新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、経済への深刻な影響が出ています。このような時代に企業が真っ先に手を付けるコストカットが広告と採用でしょう。
とはいえ、広告をストップしてしまうと売り上げにも大きな影響が出るのは避けられません。そこで注目されるのが、費用をそれほどかけずに成果に結びつけやすいTwitterやInstagramなどのSNS施策です。
では、企業はSNSをどう活用すれば良いのでしょうか。
今回はSNSの運用に詳しい、株式会社ホットリンク マーケティング本部マーケティング部部長でホットリンク総研所長の室谷良平さんに寄稿していただきました。
【寄稿】
未来は本当に予測ができないものです。
顧客接点はリアルから、オンラインに重きが移りつつあります。中国では、2019年春節後のモバイルインターネット平均利用時間が1日5.6時間だったのに対し、2020年の同時期には同7.3時間に達したそうです(※1)。米ツイッターも、2020年1~3月期は、前年同期から23%増加したと発表しています(※2)。
おそらく日本も同様に、SNSの利用者数・利用時間は増えていることでしょう。
一方、コロナショックの影響で経済が不安定な局面を迎える中、企業各社で広告宣伝費の削減の動きがあると思います。広告費が潤沢にあるなら、テレビCMや新聞広告、記事広告など、お客様との接点を取れる手法はたくさんあるでしょうが、99%の企業はそうではないと思います。
そのような状況下でも、高い成果を得るにはどうすれば良いか。莫大な広告宣伝費をかけなくてもできる施策としては、グロースハック、PR、SNSなどが挙げられます。中でも低コストで活用できて、可処分時間の多くを占める大切な顧客接点がソーシャルメディアにあります。
3月3日に共著『1億人のSNSマーケティング』を出版した筆者から、企業のマーケティング領域の責任者やマネジメント層に向けて、SNS活用のための視点をシェアしたいと思います。
(文:株式会社ホットリンク 室谷 良平)
【出典】
※1:
中国のモバイルインターネット調査会社「Quest Mobile」のデータ
※2:
Twitter Withdraws Q1 Guidance Due to COVID-19 Impact
目次
7つのチェックポイント①
お客様のSNSの使い方を肌感で掴んでいるか
兎にも角にも、お客様がSNSをどう使っているかの認識を整えることがスタートです。
自身が普段SNSを使っていなくて、テレビやネットニュースの情報だけしか接していないと、「映え」や「バズ」、あるいは「炎上」などのイメージが強いかもしれません。しかし、今やInstagramではユーザーが当たり前のように情報を検索したり、ショッピングの場として利用したりしています。LINEのトーク同様、InstagramやTwitterのDMでコミュニケーションを取ることも一般的に行われています。
SNSを日頃から使用していないと、ズレた認識のまま活用してしまったり、せっかくの活用機会を逃すことになるかもしれません。ここのチューニングで、SNSが大切な顧客接点になるか、ただの情報流通の場所となるかが峻別されます。
もしTikTokやInstagramを使ったことがなかったら、まずは使ってみてください。SNSネイティブな世代のお客様の声を聞いてみることをおすすめします。
7つのチェックポイント②
SNS担当が主役になっていないか
SNS、スマートフォンの普及で、個人がメディアになりました。国内では、Twitterが約4500万人、Instagramには約3300万人のユーザーがいます。
それによって情報伝播の形が「1:n」から「n:n」に変わりました。お客様にマイクと舞台を手渡すことで、評判を広めてくれるかもしれません。
企業が主語となってフォロワーに伝える、フォロワー外の人に拡散で伝える――そんな伝え方以外にも方法はあります。SNSを活用することで、消費者の口から商品やサービスの魅力を語ってもらったり、ブランドの利用を通じて生活が豊かになるような会話を生み出したり、そんな高次の欲求を叶える視点でもフル活用できます。
ソーシャルメディアにおいて、企業が主語となって一生懸命に語っていないでしょうか。ブランドの推奨者がSNS上のさまざまなところに存在しているのであれば、彼ら彼女らにマイクを渡すのはどうでしょうか。
SNSで気持ちよく語れる話題を提供しましょう。
(写真はイメージ)
7つのチェックポイント③
顧客と直接つながって、感情的な絆の構築ができているか
このご時世、オンラインへの販路構築の重要性が高まっています。オンラインに販路があれば、オンラインに顧客接点を作ることで、ネット通販にトラフィックを呼び込む経路になります。
ブランドコミュニケーションについても、いいねやリツイート、返信をもらえると人は嬉しいものです。そういった体験もブランドとなって蓄積されていきます。
握手をするような、感情的な絆の構築を進めることができるでしょう。SNSでは、コンテンツを直接届けることはもちろん、コミュニケーションを直接とることもできますから。
例えば、LINEにたくさん友だちがいるなら、使わない手はないですよね。商品情報とともに、店舗や自社ECをご案内すれば良いのですから。手数料を削減することで、その分の利益を原価に反映させて商品の質を高めたり、価格を下げたりすることで顧客に還元できます。事業のコスト構造を有利に変える一手にもなります。
ポータルの集客力は魅力的ですが、この機会にSNSアカウントの本格グロースを検討してみても良いでしょう。
また、もしブランドが若い顧客層からお父さん世代・お母さん世代を対象にしたブランドと思われているならば、なおさらSNSアカウントは重要な顧客接点です。ブランドが十数年も変化なく年老いてしまわぬように、将来を見据えた若いお客様と出会いにいきましょう。SNSは可処分時間が集中していて、生活者の動線に入り込めるメディアになっています。
7つのチェックポイント④
顧客同士のつながりによる効果を施策の発想に活かしているか
企業と消費者が直接つながるだけでなく、消費者同士のつながりにも目を向けると打ち手の幅が広がります。
今や井戸端会議がSNSでも行われていますから、メッセージを直接届けられなくても、連鎖して広げられます。
例えば、企業投稿に対していいねや拡散などの直接的な反応をされなくても、消費者同士が間接的に「これ良いよ」と推奨したり、「これみてみて!」と友人にDMを送っているかもしれません。その交友関係を経路として、情報が伝播されていきますから。
会話が発生するネタ、会話を生み出せるような商品やサービス、自己表現を助けてくれるような商品は、ソーシャルメディアが情報伝播の高速道路となって走りやすくなります。
企業と顧客の関係に目が行きがちですが、「顧客同士の関係を向上させられないか?」の視点を持つと、プロダクト志向からサービス志向に頭を切り替えられ、施策発想の幅を広げられるのでオススメです。
(写真はイメージ)
7つのチェックポイント⑤
リアル同様、SNSでもファンを活性化できているか
もしリアルに企業やブランドのコミュニティができているのであれば、オンライン上でも同様のコミュニティをつくると、クチコミのデジタルコンテンツが生まれやすくなります。
コミュニティに常連客がいて盛り上がっているなら、SNSでコミュニケーションを図ることで、デジタルでもより活性化させられます。その結果、新商品が出ればすぐ宣伝してくれるなど、初速がつくようになるでしょう。初速がつけば、評判がすぐに広まるなどのメリットを得られるだけでなく、そのジャンルの週間ランキングで1位を獲得するといった「動員の革命」のようなことも可能になります。
SNSを活用すれば、「コミュニティが活性化するような商品や話題を提供できているか」の観点でもブラッシュアップできますね。
7つのチェックポイント⑥
ガラス張りの時代という意識を持って行動できているか
ソーシャルメディアは評判の増幅装置です。いいものはいい、まずいものはまずいと広まります。
ここ最近でも、某有名メディアの記事で取り上げられた内容が、SNSを通じて本人や関係者から否定されるような事案を目にするようになりました。
高評価を装った架空レビューもすぐに見抜かれます。
従業員も、お客様も、個人メディアです。
「1億総記者時代」「1億総パパラッチ時代」と言えるかもしれません。
情報の非対称性を利用して暴利をむさぼったり、古い商慣習を利用して消費者を欺こうとすると、途端に白日の下に曝される時代になったのです。
誠実こそ、最良の戦略です。
7つのチェックポイント⑦
ラストクリック偏重になっていないか
リスティング広告やリターゲティング広告をはじめとする顕在層向けマーケティングは、コンバージョンのためのラストクリックを評価し、各媒体をクリック直後のCVRやCPAで評価するなど、短期的にわかりやすい成果が出て、パワフルな手法ですよね。
しかし、それと同じような考えで、潜在層向けの施策を評価・設計するべきではありません。従来型の獲得型手法の解釈では誤ってしまいます。
達成率200%の営業マンがいたとして、実はその成果は、優れた提案書を作ってくれた人や、トークスクリプトを開発してくれた人の力によって、商談前に良い印象を形成できていたからかもしれません。最後のゴールだけで評価するのは、短絡的な成果主義です。
SNSの貢献は、商品と出合うきっかけを作ったり、話題化によって存在感を高めたり、クチコミという評判によって購買の背中を押せたりするところにあります。貢献を誤った尺度で評価してしまわないよう、適切なモノサシを使って測る必要があります。
ただし、ビジネスの場合、認知度や話題量よりも、施策によって売り上げにつながったか否かの結果が重要です。売り上げにつながらなかった話題化は、商売の観点としては意味をなしません。売り上げへの貢献という点でSNS施策の在り方を都度変えていくことが大切です。
オンライン・オフラインの顧客接点をゼロベースで見直す時機が来た
こんな逸話があります。
道端で地面をじっと見つめて探し物をしている人がいます。彼は街灯が明るく照らされてはいるが、何も落ちていないところばかりを探しています。そこで、ある人が聞きました。
「なぜそんなところばかり探しているんですか?」
返ってきた言葉は
「見えている場所だからです」
このように、今見えている成果ばかりの施策を繰り返していても、大事なことを見落としてしまうかもしれません。
『「測れないもの」には意味がない。「測定されたもの」に意味がある。』――本当にそうでしょうか。
見えないところに成果が落ちていても、見えるところだけを探していては見つかるはずがありません。わかりやすいフォロワー数だけを追うのは本質ではありません。
今は、オンラインの領域において新しい街頭の灯が点きつつあります。この機会にオンライン施策を見直してみると、ビジネスプロセスを改善できる発見があるかもしれません。
Profile
室谷 良平(むろや・りょうへい)
株式会社ホットリンク マーケティング本部マーケティング部部長、ホットリンク総研所長。
1988年生まれ。北海道長万部町出身。函館高専情報工学科卒。前職の人材ベンチャー・株式会社ウェルクスでは、全サービスのマーケティング全般に関する戦略立案やグロース施策の実行のほか、マネジメントも務める。2019年に株式会社ホットリンクに入社。支援企業のSNSコンサルティングや、SNSマーケティングの研究・分析・メソッド開発に従事。共著に『1億人のSNSマーケティング』(エムディエヌコーポレーション)がある。