スタートアップのマーケティングを支援する「ビタミンゼミ」(※)のレポート第7回です。テーマは「Twitterを活用したマーケティング戦略」で、講師は株式会社ホットリンク 執行役員 マーケティング担当(CMO)兼IS責任者のいいたかゆうたさんです。
数あるSNSの中でもTwitterは拡散力が強く、企業の活用も進んでいます。しかし、Twitterの活用により認知や売り上げが上がった成功事例はあまり多く知られていません。その背景には、企業のTwitter活用に対する誤った認識があると言います。
今回は、Twitterを活用したマーケティング戦略を考える際の大切なポイントと事例、質疑応答の一部をご紹介します。
(取材・文:Marketing Native編集長・佐藤綾美)
※ビタミンゼミ:ビタミン株式会社が運営し、スタートアップ企業の経営者やCMO候補のマーケターがゼミ生として参加するコミュニティ。コミュニティへの参加は有料で紹介制。Marketing Nativeでは、月1回開催される「朝ゼミ」の内容を不定期でレポートしている。
※肩書、内容などは記事公開時点のものです。
目次
企業のSNS活用がうまくいかない4つの原因
講義の冒頭でいいたかさんは、昨今のSNSを取り巻く環境について解説しました。SNSユーザーは年々増えており、SNSをきっかけとした購買行動が起こるようになっていますが、認知や売り上げが向上した事例はまだ多くありません。企業のSNS活用があまりうまくいっていないのです。
いいたかさん(以下、いいたか) 企業のSNS活用がうまくいかない主な原因は、大きく4つあると考えています。
- SNSをマーケティング全体像の中で捉えられていない
- SNSのアカウント運用がゴールになっている
- SNSを企業の発信媒体という捉え方しかしていない
- 自社の特性に合った戦略、施策を選べていない
1つめがSNSをマーケティング全体像の中で捉えておらず、部分最適になっていること。2つめが、SNSのアカウント運用がゴールになってしまっていることです。アカウントの運用はあくまで手段であって、やるべきなのは売り上げを上げることです。
3つめに、SNSを企業の発信媒体という捉え方しかしていない点も大きいと思います。4つめに、自社の特性に合った戦略、施策を選べていない点も根深い問題になっています。
ブランドを中心とした全体最適の考え方の重要性
前提として、これからお話しする内容は、デジタルマーケティングを否定しているわけではなく、SNSが中心になった場合の購買行動についてです。
企業のデジタルマーケティングはAcquisition(認知や集客)やConversion(コンバージョン)、Retention(リテンション)などのためにやるべき施策がたくさんあるにもかかわらず、それを部分最適で頑張っているケースをよく見かけます。例えば、SEOやSEM、メルマガ、LINE、Twitter、Instagramなどそれぞれにおいて、総客数やCV(コンバージョン)数を見てしまっているわけです。そうすると、Twitter広告を出稿しているけれどCVが増えない場合に「それなら、(CVを獲得しやすい)SEMに予算を振ろう」といった改善をしがちです。
そうではなく全体最適にするためには、ブランドが中心にあり、各手段が外側にあるような考え方を持つ必要があります。例えば、Instagramで特定のコスメの良さを知ったことをきっかけとして、店舗で購入することがあるように、ユーザーはさまざまなプラットフォームを経由して購買を決定します。Twitter経由のCVRなど、最終出口だけを見てしまうと適切なマーケティングができないので、「間接コンバージョン」も考えることが重要です。
画像提供:株式会社ホットリンク
Attention(認知)を広げるポイントはUGC
消費者の購買行動モデルの一つに「AISAS(アイサス)」があります。リスティングやSEOなど最終CV施策への注力は、短期的には顧客獲得につながりますが、中長期的には「AISAS」のSearch以下がシュリンクすることがあります。例えば、リスティング広告で自分たちが獲得しているキーワードに多数の競合が入札してくると、CPCは高騰します。先細りのファネルになるとCPAが合わなくなるため、どちらかという極論ではなくAttentionを伸ばす施策にも注力することが大切です。
画像提供:株式会社ホットリンク
この際、Attentionの量だけではなく質も重要です。Attentionの質が低いと、ユーザーの態度変容を促すのが難しいためです。例えば、Twitterでフォロー&RTキャンペーンを行うとフォロワーは増えますが、キャンペーンの応募・当選目的で作成されたアカウントが多く含まれます。自身に置き換えてみるとわかると思いますが、自分のアカウントで「キャンペーンに参加しました」とあまりツイートしたくないですよね。
では、質高くAttentionを広げるためのポイントは何かというと、UGC(User Generated Content)です。UGCとは、「食べログ」のレビューや「アットコスメ(@cosme)」の口コミなどのことで、インターネットが登場し、掲示板にコメントを書き込むのが一般的だった時代からあります。
UGCが重要な理由と発生する2つの文脈
皆さんは1週間前に見たニュースを覚えていますか。おそらく、覚えていない人が多いと思います。インターネットやスマートフォンの登場によって、ユーザーは膨大な量の情報を受け取るようになっていて、「99%の情報は届かずに消えていく」と言われています。そうすると、情報は「誰が言っているか」が重要になってきます。
UGCが重要な理由は大きく3つあります。
- 企業が発信する情報よりも信頼性が高い
- 行動転換(態度変容)が起こりやすい
- ユーザーの共感を生むためシェアされやすく、多くの人に届く
また、UGCが出る文脈は大きく分けて2つあります。製品・サービス文脈とコミュニケーション文脈です。製品・サービス文脈とは、「~~の店がおいしい」「○○が便利」「△△に行きたい」などのUGCで、ユーザーが商品を手に取ったり、お店に行ったりした数しか口コミが出ません。一方、製品・サービス文脈の外側にあるのが、コミュニケーション文脈です。「○○のCM、感動した」「△△の動画がすごい」などのUGCで、そのUGCを通じて製品やサービスが想起されます。商材の特性によって、どちらの文脈であればUGCが発生しやすいかを踏まえ、施策を設計するのが良いでしょう。
画像提供:株式会社ホットリンク
UGCの数と指名検索数、売り上げは相関する
「SNSは売り上げに影響しない」「バズれば良い」といった話をされることがありますが、UGCが増えると指名検索(ブランド検索)が増えて、売り上げにも影響を与えます。「家具 格安」というキーワードで検索するのと、「ニトリ」と検索する場合では、「ニトリ」と指名検索するほうが購買転換率は高く、CVRも10倍以上は異なるでしょう。
SNSのKPIは次の3つがポイントです。
- UGCが伸びているか
- 指名検索に影響しているか
- 売り上げに相関しているか
また、UGCは右肩上がりの積層型で増やしていくことが重要です。積層型でないバズ施策は、バズ前後のグラフの入射角と反射角が同じになり、購買につながりづらいためです。例えば商品を購入している人が1000人いるとして、50ツイートあるなら、そのツイートを200に増やすにはどうすれば良いかを考えます。ホットリンクが支援する場合は積層型でUGCを伸ばし、一定数まで口コミが増えて鈍化したら、企画やプロモーションを実施します。
Twitterを活用する施策が合う企業と、合わない企業
Twitterを活用する施策が自社に適しているか否かは、UGCと指名検索の有無を考えます。
- UGCがすでに出ていて、指名検索もされている商材
⇒ SNSの活用でUGCを増やしていくことによって、売り上げを上げられる。 - UGCは出ていないが、指名検索はされている商材
⇒ UGCを増やすためのコンテンツや企画を打ち出すほか、オーガニック運用により売り上げを上げることができる。 - UGCが出ていなくて、指名検索もされていない商材
⇒ コンビニやドラッグストアに陳列されているようなコモディティ化している商材の可能性がある。この場合はUGCよりも、まずはCMやキャンペーンでAttentionを取りにいく。
同じ成果を得るとしたら、「1」と「2」で大体3~5倍、「1」と「3」で10倍以上のコスト感の違いが生まれます。
「ULSSAS(ウルサス)」のサイクルを回すには?
ホットリンクが提唱している行動購買プロセスに「ULSSAS(ウルサス)」があります。「ULSSAS」のサイクルを回すために重要なのは、フォロワーの質を変えることと、UGCを発生させる運用です。
画像提供:株式会社ホットリンク
良いフォロワーとは、プライベートグラフやソーシャルグラフでTwitterを活用しているユーザー、もしくはツイート数の多いユーザーです。例えば、30フォロー、50フォロワーで、5万ツイートしているようなユーザーにフォローされて、ツイートされると、影響力が高い。商品自体を口コミしてくれる人、投稿をリツイートしてくれる人を抱えるようにしましょう。
では、質の高いフォロワーを効率的に集めるにはどうすれば良いかというと、広告を使うのがおすすめです。フォローしてくれたときに、ツイートを投稿したり、拡散してくれたりする可能性の高い人をターゲティングして出稿します。
プレゼントキャンペーンでもフォロワーを集めることはできますが、応募・当選目的で作成された懸賞アカウントが多く集まるため、質が高いとは言えません。
UGCを発生させるには、主に以下のような方法があります。
- 投稿キャンペーンやUGCのお手本投稿などのコンテンツ
- SNSで口コミが発生するような商品設計
- UGCへのリツイートやいいね、リプライなど、ユーザーとのコミュニケーション
- 広告・プロモーション
コンテンツによりUGCを増やした事例
お菓子メーカーのシャトレーゼによる事例です。UGC創出のきっかけとなる投稿として、とてもすっぱいレモンのアイス「レモン・ザ・スーパー」を使ったカクテルの作り方を公式アカウントでツイートしました。
果汁42%🍋の超すっぱい「レモン・ザ・スーパー」を使ってカクテルづくり🍸
材料はドライジンと炭酸水、ミントはお好みで。
アイスがとけて、どんどん酸っぱくなっていく!🍋🍋🍋
レモンピールのつぶつぶがほろ苦くて美味😋#シャトレーゼ #アイス #シャトレーゼのアイスカクテル pic.twitter.com/QeshwO0qLl— シャトレーゼ【公式】 (@chateraise_jp) July 13, 2018
公式アカウントの投稿を見たフォロワーがそれを真似てカクテルを作り、ツイートします。公式アカウントでは、UGCをリツイートしたり、引用リツイートしたりします。するとユーザーの中から、練乳いちごのアイスを使ってシェイクを作ったUGCが出てきました。
ユーザーはシャトレーゼの公式アカウントにリツイートされることによって、自分のツイートが多くの人に届くことを経験します。
画像提供:株式会社ホットリンク
SNSで口コミが発生するような商品設計の事例
月に1~2回おやつの定期便が届くサブスクリプションサービス「スナックミー」は、どうすれば口コミが発生するかを考慮して商品が設計されています。おやつに同封している冊子や、おやつ撮影用の背景用紙、コースターなどがその例です。
オンラインイベントにより、多くのUGCを創出した事例
・#NEWWORLD2020
弊社主催で、2020年4月22日~5月1日にオンラインで行った「#NEWWORLD2020」も多くのUGCが生まれた事例の一つです。コロナ禍においてはイベントの在り方も変わると考え、実施しました。毎日2~3人のゲストをお呼びして、モデレータの僕と1対1でトークを行ったんです。結果、応募数は4500人超で、UGCの数も6500件を超えました。「#NEWWORLD2020」の口コミが増えると、「このイベントを主催している会社はどこなんだろう」と調べる人も増えるので、「ホットリンク」の指名検索自体も伸びました。
・MILBON BEAUTY Channel
2020年9月7日~11日に、美容サロン用のヘアケア用品を販売するミルボンが行ったライブ配信イベントです。美容師やモデル、インフルエンサーなど、さまざまな方を5日にわたってゲストにお呼びして、「SNS時代特有のカワイイってなんだろう?」をテーマに語っていただき、Instagram・Twitter・YouTubeで配信しました。累計視聴回数は46万回以上を記録しています。
このライブ配信では、新しいヘアケアブランドのサンプルをアンケートに回答した視聴者にプレゼントしています(計5000個)。驚いたのが、サンプルのなくなるスピードです。イベント初日・2日目は配布目標をクリアするのにやや苦戦したものの、次第にイベントが話題になり、4日目には配信開始からわずか数分でサンプル1000本ぶんの配布が終了してしまいました。そこでその日はプラスで500個追加し全て配布。最終日は配布するのをイベントの最後にしたところ、ユーザーが最後まで視聴し続けてくれ、応募受付開始1分で終了したのです。イベントの設計をしっかりと行い、「#SNS時代のカワイイを語る」の口コミで話題化できた好事例だと思います。
参加者からの質問
講義の後は、参加者からいくつか質問が寄せられ、いいたかさんが回答しました。質疑応答の一部をご紹介します。
Q.画像付きのUGCをKPIに置くのは無形商材でも重要でしょうか。それとも、有形商材のみに有効なKPIでしょうか。
いいたか 画像付きのツイートでなくても問題ありません。例えばホットリンクに関する画像付きのツイートは出ないので、言及数を見ています。BtoBや無形商材は口コミが出づらいので、コミュニケーションを設計するほうが重要です。ホットリンクでは、メルマガでしか読めない連続小説を送ったり、リンク先がオプトアウトしかないメルマガを配信したりして、Twitterで話題になったことがあります。BtoBのビジネスを展開する企業や無形商材を扱う企業は「どうすれば口コミが出るか」を考えて、Twitter戦略を設計したほうが良いと思います。
Q.コンプレックス系商材にTwitterの向き・不向きはないのでしょうか。
いいたか 向き・不向きで言うと、あまり向いていないと思います。能動的なメディアのほうが向いています。例えば、転職エージェントのようなサービスで口コミを出すのは難しいですね。最終的にどこに転職したかはツイートするかもしれませんが、転職する際に利用したサービスに関する口コミは出づらいと思います。求職者に対してサービスの認知を獲得する方法を考えて設計するのが良いでしょう。
Q.ギフティングを行っているのですが、投稿依頼の際に意識すべきことはありますか。
いいたか 僕自身は、ギフティングを行うときに投稿依頼をすることがありません。手に取った人がどのように投稿してくれるかを重要視しているので、ギフティングをして、投稿するか否かはユーザーに委ねるべきだと考えています。
ビタミンゼミ・高松さん(以下、高松) 頂いた人が自発的に投稿を上げたくなるように、同封物を工夫したり、手書きのメッセージを書いたりするといったイメージでしょうか。
いいたか そうですね。「結果的に投稿を上げてくれたら嬉しいよね」という考え方です。
高松 投稿を依頼すると、依頼された側がブランドに対してネガティブイメージを抱く可能性もありますよね。
いいたか おっしゃる通りです。ただ、難しいところで、そのときのユーザーの状態にもよると思います。我々が行うときは、すでにその商品を購入している人に投稿を依頼します。すでに購入しているユーザーであれば、依頼を受けたときに嬉しいでしょうし、その後も購入し続けてくれるはずだからです。
Q.toB向けの商材であっても、その先がtoCになっているBtoBtoCのモデルであれば、C(消費者)のUGCはBの意思決定に有効でしょうか。
いいたか Bに対しても有効ではあります。我々が支援した例で言うと、ミルボンさんがBtoBtoCですね。ミルボンさんのヘアケア用品は基本的に美容室でしか購入できません。ミルボンさんのプロモーションを設計するときも、美容師さんがどうしたら喜んでくれるのかを考えます。
今行っている「#私が美容室に行く理由」というキャンペーンは、お客さん(C)が美容室に行くことを前提に企画を設計しています。お客さんが美容室に行くと、ミルボンさんの商品にも興味を持っていただけるからです。
ビタミンゼミ・高梨さん 今の話を聞いていると、今治タオルも似たような例だと思いました。ホテルに今治タオルがあると、お客さんの満足度も上がりますよね。
いいたか そうですね。
【今回の講師Profile】
いいたかゆうた @yutaiitaka
株式会社ホットリンク 執行役員 マーケティング担当(CMO)兼IS責任者。
広告代理店やスタートアップ企業で複数のWebサービス・メディアを立ち上げたほか、50社以上のコンサルティングを経験。2014年に株式会社ベーシックへ入社後、Webメディア「ferret」の創刊編集長、執行役員を務める。2019年よりホットリンクに入社し、現職。支援企業のSNSコンサルティングを行う。主な著書に『僕らはSNSでモノを買う』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
プロフィール画像提供:いいたかゆうた
【ビタミン株式会社】
高梨大輔(たかなし・だいすけ)@dtakanashi
高松裕美(たかまつ・ひろみ)@_romihee_
株式会社リジョブ(現株式会社じげんグループ)の創業役員の2人が2015年に創業し、エクイティファイナンス型のスタートアップを専門に、インハウスマーケティング支援やエンジェル投資活動を行う。100名を超える紹介制ビタミンゼミでは、信頼できる専門家から「一次情報」や業界の最新情報をスタートアップに届ける活動をしている。
https://vitaminzemi.studio.site/
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