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インタビュー

ラジオのリスナーと収入を増やす、型破りな仕掛けと取り組み――ニッポン放送・石井玄インタビュー

最終更新日:2024.04.01

Special Interview #16

ニッポン放送 プロデューサー/ディレクター

石井 玄

熱心なコアファンは変わらずにいる一方で、聴取率や広告収入の凋落と長期低迷が指摘されるラジオ業界。

生き残りを懸けて岐路に立つラジオを盛り上げるべく、舞台演劇や東京ドームでのライブイベントなど、番組制作の枠を超えた仕掛けで話題を呼んでいるのがニッポン放送の石井玄(ひかる)さんです。

今回は石井さんをインタビュー、新規リスナー数の増加や収入拡大へ向けた取り組みの背景と狙いのほか、ラジオに懸ける情熱や意気込み、未来への思いを聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)

※肩書、内容などは記事公開時点のものです。

目次

ラジオの枠を超えて、放送外収入を増やす取り組み

――肩書はプロデューサー/ディレクター。今は面白いラジオ番組を作るというより、放送外収入を増やす取り組みが中心ということでしょうか。

企画によって立場が異なります。今は演出/プロデューサー/監修の3つの仕事を軸にしつつ、Podcastのディレクター/パーソナリティ/プロデューサーも務めています。

また、「UNDER 25 OWARAI CHAMPIONSHIP」(U25)という25歳以下のお笑い芸人たちが競う賞レースにプロデューサー/審査員という立場で入っていたほか(9月16日に決勝終了)、10月14日・15日には『あの夜であえたら』という配信と会場(東京国際フォーラム)のハイブリッド型・演劇公演で製作総指揮を、さらに「オードリーのオールナイトニッポン」が来年(2024年)2月18日に行う東京ドームライブでも全体を取りまとめる役割を担っています。

――クリエイティブからビジネスまで幅広く手掛けていますね。番組を面白くすることとビジネスで放送外収入を増やすことでは、能力の違いをどう感じますか。

もともとラジオは人が少ないので、ディレクターがプロデューサーの役割を兼ねることがよくあります。私もチーフディレクターとしてオールナイトニッポン全体を統括していたときは、ほぼプロデューサーの動きをしていて、「番組を面白くすること」「聴取率やradikoの数字を上げること」のほか、「営業と組んで企画をつくり、スポンサーを探したりスポンサー企画を担当したりすること」「広報と一緒に番組を宣伝すること」「イベントやグッズ制作で放送外収入を増やすこと」――などをしていました。

実際にプロデュース業務を担当するようになってから、私自身は演出よりプロデューサーのほうが向いていると気づきました。ディレクターとプロデューサーの両方を担当しているときは余裕がなく、身心ともにきつかったですが、今はプロデューサーがメインなので人を雇えますし、予算もある程度自分で差配できます。その点は以前よりやりやすいですね。

――イベント開催やグッズ販売、ファンクラブ運営などのマネタイズとラジオのファンを増やすという両面で、うまくいっていることや課題は何ですか。

自分の企画には、どれもうまくいっている部分もあれば課題もあります。例えば、「三四郎のオールナイトニッポン0」公式ファンクラブ「バチボコプレミアムリスナー」は収支的にうまくいっているだけでなく、ファンやリスナーの方にもご満足いただいているのではないかと思います。

一方で、ファンクラブはどうしても内輪の閉鎖性が出てしまう傾向があります。新規のリスナーを開拓する作業を同時進行で行う必要がありますが、現状そこまで手が回っていません。

――「バチボコプレミアムリスナー」の数値面は公表していますか。

会費は月額550円、会員数は5,000人弱で微増微減のまま安定しています。

一方、U25は投資の企画で、決勝戦のチケットは完売したとはいえ、収支は赤字です。25歳以下の若くて、まだ人気の出ていない、無名の芸人さんしか出ていませんが、未来のラジオパーソナリティやお笑いのスターを探す企画なので、今はやむを得ないと考えています。これは私が他の企画で利益を出しているから、会社に「10年後のニッポン放送のためになります」と説明することで通してもらった企画です。

目指すのはヒットではなく、リスナーに楽しんでもらうこと

――石井さんが率先して「ラジオを元気にする」「自分がお金を稼ぐ仕組みをラジオ界につくる」と責任感を持って取り組んでいる印象があります。

もちろんその意識はあります。ラジオに長く携わっていますが、仕事量とギャラ、番組の予算が見合っていないどころか、どんどん下がっていく傾向にあるからです。仕事の内容は20年前とほとんど変わらないし、SNSの運用やWebサイトの構築、動画配信など作業量は増えているのに、ギャラが減っているから多くの人が苦しい思いをしています。もちろん仕事は楽しいですが、このままではラジオの制作はディレクターも作家も夢がない職業になりかねません。パーソナリティでさえ安いギャラで、ほとんどやりがいだけでやっていただいています。あと5年から10年もすれば、作る人もしゃべる人もいなくなってしまう…そんな危機感を覚えるから、お金を稼ぐ方法と、お金が皆さんに行き渡るような仕組みをつくり、次の世代につないでいきたいという意識を持っています。

たまに「ヒットコンテンツを作っている人」というくくりでセミナーに呼ばれたり取材を受けたりする機会がありますが、私自身はヒットを目指して作ったことは1回もありません。当たると思って企画を立てているわけではなく、「この企画が実現したら面白い」「こんなファンクラブを作ったらリスナーが喜びそう」「こんなイベントができたらラジオの魅力がもっと伝わるはず」という観点でしかスタートしていないので、ヒットするか、成功するかはわからないです。全部見通して進めているように見られることもありますが、そんなことはなくて、行き当たりばったりで、その都度最適な答えは何かを探りながら進めています。

――石井さんだけでなく、ラジオ業界の皆さんが「収入を増やしてラジオを元気にする!」という意識を強く持っているのですか。

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・大型イベント開催の大変さと面白さ
・価値観が多様化する時代に強みを発揮するメディア
・全てはラジオの未来のために

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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