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2020.05.18

【寄稿・松本健太郎】データで時代を撃つ!リーマンショック、東日本大震災を上回る経済危機到来で、マーケターの真価が問われる時が来た

新型コロナウイルス感染症の新規患者数が減少し、日常生活が落ち着きを取り戻しつつある一方、自粛に伴う経済への深刻な影響が次々と明らかになっています。「リーマンショックを超える」と形容される深刻さの状況は、これからさらに多くの業界で表面化していくでしょう。

そのような状況下にあって、マーケターは何をなすべきか。

注目のデータサイエンティストで、国内№1の報道ベンチャー・株式会社JX通信社でマーケティングマネージャーを務める松本健太郎さんが、現在までの景気動向を可視化するとともに、マーケターへの期待を綴ります。

目次

寄稿
2020年4月7日、新型コロナウイルス感染症対策本部が開催され、安倍晋三首相は緊急事態宣言対象地域(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県、福岡県)に対して「最低7割、極力8割程度の接触機会の低減を目指す」と述べ、そのために国民へ向けて外出自粛を要請しました。さらに16日には、緊急事態宣言の対象を全国に拡大しました。

宣言が出る前からリモートワークに移行していた会社もあったでしょうが、これを機に外出を控える流れは加速します。内閣官房「新型コロナウイルス感染症対策」ページで公表されている「駅の改札通過人数の推移」対前年比を見てみましょう。

15駅分ありますが、1つ1つの線を追うより全体を俯瞰して見てください。宣言が出た日は既に前年比40〜60%減でしたが、日を追うごとに減少していきます。土日やGW期間中は80〜90%減で推移しており、多くの国民が移動を控えていると伺わせます。

さて、街から人が消えると、何が起こるでしょうか。まず広告が消え、次に店舗が閉鎖し、やがて活気が無くなります。つまり経済が回らなくなります。

今、世界では「命を守る」と「経済を回す」の両輪に苦しんでいます。ブラジル大統領のように新型コロナウイルスを「単なる風邪」と表現し、「経済」を最優先にする国もあるようですが、多くが「命」を最優先に掲げ、自粛を呼び掛けています。

では、その結果、経済はどのような状況になったでしょうか。景気は悪くなったのでしょうか。ようやく3月分の経済統計が発表され、おぼろげながら全体像が明らかになってきました。

景気はどれくらい悪化しているか?

景気の判断については、日本政府としての公式見解が示される内閣府「月例経済報告」と「景気動向指数による基調判断」を参照すれば良いでしょう。

月例経済報告は最終的に「人」が景況感を判断し、基調判断は「機械的」に景況感を算出します。まずは基調判断を見てみましょう。悪い順に「下げ止まり」「悪化」「局面変化」「足踏み」「改善」まで5段階に表現されます。

2008年5月〜2020年2月(景気動向指数による基調判断)

2018年9月から景況感は「改善」から「足踏み」に切り替わり、数ヶ月単位で下降し、2019年3月からは「悪化」「下げ止まり」が続いています。

「月例経済報告」は、基調判断はあくまで機械的なロジックだとして、2019年3月以降も「景気は、〜緩やかに回復している」と表現してきましたが、2020年3月にはいよいよ「景気は、〜厳しい状況にある」に切り替わりました。

百貨店・スーパーマーケット・コンビニなどの小売店やレジャー業界で働く人、タクシー運転手など、景気に敏感な職種の約2000人にインタビューした結果を集計・分析している内閣府「景気ウォッチャー調査」を見てみましょう。50であれば横ばい、それ以上なら景気は上向き、それ以下なら景気は下向きとざっくり判断できます。

2007年1月〜2020年3月(現況判断DI[季節調整値])

全ての指標が2019年頃から緩やかに下降する最中、新型コロナの影響で3月は一気に下降しました。4月はこの数字を下回ると考えると、東日本大震災や2014年4月の消費増税、リーマンショックをも上回る経済へのダメージが垣間見えます。

「命」の影に隠れていますが、現在の景気は、リーマンショック、東日本大震災に匹敵するか、それを上回って「最悪」です。後に歴史の教科書に載るような未曾有の事態なのです。

小売業が受けた影響は?

私たちの財布の口は、どれくらい固くなったでしょうか。国民生活における家計収支の実態を把握することを目的とした総務省「家計調査」から、2人以上の世帯における実質消費支出の前年比を見てみましょう(名目だと物価変動の影響が現れるため)。

2007年1月〜2020年3月(前年同月比実質消費支出)

2020年3月は前年比-6.0%と、2014年4月の消費増税後の買い控えに匹敵します。2019年10月の消費増税で減少傾向にありましたが、拍車をかけて落ち込みました。

特徴的なのは、その内訳です。外食費は-32.1%、被服及び履物費は-26.4%、交通費は-52.3%、教養娯楽費は-19.8%と「外に出て使うお金」は大きく落ち込んでいます。つまり実態は、外出自粛の影響でやむなく支出が減ったと考えるべきでしょう。

そこで、外出自粛でもろに影響を受けた業界の1つは「小売業である」と考えて、その影響度合いをもう少し見てみましょう。

ちなみに、各自治体で「新型コロナウイルス感染症に係る休業要請等の対象施設一覧」が発表されています(東京都の場合はこちら)。小売業の中でも「生活必需物資販売施設」「食事提供施設」は要請の対象外ですが、事業主が自粛しているケースも多くあり、売上に深刻な影響を与えているはずです。

まずは一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会のコンビニエンスストア統計調査から、全店ベース店舗売上高の前年同月比を折れ線グラフで可視化します。

2007年1月〜2020年3月(前年同月比全店ベース店舗売上高)

2020年3月は前年同月比-5.5%を記録し、リーマンショック、東日本大震災を上回って、対象期間内で過去最低を記録しています。4月以降、オフィス街のコンビニ店舗を休止している例もよく見かけましたから、さらに下回ると思われます。

続いて日本チェーンストア協会のチェーンストア販売統計から、食料品・衣料品・住関品の販売金額の前年同月比を折れ線グラフで可視化します。

2008年1月〜2020年3月(前年同月比販売金額)

食料品は19年5月以降、前年割れが続いていましたが、意外にも新型コロナが深刻になった20年3月に前年比を0.62%上回りました。外食店舗が自粛してしまい、そもそも飯を食べる場所が無くなった、あるいは買い溜めに走った影響が考えられます。

ちなみに、衣料品は20年3月に前年比-29.06%を記録していますが、長らく前年比割れしている傾向から鑑みて、構造的な問題も多分にありそうです。

ということは、外食産業はどうなっているのでしょうか。一般社団法人日本フードサービス協会の外食産業市場規模推計から、ファーストフード・ファミリーレストラン・パブ居酒屋の売上高の前年同月比を折れ線グラフで可視化します。

2008年1月〜2020年3月(前年同月比)

パブ居酒屋は、2020年3月に前年同月比-43.3%と売上がほぼ半減しています。歓送迎会が軒並みキャンセルになったこともあるでしょう。この落ち込みは2011年3月の東日本大震災を上回る緊急事態です。ファミリーレストランも前年同月比-21.2%と大きく売上を減らしています。ファーストフードは-6.9%と比較的影響が軽微なのは、テイクアウトという手段を持っているからでしょうか。

4月以降、パブ居酒屋は「クラスターになりうる」と批判され、自粛に追い込まれている店舗も多くあります。4月は前年比がさらに落ち込むと思われ、ゾッとします。

店舗自体を閉めていると言えば、百貨店は臨時休業、或いは食料品売場のみ営業が続いています。一般社団法人日本百貨店協会の百貨店売上高から、食品、衣料品、雑貨、身のまわり品の売上高の前年同月比を折れ線グラフで可視化します。

2008年1月〜2020年3月(前年同月比)

3月時点で、食品は-24.68%、衣料品は-40.51%、雑貨は-35.32%、身のまわり品は-38.56%と、リーマンショックや東日本大震災でも無かった大幅な前年比割れです。緊急事態宣言が出る前でここまで落ち込んでいるのですから、4月は-60%〜-80%となる可能性もあります。

果たして、新型コロナが完全に終息して、過去のようにマスクを付けずとも出歩けるようになった世界において、そもそも対面式販売の小売業が姿・形をどれくらい残せているか考えると、薄ら寒いものすら感じます。

壊滅的打撃を受ける観光業

百貨店のここ数年の売上高推移を見ていると雑貨(特に化粧品)が伸びていると気付きます。外国人観光客によるインバウンド需要の高まりによるのでしょう。新型コロナが世界中に広がり、移動自体が制限された現在、観光業はどれほどの打撃を食らっているでしょうか。日本政府観光局「訪日外客統計」を見てみましょう。

2007年1月〜2020年3月(訪日外客総数、及び一部国別で表記)

安倍政権によるインバウンド戦略により年々該客数は増加していきましたが、2020年3月は推計値19万3700人(前年同月比-92.98%)を記録しました。インバウンドの中心だった中国は1万400人(前年同月比-98.50%)、韓国は1万6700人(前年同月比-97.15%)と、壊滅的な記録です。

ビジネスによる必要緊急の事態を除けば、事実上、外国人観光客は日本からいなくなったと考えるべきでしょう。そして、こればかりは数ヶ月でV字回復するとは思えません。1〜2年は続くのではないでしょうか。東京五輪や、さらなるインバウンド需要を見越してホテル建築に動いていた人たちからすれば「悪夢」でしかないでしょう。

この十年間どれほどの宿泊者数があったのか、観光庁「宿泊旅行統計調査」の内訳を見てみましょう。総数と、うち外国人のべ宿泊者数の推移です。

2010年1月〜2020年3月(のべ宿泊者数)

トップラインとボトムラインに注目してください。それぞれ上昇傾向にあります。それが2020年3月には大きく下がり2360万7540(前年同月比-49.63%)、外国人のべ宿泊数は118万3420(前年同月比-85.87%)を記録しました。これらは東日本大震災があった2011年3月を上回ります。

増え続ける宿泊数に応えるために、観光地や東京近郊ではホテルの建設ラッシュが続いていました。この先、どうなってしまうのでしょう?

今こそマーケターの真価が問われる

身元のわかる犠牲者効果」(Identifiable victim effect)と呼ばれるバイアスがあります。詳しくはJENNI, LOEWENSTEIN「Explaining the Identifiable Victim Effect」を読んでいただければと思いますが、要は「抽象的な統計よりも、具体的なイメージや表現がある方が説得力が増す効果」を指します。

「命」と「経済」の問題も、「命」が最優先されるのは「身元のわかる犠牲者効果」に多くの国民が陥っているからではないかと感じています。多くの著名人が亡くなり、その度に新型コロナの怖さが身に染みました。

では、経済はどうでしょうか。「経済が回っていない」と聞いて、どれくらいの方が今回見ていただいた経済統計に現れたインパクトを思い浮かべたでしょう。数字の裏側では、企業倒産やリストラなど景気悪化時における悲惨な実態が隠れています。ちなみに総務省「労働力調査」では、2020年3月時点までの失業率(2.5%)しか出ていませんが、この先に高まることも想定されます。

「命」を守るために自粛を続けるか、「経済」を守るために自粛を終えるか。これは新たな「トロッコ問題」とも言えます。

こんな状況下で、私たちマーケターは何をするべきでしょうか。私は「トロッコ問題を解決する新たな仕組みを作る」「そのためにも手を動かす」の2つを主張したいと考えます。

私たちマーケターは、平時において「マーケティングとは経営そのものである」と胸を張り、単なる広告宣伝の類に収まらないと主張してきました。では、現状の降ってわいた景況感の悪化に伴う売上の下降を、どのように受け止めるべきでしょうか?

異論あるでしょうが、マーケティングとは経営そのものと言うのなら、この売上の下降も「自分の責任である」と受け止めるべきです。良い時は自分のおかげ、悪い時は外部要因など許されるはずありません。外部環境がどうであろうと、売上が悪いのは私のせいですと泥水を啜れなければマーケターと名乗れない、と教えてくれたのはMarketing Nativeの取材に応えてくれた皆さんです。

やるべきことは決まっています。「命」と「経済」の両方を守るトロッコ問題の解決です。そのためにも「アフターコロナでマーケティングはどう変わる?」みたいな抽象論は置いておいて、今解決すべき具体論に着手しなければいけないのではないでしょうか。抽象論を語っても現実は変わらないからです。現実を変えるのは、行動だけです。

身近な例で言えば、日本マクドナルドの4月売上は、前年同月比で見て客数18.9%減ながら、客単価31.4%増で、全店売上高は6.7%増を記録しています。宅配ニーズに応えるだけでなく、クーポンでは2人用セットや3人用セットを用意し、単価上げに注力しています。我が家では2人用セットがかなり好評で、既に3回も頼みました。

そういう筆者も、3月からJX通信社に入社して様々な改善に取り組み、4月に獲得したリードは(詳細は言えないのですが)1月と比べて約23倍を記録しました。

自粛も明けていつかは良くなる、そんな日を待っているべきでしょうか。いや、私たちマーケターは雨が降ろうと槍が降ろうと、消費者のために日を待たずに動き出し、新たな仕組みを作り、売上を記録し、わずかであっても「経済を回す」ことを使命に動き出すべきです。

今、マーケターとして活躍できなければ、一生後悔する。私はそう信じています。

Profile
松本 健太郎(まつもと・けんたろう)
株式会社JX通信社マーケティングマネージャー。
多摩大学大学院経営情報学研究科修了。株式会社ロックオン(現イルグルム)、株式会社デコムを経て、2020年JX通信社入社。主な著書に『データサイエンス「超」入門』(毎日新聞出版)、『グラフをつくる前に読む本』(技術評論社)、『なぜ「つい買ってしまう」のか?』(光文社新書)、『アイデア量産の思考法』(大和書房)など。

 

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