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電通・メルカリで身に付けた、ビジネスを伸ばすための思考法――南坊泰司(なんぼー)インタビュー

最終更新日:2024.02.14

電通やメルカリを経て、約12年にわたってマーケティングに従事した経験をもつ南坊泰司さん。X(旧Twitter)上では「なんぼー」の名前で最新ニュースやトレンドに関する考察を投稿し、多くのマーケターにフォローされています。支援会社・事業会社の両方でマーケティングの幅広い業務に従事した経験を活かし、現在はNORTH AND SOUTH とmanage4という2つの会社の代表として、企業のマーケティングやブランディングなどを支援しています。

南坊さんにはこのほど、弊社CINCのエキスパートソーシング事業のパートナーに加わっていただきました。

そこで今回は南坊さんに、電通やメルカリを経て学んだマーケティングで成果を上げるためのポイント、企業を支援するうえで大切にしていることなどを聞きました。

(取材・文:廣田 喜昭、構成:Marketing Native編集長・佐藤 綾美、撮影:矢島 宏樹)

目次

ミクロとマクロ、両方の視点をもつ重要性

――南坊さんにはこれまで2回、Marketing Nativeに寄稿いただいていますが、インタビューは初めてです。改めて簡単に経歴から教えてください。

株式会社NORTH AND SOUTH と株式会社manage4の両企業で代表取締役を務めている南坊です。2011年に少し遅めですが25歳で電通に入社して、ブランドコンサルタント、ストラテジックプランナー、データテクノロジーの部署でのプラットフォーム開発・運用と、約2年ごとにさまざまな職種を経験しました。電通のど真ん中というよりは特殊なキャリアかもしれません。

電通で約7年間働いた後、2018年にメルカリに転職しました。僕は意図的に「2年ごとに新しいことを学ぶ」を繰り返していたので、その延長で会社を変える選択をしました。それまでやってきたこととできるだけ違う、対角線にあるような企業へ行ったほうが成長できると思い、事業会社で、なおかつ当時急成長していたメルカリに入りました。

メルカリではマーケティング・PRチームのマネージャーを担い、その後、OMOのプロジェクトを役員に提案し、承認を受けて事業企画室に異動しました。OMO戦略チームを立ち上げて推進した後、2020年に独立をしています。

――「2年ごとに新しいことを学ぶ」という考えが興味深いです。なぜ、そう考えたのでしょうか。

マーケティングの世界は変化が速いからです。この「速い」には2つの側面があり、1つはバズ的な要素としてのトレンドが移り変わる速さと、もう1つはマーケティング手段の変化の速さがあります。

その流れにフィットしていくためにも、同じ部署にいるのは2年くらいがちょうどいいなと思い、電通でも自ら希望を出して異動しました。

――電通で異動する部署はどのような観点で選んでいましたか。

最初の2年間はメソドロジー(方法論)があるようなブランドコンサルタントという特殊な領域を学んだので、その後に「マーケティングの王道も経験したほうがいいだろう」とストラテジックプランナーを選びました。

そのときにちょうど盛り上がってきたデジタルマーケティングの領域を学び、さらに、経営やマーケティングにおけるデータ活用に注目が集まってきたのでデータ領域への異動希望を出したんです。そこではテレビなどのマス広告とデジタル広告のデータを横断して分析できる統合プラットフォーム「STADIA(スタジア)」の開発・運用などを行いました。

――以前はデジタルマーケティングと異なり数字で分析できなかったテレビCMの効果を「STADIA」で可視化したインパクトは大きかったと思います。

現在も「テレビCMを分析できるようになった」と本質的に言えるかどうかは難しいところがあります。劇的な進化をしたというよりも、見える指標が増えて複雑化していて、それも踏まえてプランニングをしていくという点では以前とはあまり変わりません。

ただ、ここはその後の僕のキャリアにも大きく影響を与えています。

広告代理店にいたときは、広告の成果を計測できるところを強みにクライアントである事業会社にプラットフォームを売っていたわけですが、その後自分自身が事業会社側に行ったことで、広告の計測ができることのその先に、最終的には「事業と結び付けて事業にインパクトを与えること」が何よりも重要だと気付いたからです。

――そこもぜひ聞きたいです。事業会社であるメルカリに行ったことで気付いたことは何でしょうか。

そもそも僕がメルカリを選んだのは「事業会社をこれから知ること」が自分のキャリアを考えるうえで大きなポイントになると思ったからです。

当時の電通の経営層が「広告からの脱却」を打ち出し、「広告+コンサルティング」の流れに言及していたこともあり、広告会社出身のキャリアを考えるうえで事業会社そのものを理解している必要があると考えました。「それならば事業会社に転職してしまったほうがいいだろう」と、メルカリへ入社しました。

実際に事業会社のマーケティングに従事したところ、広告予算をどう活用して効果を出すべきか頭を悩ませるほど、だんだんと「テレビCMを出しました」「効果分析をして改善しました」だけでは解決できないことに気付いたんです。

――事業会社の中に入って、それまで広告代理店で培ってきたマーケティングの方法論だけではむずかしいことを実感されたのですね。

そうです。具体的に言うと、当時のメルカリは急成長していましたが、さらに成長するためには高年齢層を取り込む必要がありました。どのように高年齢層を獲得するかを考えたときに、従来のデジタル施策を工夫するだけでは限界があるわけです。

それならばオフラインの接点を新たにつくって、メルカリのカスタマージャーニー上における問題点を解決しようと、当時の走りであるOMOのプロジェクトを立ち上げました。その後はメルカリの実店舗を出したり、直接ユーザーに使い方を教えるメルカリ教室を開いたり、コンビニやドラッグストアなどにメルカリの梱包材を展開したりと、さまざまなところとアライアンスを組んで、広げていきました。

――電通での南坊さんのキャリアをうかがっても「オフライン施策」はなかったので、新たな領域でのチャレンジですよね。

そこは事業会社に行って考え方が変わったところですね。

これまでの自分の武器からだけではなく、「顧客を獲得する」「事業が成長する」という目指すべきゴール、観点から逆算して、そのときに必要とする施策を考えていきました。

――オフライン施策を考えた際の具体的なアイデアの組み立て方はどのようなものでしたか。

たとえばメルカリ教室は無料のイベントですが、それでお客さまがメルカリを使ってくれるようになれば事業全体のLTVは上がるので、イベント単体で直接利益が出なくてもいいわけです。事業をグロースさせる手段としてマーケティングを“広義”で捉え、「LTVの向上につながる顧客であれば高いコストをかけて獲得してもいい」「オフラインでしか会えないお客さまとの接点を設けに行く」というふうに考えました。

また、メルカリは当時まだ珍しいCtoCサービスだったので、単に「メルカリを利用すると物が売れます」と言ってもお客さまに使ってもらえません。生活に必須のサービスではなくて、やらなくていいことをやってもらうためにはモチベーションをつくらないといけないので、世の中の流れをふまえてメディア活用などのプロモーション戦略を検討する必要があります。

タイミングよくサステナビリティの重要性が謳われるようになって、「新品じゃなくてもいいよね」という流れがあり、OMO施策なども功を奏してメルカリは良い波に乗れました。

――改めてキャリアを振り返ると、南坊さんはマクロと言いますか、全体を知りたい傾向が強いタイプでしょうか。

そうですね。ただ、ミクロとマクロの両方の視点をもつことが重要だと考えています。「事業会社×コンサル」のようなマクロの流れがあるなかで、マーケティングなどミクロの専門性を身に付けて掛け算していくことを重視しています。

事業のインパクトを出すにしても、長期と短期、マクロとミクロの視点があり、それこそデジタルマーケティングで短期的に売り上げを上げるだけではなく、長期的な視点でどうブランディングしていくかなど、その両方の視点を自分はキャリアを通して磨くことができました。

併走型で事業に入り込むのが支援スタイル

――メルカリの後、独立をされますが、もともと独立志向があったのでしょうか。

いえ、思いがけず独立に至りました。電通がとても好きで最初は「勤め上げよう」と思っていたくらいで、もともと独立は考えていませんでした。

メルカリで過ごした時間は普通の会社の3倍くらい濃密で、在籍は2年ながらも6年ほどいた感覚でした。その後、もう1社ベンチャーに行ってから独立しようと考えていたのですが、メルカリの仲間から「今立ち上げてみてはどうか」と言われたんです。

それを聞いて、「もしダメだったらまたどこかの会社に入ればいいか」くらいのスタンスで独立しました。ちょうどその頃に、今一緒にNORTH AND SOUTHの代表を務めているクリエイティブディレクターの北尾(昌大)さんから「一緒にやろう」と誘われたので独立を決めました。だから何となくです。

――そこから北尾さんとの「NORTH AND SOUTH」と、「manage4」の2社を南坊さんは経営されています。その違いについて教えてください。

北尾さんと2人で代表を務めるNORTH AND SOUTHは、基本的にはスタートアップやベンチャーに特化しています。BtoC、BtoBは関係なく、CEOやCMOら経営層と膝を突き合わせてスピード感をもって取り組み、ブランディングやクリエイティブを支援しています。

一方、manage4は、マーケティングドリブンでの事業コンサルティングがメインです。そのため、manage4でマーケティングを請け負い、その後のブランディングやクリエイティブはNORTH AND SOUTHで支援することもあります。

――独立後はどのようなお仕事をされていますか。

秘匿性が高いプロジェクトを担当しているため詳細は言えないのですが、2つの会社を通じて4年間で40社以上を担当し、常に10社はクライアントを抱えています。

「CMをつくりましょう」というシンプルな話もあれば、社長のアドバイザリー的な仕事や、メガベンチャーの新規事業立ち上げをPMO的に伴走することもあります。さらに企業ブランディング、CI、ミッション・ビジョン・バリューの開発なども支援しています。

――その中で南坊さんにとって「最も核となる仕事」はどれですか。

manage4の社員とは、“常時、「併走型」で「入り込む」”というのが僕らの核であると定義しています。

「どの手段が核となるか」よりも「クライアントへの向き合い方のスタンス」が核となっています。したがって、手段はどんなものでも実行します。なぜそうなるかというと、現代はマーケティングや事業開発、新規事業のグロースに必要な手段が複雑化しているからです。そうした複雑化した課題を社内だけで解決できない場合に僕らにご相談いただくので、PMOのような役割で事業会社に入り込み、併走する形で支援するケースが必然的に多くなります。

――経営者と併走し、マーケティングだけではなく、さらに広い領域をサポートされているのですね。

やはり事業会社の課題は1つではなくて、「事業を推進できる人がいない」「SNS運用者がいない」「テレビCMをつくる人がいない」「メディア全体のアロケーションをわかる人がいない」など、数多くあります。そのたくさんある課題に対してスピーディに答えを出せる人が求められているけれど、できる人が少ないのだと思います。

――今までのキャリアが全てつながって、その形になっていますね。

意識的に2年間でキャリアを変えて、分野を絞らなかったので、PRもブランディングもマーケティングも顧客分析も事業開発もグロースもゼネラルに経験があります。そういう人は少ないかもしれません。

――そんな南坊さんの肩書を一言で表すと何でしょうか。

「物事をなんとかする人」です。2年ごとに意識的にキャリアを変え、顧客分析や事業開発、グロース、PR、ブランディングなど、分野を絞らず経験してきたので、お客さまが悩んでいる課題に対して大抵のことはクイックに取り掛かれるのが強みだと思います。

だから僕は「マーケティングをやっている」という感覚がないんです。「領域としてはマーケティングの世界によくいる」くらいの感覚で、仮にクライアントから「テレビCMをやりたい」と言われても、それが適切と思わなければPRやプロダクト開発、さらには人材採用と領域を横断した提案をします。

――まさに「物事をなんとかする人」ですね。

実際のところ、経営者の話を聞くと「今はやらないほうがいい」と思うことがたくさんあるんです。僕が強みを発揮できるフィールドとしてマーケティングはありながらも、なんとかして課題や物事を解決していくことをしています。

ちなみに社名のmanage4には「manage=なんとかする」という意味があります。

大切なのは「マーケティングを使おうと思わないこと」

――そのような考えをもつ南坊さんにあえて「マーケティングで成果を上げるための条件やポイント」を聞きたいです。

「マーケティングを使おうと思わないこと」です。マーケティングは手段の1つでしかありません。

大前提として、事業に対する理解が必要であり、世の中の流れのような外部環境や、事業側のアセットのような内部環境の影響も受けます。

たとえば「マーケティングの部署がちゃんと予算を確保できるのか」「社長に説明して実行ベースまで施策を進められるのか」なども重要です。単純に「施策を1つ打ち出します」で物事を進められるわけではないんです。特にmanage4では上場企業も支援していますが、取締役会を通して新規事業を立ち上げること自体がとても難しい場合があります。そのようなシチュエーションにおいては新規事業立ち上げを通すためにその会社の社員と一緒にがんばる、入り込んで併走するということをやっています。

そういう意味で、マーケティングで成果を上げるためには「まずはマーケティングから入るのではなく、状況をきちんと理解したうえで何をやらなければいけないのかを整理すること」が大事だと思います。

――領域が広い南坊さんならではの答えですね。

そうですね。ちょっと別の観点からお話しすると、僕が電通で一番得たものは「生活者の概念」で、「まずはお客さまの気持ちを考える」ということです。最近は事業会社でもn=1分析が注目されていますが、広告代理店では以前からそれが当たり前に行われていました。

生活者の気持ちや、もう1つ上のレイヤーの社会的な動きを理解しないと、商品やサービスを届けられません。マクロとミクロの話ですね。事業側と生活者の両方の“結節点”みたいなところを見つけないと適切にデリバリーできないし、売れない、グロースしない。だからこそ、その両方がわかることが大事だと思います。

――そうすると南坊さんが考える「優秀なマーケター」は、事業者と生活者(社会)、その両方の視点をもち、深く理解している人でしょうか。

事業者と生活者の両方の視点をもっていることは大事だと思います。マーケターと言われる人たちに、この両方の視点をもっている人はあまり多くないと感じています。

ちなみに僕は自分自身を「マーケター」と言ったことはありません。マーケターと言うとマーケティングだけやる人みたいですが、企業の課題によってはマーケティングの領域を超えた施策が必要だからです。

たとえばベンチャーの場合はリソースがなくて、マーケティング予算が0円のときもあります。そのときに「広告を出稿しましょう」と言っても、「予算がありません」で終わってしまいます。

それならば「noteを書きましょう」と経営者に提案し、公開の適切なタイミングも検討したり、PR会社にアプローチしたりして、認知拡大につながるよう仕掛けていく…といった考え方が大事だと思っています。

企業の課題を解決できる量の最大化を目指して

――ありがとうございます。CINCのエキスパートソーシング事業についてお話しさせてください。パートナーに登録いただいたきっかけは何でしたか。

Marketing Nativeには過去に寄稿していたのですが、あるときCINCさんがエキスパートソーシング事業をしていることを知って、詳しく調べたのがきっかけです。「それなら僕も」と登録しました。

――南坊さんがお客さまを支援する際に大切にしているのはどんなところでしょうか。

お客さまの商品を使うことです。コンビニに並んでいる商品であればコンビニに買いに行ったり、子ども向け商品なら子どもがいる人にヒアリングしたり、消費者として事業やプロダクトの解像度をまず上げていきます。意外とこれをしなかったり、意味がよくわからずにやっていたりする人が多いと感じています。

競合他社のものを使って比べてみて、きちんと理解することも大切です。当たり前のことですが、自分で体験し、理解を深めることでだいぶ考え方が変わります。

――今後担当したいプロジェクトはありますか。

基本的にどのようなプロジェクトでも大丈夫です。あえて言うならば、ベンチャーのBtoCサービスが個人的には好きなので、あったら支援したいです。

あとは、これまでBtoB、BtoCを問わず、金融、動画配信サービス、公営ギャンブルなど幅広く支援してきましたが、まだ僕が経験していない業界のプロジェクトも担当してみたいです。

――最後に南坊さんの今後の夢や目標を教えてください。

僕らが解決できる量を最大化することが、お客さまへの貢献につながると思っています。

今はクライアント企業内に入り込んで併走していますが、お客さまにとって僕らが未来永劫必要なわけではありませんし、クライアントも本来は自走できたほうがいいはずです。「いかにシャープに、早く解決できるか」という能力を、僕個人も会社もさらに上げることで、より多くの企業の悩みや課題を解決したいですし、その状態を増やしていければもっと社会にも価値を提供できると思います。

――本日はありがとうございました。

Profile
南坊 泰司(なんぼう・たいし)
株式会社NORTH AND SOUTH 代表取締役/Marketing Director
株式会社Manage4 代表取締役/Marketing Director。
電通にてデジタルからマスまでを横断するメディアプランニング、顧客分析に基づくマーケティング戦略立案、メディア PDCAツールSTADIAの開発運用などを担当。メルカリのマーケティング・マネジャー、OMO(Online merged offline)戦略チームリーダーを経て、スタートアップのグロース支援を行うNORTH AND SOUTHと、マーケティング起点での事業・ブランド支援を行うmanage4を設立。マーケティングやクリエイティブのニュース、考察をシェアするXでの投稿が人気。
X:@architectizm

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記事執筆者

廣田 喜昭

ひろた・よしあき
株式会社 代官山ブックス代表。自社では「まだ世の中にないもの」のコンテンツづくりを指針に掲げ、個人ではビジネス系を中心に編集・ライティングを行う。
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