動画を見たり、食事を注文したりと普段何気なく使うことが多く、日常生活に欠かせない存在になっているスマホアプリ。ユーザーにダウンロードして利用してもらうまでには高いハードルがいくつもあるのに、「Webマーケティング」「デジタルマーケティング」はよく目にしても、「アプリマーケティング」のことはよく知らないという人もいらっしゃるのではないでしょうか。
アプリの利用者は非常に多いのに、アプリマーケティングに詳しい人がそれほど多くないのは、なぜでしょうか。そもそも同じマーケティングでも、アプリとWebではどんな違いがあるのでしょうか。
今回はアメリカ発の機械学習ユニコーンMolocoのビジネス開発を務める坂本達夫さんに話を聞きました。
(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、写真:矢島 宏樹)
目次
アプリマーケに特化したコンテンツの少なさとニーズ
――坂本さんは登壇機会が多く、アプリ関連のテレビ番組(TOKYO MX『ええじゃないか!!』)に出演したり、外資系企業における「日本人第1号社員」の括りで取材を受けているのを以前から拝見していました。昨年秋頃、初の著書も出版しています。まずあらためて、キャリアを簡単に教えてください。
灘中・灘高から東大経済学部という一般的には“エリート街道”を歩んでいたのですが、新卒で2008年に楽天に入りました。当時の楽天は東大生が大勢就職する会社ではなく、周囲から「なぜ楽天に?」という反応があったのを覚えています。そこからGoogleに入って、AppLovin、Smartly.io、Molocoと転職してきました。Google以降はあまり一般的に知られていないかもしれませんが、一貫して外資で、モバイルのマーケティングやアドテクを行う企業の日本参入フェーズに入社し、日本人第1号~第3号社員くらいの位置づけで働いています。
Molocoでは現在、サプライサイドのビジネス開発を担当していて、広告でマネタイズしたい会社向けの部署に所属しています。
――初の著書となる『アプリマーケティングの教科書』を拝見、大変勉強になりました。どういうきっかけで本を書くことになったのですか。
以前から自分のブログなどで情報発信をしていたのですが、内容に関連してよく質問を受けました。中には「アプリや広告、マーケティングの勉強をしたいのですが、どのように勉強すればいいですか」と勉強の仕方そのものを知りたいという声も多かったのです。考えてみると、Webマーケティングに比べて、アプリのマーケティングやマネタイズに関する初心者向けの体系化されたコンテンツはWebにも書籍にも意外と少ないと気づき、巨大なマーケットでなくてもニーズはあると感じて、執筆を決めました。
――主に誰向けの本になりますか。
もともと書きたかった相手は、アプリのマーケティングやプロモーション、マネタイズのことを体系的に全部学びたいという人向けです。初心者も含めて「これさえ読んでおけば何となく全体像がわかる」ことを主目的にしています。レベル的には初心者から中級者くらいですね。ただ、結果的に細かい内容やマニアックなことまで書いたので、初心者には少し難しいかなという箇所もあります。
――出版後の反応で想定外だったことはありますか。
本にはアプリマーケティングの中でも広告のプロモーションとマネタイズの両方を書いています。これまでプロモーション側しか担当してなくてマネタイズのことをよく知らなかった人、もしくはその逆しか知らない人が世の中にたくさんいることが、本のフィードバックを受けながらわかってきました。逆サイドのことを知っておくと、仕事には当然プラスになります。自分を振り返ってみても、広告主側と媒体サイドの両方を行ったり来たりしてきたからこそわかるアドテクという世界の全体感があると感じます。プロモーションとマネタイズの両方を知ることで副次的な効果が得られる点は、想定外でした。
Webマーケとの違い、アプリならではの魅力
――基本的なことですが、アプリマーケティングとWebマーケティングは大きくどういう違いがあるのでしょうか。
根本はそんなに変わらなくて、結局は「サービスを潜在的に欲しいと思っている人」と「サービスを作っている人」の情報のギャップをいかにつなげるかにあると思っています。両者をつなげる手段として、まず認知してもらって、サービスを深く知ってもらって、最終的にはコンバージョンしてもらうというマーケティングのファネルのような考え方、カスタマージャーニーマップ的な考え方には違いはなく、コンセプトはアプリもWebマーケティングもほぼ変わりません。
ただ、アプリならではの特殊事情は、Webに比べて狭いフィールドでの戦いを余儀なくされることです。Webの場合、Webサーバーに置いたコンテンツを検索エンジン等を通じて容易に発信できますし、誰でもどこからでもアクセスできるというオープンワールドで成り立っています。一方、アプリの場合は、一部の例外を除くと、基本的にはGoogle PlayかApp Storeにしか存在しません。そこからインストールしてもらうしかないですし、そのためのマーケティング手段もアプリ内での検索か、ディスプレイ広告など取り得る選択肢が限られます。そこが特徴として1つあります。
また、その特徴も加わって、例えば素人がWebに個人ブログを毎日上げているというレベルに比べると、ある程度しっかり完成されたアプリでないとそもそもストアにアップさせてもらえない厳しさもあります。以前はそこまで厳しくなかったのですが、今ではユーザーの目が肥えてきて、素人が作ったレベルのアプリでは気づかれないし、使おうと思ってもらえないでしょう。そう考えると、Webで何かしらサービスや情報を発信している人が100人いるとしたら、アプリで実質ビジネスとして成り立たせられている人は10分の1、もしくは100分の1くらいのすごく狭いフィールドだというのが、もう1つの特徴としてあります。
――それくらいアプリのほうが難度が高いということですね。
アプリビジネスを中途半端なレベルで展開している企業や個人の場合、成功するのは難しいと思います。Webなら個人でもアフィリエイトで小遣い稼ぎができますが、アプリはロングテールがなくて、トップに集中するからです。
――その難度の高さがあったとしても捨てがたい、アプリならではメリットや魅力は何でしょうか。
この記事は会員限定です。無料の会員に登録すると、続きをお読みいただけます。 ・本気でアプリに取り組む企業の危機意識 |