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2021.11.11

所有の概念をアップデートする、新しい「アートシェア」の仕組み 海外進出も見据えるANDARTの戦略

アートとの距離感は人によってさまざまです。デザイン性の高いミュージアムグッズを買い集めるのが好きな人、展覧会の開催予定をつぶさにチェックして足を運ぶ人、アトラクションのような体験型アートを友人・家族と楽しみたい人……。しかし、高額なアート作品の購入となると「考えたこともない」という読者も多いのではないでしょうか。そんな状況を新しいビジネスモデルで変えようとしているのが、株式会社ANDART(アンドアート)です。同社が提供するのは、一口1万円という手頃な価格から、アート作品を「共同保有」できるプラットフォーム「ANDART」。2021年9月には2.8億円の資金調達を実施し、話題を集めています。なぜ今、アートの「共同保有」が注目されているのでしょうか。

(取材・文:ライター 加藤藍子)

目次

「アートの所有」が根付かなかった理由

気に入った作品を自分の手元に置いておける。好きなときに眺めて楽しんだり、場合によっては売却して収益を得たりできる――。「アート作品を所有する」といえば、イメージされるのはそんな形でしょう。価値ある作品を独占できる、なんともぜいたくな体験。しかし従来、この「体験」を享受できるのは、ほんの一部の人だけでした。同社代表取締役CEO(最高経営責任者)の松園詩織さんは、背景を次のように説明します。

ANDART代表取締役CEO松園詩織さん(画像提供:ANDART)

「私自身、学生時代からアートが大好きで、作品を購入できるアートフェアやギャラリーに足を運んだ経験があります。ただ、心に留まった作品があっても、高額だったり、日本の一般的な住宅では飾れるだけのスペースが確保しにくかったり。アート購入が一般化しないのは無理もないなと感じました。加えて、日本ではアートに関する教育機会も少ない。美術展などへ足を運ぶ人は多いのに、購入するハードルは高く、アートとは精神的にどこか隔たりがあると感じます」(松園さん)

起業したのは、「アートにお金を投じる」という体験を、より多くの人に対して開かれたものにしたいという思いからでした。「たとえ少額であっても、お金を投じることで作品との関係性が深まり、アートそのものについて積極的に学ぶきっかけづくりにもつながると考えました」と話します。

「所有の概念をアップデート」するビジネスモデル

松園さんが考案したのは、次のような仕組みです。

まず同社が、バンクシーやバスキア、草間彌生など国内外の著名な現代アーティストの作品を仕入れ、プラットフォーム上で出品します。ユーザーは、一口当たり最低1万円を支払えば、その作品の「オーナー」になることができます。

会員間取引でのオーナー権売買の流れ(画像提供:ANDART)

オーナーになると、貴重な作品を生で鑑賞する機会が定期的に与えられるほか、自身のオーナー権の「ポートフォリオ」をオンライン上でいつでも確認することができます。基本的には長期の保有を推奨されていますが、「オーナー権」を売買することも可能。複数人のオーナーで一つの作品をシェアするため、自分だけの手元に置くことはできないものの、そのぶん気軽に「アートコレクター体験」ができるわけです。

「近年のカーシェアリングなどの普及をみていても、『所有すること=手元に置いて独占できること』という感覚は薄くなってきているように感じます」と松園さん。確かにアート作品に限らず、私たちが何かを「欲しい」と感じるとき、その根底にあるのは独占欲だけではありません。「そのモノについてもっと深く知りたい」「所有することによる自分の感情や暮らしの変化を楽しみたい」――。そんな欲求を気軽にかなえられるプラットフォームを通じて、松園さんは「所有という概念がアップデートされつつあることを実感している」と語ります。

画像提供:ANDART

その感触は、数字によって裏付けられてもいます。2019年のローンチ以来、会員数(オーナー権未購入層も含む)は14000人を突破。作品取り扱い数は2021年11月現在で38作品に上ります。

また、同社の調べ(2021年3月)によると、オーナー権を購入した会員のうち65.4%は、過去にアートを購入した経験が全くないのだそう。

「オーナー層は20~40代の男性が多いです。初めて共同保有を体験したオーナーからは『従来の所有のしかたより、部分的にオーナー権を持つ形のほうが距離感として好きだ』『何かを所有したい気持ちと、価値あるものに投資したい気持ちが一度に程よく満たせるところに魅力を感じる』といったユニークな感想も寄せられています」(松園さん)

さらに、初めてアート(オーナー権)を購入したうち半数以上は、サービス上で2作品以上のアートをコレクションしているというデータもあります。金額や保管におけるハードルがクリアできさえすれば、「アート作品を所有してみたい」という潜在的ニーズは低くないことがうかがえるでしょう。

同社では「YOUANDART」(ユーアンドアート)という、若手アーティストの作品を比較的安価で購入できるサービスも展開しています。まず「ANDART」で共同保有のオーナーを経験することで、アートとの精神的距離が縮まり、「YOUANDART」での作品購入に至るという好循環も生まれているそうです。

画像提供:ANDART

これまでにない仕組みをどう広めたのか

2021年10月には、同社と類似のプラットフォームを提供する米国のスタートアップ企業Masterworks(マスターワークス)がユニコーン企業(時価総額が10億ドル=約1100億円を超える未上場企業)に。アートを人々の資産のポートフォリオの一つとして捉えようとする動きが、グローバルでは活性化しています。しかし、「ANDART」立ち上げ期の約4年前、その「アートシェアリング」の仕組みは世界でもめずらしいものだったのだそう。そんな馴染みのないサービスを、多くの人に理解し活用してもらうためにはどんな働きかけをしてきたのでしょうか。

「プロダクトとユーザーの距離をなるべく近づけるコミュニケーション設計を意識しています。例えば、ユーザーの皆さんには、オーナー権を購入しているかどうかにかかわらず、LINEを活用して疑問点やリクエストなどを気軽に送ってもらえる形を実践しています。『共同保有している作品の鑑賞会ってどんな雰囲気なんですか?』といったカジュアルな質問にも迅速かつ丁寧に答えているので、初体験でも不安の少ない状態で参画してもらえる環境づくりができていると思います。会員向けメールやオウンドメディアを通じたアート市場などに関する情報提供も含め、デジタルでの発信頻度は高い状態を保つようにしています」(松園さん)

オーナーへのインタビューも頻繁に実施しているといいます。こうした機会の中で吸い上げたユーザーの声が、プロダクトの開発会議で議題に上がることも少なくないそうです。

「共同保有を核としたユーザーの皆さんとのつながりは、アート市場を活性化させていく基盤になりうるコミュニティー。我々が一方的に提示したものに対してフィードバックを受けるというよりは、丁寧に声を吸い上げながら、共によりよいものをつくり上げていくイメージを持ってプロダクトづくりに臨んでいます」(松園さん)

2021年9月には、ユナイテッド、GMOインターネットなどを引受先とする第三者割当増資と日本政策金融公庫などからの融資で、2.8億円の資金を調達しました。組織のさらなる強化、さらには海外進出も見据えています。最後に、今後の展望を語ってもらいました。

「まずは、ユーザーの皆さんに対して、良質な作品を購入できる機会を提供し続けるということ。これが大前提になります。アートと深く関わる機会を、どのような人にも平等に開かれたものにしていく。一人ひとりの投じるお金は小さくても、それがたくさん集まって新しい経済圏が生まれれば、これまでは一部の富裕層の中だけで循環していた価値ある作品を、みんなでシェアできるようになるかもしれない。いわば『アートの民主化』。それを実現するのが目標です。海外進出を実現することができた際には、日本のアーティストの作品の価値を、海外でより広く知ってもらうためのチャレンジにも力を入れていきたいですね」(松園さん)

加藤藍子

記事執筆者

加藤藍子

かとう・あいこ
フリーランスの編集者・ライター。全国紙の記者、バレエ専門誌編集者、ビジネス関連書籍・ムックの編集者を経て独立。ビジネス系を中心に多数の雑誌やウェブ媒体などで執筆・編集。主な取材・関心分野は働き方・キャリア、ジェンダー、エンタメ、アート。
Twitter:@aikowork521
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