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「美味しさを超えた『感動』を価値として届けたい」――Mr. CHEESECAKEの人気の秘密を徹底解剖!――田村浩二(Mr. CHEESECAKE)×菅原健一(Moonshot)特別対談【後編】

最終更新日:2021.10.21

Mr. CHEESECAKEの人気の秘密に迫るMarketing Native LIVE vol.2「Mr. CHEESECAKEを徹底解剖 最高のプロダクトの作り方」後編をお届けします。

後編では主に価格設定に対する考え方やSNSの運用、顧客の感動を勝ち得るために意識するポイントについての内容です。

出演は前編に引き続き、株式会社Mr. CHEESECAKE代表取締役・田村浩二さん、モデレーターは株式会社Moonshot CEO菅原健一さんです。

ぜひご一読をお願いいたします。

(構成:Marketing Native編集部・早川 巧)

目次

飲食業の未来につながる価格設定を

すがけん みんなきっと気になるところだと思うのですが、価格設定について教えてください。普通のチーズケーキよりちょっと高めですが、どういう意図でお決めになったのですか。

田村 価格に関しては、自分の使いたい原材料を使ったときの原価を基にして普通に利益が上がるだけの販売価格を設定しただけです。ただ、そういう普通のことが飲食業界ではなかなか難しい現状があるのも理解はしています。

とはいえ、コンビニスイーツや街のお菓子屋さんと同じような感覚で戦っても、僕たちは絶対に勝てませんし、1本単位でしか販売していないのも、ワンカットで売った瞬間にコンビニスイーツとの比較対象になるからです。それではどこでも買えるほうが便利なので負けてしまいます。

すがけん 美味しさより「今すぐ食べたい」欲求のほうが勝つかもしれませんね。

田村 そうです。コンビニスイーツや街のお菓子屋さんと戦わず、なるべく競合がいないところを狙わないと生き残れないと思っていましたので、原材料の質を落として価格を下げるくらいなら、良い原材料を使って、価格もしっかり頂いて、価値を理解してもらえるように努力しようと考えました。

すがけん 賛成ですね。「努力」といっても、価格を安くして広く受け入れられるようにする努力もあれば、価格は高いけど本来の価値を味わっていただけるようにする努力もあって、田村さんは努力の方向性を価値あるものを提供するほうに向けた、と。おそらくそのほうが大変だけど、うまくいけば長続きする方向に進んだということですね。

田村 飲食って、何をするのもすごく大変なんです。ルーティンワークですし、やればやるほど苦しくなるものを作りたくありませんでした。

すがけん 来年の自分たちを楽にしたいわけですね。

田村 そうなんです。大変だけど、1つのお菓子を真摯に作り続けて売り上げが伸びたら、自分たちにも還元されるし、来年、再来年と環境がどんどん良くなっていく。そう信じられるからみんなで努力できるのだと思います。そういう価格設定にしないと意味がないですし、僕は技術を乗せて販売していますので、技術の価値もきちんと価格に乗せたいと最初から考えていました。

※画像提供:Mr. CHEESECAKE

美味しさを超えた「感動」が基準のものづくり

すがけん 次に視聴者からの質問です。「SNSの運用で気をつけていることを教えてください」。

田村 基本的にはSNSをフォローしてくれている人のテンションが上がったり、顧客体験が良くなってほしいと考えたりしながら運用しています。レシピを公開しているのも、少しでも誰かの日常が豊かになるきっかけになればいいと考えているからです。それは必ずしもMr. CHEESECAKEでなくても構いません。僕たちが公開したレシピでチーズケーキを作って食べた結果、感情や行動が変わってほしいと思いながら投稿しています。

そのため、販促としてSNSを活用するという意識はそれほど強くありません。そうではなく、投稿を見た人の生活がより良くなった結果、その先にいつかMr. CHEESECAKEを思い出すタイミングが来たら、僕たちと一緒に豊かな時間を過ごせるようになりたいというのが、僕が考えるSNSのコミュニケーションです。実を先に取りに行くのではなく、情報を届けることだけ。そこから先、顧客がどうアクションを変えるかまではコントロールできないと思っていますので、できることをただ粛々と積み重ねています。

すがけん 「お客さまの生活や行動が変わるターニングポイント、きっかけになってほしい」「そのタイミングに自分たちの商品が存在したい」というのは素敵な考え方ですね。ものづくりをしている人で、そこまで自分たちがお客さまにとって大事な役割を担えるという、ある種大げさな使命感を持っている人はそれほど多くないのではないかという気がします。

田村 大げさなのですが、美味しい料理ばかり存在する日本にあって、その美味しさが記憶に残って人に伝えたくなるほどすごかったり、また行きたくなったりするお店は、そう多くないと思います。

すがけん 確かに。「美味しい」は基準点ですが、感動する、まさに「感じて動く」人たちがたくさんいる料理はそれほど多くないかもしれませんね。

田村 そうなんです。ですから、やはり「感動する」を基準にものづくりをしないと、美味しい料理なんて世の中にあふれているから、記憶に残らないのです。Mr. CHEESECAKEについては、食べた後にTwitterとかInstagramに画像をアップしてくれる人が少なくありません。それもかなりきれいにスタイリングして。

正直、僕は皆さんのレベルではできないです。でもあんなふうに画像をアップしてくれるのは、そうしたいと思ってくれている人がいるわけで、つまり少なからずMr. CHEESECAKEの存在が人のアクションを変えたり、何か価値を生んだりしているのだと思います。

美味しさのもっと先に、本質的な価値を提供できないと生き残っていけないと思いますし、それをどこまで突き詰められるかについてはとても意識しています。

すがけん 素晴らしい。私がMoonshotという会社を作ったときに言葉を15個くらい定義したのですが、その中で「価値」については、「価値は相手の変化量」と決めました。今のお話を伺っていると、Mr. CHEESECAKEの価値の1つは相手がどれくらい良い方向に変わったかに設定されています。

先ほど「ほかよりチーズケーキの価格が少し高いのではないですか」という話もしましたが、相手の変化量を考えるとかなりリーズナブルなのだとわかります。それだけお客さまに大事なタイミングで自分の中に取り込んでいきたいブランドと認識されているわけですから、すごいことだと思います。

※撮影:編集部

価値は相手の変化量であり、価格は価値に準ずるもの

すがけん 視聴者からの最後の質問です。「顧客起点で考えるときに、最も重要なことは何でしょうか」。

田村 それまで世の中に存在しなかったものを作ろうと思ったことはなくて、世の中に存在するものの解釈や見方を変えることで新しい価値を作り出したいと考えています。新しすぎるものが生まれると、人はどうしても拒否反応を起こしがちですが、身近なものから新たな体験を得られると、人の心を動かしやすいと感じます。その小さなギャップをどれだけ作れるかが大切です。

チーズケーキも今までの世の中に存在したものですし、目新しさもありませんが、冷凍で届く高価格帯の商品で、販売方法もいわゆるD2Cと、そういうほんの少しの違いが人の心に残りやすいのだろうと思います。

そう思ったときに僕が参考にするのはコンビニエンスストアです。コンビニにはたくさんのスイーツがありますが、おそらく膨大な量のデータから算出された商品だけが店頭に置かれているのだと思います。つまり、コンビニスイーツのラインナップには英知が結集されているわけです。

ですから僕らのようなブランドは、コンビニに置かれる大手メーカーがなかなか手を出しにくいゾーンで、しかもコンビニスイーツより確実に美味しくて、なおかつより良い体験ができるものをひたすら探し続けるしかありません。そんなふうに、顧客にとって「新しくて、驚きがあって、でもなぜか心地いい」という状態を作るのが僕らのやるべきことだと思います。

編集部 最後にあらためて対談の感想をお願いします。

田村 僕が一番大切に思っているのは真摯にものを作ることです。それと同時に、ものづくりの思いを正しく伝えて商品を届けることもとても重要だと考えています。僕がやっていることが全て正解とは思っていませんので、これからいろんな商品を作っていく中で、より良い価値観、体験をもっと提供できるように一層努力していきたいとあらためて感じました。ありがとうございます。

すがけん これからD2Cにチャレンジされる皆さんにとっては、今日がおそらく転換点になるくらい、「やっぱりプロダクトをちゃんと作らないとダメか」と観念していただけたと思います。それくらい骨太ないいお話を聞けました。

僕からお伝えしたいのは1つ。価値は相手の変化量で、価格は価値に準ずるものだということです。それは今日、田村さんのお話からもしっかり伝わったのではないかと思います。

これからブランドを立ち上げる方、もしくは今ブランドをやられている方、D2Cを経営している方たちなどいろいろいらっしゃると思いますが、皆さんの商品やブランドがお客さまにとってどんな価値を持っているかを測る指標は、お客さまがどんな変化をしたかにあります。それは、「美味しかった」であるかもしれないし、あるいはお客さまの人生がどう変わったか、次の日にどんな気持ちになったか、商品と接していない時間も含めてどんな変化をもたらしたか、なのかもしれません。

その変化量を対話や観察を通じて把握することが、優れた商品を作るきっかけになると思いますので、そのことをお伝えさせていただきます。ありがとうございました。

※画像提供:Mr. CHEESECAKE

Profile
田村 浩二(たむら・こうじ)
株式会社Mr. CHEESECAKE 代表取締役。
神奈川県三浦市生まれ。新宿調理師専門学校を卒業後、乃木坂「Restaurant FEU(レストラン フウ)」にてキャリアをスタート。ミシュラン二ツ星の六本木「Edition Koji Shimomura (エディション・コウジ シモムラ) 」の立ち上げに携わる。表参道の「L’AS (ラス)」で約3年務めたのち、渡仏。World’s 50 Best Restaurants 2019 の1位を獲得したミシュラン三ツ星のフランス南部マントン「Mirazur (ミラズール) 」、一ツ星のパリ「Restaurant ES (レストラン エス) 」で修業を重ね、2016年に日本へ帰国。2017年には、世界最短でミシュランの星を獲得した「TIRPSE (ティルプス)」のシェフに31歳で就任。World’s 50 Best Restaurants の「Discovery series アジア部門」選出、「ゴーエミヨジャポン2018期待の若手シェフ賞」を受賞。現在は Mr. CHEESECAKE のほか、複数の事業を手掛ける事業家として活動。
Twitter:@Tam30929

菅原 健一(すがわら・けんいち)
株式会社Moonshot 代表取締役社長。
企業の10倍成長のためのアドバイザー業を創業。社会や企業内に存在する「難しい問題を解く」専門家。グローバル企業含めクライアント10社、エンジェル投資先20社の計30社のプロジェクトを並行して進めている。過去に取締役 CMO で参画した企業を KDDI子会社へ売却、そのまま経営を継続して売り上げ数百億円規模へ成長させる。スマートニュースを経て現職。20代のマーケター600人が参加する「#20代マーケピザ」を主催。
Twitter:@xxkenai

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記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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