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スタートアップにおける数値計測の重要性と向き合い方【ビタミンゼミレポート#01】

最終更新日:2022.03.08

ビタミン株式会社が運営するスタートアップマーケティングの支援コミュニティ「ビタミンゼミ」の定期イベント・朝ゼミが、1月30日に東京・渋谷の「Google for Startups Campus」で開催されました。

今回の朝ゼミのテーマは「数値計測のタグ設定」で、講師を務めたのはランディングページ(LP)の制作や最適化などを担う株式会社FREE WEB HOPEの代表取締役社長 相原祐樹さんです。ゼミの後半では、同社広告運用事業部マネージャーの林健一さんよりGoogleタグマネージャを設定するワークショップも行われました。

この連載では、スタートアップ企業に勤めるインハウスマーケターの方向けに、朝ゼミで実施されている朝ゼミの内容をレポートしていきます。

(取材・文:Marketing Native編集長 佐藤綾美)

目次

ビタミンゼミとは?

スタートアップのマーケティング支援活動を行うビタミンが、2018年から運営するオフライン型コミュニティで、100名以上が参加しています。スタートアップ企業の経営層やCMO候補のマーケターがゼミ生として参加しています(コミュニティへの参加は有料で、紹介制)。ビタミンのCEOである高梨大輔さんと高松裕美さんが、スタートアップ企業の現場で発生しやすい課題を解決する場として始めたコミュニティです。

▼スタートアップ企業の現場でよくあるマーケティングの課題

  • 全体最適とマーケティング施策のつなぎ方がわからない
  • 業界のトレンドが早く、最新情報を得られていない
  • 信頼できる人脈にアクセスできていない
  • 書籍やインターネットを除き、マーケティングについて学ぶ場がない

月1回、朝8時00分~9時30分に開催される朝ゼミでは、信頼できるマーケティングのスペシャリストを講師として招き、特定のテーマについて勉強会を行います。

数値計測の課題とビジネスの全体図を俯瞰する重要性

ゼミではビタミンCEOの高梨大輔さんから今回のテーマの設定理由が語られた後、株式会社FREE WEB HOPEの代表取締役社長 相原祐樹さんによる講義が行われました。

マーケターによくある課題

今回のゼミのテーマを「数値計測のタグ設定」にした理由として、高梨さんはスタートアップ企業のマーケターからよく受ける質問の例を挙げました。

  • 実施した施策の数値の計測方法がわからない。
  • 計測した数値が、いいのか悪いのかわからない。

そもそも必要なデータを正しく計測できているのか、不安を抱えるマーケターも少なくないと言います。自ら計測方法を調べて設定するのは慣れないと骨の折れる作業ですが、一度設定してしまえば自動で取得できるようになります。そこで、実際にGoogleタグマネージャの設定まで行う機会を朝ゼミで設けたとのことでした。

ビジネスの全体図を俯瞰することの重要性

相原さんが講義で説いたのは、数値を取得することと、ビジネス全体を把握することの重要性です。

▲株式会社FREE WEB HOPEの代表取締役社長 相原祐樹さん(撮影:Marketing Native編集部)。

相原 FREE WEB HOPEはLPを作っている会社です。今年で9期目を迎え、年間で100本以上LPを制作した年もあります。手掛けるクライアントはさまざまで、toBとtoCのどちらも請け負っています。

今回のテーマは数値の計測についてですが、お付き合いしているクライアントでも、本格的にLPを改善しようとしたときに数値を計測するところから始めなければならないケースがよくあります。すべての数値が最初から取得・保存されていないと、ずっと資産を失い続けていることになり、目標も立てられません。

また、LPそのものはデジタルマーケティング上の点の施策です。LPの改善だけでは頭打ちになることが多く、ほかのチャネルを最適化したほうが効率がいいケースもあります。例えば、5%のCVRを6%にするのは難易度が高く、投資対効果があまり良くありません。むしろ、別のLPで広告を出したり、セミナーを実施したり、インサイドセールスを強化したりしたほうがビジネスが成長する可能性が高いことも多いです。ですので、まずは自分たちのビジネスモデルの俯瞰図を作り、どのような数値を取りに行くべきか把握するところから始めてみてください。

ビジネスモデルをとても簡単に図化したものが次の通りです。LPから直接CVするモデル、サブスクや会員登録のモデル、定期通販のモデルなどの例です。

画像提供:FREE WEB HOPE

そして、FREE WEB HOPEのほぼフルファネルを図にすると、大体このような感じになります。

▲FREE WEB HOPEのほぼフルファネルを表した図。
画像提供:FREE WEB HOPE

一番左側がリードチャネルです。「自社サイト」にも、SEOと指名検索、リファラル、僕が書いているnoteという4つのチャネルがあります。「セミナー」というのは、弊社で毎月主催しているマーケティングのセミナーです。顧客化した後、既存のお客さんに新しいお客さんを紹介してもらうことを満足度の指標の一つにしているので、紹介は「新規紹介」と「既存紹介」で分けています。

弊社の場合、紹介を除くどのチャネルからでも「資料DL(ダウンロード)」もしくはメールフォームからの「問い合わせ」に集約されていきます。問い合わせか資料DLが発生したらインサイドセールスを行い、電話をかけてもつながらなければメルマガを配信します。メルマガでリアクションが取れたら、インサイドセールスに戻します。インサイドセールスでBANT(※)を取得したら、相手の予算に応じてテレビ会議とフィールドセールスのどちらかに対応を分けています。ビジネス的な観点から正直申し上げますと、予算規模や案件の確度などで分けてもいます。そして、LPを制作して納品したり、運用したりすると、レポーティングが発生し、アップセルのために再びインサイドセールスに戻るというのが弊社ビジネスの大体の流れです。

このほぼフルファネルの図にある、ボックスとボックスの間はすべて数値を取っていきます。この数値を保存しておくと、「あまりお金をかけずに施策を打てて、インパクトの大きいこと」を選んで改善を図れます。数値の例としては、資料DLからインサイドセールスに移行した数と実施している率などが挙げられます。実施率が70%だとしたら、残り30%のリードには電話をかけていないことになるので、「受注率を上げるなら、その30%を埋めたほうが早い」と判断できます。数値を見て改善を図るんです。もはやLPは関係ありません(笑)

※BANT:Budget(予算)、Authority(決裁権)、Needs(必要性)、Timeframe(導入時期)の略

撮影:Marketing Native編集部

Googleタグマネージャの設定の仕方

続くワークショップでは、FREE WEB HOPE 広告運用事業部マネージャー 林健一さんの説明のもと、Googleタグマネージャの設定が行われました。参加者自身がGoogleタグマネージャを設定し、解析できる環境を整えることがゴールです。

「僕は経営者なので、今予算をいくら使っていて、成果がどれくらいなのかをすぐ知りたいんです。逐一ツールを使ってログインするのは大変ですし、運用担当者の手を煩わせるわけにもいかないので、社内ではGoogleタグマネージャとデータポータルを掛け合わせて即時に数値を共有できるように運用しています。

世の中のレポーティングツールは機能が多すぎて複雑で、運用者のためにあります。ビジネスサイドでもデザイナーでも即座にサマリーの数値が共有できることがチームにとって重要です。」(相原さん)

Googleタグマネージャを使用すると、タグを一括で管理し、抜け漏れを防ぐことができます。計測可能な項目には次のような例がありますが、この日設定したのは「スクロール率」「滞在時間」「サイト内クリック」の3つでした。LPの改善を想定した場合に計測したほうが良い項目です。

▼Googleタグマネージャで設定可能な項目の例

  • スクロール率
  • 滞在時間
  • サイト内クリック
  • 外部リンククリック
  • YouTube再生時間(Webサイトに埋め込んだ動画の効果を検証するのに使う)
    など

朝ゼミで説明されたGoogleタグマネージャの設定方法は、FREE WEB HOPEのWebサイトでも詳しく紹介されています。ご参考ください。

計測した数値とどう向き合うか?

今回の朝ゼミの授業はGoogleタグマネージャを設定するところまででしたが、Marketing Native編集部では、ゼミ終了後に「計測した数値との向き合い方」を相原さんに伺いました。

数値の計測後はデータのクレンジングが必須

相原 数値を計測した後、まず大事なのはデータを1回クレンジングすることです。ノイズが混ざっていると、見ている数値が違う数字になってしまうので、結構大事だと思っています。

例えば、以前メディアを運営していたときに、1記事あたりの滞在時間が少ないことに気付き、「記事を改善したほうがいいかな?」と考えたクライアントがいました。でもアクセス元を見ると、どうやら海外からのアクセスが多いことに気が付きました。アクセス元が海外で滞在時間が極端に短い場合、ロボットでサイトを巡回している可能性が高い。そのため、海外からのアクセスを除外して見てみたところ、滞在時間は一般的な数値になりました。もし、データをクレンジングしないまま見ていたら、誤って滞在時間の改善を図るところでした。

そもそもの大原則として、計測ツールの用語の正しい意味を知ることも大切です。用語の正しい意味を知っているかどうかで、数値の見方が変わります。例えば基本的な用語だと、PV、UU、セッション数などの定義です。

数値が出たあらゆる状況を想定すべき

次に大事なのが、クレンジング済みのデータを見たときの、数値の解釈の仕方です。数値は何かの意味を表しているわけではなく、そこには事実だけが書かれています。例えば滞在時間が「1分」となっていたら、「1分」という事実がそこにあるだけなので、あとはどう解釈するかなんです。これが結構難しくて、事実を見ることは誰でもできますが、数値をどう解釈するかは個人のセンスだと思っています。

例えばLPで言うと「ボタンクリックは高い確率で発生しているがCVしていない。ということはフォームが悪いから、フォームを改善しよう」とも考えられますが、一方で「ただなんとなくクリックしたのユーザーが多いだけであって、目的意識が薄いからファーストビューやオファーを変えよう」とも考えられますよね。数値を見てどう解釈するかは、その数値が出たあらゆる状況を想定するしかありません。

これまでの流れと相対化して数値を見る

ある程度安定的に運用しているLPだったら別ですが、新規のプロモーションやキャンペーンの場合は毎日数値をチェックします。

「Observe(見る)」→「Orient(わかる)」→「Decide(決める)」→「Act(動く)」という、「OODA(ウーダ)」のフレームワークで動きます。PDCAは「Plan」から始まっていて、計画がどれだけ進捗しているか、達成しているかを測るためのフレームワークで、計画の精度を向上させるためのフレームワークですが、OODAはより現場に近い考え方です。まず観察して状況を判断し、何をするか決めて動きます。例えば、明らかに成果が出ていない施策だったら、毎日モニタリングせずにすぐ替えますよね。

また、数字は絶対値で語れません。滞在時間にしても「1分がいい/悪い」ではなく、これまでの流れと相対化して見ることが大切です。以前と比べて下がっている傾向にあるのか、上がっている傾向にあるのか。それから、相関性がありそうな部分について手を打っていきます。

僕はいつもCPAとCVRを最初にチェックして、状態がいいか悪いかを判断しています。LPの場合、「状態が悪い」となったら、まず離脱のポイントを探るべく、スクロール率を見ます。次に、ユーザーが読んでいるのかどうか判断するために滞在時間を見て、メールフォームに遷移しているかを知るためにCTR(クリック率)を見ます。仮に、スクロール率が10%程度で離脱しているユーザーが多かった場合、「CVRが良かった期間はどうだったのか?」と、差分を取りにいきます。もしCVRが良かった期間と悪い期間でスクロール率の数値にあまり変化がない場合は、おそらく問題はそこにありません。別のところが問題を抱えている可能性が高いので、「CTRは以前よりも上がっているのか否か」を見ていきます。

先程の数値の読み取り方に関してもそうでしたが、例えば滞在時間が短いことが必ずしも悪いわけではないのです。短い=すぐにCVしているとも言えます。

このように、すべて相対化です。もし、以前よりも明らかにスクロール率が悪化していたら、スクロール率についてさらに深掘りしていきます。「スクロール率が良くない」=「読んでいない」と言えるので、その場合は広告側に問題がないかを見に行きます。

一つ気を付けなければいけないのは、因果関係と相関関係は違うということです。たまたま相関しているけれど、因果関係はないことがよくあるので、結果に対する因果関係を突き止めるのは想像以上に難しいんです。数値を真面目に信じすぎると間違えてしまうので、僕はあくまで参考にしかしていません。ユーザーについて考えることに脳のリソースを割いたほうがいいと思います。

スタートアップ企業のマーケターや経営者へ

繰り返しにはなりますが、スタートアップ企業のような小さい規模だからこそ、とにかく細かい数値は貯めたほうがいいです。マーケティングにお金をかけたくなったとき、貯めてきた数値が資産になります。

スタートアップ企業の場合、エクイティ(株主資本)が入っていない限り、基本的に予算はあまり潤沢でないはずです。そうした中で、5万円でも10万円でも広告費をかけているなら、たとえアクセスが100とか1000しかなくても、きちんと貯め続ければ1年後には大きなデータになります。代理店に依頼するときも、貯めていたデータがあれば、仮説の精度が高まるでしょう。

取りたい数値が取れていれば、正直な話、計測するツールは何でも構いません。そもそも何の数値を取ればいいかわからない場合は、フルファネルの図を描いてみてから、全部の数値を満遍なく取りに行くことをおすすめします。

【今回の講師Profile】
相原祐樹(あいはら・ゆうき)
株式会社FREE WEB HOPE 代表取締役社長。
インターネット広告代理店に入社後2カ月で歴代セールスランキング1位を獲得。2011年、26歳のときにFREE WEB HOPEを起業。リアルでの営業経験とWeb集客に関するノウハウを活用し、LP制作を専門的に行う。著書『現役LPO会社社長から学ぶコンバージョンを獲るランディングページ』(ソーテック社)

林健一(はやし・けんいち)
株式会社FREE WEB HOPE 広告運用事業部マネージャー
1986年生まれ。バーテンダーを経て大手教育会社に入社。デジタルマーケティング全般の戦略立案・実行など幅広く経験し、執行役員に就任。事業部を横断したデジタルマーケティングを推進。現在は、運用型広告のディレクション、データ解析、CRM施策などに従事。

【ビタミン株式会社】
高梨大輔(たかなし・だいすけ)@dtakanashi
高松裕美(たかまつ・ひろみ)@_romihee_

株式会社リジョブ(現株式会社じげんグループ)の創業役員の2人が2015年に創業し、エクイティファイナンス型のスタートアップを専門に、インハウスマーケティング支援やエンジェル投資活動を行う。100名を超える紹介制ビタミンゼミでは、信頼できる専門家から「一次情報」をスタートアップに届ける活動をしている。

 

記事執筆者

佐藤綾美

株式会社CINC社員、Marketing Native 編集長。大学卒業後、出版社にて教養カルチャー誌などの雑誌編集者を経験し、2016年より株式会社CINCにジョイン。
X:@sleepy_as
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