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インタビュー

みる兄さんインタビュー「成長するマーケターが持つ“好奇心と恐怖心”の絶妙なバランスと、注意すべき落とし穴」

最終更新日:2022.05.30

Marketer’s Career #05

匿名アカウントなマーケター

みる兄さん

みる兄さんの連載「話題のプロダクトについて考えてみた」が、おかげさまでご好評をいただいております。

読者の皆さまの中には記事に興味を持てば持つほど「みる兄さんとは一体、何者!?」と疑問を感じられる方もいると思います。そこで今回のインタビューはみる兄さんを取り上げ、事業会社のマーケティング部門に所属しつつ、「匿名アカウントなマーケター」として骨太の記事を書き続ける、仮面の下の「素顔」に迫りました。

仕事や勉強の仕方で、読者の皆さまにも参考になるところがあると思います。ぜひお読みください。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:永山 昌克)

目次

    衝撃的だった競合の出現と社会人大学院での大きな学び

    ――事業会社のマーケティング部門所属とのことですが、みる兄さんのキャリアから教えてください。

    新卒で事業会社に入社してから数年間、営業をしていました。ただ、就活のときから企画の仕事をしたいと思っていて、入社後も積極的に企画の提案をしていたら、入社5~6年目の頃に社長から「そんなに言うならやってみろ」と言われ、転属の形でマーケティング部に入りました。「意見を言うだけでなく、実行が大事」との考え方が浸透している会社で良かったと思います。

    その後また5~6年ほどサービスやプロダクト開発を担当していたのですが、マーケティングに携わっていく中で、仕事の範囲を広げるためにお客さまにもっと近いところで価値を伝えたり広げたりする仕事がしたくなり、希望して宣伝広告や販売促進のプロモーションを担当する部署に転属となりました。

    入社10年目くらいの頃、転機が訪れます。競合他社が我々には考えもつかなかった新しいコンセプトを基にプロダクトを開発し、今で言うSNSを活用したマーケティングやファン向けイベントなどの当時としては先鋭的なマーケティング施策を打ってきたのです。世間的にも話題になり、私も良い意味でショックを受けて、「競合はなぜそんなヒットする斬新なマーケティング施策を思いつくのだろう」と興味を持つと同時に、「自分もコツコツと目の前の仕事に向き合いキャリアを積んできたつもりだったが、自社内で得られる経験値だけでは衝撃的な戦略も企画も、マーケティングの全体像も描けない」と危機感を覚えました。

    その後、話題の施策を担当している競合の若手社員の一人が、社会人大学院で学んでいるとの噂が伝わってきました。たまたまその少し前に高校時代の友人から「大人になって社会人大学院で学ぶと、視野が広がり、仕事が構造化されて課題や悩みを解決しやすくなる」と聞いていたため、「もしかしたら社会人大学院でマーケティングを学ぶと、上流から下流まで整合性のあるマーケティングプランを作れるようになるかもしれない」とピンと来て、もう一度勉強し直そうと決意したのが、キャリアの中で一番大きな転機です。それが2014~15年のことで、社会人大学院には2年間通いました。

    ――2年間は結構長いですね。勉強は大変でしたか。

    大変でした。中学から大学まで勉強らしい勉強をしてこなかったのですが、30代半ばに自分のカネで学費を払い、どの先生に師事するかを自ら決めて勉強をすると、意気込みや集中力が全く違います。「とにかく投資回収だけは絶対にしよう」と思って勉強に励み、2年間は土日などほとんどなし。仕事が終わると帰宅せずに大学院へ行き、自習室で勉強。その後、またちょっと仕事して就寝…の毎日で、同級生の中でもトップクラスにやり切りました。結局、首席こそ取れなかったのですが、競い合うレベルで結果を残すことができ、満足しています。人生で一番勉学に励んだ時期だったと思います。

    ただ家族はというと、そのときには結婚して子供もいたのですが、ほぼ2年間家にいなかったので、さすがに妻は引いていましたね(笑)

    ――社会人大学院では、ブランド論を勉強したのですか。

    そうですね、教授の専門ジャンルがブランド論、ブランディングだったので、いわゆる経営戦略やマーケティング、アカウンティングファイナンスなどビジネスの基礎を押さえつつ、マーケティング、ブランディングに関しては特にしっかりと学びました。具体的には、古典的なマーケティングから最新事例まで、ひたすら理論とケーススタディ分析を行い、レポートを毎月書き続けて、最後は修士論文を提出するという2年間でした。

    ――その後「ブランディングを学んだので、業務で活かしたい」と会社に伝えたわけですか。

    すぐ実務に活かしたいところですが、会社から社会人大学院に派遣されたわけではなく、自分の危機感で通っただけなので、それほど簡単な話ではありません。ただ、基本的に好奇心旺盛なので、社会人大学院で徹底的に行った自社分析を何度も役員に伝えていたら、「会社としても販売促進のためのマーケティング・プロモーションだけでなく、会社全体のブランディングも強化していく必要がある」と理解していただき、「それなら自分でやってみたらどうか」と担当を任されました。現在は個々の製品やサービスのブランドではなく、ブランド戦略の形で企業ブランドと宣伝部のようなコミュニケーション戦略全般、あとは新規事業も担っています。

    みる兄さんの寄稿(連載)一覧と記事内で使用された図解。

    読まれる記事のポイントは、専門性とわかりやすさの両立

    ――ほかに転機になったことはありますか。

    先ほどの話と関連するのですが、やはり自分や自社が正しいと思っていた概念や手法と違うところから競合が出てきて衝撃を受けたときに、思考停止せず、他社分析をしっかり行ったことです。そんなときは現実から目を背けて競合のやり方を否定したり、自社の理念や強みで対処したりしがちですが、私は起きている現実をフラットに捉え、競合が伸びている背景を他社分析しようと努めました。その経験は、物事を多面的に見て考える癖をつけるひとつのきっかけになったと思います。

    それまでは他社の方から「調子良さそうですね」と声をかけられても、「プロダクトが良いだけですから」「お客さまに育てられました」「みんな頑張っていますから」など抽象的に答えていて、あとは現場でお客さまと話をして困り事を聞き、社内に持ち帰って解決する“対面型パワー営業タイプ”でした。しかし、その競合の出現が「このままの自分ではいけない」「マーケティングを体系的に学びたい」との危機感となって社会人大学院の門を叩く背中を後押しし、結果的に会社の理念、お客さまとの向き合い方、日頃の業務などを要素分解して言語化し、他者に伝えられる知見を一定のレベルで身に付けることができました。今の自分のキャリアを形づくっているのは、やはり競合との出合いと、そこからの学びだと思います。

    ――わかりました。おかげさまで、みる兄さんの連載が好評です。学術的な内容と具体的で身近な事例を結びつけて、わかりやすく文章化できるところを、読者の皆さまが支持してくださっているのだと感じます。ご自身ではどうお考えですか。

    うれしさや感謝の気持ちが強い半面、若干の違和感も覚えています。私は20年くらい一貫して専門的にマーケティングに携わってきたり、あるいは誰もが知っているような爆発的な大ヒット商品を作ったり、企業再生でV字回復を達成したりした輝かしい功績があるわけでなく、社内の数値目標達成など一般的なビジネスパーソンと同様の実績しか持っていないからです。

    一方で、営業、サービス開発、プロモーション、企業ブランド、新規事業など、経営やバックオフィス以外は網羅的に事業会社の中を見てきましたので、経験の幅の広さがある種の強みになっているとも思っています。

    Marketing Nativeの読者が20代後半から30代前半くらい、社会人経験5年から10年前後をコア層だとすると、僕が社会人大学院へ行く前と似たような悩みを抱えている人が少なくないと思います。例えば、それなりに頑張って実績を上げてきたけど、「なぜ?」と聞かれると、再現性のある内容の体系的な説明を苦手にしている人は少なくないでしょう。

    私は社会人大学院の後、さとなお(佐藤尚之)さんのラボなどコミュニケーション系のさまざまな講座を受講しました。Marketing Nativeでは、原書古典の基礎的な内容とわかりやすいトピックを組み合わせつつ、事象事例の解説を自慢話でなく、先輩が飲み屋で「ちょっと面白い話があったんだ」と会話をしているくらいの感覚で書いています。もしかしたらそこが支持されているのかもしれないですね。内容は本を書けるほどスペシャルではないと思いつつも、Web記事でよくある“書評”レベルよりはもっと自分の経験や学びを基に生々しい感じで書いているつもりです。

    基本的に僕の記事の作り方は、社会人大学院で課題レポートを書いている感覚とほとんど変わりません。教授に向けて体裁を整えたレポートを書くのか、今の自分の10年前、5年前を相手にわかりやすさを重視して書くかの違いだけ。そんな僕のレポート風な特徴を取り上げて「面白い」とベイジの枌谷力さん(株式会社ベイジ代表取締役)にご評価いただいたこともあります。だから自分としては、社会人大学院の頃からペースは落ちたものの、毎月数千字のレポートを仕上げる作業がずっと続いている感覚です。

    ――日頃のインプットはどんな感じですか。仕事、育児、サッカー観戦、趣味、Twitter、記事執筆と、かなり忙しそうです。

    いろんなタイプがいると思いますが、自分の場合は何事も習慣化して半自動化するのが継続のポイントです。その意味では、通勤時間のうち電車に乗っている片道30分、往復1時間をインプットの時間に固定しています。具体的にはTwitterやWebニュースの中で印象に残ったことをそのときに感じた考察と一緒にTwitterの下書きなどに保存していって、帰宅後、子供が寝た後に深く調べたり、記事を書くときは関連書籍を数冊集めて照らし合わせを行ったりしています。

    思考を言語化して発信し、市場で揉まれるのが大事

    ――文章を書くスキルについてはいかがですか。苦手にしている人は多いと思います。

    さとなおさんのラボで「ファンベース」の考え方に代表されるお客さまとの関わり方を学んだ際に、その知見を会社でどのように実現できるかを考えたら、オウンドメディアとTwitterの公式アカウントの2つから始めることを思いつきました。ところが、実践してみるとさっぱり結果が出ない。外部のパートナーを雇うには予算が足りない…となったときに、これも社会人大学院の成功体験から来た発想ですが、ライターゼミに通って自分のライティングスキルを上げるしかないと考えました。単発のセミナーではなく、カリキュラムがある程度しっかりしたライターゼミに通った結果、ライティングスキルを向上させられただけでなく、「書く面白さ」「伝える面白さ」に気づけたと思います。

    自分が思う文章を書くコツは、まずは誰かに「書き方」を習うこと、次に文章を公開して感想をもらうこと、そして良い編集者さんに赤入れしてもらうことだと思います。

    ――ライティングスキルは普段の仕事でどのように役立っていますか。

    社内外に提出する文書の作成はもちろん、物事を構造化したり起承転結をつけながらわかりやすく頭の中を整理したりして、企画などを体系的にまとめることに役立っています。提案資料でも会議の議事録でも、書面化するのを苦手にするビジネスパーソンは少なくなく、つい後回しにしたり、SEO記事のように「わび・さび」や盛り上がりの少ない、淡々としたアウトプットを作成したりしがちですが、さとなおさんのラボやライターゼミで学んだことを仕事にもTwitterにも活かしています。

    ――そう考えると、仕事以外に自主的に学び続けることが大切なのですね。では、自分が今20代のマーケターだったら何をしますか。

    ブログ、note、SNSなど人に見られて意見を言われる場所に思考を整理してまとめたテキストを継続して出していくと思います。理由は、枌谷力さんや阿部圭司さん(アナグラム株式会社代表取締役)、山口義宏さん(インサイトフォース株式会社代表取締役)をはじめ、尊敬する方々が経営者としてマーケティングに関わりながらブログを書いていたり、SNSで積極的に情報発信したりしているからです。

    頭の中で事象を構造化し言語化して文章に書き、発表すると、良くも悪くもいろんな反応が出てきて市場で揉まれます。その結果、構造化のスキルがブラッシュアップされたり、自分の興味と世間の反応の合致や食い違いが明確になったりして思考が整理され、仕事に役立ったり、その先にニッチだけどコアな人たちとのつながりができたりすることがあります。

    大事な点は仕事に限定しなくていいけど、何となくの生活ブログではなく、決めたテーマ、ポイントを絞ったら逃げずにバチバチに長い文章を書くこと。そういうブログを過去に書いていたり、継続していたりして実業とは別の修羅場感をもう1つ持っている人は、物事を俯瞰的に見て、かつ実現可能性の高いところに落とし込むのが得意というか、苦にしないなと感じます。

    ――文章を書くのを苦にする人にとっては、いささかハードルが高そうですね…。では、成長する部下の特徴は何だと思いますか。

    メンバーによく話すのは、「好奇心と恐怖心」という2つのバランスの大切さです。極端な話をすると、ほとんど好奇心だけの人は1勝9敗でたまに大勝ちしますけど、社会人として考えた場合、好奇心旺盛な半面、恐怖心を持って準備をし、想定されるリスクをあらかじめ回避したり、コミュニケーションベースで事前に根回ししてネガティブな要素を消しておいたりできることが、組織で働く上で重要な感覚だと思います。

    恐怖心が強くてネガティブなので企画やマーケティングの仕事に向いていないと考える人もいますが、好奇心を持つことに関しては、上長や周りがサポートして心理的安全性が担保されると、恐怖心の下に隠れていた興味・関心が顔を出してくるので、一度成功体験を積めば後は大体、好奇心は伸びていきます。一方、好奇心だけのイケイケの人は大ケガでもしない限り、恐怖心を持たない傾向を感じるので、組織内での成長度合いからすると、ちょっと難しいかもしれないですね。

    心が常に現場にあれば、横柄な言葉など出てきようがない

    ――若手マーケターに何かアドバイスをお願いします。

    「現場に行くことをさぼらない」ですね。私も毎日ではないですが、月に数回はお客さまのところを訪問して、営業と一緒に顧客と向き合ってお話を聞くようにしています。

    マーケターで良くないのは、デスクの上でデータとにらめっこして市場戦略などを考えていると、だんだん大切なお客さまが「売り上げ」という塊に思えてくることです。そうすると、「囲い込み」「刈り取り」「巻き込み」などの言葉を口にしながら「ここの数字をこう動かして…」などと、つい考えるようになってしまいます。さとなおさんのラボで学んだのですが、自分が言われたら嫌だなと感じる言葉で施策が動いているビジネスはやはり長続きしないと思います。確かにマーケティングの世界では使われがちな言語かもしれませんが、僕が大好きなサッカー・横浜FCの事業者やマーケティング担当者が「サポーターを囲い込むために」「サポーターのライトユーザーを刈り取るために」とセミナーで言っていたら、非常に残念な気持ちになります。一方、自社のプロダクトやサービスを愛用してくださる方々とお会いして声を聞いていると、当たり前ですが、そんな感覚はあまり起こりません。そのためにも現場に行くのが大事で、かつ自分1人ではなく営業などお客さまと関わっているいろんな部署の人たちと一緒に会いに行くのが、謙虚さを忘れない観点だけでなく、顧客理解、顧客視点でのプロダクト・サービス開発のためにもとても重要だと思います。

    ――最後、これからの目標を教えてください。

    具体的に「起業したい」「社会課題を解決したい」などの目標を描いているわけではないのですが、年齢の重ね方で憧れるのは、中央大学ビジネススクール(中央大学専門職大学院 戦略経営研究科)の恩師、田中洋先生です。田中先生は電通でマーケティングディレクターとして21年間実務を経験。その後、法政大学、中央大学に移られてからも、精力的に活動されています。年齢を重ねるにつれてご意見番のようなポジションになってしまう人もいる中で、さまざまな企業と関わり、精力的に取り組んでいる生涯マーケターという印象があります。マーケティング学会の会長(2019年3月末まで)の役職を担い、2022年3月には中央大学名誉教授に就任されていて、バックグラウンドとしての知識ももちろんすごいのですが、それでいて偉そうにするところがなく、非常にフラットな方なので私自身、とても尊敬しています。

    私もキャリアのひとつの形として、50代、60代なっても求められれば現場に入っていって、若手の邪魔にならないよう配慮しつつ、アドバイスをしながら一緒にプロジェクトを組んで、いつまでも仕事をしていきたいと、田中先生にお会いするたびに思います。ここまで書くと身バレしそうな気もしますが、田中先生が記事をお読みになって実名のメンションを付けないかどうかだけがちょっと不安です(笑)

    ――ずっと仕事をしていたいのですね。

    そうですね、いつまでも楽しく仕事をして、目の前にある誰かの課題を解決していきたいです。実は私の父は仕事が大変すぎて、たまに愚痴をこぼす人でした。もちろん育ててくれた父への感謝の気持ちは強い一方で、その点だけは反面教師にしようと思い、自分は娘と息子から見て「いつまでも楽しそうに仕事をしている父親」であることを人生のモットーにしています。マーケティングに関わる仕事はそれが体現できると思っています。だから子供たちから「お父さんと同じ仕事をしたい」と言われるくらい、ストレスなくいつも楽しそうにキャリアを重ねていくのが今後のライフステージの目標です。

    ――本日はありがとうございました。

    Profile
    みる兄さん
    匿名アカウントなマーケター。事業会社のマーケティング部門に所属している。
    Twitter:@milnii_san
    note:https://note.com/milnii

    早川巧

    記事執筆者

    早川巧

    株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
    Twitter:@hayakawaMN
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