無理だった」と言われることを実現したいと思います。仕事の成果に限らず、チームでの存在や、女性の活躍をメンタリングしていることなどを含め、相手に「シルビアがいて良かった」と思ってもらえると、私もとてもうれしくなります。

もう1つは、好奇心が強いので、幅広くいろいろとトライしていきたいですね。好奇心があるから新しい発見がありますし、発見があるからやりたいことや課題も出てきます。これから40年、50年と、好奇心強く、いろんなチャレンジができると、楽しい人生になるのではないかと期待が膨らみます。

――挑戦することが好きなんですね。

はい、新しいことへの挑戦がすごく好きですね。例えば、日本の皆さんと違って、子どもの頃、水泳を習ったことがなかったので、水が怖くて、ずっと泳げなかったんです。なぜ泳げないんだろう、このままでは嫌だと感じて、昨年からレッスンを受けて、今では泳げるようになりました。そんなふうに未知の世界でも努力して、挑戦していけば、いろんなことができるようになって、自分の人生がもっと充実してくると思うのです。それで私がハッピーになれれば、周りの人たちのこともハッピーにできると信じていますので、そういうポジティブなサイクルをつくりたいです。今の世の中、ネガティブニュースが多くて寂しくなるときが誰しもあると思います。だから私個人としては、よりポジティブなニュース、ポジティブなエネルギーを発散して、周りを幸せにするのが夢ですね。

――本日はありがとうございました。

コバリ・クレチマーリ・シルビアさん

ペイディ
スマホだけで欲しいものを今すぐ購入できて、お支払いは「まとめてあとから」行える「あと払い(Buy Now Pay Later)」サービス。シンプルなUX、翌月一括あと払いまたは分割手数料無料*1の3・6・12回*2あと払いで支払いが可能な利便性、スマホで賢くお金の管理ができる点などから、自分らしく使える「自由なあと払い」として多くの人に利用されている。使えるお店は、Amazon、SHEIN、DMMなど70万店舗以上。

*1 口座振替・銀行振込のみ分割手数料無料。
*2 「6回あと払い」「12回あと払い」は一部の加盟店で提供。

https://paidy.com/

Profile
コバリ・クレチマーリ・シルビア
株式会社Paidy CSO&CMO。
ハンガリー出身。東京大学教養学部卒業後、ストラテジストとしてJWTに入社。2006年アメリカ本社に転勤し、以降ニューヨークと東京を拠点に5大陸のFortune 500及び日系大手企業の事業戦略・マーケティング戦略を手掛けてきた。その後Hult Ashridge 大学でMBAを取得、電通を経て世界4大会計事務所のひとつアーンスト・アンド・ヤング(EY)に入社、2017年に日本に戻る。Netflixを経て、2019年12月から現職。業界をリードするあと払い(BNPL)サービス「ペイディ」を展開するPaidyにおいて、CSOとして最高戦略責任者を担うほか、CMOとしてマーケティング、PR、UXデザインの全てを統括する。株式会社マクロミル社外取締役のほか、全国のVCおよびベンチャー企業への投資関連活動を行う企業で働く女性が繋がり互いに協力し合うためのコミュニティ・一般社団法人Tokyo Women in VCではキャシー松井らと共にメンターを務める。共著に『スタートアップ・ニッポン 最高に明るい未来を創る10のヒント』(ダイヤモンド社)がある。

 

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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