東京・祖師ヶ谷大蔵に新しくオープンした工房併設型のパティスリーが話題のMinimal – Bean to Bar Chocolate -(以下Minimal)。
デジタルへの全振りを余儀なくされたコロナ禍も一段落し、取締役COOの緒方恵さんらが積極的な出店計画とマーケティング戦略をリード、顧客とのリアルな接点の充実化に取り組んでいます。
Minimalはなぜ熱心なファンに支持され続けるのでしょうか。みる兄さんの「キーパーソン深掘り」第3回。今回はMinimalを運営する株式会社βace取締役COOの緒方恵さんに話を聞きました。
(構成:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)
目次
店舗は非合理で感動を最大化、ECは合理化で収益を最大化
みる兄さん 緒方さんを初めて知ったのは、緒方さんが東急ハンズから転職される前後の2015~2016年頃のことです。当時の私はプロダクトマーケティングの担当から事業側に移って、オウンドメディアや公式SNSの立ち上げに取り組んでおり、参考になる記事を探しているときに緒方さんの存在を知りました。
緒方さんのお話はSNSだけを取り上げるのではなく、ECと店舗におけるSNSの役割を解説していて、当時から今で言うDXの体現に取り組んでおられました。その後、緒方さんが違う業界である中川政七商店に転職されてからも基本的には同様の趣旨の話をしていらっしゃったと思います。だからこの数年、よく言われるDXをかなり先行して取り組んでこられたという印象です。
緒方 ありがとうございます。
緒方恵さん
みる兄さん その上で本日お聞きしたいのは、デジタルとリアルの両立についてです。コロナ禍にMinimalもビジネスモデルを大胆にデジタルにシフトしましたが、コロナが収まってきたため、店舗運営に重点を戻しつつ、デジタルとリアルの2軸を両立させようとしているように見受けられます。2軸のバランスをどのように考えているのかを1つお聞きしたい。
もう1つは、ロイヤルティの重視と事業成長や顧客拡大のバランスについてです。どちらにアクセルを踏むべきか、そのハンドリングがマーケティングの担当者には難しいところと感じますが、緒方さんはどのような戦略を立ててストーリーを構築しているのか、その点をお聞きできればと思います。
緒方 コロナの感染拡大に伴うデジタルシフトについては私のジョイン前の話ですが、あくまでもそうせざるを得なかっただけであって、基本的に我々はリアル重視です。今、店舗の数を増やしているのは、もともとの事業計画にあった出店計画を再開しているに過ぎません。
みる兄さん サブスクリプションを含めて、リアル以外にもデジタルという新しい柱ができたわけですが、この2軸の事業運営は当初の計画からすると難しさが出ているのか、それとも新しい良さを感じているのか、いかがですか。
緒方 強い軸が増えたことについてはメリットしか感じないですね。今現在、最も売り上げが多いチャネルはECですから、その意味でもコロナ前の想定とは違う形で進んでいます。
みる兄さん ECと店舗で役割分担というか棲み分けはしていますか。
緒方 そこは明確にしています。Minimalは体験を重視するブランドなので、相対的な優先順位はフィジカルタッチポイントのある実店舗のほうが上です。お客さまに直接食べてもらって「美味しい」と感じていただいている状態のほうが当然、我々のメッセージも伝わりやすくなりますし、親しみが湧きやすいです。
コロナでECにシフトするときに浮上した課題ですが、デジタルでコミュニケーションするとき、板チョコレートはサムネにするとただの四角い板に見えてしまいます。店舗ではまず食べてみてもらうことからコミュニケーションが始まるのですが、ECではそれができない。よって、まず目で見て美味しそうな商品を開発する必要があり、スイーツの種類が増えていきました。
今では店舗とEC、どちらも柱になっていますが、基本的には購入前に食べて美味しい、幸せだと感じていただくのが良いなと考えているので、フィジカルタッチポイントのある店舗のほうが優先順位は上になります。
また、商品を自宅で1人で楽しむだけよりも、店頭で接客を受けて食べながら楽しむ体験もしていただいたほうがブランドリフトします。そのため、店舗に足を運んでいただいた接点でのお客さまの体験価値をどう最大化するかがポイントであり、その実現のために店舗運営は合理ではなく非合理の発想で戦略を推進しています。
まとめとしては、店舗は非合理に運営して感動を最大化することをゴールに見据え、デジタルのECは合理化して収益を最大化することを狙っています。そんな役割分担ですね。
みる兄さん
全店舗異業態×ドミナント戦略
みる兄さん 「非合理」とは具体的にどんなことですか。
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