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コラボ企画が大盛況!「絶滅危惧種」と言われたドムドムハンバーガーが4期連続で黒字達成できたワケ【藤﨑忍×山口義宏】

最終更新日:2024.05.09

1970年に創業し、50年以上にわたって愛され続けているドムドムハンバーガー。赤字で低迷していた業績を回復させ、4期連続で黒字達成に導いたのがドムドムフードサービス 代表取締役社長の藤﨑忍さんです。

そこで「Marketing Native Fes 2024 Spring」の特別セッション2では藤﨑さんをお招きし、「ドムドムハンバーガーが成長し続ける理由」について語っていただきました。モデレーターはグロースX取締役COOの山口義宏さんです。事業再生からの試行錯誤の様子や、「丸ごと!!カマンベールバーガー」「丸ごと!!カニバーガー」といった型破りな商品、アパレルなど異業種とのコラボが次々と成功する理由についても聞いています。

(文:廣田 喜昭、構成:Marketing Native編集長・佐藤綾美)

目次

SHIBUYA109、居酒屋を経てドムドムハンバーガーの社長へ

山口 グロースX取締役COOの山口と申します。本日はドムドムハンバーガーがどのようなプロセスや思考を経て成長してきたのか、お話を聞けるのを楽しみにしてきました。まずは藤﨑さんご自身とドムドムハンバーガーについて簡単に自己紹介をお願いいたします。

藤﨑 私は少し稀有なキャリアを歩んでおりまして、それが今の自身の考え方に大きく影響を与えています。39歳までは就職を一度もしたことがなく、専業主婦だったのですが、夫が体調を崩したことをきっかけに働かざるを得なくなってしまいました。

働くにしても何のキャリアもないので困っていたところ、友人のお母さまが東京・渋谷のSHIBUYA 109(以下、109)でアパレルショップを経営しており、「働いてみないか」と誘われて就職しました。

若者向けの流行を発信するファッションビルで39歳のおばさんが働いているのは、違和感があったと思います。ただ、私は店長としての経験を通じて、今につながる気付きを得ました。ギャルのスタッフの子たちと一緒に仕事をしたり、遊んだりしているうちに、彼女たちが派手な見た目に反して真面目で思いやりがあると知り、固定観念が覆されたのです。スタッフの子たちとの関わりから物事を多面的に見る「こだわらない心」を学びました。

入社から10カ月ほど経過した頃には経営者の方に「この会社を将来託したい」と言われるほど売り上げは順調に伸び、5年間でショップの年商は倍になりましたが、経営方針の変更で親族の方が会社を継ぐことになり、私はやむを得ず退職しました。当時の私は44歳。中学生の息子と夫を養わなければならないなか、自分が得意なこととして1つだけ思い浮かんだのが、お料理でした。

山口 ある意味で一番「キャリアがある」と言えます。

藤﨑 はい。それから飲食店でバイトを始めて2カ月ほど経った頃、お客さまに「自分で飲食店を経営してみたら?斜め前の店舗がちょうど空いているよ」と言われました。志半ばで109のショップを退職したので、実は「自分で起業したい」と思っていたところでした。

事業計画書を書き、金融機関を巡って融資を受け、2011年に東京・新橋のニュー新橋ビルの地下1階に居酒屋「そらき」を開業しました。ありがたいことに、開業間もなくしてお客さまでいっぱいのお店になり、1年半後に2店舗目を出店。その頃に「ドムドムハンバーガーの商品開発をしないか」とお誘いがありました。

山口 それも居酒屋のお客さまからですか。

藤﨑 そうです、常連の方です。その方は2017年にドムドムハンバーガーを譲り受けたレンブラントホールディングスの当時の専務でした。居酒屋を経営しながら商品開発のお手伝いを始め、2、3カ月後には「会社に入らないか」とお誘いを受けて、50歳でドムドムハンバーガーを運営するドムドムフードサービスに入社しました。

入社してすぐに感じたのが「ドムドムハンバーガーはどこに向かっているのか」「この会議体でいいのか」などの疑問です。不安に思うことも多数あり、「それなら自分が役員になったほうがいい」と考え、誘ってくださったレンブラントホールディングスの専務に電話をして、「私を意見の言える立場にしてください」とお願いしました。

最初は断られたのですが、諦めずにメールで改善点を送り、電話で夢を語り続けたところ、入社から約9カ月で意見を言える立場にしていただきました。

山口 藤﨑さんはキャリアを通して大体9カ月で転機を迎えていますね。しかもそれが役員ではなく社長だった、と。

藤﨑 はい、私は役員でよかったのですが(笑)

1970年創業のドムドムハンバーガーは、日本で最も古いハンバーガーチェーンです。レンブラントホールディングスがドムドムハンバーガーの事業を譲受し、ドムドムフードサービスが設立された2017年7月当時、1990年代に400店あった店舗は36店まで減少しており、「絶滅危惧種」とも言われていました。

現在は、ドムドムハンバーガーが26店舗、和牛のパティと米粉のバンズを使用した高級なハンバーガーを販売する「ドムドムハンバーガープラス」が東京・銀座に1店舗あります。従業員数は約300人で、その大半がパート・アルバイトの方々です。

事業再生するうえでの3つの課題と、解決のプロセス

山口 ありがとうございます。「絶滅危惧種」と言われる状態から事業を再生するにあたり、どのように課題を捉え、優先順位付けをして解決策を考えたのでしょうか。

藤﨑 課題は大きく3つありました。1つは、入社9カ月で社長になった私に対する社内評価です。入社からわずか9カ月で元居酒屋のおばさんが社長になり、スタッフは不安だったと思います。そこで、まずはスタッフの皆さんに私のことを理解してもらい、信頼関係を構築するべきだと考えました。

2つめが社内風土です。ただ数字を読み上げるだけの会議体や、上司に言われたことは全て「はい」と実行するようなトップダウン型の組織に疑問を感じていました。

3つめがドムドムハンバーガーの目指す方向性が不明瞭な点です。どのスタッフも「事業を再生したい」と強く思っていましたが、どこへ向かうべきか私自身もわかっていませんでした。そのため、ドムドムハンバーガーが消費者の皆さんにどう思われて、どこを目指すのか考えるべきだと感じました。

山口 インナーブランディングとアウターブランディングの両方に課題があったわけですね。

藤﨑 はい。私に対する評価と社内風土については、下の資料にあるように「信頼関係の構築」と「和をもってことを運ぶ」の2点に注力しました。また、ドムドムハンバーガーの目指す方向性の策定に関しては、業界内のポジションや既存店の営業力などの現状分析に努めました。私たちのいる業界は最大手企業が強力なため、独自性を追求しなければ生き残れません。まずは消費者とのコンタクトの機会を設けることと、関係性を模索することの2点を実施しました。

画像提供:ドムドムフードサービス

山口 競合は外食業界でもトップのシェアを誇る企業です。具体的にはどんなことを行いましたか。

藤﨑 社内風土の改革では、スタッフとの交流を大切にしました。イベントがあれば私も現場に足を運び、車を出して荷物を運んだり、スタッフと一緒に運営に携わったりしています。

画像提供:ドムドムフードサービス

数字を読み上げるだけになっていた会議は、意見が活発に交わされるような動きのある会議体に変更しました。また、上の資料の左下にあるのは、商品企画のハンバーガーコンテストを開催した際の写真です。優勝したスタッフに金一封を渡し、実際に商品化して販売したところ、非常に盛り上がりました。

他にも、店舗を訪れた際に会えなかったスタッフ向けに手紙を残したり、グループLINEを作って各店舗のスタッフと積極的に交流したりして、徐々に信頼関係を構築しました。

山口 独自性の模索についてはどうですか。

藤﨑 他社企画のコラボイベントに出店しました。初めて出店したのは、2018年10月6日、7日に千葉県の幕張メッセで行われた「ゆかりっく Fes’18 in Japan」です。1日あたり8,000人ほどを動員するイベントで、主催の声優・田村ゆかりさんから「子どもの頃にドムドムハンバーガーを食べた思い出があるからキッチンカーで出店してほしい」と言われたのです。

社内では参加に後ろ向きな意見も多かったのですが、これまでコンタクトを取れなかったお客さまと会えるチャンスなので、私は「どうしても出たい」と主張しました。また、声優のファンの方々はSNSの使い方が上手だと聞いていたため、ハンバーガーを販売した際に情報がどのように拡散されるのか知りたいとも思いました。

出店したところ、1日500食、2日で1,000食の予定が、SNSで拡散いただいたおかげもあって2日で1,900食売れました。新しいお客さまとの接点が生まれ、お客さまの気持ちを知ることもできた良い機会になりました。

画像提供:ドムドムフードサービス

山口 これまで接点のなかったお客さまと会うために、他社とコラボすることを重視していたのですね。

藤﨑 当時はそうでした。私たちは50年以上も続く企業ですが、店舗の出店先は地域のスーパーマーケットが多く、お客さまはどうしてもその商圏に住む方々が中心となります。新商品を出すときも、商圏を越えたエリアに住む人々の反応を見るのは難しい状態です。それでは次の施策を考えられないと思い、さまざまな業種とのコラボレーションを積極的に行いました。

山口 アパレルブランドともコラボしています。こちらはどのように話が進んだのでしょうか。

藤﨑 私どもは基本的に受け身で、アパレルブランドさんからコラボをご提案いただきました。Webメディアなどでドムドムハンバーガーの事業再生に関する記事を見て、「絶滅危惧種が何かやり始めたぞ」と興味を持ってお声がけくださったのです。2019年にFRAPBOIS(フラボア)さん、2020年にBEAMS(ビームス)さんとのコラボ商品を販売し、ビームスさんとはこれまで4年連続でコラボしています。

画像提供:ドムドムフードサービス

ちなみに、こちらも社内の人は「ハンバーガー屋が洋服を作ってどうするんだ」と大反対でした。しかし、私は「こんなに素晴らしい話はない」と思っていたので、説得しました。新しいお客さまと出会えるだけでなく、ドムドムハンバーガーのキャラクター「どむぞうくん」がプリントされたTシャツなどのグッズが消費者の皆さんに受け入れられるかどうか、低リスクで知れるからです。

山口 そういったさまざまな施策に取り組まれて、どのようなことを感じましたか。

藤﨑 ドムドムハンバーガーは、お客さまとスタッフに愛されて守られてきたブランドだと実感しました。そこでコアコンセプトとして決めたのが「ブランドを育むことが重要、そのブランドはお客さま・スタッフの人生に寄り添い並走し、共感・共存することで構築する」「美味しいはお客さまとの最低限のお約束」の2つです。この2つを自社の肝にしようと決めました。「私たちはこういうブランドです」と主張するのではなく、「お客さまやスタッフと共にブランドを作る」という感覚です。

山口 市場において自社のポジションがチャレンジャーの場合、価格を安くするか、独自性がなければ消費者には選ばれにくいとされています。そうした定石はマーケティングの教科書的な書籍によく書いてありますが、藤﨑さんは体系的に学んでフレームワークからたどりついたのか、「自分がお客さまだったら」という考え方で感覚的にアプローチしたのか、どちらでしょうか。

藤﨑 お客さまとスタッフの両方を見て考えた結果だと思います。大企業が成果を上げているフレームワーク通りに我々がやってもうまくいきませんから。

徹底した顧客志向で、ECサイトを10日で立ち上げ

山口 ありがとうございます。続いて、業績を回復させるにあたってマーケティングで成功した施策を教えてください。

藤﨑 成功事例を2つお話ししますが、マーケティングによるものか否かがわからないので、「マーケティングで成功した施策?」としています。

1つめがオリジナルの布マスクの販売です。コロナ禍でスタッフ向けに作った布マスクをお客さまにも販売したところ、大きな反響がありました。

コロナになった際、スーパーマーケット内で営業している店舗は休業にすることができませんでした。スタッフの身を守り、皆の気持ちを少しでも明るくしようと作ったのが、どむぞうくんのロゴを付けた布マスクです。来店するお客さまもマスクが不足している状況だったので、SNSやWebサイトで宣伝せず、レジ横にそっと置く形で販売しました。すると、布マスクを購入した方がX(当時Twitter)で写真付きの投稿をしてくださって、55,000もの「いいね」が付いたのです。

山口 たくさん拡散されたのですね。

藤﨑 密を避けなければならなかったのに、マスクを買いに来たお客さまの長蛇の列が店舗にできてしまい、すぐに販売中止にしました。メールや電話でたくさん問い合わせを頂き、「店舗が少なくて買いに行けないので、ECサイトで売ってほしい」という要望も受けました。当時の私たちには、物販事業もECサイト事業もありません。しかし、コアコンセプトに基づいて「お客さまの要望に今答えないでどうするのか」と考え、BASE(ベイス)を活用して10日間でECサイトを立ち上げました。

ECサイトのオープン当初は在庫が潤沢になかったので、販売開始から1分で売り切れてしまい、お客さまから苦情を頂くことも多々ありましたが、その後は冷感素材を使用した夏用の商品を作ったり、カラーバリエーションを増やしたりして、17万枚ものマスクを販売してきました。また、ECサイト事業部もできました。

マーケティングで成功した施策かどうかはわかりませんが、お客さまの気持ちを反映して成果を上げたと言えるのではないでしょうか。

2024年5月現在ECサイトで販売されている「洗えるメッシュマスク」(画像出典:ドムドムオンラインショップ

山口 マーケティングの定義は人や団体で諸説ありますが、お客さまのことを理解し、要望に沿って何かしらの施策を打ち出して態度変容と購買行動を引き出すことがマーケティングそのものだと私は思います。オリジナルの布マスクが売れたのは、顧客志向のマーケティングをしっかりと実践された結果であるとうかがえます。

藤﨑 ありがとうございます。2つめの成功事例は、ヒット商品「丸ごとシリーズ」です。バンズの代わりにカマンベールチーズで具材を挟んだ「丸ごと!!カマンベールバーガー」や、ソフトシェルクラブが1匹丸ごと挟まった「丸ごと!!カニバーガー」、カレイの唐揚げを挟んだ「丸ごと!!カレイバーガー」があります。値段や見た目、店舗で作る際のオペレーションなど、どれもファストフードの常識からは逸脱していますが、コアコンセプトである「美味しいはお客さまとの最低限のお約束」が守られていれば、常識にとらわれる必要はないと考え、販売しました。

画像提供:ドムドムフードサービス

一見するとSNSでのバズを狙った商品のように見えるかもしれませんが、味のクオリティは特に重視しています。見た目のインパクトがある分、美味しくなければネガティブに拡散されてしまうおそれがあるためです。

本部の商品開発と店舗間で意思の疎通ができており、店舗内での調理オペレーションやコミュニケーションをスタッフが頑張っているおかげで実現しています。

山口 企業規模がそれほど大きくないからこそ、できる戦い方とも言えますね。超大手企業の場合は、原料調達の規模が大きすぎるゆえに機動的に目新しい施策の実現速度が落ちる面もあると思います。ちなみに、失敗した施策はありますか。

藤﨑 私は失敗の定義を持っていません。「失敗」と言った時点で背中を向けているような、後ろ暗い気持ちになるからです。例えば、新商品で100個売ることが目標で、80個しか売れなかったときに「ごめんなさい」と謝る必要はなくて、「どのポスターを貼ったら120個売れたか」「商品が美味しくなかったのではないか」などと建設的に考えることが大切だと思います。私自身が「失敗」ではなくプロセスの1つでしかないと考えているので、スタッフにもそのように伝えています。

山口 長い時間軸で見れば、全て過程ということですね。

店舗の集客増にもつながっている他業種とのコラボ

山口 「niko and …(ニコアンド)」とのコラボレーションブランド「nikoDOM (ニコドム)」ではロンTやトートバッグを展開し、予約時点で完売する商品もあるなど、企画のエッジが立っている印象です。社内ではどのように商品企画を行っているのでしょうか。

藤﨑 コラボ商品に関しては、「餅は餅屋+α」で、コラボ先の企業の方々とよくコミュニケーションをとりながら企画を進めています。コラボ先の企業の方々のほうが流行をよく理解していますし、エッジの立った企画も出てきやすいからです。

nikoDOMは2022年と2024年の2回にわたりコラボしています。結果が出ていないと継続できませんから、ありがたいことです。niko and …さんとは他にカフェ併設店舗「niko and … COFFEE」でもコラボしており、「お好み焼きニコパン」などを販売しました。

2024年2月に発売されたnikoDOMアパレルコラボアイテム(画像提供:ドムドムフードサービス)

また、ロフトさんとのコラボでは、ポーチやトートバッグなど36アイテムを作り、全国58店舗でポップアップストアを展開。PLAZAさんと、スポンジ・ボブとどむぞうくんがコラボしたトートバッグなどのアイテムを販売したこともあります。

画像左:ロフトとのコラボアイテム、画像右:PLAZAとのコラボアイテム(画像提供:ドムドムフードサービス)

さらに、2023年6月2日から7月3日には、ドムドムハンバーガーの魅⼒を知り、体験できるスペース「DOMDOM POP UP SHOP」を東京の池袋PARCOで開催し、売れ行きが良かったので7月23日まで期間を延長してもらいました。「DOMDOM POP UP SHOP」はその後、愛知県の名古屋PARCO、大阪府の梅田ロフトなどでも展開しています。

私たちドムドムハンバーガーは飲食しか携わってこなかったので、コラボの際はいろいろな方の知恵をお借りしつつ、スタッフ一同ワクワクしながら取り組んでいます。ありがたいことにコラボのご提案を絶えず頂くので、対応が追い付いていないのが現状です。

山口 こうしたコラボによって、ドムドムハンバーガーと初めて接するお客さまも多いと思います。コラボ商品の展開は店舗の集客増につながっていますか。

藤﨑 SNSを見ると「グッズを買ったけど、まだドムドムバーガーを食べたことがないから今週末に行こう」などの声があり、店舗への集客にもつながっています。若い方が増えている印象です。

山口 お金を頂きながら店舗への集客施策もできているわけですね。

常に意識しているのは「今を生きる」と「こだわらない心」

山口 お客さま目線で目の前のことに向き合っていくうえで、藤﨑さんが意識していることはありますか。

藤﨑 意識していることは「思いやり経営」です。お客さまやスタッフの気持ちを察することと、心を配り、どうしたら満足を与えられるか考察すること。それらを企業の第一の目標にしています。

「お客さま目線」「顧客満足度向上」「従業員満足度向上」 などは、企業の経営課題の1つになっていることがありますが、私たちはそれを真ん中に据えてひたむきに取り組みたいと考えています。

もう1つ大切にしていることが「今を生きる」です。世の中は常に変化しています。コロナ禍以降に「新たな時代が来た」と耳にする機会がよくありますが、時代はいつも変化していると思います。

山口 50年前の新聞やビジネス書にも「現在は変化と改革の時代」と書いてあったと聞いたことがありますし、永遠に変化への対応は続きますね。

藤﨑 コアコンセプトと思いやり経営をベースに物事を判断すれば、日々刻々と変化する世の中の流れにも流されすぎず、歩みを進められるだろうと考えています。

そして最後に大切にしているのが「こだわらない心」です。自身のキャリアと会社の経営のどちらも、こだわらずに独自性を模索したほうが良いと思っています。「今を生きる」「こだわらない心」は常に意識していることです。

山口 ありがとうございます。組織や人材育成について、今後強化していく予定の取り組みはありますか。

藤﨑 4つあります。1つは直営店舗の開発で、4月以降に新たに2店舗の開発が決まっています。2つめがFC(フランチャイズ)本部の立ち上げです。FC希望の方が多々いるので、本部を立ち上げて募集を開始しています。3つめがEC・ライセンス事業の拡充です。

山口 EC・ライセンス事業は、オペレーションにそれほど手間がかかっていないので、利益率も高そうです。

藤﨑 仰る通り、EC・ライセンス事業の利益率は高くなっています。4つめが本部機能の充実です。社長になって6年目ですが、これまで人材育成についてあまり体系化できていなかったので、今後は社員の教育にも力を入れたいと考えています。また、アルバイトの正社員登用などを行いつつ、採用にも注力していきます。

画像提供:ドムドムフードサービス

山口 FCの募集や社員の採用など、会社の規模が拡大しつつあり、これまで大切にしてきたカルチャーが薄まらないよう注意が必要なフェーズにあるのですね。よくわかりました。最後にメッセージをお願いします。

藤﨑 やはり「こだわらない心」が大切だと思います。こだわりすぎていたら、109で働いたり、居酒屋を立ち上げたりできませんでした。どちらもその都度夢中になって、自分に壁を作らなかったからこそ、成し得たことです。

今の世の中には、高い目標を掲げ、そこに到達できないと「自分はダメだ」と考える方が多いと感じています。ダメなんてことはないので、目の前の課題から1つずつ対処すれば良いと思います。私もそうでした。「こだわらない心」で心を少し楽にして、チャレンジしてみてください。

山口 マーケティングを勉強していると、フレームワークなどの情報におぼれ、目の前のお客さまへの意識が薄れてしまうことがあると思います。藤﨑さんとの話を通じて、体系的な知識を学ぶことだけではなく、「心配りができる人になる」という理念の実践を組織に粘り強く浸透させることの強さを感じました。

マーケティングではインプットも必要ですが、情報におぼれず、目の前のお客さまと向き合い、お客さまの声に耳を傾けることも大切です。答えの多くはお客さまが持っていると私も思います。本日はありがとうございました。

Profile
藤﨑 忍(ふじさき・しのぶ)
株式会社ドムドムフードサービス 代表取締役社長
青山学院女子短期大学卒。39歳の時に夫が病に倒れ、商業施設「SHIBUYA109」内のセレクトショップ「MANA」(株式会社ブティックヤマトヤ運営)に就職し、店長に。年商を倍に躍進させる。退職後、居酒屋アルバイトを経て2011年に東京・新橋に家庭料理の店「そらき」を開店し、翌年には2軒目「SoRa-ki:T」を出店。2017年、株式会社レンブラントインベストメント入社し、株式会社ドムドムフードサービスに出向。ドムドムハンバーガーの新商品開発担当、新店店長、東日本地区スーパーバイザーを経て、2018年8月より現職。2022年6月株式会社神明ホールディングス社外取締役就任。

山口 義宏(やまぐち・よしひろ)
株式会社グロースX 取締役 COO
ソニー子会社で戦略コンサルティング事業の事業部長、東証一部(当時)上場コンサルティング会社でブランドコンサルティングのデリバリー統括などを経て、2010年に企業のブランド・マーケティング領域特化の戦略コンサルティングファームとしてインサイトフォースを創業(現・取締役)。2022年6月よりマーケティング人材育成サービスを提供するグロースXの取締役COOに就任、インサイトフォース取締役と兼務で担う。最新の著書に『マーケティング思考 業績を伸ばし続けるチームが本当にやっていること』(翔泳社)がある。

 

記事執筆者

廣田 喜昭

ひろた・よしあき
株式会社 代官山ブックス代表。自社では「まだ世の中にないもの」のコンテンツづくりを指針に掲げ、個人ではビジネス系を中心に編集・ライティングを行う。
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