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すみだ水族館と京都水族館がユニークな施策を打ち出し続けられる理由とは?担当者に聞く、企画の源泉

最終更新日:2022.04.19

オリックス水族館株式会社が運営する、東京都墨田区にある「すみだ水族館」と京都府京都市の「京都水族館」。2つの水族館が一風変わった楽しい企画を世に生み出し続けているのを、マーケターの皆さんはご存じだろうか。

すみだ水族館と京都水族館は、それぞれ2022年に開業10周年を迎えており、企画展「10年分のハッピーニュース展」を3月末より開催している。これを機に両水族館の最近の企画を振り返るとともに、企画や発信の際に大切にしている姿勢などについて、担当者に伺った。

目次

オフラインもオンラインも話題が尽きない水族館

すみだ水族館と京都水族館は、オフライン・オンラインの双方において、独自の切り口で企画を開催している。

館内での企画の好例が、両水族館ともに2022年6月30日まで開催している、開業10周年記念の「10年分のハッピーニュース展」だ。水族館のスタッフから募集した“10年間で目撃・体験した幸せな出来事”を飾る企画展で、ペンギンのベビーブーム到来や新しいクラゲエリア誕生の瞬間、飼育スタッフによるナマコをめぐる1時間超の対談など、30件以上のニュースを新聞の見出しやテレビの報道番組をイメージして館内に展示している。両水族館の10年間を知る人は一緒に懐かしみ、初めて来館する人は新たな視点で水族館の歴史を知ることができる。

▲「10年分のハッピーニュース展」キービジュアル

▲「10年分のハッピーニュース展」展示内容の一部

▲「10年分のハッピーニュース展」展示の様子(画像提供:すみだ水族館)

他にも、直近ではすみだ水族館内において、2021年12月~2022年2月にいきものたちの“呼吸”をキーワードにした「呼吸でめぐる、水族館」という体験イベントを開催。すみだ水族館の最初の展示エリア「自然水景」で見られる、水草の光合成による「酸素の泡」から着想を得た企画で、いきものの呼吸に焦点を当てた水槽展示やヨガなどのワークショップを行った。新型コロナウイルス感染症の影響で、長引くマスク生活により浅い呼吸に慣れてしまった人が多いことにも着目し、呼吸をテーマに水族館の新しいめぐり方を提案したユニークな企画だ。

▲自然水景「原生林の構図」幅約4m×高さ1.7m

▲「呼吸でめぐる、水族館」の様子(画像提供:すみだ水族館)

また、両水族館は水族館の企画は「館内で行うもの」という常識を覆したオンライン展開にも積極的だ。

2021年8月から、両水族館は「まいにち水族館」という企画をスタートさせた。「水族館の存在を日々の日常生活の中でも感じてほしい」との思いから始まったオンライン企画で、水族館に来館しなくても「水族館のある暮らし」を体感できる。

そんな「まいにち水族館」のコンテンツの一つが「ねむリウム」だ。睡眠を妨げる要因の一つともいわれるスマートフォンの視聴習慣を逆手に取り、館内からいきものたちの夜の様子をライブ中継し、視聴者を快適な眠りへと誘う。参加費は100円で、配信中は視聴者の感想や質問を投稿できるコメント機能を設け、飼育スタッフがランダムにいきものの情報などを語る。

「ねむリウム」の第一弾として、京都水族館は2021年9月9日にイベント「オオサンショウウオとねむリウム」を企画。約3300人が参加し、視聴者からはTwitterで約2000件ものコメントが寄せられたという。そして第二弾として、2021年11月11日にはすみだ水族館が約300匹のチンアナゴと “寝落ち”するイベント「チンアナゴとねむリウム」を開催した。チンアナゴが水槽の中で揺れる様子に着想を得て11月11日を「チンアナゴの日」に制定し、その日にイベントを開催している。

▲「オオサンショウウオとねむリウム」ライブ中継の様子

▲「チンアナゴとねむリウム」キービジュアル

さらに、オンライン・オフラインにまたがった企画も開催されている。

2021年12月に両水族館の館内・特設サイトで公開された「ペンギン相関図2022」は、京都水族館で暮らす59羽のケープペンギンと、すみだ水族館で暮らす49羽のマゼランペンギンの行動を飼育スタッフが日々観察し、個性や恋愛関係の変化などの最新情報がまとめられている。「ペンギン相関図」はもともと「人間と同じような個性を持つペンギンと、その個性により年々変わるペンギン同士や飼育スタッフたちとの多様な関係性を知ってほしい」との思いから2018年に初めて制作されたもので、「ペンギン相関図2022」で3回目のアップデートとなる。

▲「京都ペンギン相関図2022」「すみだペンギン相関図2022」イメージ

オンライン・オフラインともに大切にしているコンセプト

これだけの企画を生み出す源泉は、どこにあるのだろうか。すみだ水族館の大橋諒さんはこう語る。

『私たちは、「公園みたいな水族館」を目指しています。“公園みたいな”というのは、暮らしの一部のように、お客さまがいつでも寄り道したくなる場所として、ほっとしたり、元気になったり、やさしい気持ちになったりすることができる場所だと捉えています。そうした空間を作っていくうえで念頭に置いているコンセプトは、「近づくと、もっと好きになる。」という言葉です。企画を考えるときはもちろんのこと、水族館がもたらすすべての場面にて、お客さまがいきものとふれあい、飼育スタッフと対話し、一緒に来館した方とも距離が一層近づく体験をしてほしい。そんな思いを大切にしています』

上記の回答から、企画を検討するにあたって、事業を行う根本の思いや社会における自社の存在意義を掘り下げていることが伝わってくる。では、水族館としてオンラインの施策にも注力するようになったのはなぜなのか。

『ここ数年でオンライン上のコミュニケーションが急速に発展したと思っています。ビデオ通話やオンライン会議などが日常化し、従来とは別のコミュニケーションを模索できる余地が広がったのではないでしょうか。
そこで、より多くの方にいきものの魅力をお届けするために、水族館という施設だからこそできるオンライン施策は今後も検討していきたいと考えています』(大橋さん)

特にオンラインで話題を作る際に気をつけていることも聞いた。

『オンラインであったとしても、「近づくと、もっと好きになる。」というコンセプトは欠かせないと考えています。オフラインをオンラインで代替するのではなく、オンラインだからこそ近づき、もっと好きになっていただけるような体験を目指して企画設計を行っています。また、水族館が提供するオンラインコンテンツを発信していくときに、お客さまの中にある「水族館=オフライン」のイメージをどれだけ変えられるかは常に思考する必要があると感じています』(大橋さん)

両水族館は、企画ごとの振り返りの他、定期的なマーケティング調査や来館者へのアンケートなども行いながら企画をブラッシュアップしているという。どの企画もいきものへの愛にあふれており、同時に生活者の心を継続的につかみ続ける工夫が随所に見られる。

すみだ・京都両水族館の企画作りは、マーケターにも参考になる点が多いのではないだろうか。両水族館の取り組みから今後も目が離せない。

すみだ水族館
京都水族館

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