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インタビュー

ゲームやSNSを抑えて、サッカーが可処分時間の争奪戦に勝つには――南葛SCマーケティング部長 江藤美帆に「エルモが聞く!」

最終更新日:2023.04.27

The Marketing Native #45

南葛SC マーケティング部 部長

江藤 美帆

漫画『キャプテン翼』の主人公が所属するチームと同名のサッカークラブとして知られる「南葛(なんかつ)SC」(東京・葛飾)。このクラブに、J2リーグ「栃木SC」で取締役マーケティング戦略部 部長をしていた「えとみほ」さんこと、江藤美帆さんが今年(2022年)5月、マーケティング部長としてジョインしました。

『キャプテン翼』の原作者・高橋陽一さんがオーナー兼代表を務めるなど、異色のクラブとはいえ、まだアマチュアの社会人チームである南葛SCに、えとみほさんは、どんな魅力と可能性を感じたのでしょうか。

今回は、Marketing Nativeで連載中で、サッカーファンのエルモさんに、えとみほさんを取材してもらいました。

(構成:Marketing Native編集部・早川 巧)

目次

「リアル×バーチャル×IP」。南葛SCの計り知れない可能性

エルモ 栃木SCから南葛SCに移られた理由をあらためて教えてください。ネットとリアルの両方に知見と実績があり、個人的に次はまたインターネットに関わるビジネスに戻ると思っていましたので、再びリアルが主体のビジネスを選択されたのは驚きでした。

えとみほ よく聞かれるのですが、明確な答えはないのです。栃木での生活も、栃木SCのことも好きでしたし、働きやすかったので、少なくともネガティブな要素はありません。

私は起業やスタートアップの勤務経験が長いので、劇的でスピーディな変化を楽しいと感じるタイプです。栃木SCの4年間も、広い裁量を持たせていただいたおかげで、地方クラブのカルチャーやデジタル施策など多くの課題をダイナミックに変えられたと思います。

画像は本人のご提供

栃木SCを辞めようと考えた理由をあえて探してみると、変化が落ち着いてきて、自分の中でスピードが少しずつ緩やかになってきたと感じていたことが1つあるかもしれません。もう1つの理由は、新たに採用した若手社員たちが育ち、自走できるようになってきたことです。社員の成長自体はもちろん、ポジティブなことですが、私自身にとっては2年に1回の役員改選のタイミングを迎え、「新しい環境に挑戦しようかな」と考えるきっかけになりました。

エルモ ということは、栃木SCを辞めると会社に話したときには、転職先は考えていなかったのですね。南葛SCに行くことになったのはなぜですか。

えとみほ 「辞めます」と言ったタイミングでは何も考えていませんでした。

南葛SCに行くことになったのは、元『サッカーキング』編集長で、南葛SC でGMを務める岩本(義弘)さんと情報交換をしているときに栃木SCを辞める話になり、岩本GMから「南葛SCの新しいチャレンジに力を貸してほしい」とオファーを頂いたからです。

話を聞いて、面白そうだと思いました。なぜかというと、まだ何もない、ほぼゼロの状態からJリーグ入りを目指して、自分たちの手でイチから作り上げていく瞬間に立ち会えるからです。栃木SCはJ2のクラブで、歴史もそれなりに長く紡がれ、ファンやサポーターの方々もJリーグに上がる前から応援されている方々がたくさんいらっしゃいます。正直、そのことをうらやましく思うときもありました。

一方、南葛SCは、練習場も固定ではないですし、Jリーグならどのクラブも持っている専用の大型バスもなく、「NANKATSU SC」とラッピングした小型のマイクロバスがようやくできたところです。そんなフェーズからJリーグを目指す体制が少しずつ出来上がっていく輪の中に参加できるのは、とても魅力的に感じました。

エルモ 南葛SCでは、これまで以上にゼロイチ寄りのフェーズに携われるということですね。とはいえ、関東リーグのクラブの中では資金力が豊富で、ビジネスとしての魅力も兼ね備えていると思います。南葛SCと他のクラブとの大きな違いはどこにあるとお考えですか。

えとみほ 確かに関東リーグのカテゴリでは異質なクラブだと思います。やはりオーナーの高橋陽一先生が『キャプテン翼』という世界的に有名なIP、キャラクターをお持ちで、翼君のファンが全世界に存在するところが、他のクラブとの大きな違いです。

南葛SCは東京・葛飾をホームタウンとするクラブですが、東南アジアやヨーロッパなどから「一緒にビジネスをしたい」という話を頂きます。さらに、そうした国々から選手を迎え入れれば、「『キャプテン翼』の南葛SCにわが国の選手が入った」と話題になり、海外マーケティングへの展開も考えられるでしょう。葛飾区は成田空港や羽田空港とも京成線一本でアクセスできますから、インバウンドのお客さまも呼べるかもしれません。ビジネスが多方面に広がる可能性は非常に魅力的に感じます。

エルモ それはすごい、鳥肌が立ちます。言われてみれば、リアルとバーチャルとIP(知的財産)の融合が本当に実現する可能性が考えられますね。

えとみほ そうですね。南葛SCはその面白さを可能にする唯一無二の存在かもしれないと思います。

図解作成:Marketing Native編集部

「頭を下げて、スタジアムに来てもらう」ことへの違和感

エルモ えとみほさんの主な仕事は集客や地域との関係づくりですか。

えとみほ マーケティング部長としての役割を頂いているのですが、Jリーグ時代と違うのは、有料の興行ではなく、無料で試合を開放していることです。オンラインのチケット管理アプリを導入してお客さまの情報を取り、分析に着手してはいますが、栃木SC時代のようなチケット販売に関するミッションはありません。今は「南葛SCの価値を上げ、認知を広げることなら何をしてもいい」と岩本GMから言われていて、まずはプロモーションに重点を置いています。その1つがホームタウン活動。葛飾の方なら皆さんが知っていて、皆さんが応援するクラブにするのが一番大事なミッションです。

エルモ なかなかハードルが高いですね。ホームタウン活動のほかに、重きを置いている活動はありますか。

えとみほ 観客動員です。無料のうちにスタジアムに入りきれないくらいの人を集めたいと思っています。

Jリーグ時代にすごく苦労したのは、やはり集客でした。4年間、Jリーグのクラブにいて疑問に思っていたのは、「本当に頭を下げてまで来てもらうようなことなのか」です。

エルモ どういう意味ですか。

えとみほ 例えば、集客のために入場無料のチケットを配ったり、パートナー(スポンサー)さんが社員を動員して「来てください」と頭を下げてもらったり、ギブアウェイのTシャツを配布したりしていたのですが、私は途中から「そもそも一生懸命お願いして、お客さまに来てもらうことなのか?」「面白い試合をしているから、お金を払ってでもスタジアムで見たい、となるのが本来あるべき姿ではないか?」と疑問を感じるようになりました。

なぜ集客に無理が生じるかというと、要因の1つは、スタジアムのキャパシティが大きすぎることです。キャパシティが大きすぎて需要と合っていないから、差分を埋めるために、お願いして来場してもらう必要が出てきます。

その経験を踏まえて、まず南葛SCのホームスタジアム「葛飾区奥戸総合スポーツセンター陸上競技場」という超満員になっても2,000人くらいのところを、お客さまであふれ返る状態にしたいと考えています。今は無料で観戦できますし、稲本(潤一)選手や今野(泰幸)選手のような日本代表経験者もいて、しかも東京都内にあり、公共交通機関を利用して来場できます。このスタジアムに、無料の整理券を発行したら争奪戦になるくらいまで人気を高めてから、お金を頂ける状態に持っていきたい。今シーズンはコロナもあってぎりぎりまで人を入れることができないのですが、それでも可能な限り「奥戸がいっぱいで入りきれない」という状況を作りたいと思っています。

エルモ 観客は今、何人くらい入っているのですか。

えとみほ 大体1,300〜1,400人くらいですね。チケット自体は毎回在庫がなくなるのですが、実際の着券が3割くらい減るので、この辺りのブレをなくして、1,500人のラインは超えたいと思っています。

画像はイメージ

「サッカーは認知しているけど、観戦しない人」へのアプローチ

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記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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