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2020.10.08

【寄稿】菅原健一(Moonshot)「あなたの会社に価値はあるのか?企業が成長に必要な価値あるモノを掴むには」

大好評だった今年1月の新春特別寄稿に続き、株式会社Moonshot CEOの菅原健一さんに再び原稿を寄せていただきました。

新型コロナウイルスの影響で1月とは状況が大きく変化しています。コロナ以降の世界で、企業が生き残り、さらに成長するために必要なことは何か。

菅原健一さんが経営層やハイマーケター向けに、企業がこれから進むべき方向性のヒントを綴ります。

目次

 

寄稿 株式会社Moonshot代表取締役社長 菅原健一
今年1月に書いた記事(https://marketingnative.jp/con01/)で今後日本が遭遇する「10年で7%の人口減少と、ますます広がる所得格差から起きる大きな変化」を指摘した。しかしコロナはこれからの10年でじわじわと来る変化以上のインパクトを経済に起こしたように思う。

そして2020年7月に米国のテスラがトヨタ自動車の時価総額を抜いて、自動車メーカーの首位になった。その時のテスラの時価総額は2076億ドル(約22兆3000億円)、トヨタ自動車の時価総額は21兆7185億円であった(2020/07/01米国市場の終値ベース)。

時価総額は現在の価値以上に未来の価値が表される指標でもある。テスラは「今は小さくても、これから価値が上がるモノを持っている」と市場や株を買う人たちが評価したということになる。

一方でトヨタは「規模が大きくても、これから価値が下がるモノを持っている」と判断されたわけである。
注:2020/09/24時点でもトヨタは22兆円に伸びたが、テスラはさらに伸ばして35兆円になった(世界時価総額ランキング全体で10位)。

このコロナで、価値が上がった会社、横ばい、下がった会社と大きく分かれた。テスラのように時価総額が上がるということは会社そのものの価値が上がるということ。1株あたりの価値が上がるとその会社の株の購入者・購入希望者が増える。需要が増えるということはさらに会社の価値が上がる。そして株を売り出すことでその企業はより効率的に資金調達ができ、未来への投資を行うことで未来を現実のものにしていく。

この7月から9月でテスラはさらに価値を増やしたが、トヨタはほぼ横ばいであった。この差はその企業が「価値が上がるモノ」を持っているか、「価値が下がるモノ」を持っているかの差に現れる。

では、あなたの企業はこの「将来にわたり価値が上がるモノ」を持っているだろうか?コロナによって変化したのは社会だろうか?消費者だろうか?おそらくそのどちらもが大きく変化した。現在企業が持っているモノの価値がガラリと大きく変わってしまった。

あなたの企業はその変化に気づけているだろうか?

モノといっても事業だけではない。事業を牽引する技術や設備、人材、さらには経営者の視点、組織形態、働き方なども含まれる。

今回の記事では企業が過去の延長線上ではなく、新たに生まれ変わり、これから継続的な成長をするための方法と「将来にわたり価値が上がるモノ」をいくつかご紹介したいと思う。価値が上がるモノに関しては、もちろんあなたの企業の市場や状況、資源調達環境によって選択肢が異なると思うが、できるだけ普遍性を意識してご紹介する。

企業の経営者や経営企画室、そして上位のマーケターの方が見て参考になるようにしたつもりだが、1記事にコンパクトに収めるためにかなり抜粋した内容となっていることをご容赦願いたい。

価値を手に入れるために。リストラクチャリングの基本

「リストラクチャリング」については、日本では「リストラクチャー」や「リストラ」という言葉のほうが馴染みがあるかもしれない。

会社に雇用されている社員の方は「リストラ=解雇」というイメージが強いかもしれないが、それはあまり正しい認識ではない。リストラクチャリングとは、価値が下がったモノを持ちすぎた企業が将来にわたって価値が上がるモノを持ち、成長を続けるために取る効果的な手法である。

では、リストラクチャリングで何をするかというと、大まかに3つのステップに分かれる。企業がV字回復するときをイメージしていただくとわかりやすいだろう。

Step1 マイナス成長期:企業の中の不採算事業を見つけて手放し、人員・設備・マイナスのお金を自由にして、会社の中から価値が下がるモノを無くす。

Step2 転換期:価値が下がるモノがなくなったら、次は価値が上がるモノへの投資を意思決定する。マイナス成長期に自由にした人員・設備・資金を使う、もしくは追加の資金調達で投資を可能にする。

Step3 成長期:投資した今後成長が見込める領域、マイナス成長期に整理しなかった採算事業に対して、さらにカテゴリーシェアを上げる、利益率を向上させることなどを行い、事業を磨いていく。

時代の変化だけでなく、コロナというイベントで起きた大幅な消費者の行動変化、社会の移り変わりに気づいている企業はリストラクチャリングの手法を通じて価値が下がったモノを手放し、そこで生まれた人材・設備・資金などをもとに新たな成長分野の価値が上がるモノを手にしているのである。

今後さらに伸びる3つの領域

コロナ禍で打撃を受けた企業、逆に成長をした企業と大きく二極化した中、コロナで成長した企業は「価値が上がるモノ」を持っていた。今回はその中でも特徴的な3つのモノをご紹介する。伸びた企業はこの3つの要素を1つ、もしくは複数持っていただろう。あなたの企業がこの先成長するために手に入れるモノの候補として見てほしい。

領域1. オンライン

コロナを通じて大幅に伸びたのは「オンライン」である。

マッキンゼーのレポートにあるように、2009年から10年かけて+10%程度しか成長しなかった米国のEC化率がコロナによって一気に+17%成長した。


出典:https://www.mckinsey.com/business-functions/strategy-and-corporate-finance/our-insights/five-fifty-the-quickening

世界中の人を動画でつなぐオンラインミーティングのZoomはコロナ期の2021会計年度第1四半期で、前年同期比の売上が1.6倍、顧客数が3.5倍に伸びた。1日あたりの会議参加者数は一時、3億人に上ったとされる。

そして、オンラインという意味や価値もコロナの期間を通じて変化してきた。これまではどうしても「リアルの補完」というニュアンスがあったが、今ではオンラインの良さに「非接触(人と触れずに済む)」「時間や場所を超えて多くの人が一気に集まることができる」「エモーショナルな感覚が伝わるようになってきた」という変化が起きている。

領域2.「消費者と直接つながる」という思想に基づいたD2Cの概念

このコロナでメーカーは顧客接点の重要性を再認識しただろう。消費者が外出できなくなった途端、小売からも消費者の足が遠のき、なすすべも無くなったからだ。

最近成長しているD2Cというカテゴリーは多くの誤解を受けているような気がする。

D2Cはスタートアップだけがやるものでもないし、中小企業のものでもない。

ファーストリテイリングの柳井正(代表取締役会長兼社長)さんはD2Cについて、「顧客が欲しいものをそう簡単にできるわけはない。完全に趣味の商売だ」と言うが、ユニクロやAppleこそがD2Cの概念のDirect to Consumerを体現した企業そのものである。今D2Cビジネスをしている人たちが概念を矮小化しているのであって、「顧客と直接つながる」ことこそメーカーが今後やらなければいけないことだ。

D2Cはアパレルで使われる用語であるSPA(企画から製造、小売までを一貫して行うビジネスモデル。製造小売ともいう)+メディアのようなもので、消費者と直接つながる「販売店舗(オンライン含む)」や「メディア」を有している。上記の見出しを「顧客と直接つながる」ではなく、「消費者と直接つながる」としたのは、顧客になる以前の消費者にもつながるほうが良いし、そこが重要だからである。ちなみにユニクロもメディアを有し、情報製造小売を標榜しているのでまさにSPA+メディアである。

スーパー・コンビニなど小売企業のプライベートブランドもD2C的と言える。顧客と直接つながることができている企業が、顧客に必要な商品を提供できるのだ。

では消費者とつながることのメリットとは何か?

消費者と直接つながることで「中間マージンを取り除く」「広告コストを削減できる」「顧客や消費者の声を直接聞いて商品や施策を改善できる」「LTV(顧客生涯価値)を伸ばす」などさまざまなメリットがある。直接つながることで商売に関わるコストを減らすことができるし、顧客から直接生の声を多数聞けるようになる。そして1顧客の価値(売り手の価値、買い手の価値どちらも)を上げることが可能になる。

では、具体的に消費者とどのようにつながるのか。まずは消費者とつながるチャネルを構築する。多くのD2Cブランドはインスタグラムにメディアを持ち、消費者との接点を構築している。そしてトライアルした人、一度購入した人、サブスクリプション(定期購入)など接点を持った人をDB(データベース)で管理する。このDBからさまざまな消費者接点を通じてコミュニケーションが行えるようになる。

今までのメーカーは”売って終わり”だった。しかし消費者は”買ってからが始まり”である。今までは接点がなかったため何も働きかけられなかったメーカーも、消費者との接点をメディアやDBで持ち、消費者のフィードバックを直接得ることで製品改良ができ、何度も買ってもらうことを重視することができるようになる。

最近の言葉でDX(デジタル・トランスフォーメーション)という言葉があり、企業のデジタル化を推進しているが、大半はうまくいかないと思っている。なぜかというと、デジタル化の理由が定義されていないからだ。あなたの企業はデジタル化の意味をどう捉えているだろうか。僕の定義するDXはこの20年くらいで消費者はインターネットを使うようになり、この10年でスマートフォンとアプリを使うようになったことだ。見事にGAFAで消費者自体がDXしている。企業はこれに追いついておらず、消費者のストレスを増やしている。例えば消費者はこのように考える。なぜ検索しても出てこないのか、なぜ見ているインスタグラムにはないのか、なぜ24時間オンラインで予約や購入できないのか。なぜ決まった時間通りにしかやり取りができないのか。なぜ使いづらいアプリで大切な時間が奪われなければいけないのか。まずはこれに追いつくのが企業の行うべきDXである。

領域3. Financial サービスが消費者を顧客に変える

冒頭にある1月の記事でも書いた、今後日本に起きることとして「人口減少」「所得分布の偏在化(持つ者と持たざる者の格差拡大)」がある。

このことが意味するのは、買う人が減る、買う人のお金が減るという、2つで消費減が起きることを意味する。

消費減を解決するために、米国にあるウォルマート(Walmart)の事例をもとに日本企業も必要となるであろうFinancial サービスをご紹介する。

ウォルマート
最近ではTikTok買収に関わる報道が話題になったウォルマートは「Everyday low price」を掲げ、米国中心に世界展開をしているスーパーマーケットだが、最近では特にオンラインと金融サービスに力を入れている。

ウォルマートはオンラインサービスへの投資を強化した結果、ウォルマート・マーケットプレイスが月間1.2億人訪れるほどに成長したほか、COVID-19(コロナ)の影響でウォルマートのeコマース(食料品の配達やピックアップを含む)の売上が97%増加(およそ2倍)したと発表した。(2020年8月、第2四半期決算発表より)

米国では銀行口座がない人や明日の資金に困る人も多く、毎週1.4億人が店舗を訪れるウォルマートとしては、そうした低所得者が金融サービスへアクセスできる方法も提供している。

金融サービスの内訳はクレジットカード、プリペイドカード、デビットカード、送金、小切手発行、小切手換金、Walmart Pay、請求書支払い、商品保証、Bluebird(銀行口座のようなサービス)等、多岐にわたり、店舗訪問者が何かしらのサービスを受けられるようになっている。

そして2019年からはCarSaverと提携してCarSaver at Walmartというオンラインで車販売関連のサービスを提供している(資料提供:IBA Company)。

 

ウォルマートの提供する販売網と金融サービスによって、車の購入が困難になっている低所得者も車を手に入れることができるようになる。

一方、自動車を保有するCarSaver側も、ウォルマートの持つ大きな販路と顧客にアクセスできることで、大いに成長が望める。このようにこれから「価値が上がるモノ」を手に入れた企業が成長のチャンスを掴んでいくというわけだ。

顧客と直接つながるウォルマートだからこそオンラインでビジネスを伸ばし、さらに購入を容易にするためのFinancialサービスで他社にはやりにくい取り組みを行うことができている。

あなたの企業はウォルマートのような価値あるモノを持つ転換ができるだろうか?

消費者は変化した。次は企業が変わる番だ

企業の描いた今までの成長戦略は人口減少や所得格差が広がり始めたこの数年であっさり崩れ、コロナで一気に事態が悪化した。しかし、新たに生まれた「価値が上がるモノ」を掴み、成長するチャンスも手に入れた。

今回ご紹介したリストラクチャリングの手法と「価値が上がるモノ」をきっかけに、企業内で「今の自分たちが持っているモノは今後本当に価値があるのか?成長できるのか?」と問い、価値が下がるモノを捨て、価値が上がるモノを多く掴んで成長していただきたい。

繰り返しになるが、モノとは事業だけではなく、事業を牽引する技術や設備、人材、さらには経営者の視点、組織形態、働き方など多く存在する。果たしてあなたの企業は1年後にどのような価値あるモノを持っているか?

新たな「価値が上がるモノ」を発見し、大胆にリストラクチャリングして成長へ向かってもらえれば嬉しい。

消費者は変化した。変化していないのは企業だ。

菅原健一/Moonshot

 

菅原健一

記事執筆者

菅原健一

株式会社Moonshot代表取締役社長。
企業の10倍成長のためのアドバイザー業を創業。社会や企業内に存在する「難しい問題を解く」専門家。グローバル企業含めクライアント10社、エンジェル投資先20社の計30社のプロジェクトを並行して進めている。過去に取締役 CMO で参画した企業を KDDI子会社へ売却、そのまま経営を継続して売り上げ数百億円規模へ成長させる。スマートニュースを経て現職。20代のマーケター600人が参加する「#20代マーケピザ」を主催。
(画像提供:株式会社Moonshot)
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