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インタビュー

10年後も必要とされるWebマーケターになるには?――北の達人コーポレーション代表・木下勝寿をエルモが直撃!

最終更新日:2023.04.27

CEO Interview #20

北の達人コーポレーション 代表取締役社長

木下 勝寿

北の達人コーポレーション代表・木下勝寿さんの2冊目の著書『ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング』が注目されています。

資本金1万円で1人で創業した会社を東証プライム上場企業に育て上げたWebマーケティングの手法が生々しく綴られており、マーケターはもちろん、近い将来に起業を考えている人にもよく読まれているそうです。

Marketing Nativeで連載中のマーケター、エルモさんも、木下勝寿社長に強い関心を持つひとり。そこで今回はエルモさんに木下社長をインタビューしてもらいました。

(構成:Marketing Native編集部・早川 巧)

目次

Webマーケターが見落としがちな視点への危機感

エルモ 木下社長の著書1冊目『売上最小化、利益最大化の法則』が大変好評だったので、2冊目のオファーはたくさんあったと思います。その中でなぜ『ファンダメンタルズ×テクニカル マーケティング』を執筆しようと考えたのか、あらためて理由を教えてください。

木下 実は1冊目と2冊目はほぼ同時進行で動いていました。もともとはマーケティングについて書きたかったのですが、エルモさんも何度かツイートしているように「マーケティングの本はあまり売れない」と言われます。それもあって、1冊目はマーケティングを前面に出さずに切り口を変えたら、おかげさまでヒットしました。1冊目が売れたので、2冊目は「売れ行きを考えるのではなく、社員教育用のテキストを作るつもりで書こう」と企画したところ、今回もありがたいことにご好評を頂いています。

北の達人コーポレーションのWebサイト
https://www.kitanotatsujin.com/

なぜマーケティングの話を書きたかったかというと、Webマーケティングに従事している若いマーケターと接する中で、Webマーケティングはマーケティングの一部でしかないのに、まるでWebマーケティングがマーケティングの全てであるかのように勘違いしていたり、単なるデジタルオペレーションをWebマーケティングと思い込んだりしている人が多いと感じて、危機感を覚えていたからです。そのためWebからマーケティングの仕事に入ってきて、これまでWebマーケティングだけしか携わってこなかった人に向けて、マーケティングの全体像におけるWebマーケティングの位置づけを解説することで、キャリア戦略や施策立案に役立ててほしいと考えました。

エルモ 私自身は学生時代にアフィリエイトをしていた経験があり、今は広告代理店で企業のマーケティング全般に携わらせていただいています。日々の仕事で感じるのは、Webのように可視化しやすく、成果の出やすいところに広告主含めてヒト・モノ・カネが集まりやすい構造に業界がなっており、Webマーケティング偏重の解消はなかなか難しいだろうということです。

木下 そもそもGoogleもFacebookも、広告代理店に頼らずとも自分たちで広告を出せる仕組みになっています。私はWeb専業の広告代理店がなかった時代からGoogle AdWords(Google広告)を扱っていて、自分で直接運用できるから便利だと思っていたときに広告代理店が参入してきたから、「自分でできるのに、なぜ広告代理店がやるの?」と驚いたことがあります。広告代理店がWeb広告を運用するようになったことで「マーケティングの部署」と「実際にWeb広告を運用する会社」が別になり、そこからマーケティングがおかしくなってきたと感じています。

エルモ とはいえ、各社に運用の知見・ノウハウが貯まってきてインハウス化が以前より進んでいる部分もあると思います。広告代理店に北の達人さんが運用を含めて、マーケティング支援のお仕事を依頼したことはありますか。

木下 少しだけお願いしていますが、現時点では自社で運用したほうが成果は出ています。そもそもWeb広告の代理店がない時代から我々は運用していて経験値が高いので、後から参入してきた広告代理店で当社よりスキルが高い会社は少ないのが実情です。もちろん、個人レベルで見ると、広告代理店にもスキルの高い人はいます。例えば、大手広告代理店の一担当者であったり、独立している個人の方のスキルが高かったりすることはあります。そういう人に一時的にお願いすることもありましたが、大手広告代理店の一担当者の場合は、人事異動で担当が代わると成果が大きく落ちたり、個人の場合は経営している会社が大きくなって現場から離れ、部下に任せ始めるとスキルが下がっていったりするので、継続してお願いするのを難しく感じる面はあります。

ただ、やはり広告代理店には広告代理店の良さがあります。自社だけで運用していると、視野が狭くなるというマイナス面もあります。なので、幅広い経験値を持った広告代理店とのお付き合いは何らかの形でうまく継続していく必要はあると思っています。

エルモ 木下社長は以前、運用はロジックの世界であり、数%の積み上げしかできない一方で、クリエイティブに関しては「マーケティングジャンプが起こる」という趣旨のツイートをされていました。私も同意で、クリエイティブ次第で結果が大きく変わり、ほかの打ち手の影響は僅差でしかないと感じています。今の話で言うと、代理店に依頼する場合はLPの作成など、クリエイティブのセンスがモノを言う業務が多いのでしょうか。

木下 その時々ですね。昔は運用をお任せしていたこともありましたが、現状では広告代理店が我々より高い成果を出すことは少ないのが実情です。

テクニカルマーケティングが進化した現代では、成功事例を機械的に当てはめていく作業が多くて、大きなヒットは読めなくなっています。その程度の作業なら誰でもできるので、広告代理店に依頼するとすれば、基本的には会社レベルではなく、担当者の個人レベルでスキル判断をして依頼するかしないかを決めています。

エルモ わかります。「これから通販業に参入します」という会社なら突然成果が3倍になったりすることもあるかと思いますが、北の達人さんのようにこれまでPDCAを回し続けたところに、さらに上積みで毎回ジャンプが起きることはなかなかないと思います。代理店も御社のような企業を相手に毎回ジャンプを求められるのは苦しいでしょうね…。

木下 それなのに、キャリアの浅い広告代理店は「僕が担当したら成果が3倍になります」みたいなことを平気で言うんですよ。「そんなことを言ったら、後で苦しむのはあなたですよ」と思います。

求人広告作成で学んだ、相手の価値観を理解する技術

エルモ ありがとうございます。次に、デジタルオペレーターとWebマーケターの違いについて伺います。両者の違いのひとつとして、ご著書では「データから傾向を見て直接配信設定を調整するのはデジタルオペレーター」「データから傾向を見て人間行動の仮説を立てて施策の手を打つのがWebマーケター」とあります。さらにデータから人間の行動パターンを見つけ、そのパターンの背景を理解し、販促につなげることが本当のマーケティングだとして、アメリカのあるショッピングセンターの購買データからわかった「缶ビールを買う人は、一緒におむつを買っている人が多い」という事例を挙げています。私もこのエピソードをかなり面白く感じたのですが、木下社長ご自身はWebの世界でどのように人間の行動観察を行っているのでしょうか。

木下 ビールとおむつの例は有名で、実際には「マーケターが売り場に張りついて観察し、発見した」という話と、「レジの人に聞いたら、すぐわかった」という2つの話があります。後者はレジの人に「ビールとおむつの組み合わせがよく売れているけど、なぜだと思う?」と聞いたら、「週末にお客さまが夫婦でクルマで買い物に来て、普段持てない重い物を夫に持たせてまとめ買いしているからです」のひと言で終わったとのことです。

そんなふうに私は人に聞くことが大事だと考えています。テクニカルが得意なマーケターの中には数字だけしか見なかったり、クリエイティブへの理解が浅かったりする人がいます。ところが、数字上は売れ筋でも、なぜ売れているのかわからない商品はたくさんあります。そのヒントを探すためにも人に聞いていくことが大事です。

我々は女性向け商品を数多く扱っていますが、私は男女の価値観には大きく異なるところがあると感じます。例えば、5万円のスカートと5,000円のスカートがあり、私から見るとそんなに違いはないのですが、妻は全然違うと言います。そこで「なぜ5万円のスカートのほうがいいのか?」と何度も聞いて理由を探っていくと、生地や縫い方、ハンガーに吊るされた状態と着用時のシルエットの違いなど次第に感情の機微がわかってきます。

腹落ちするまで質問を何度も繰り返すうちに抽象的思考力が養われて、他の場合でも「これなら買ってくれる」「こういう商品は買ってもらえない」と仮説を立てる力が身に付いてきます。もしその仮説が違うなら、また相手の好みの機微を理解できるまでずっと聞いていけばいいのです。そんな感じで私は、とにかく人に聞くことをよく行います。

エルモ 一番のヒアリング相手はどなたですか。

木下 社員の女性によく聞きます。その際、自分の好き嫌いの感情を整理して伝えるのが得意でない人も多いので、聞くことにテクニックや経験値が必要です。

エルモ ヒアリングスキルは経験から身に付いたものですか。何か意識していることがあれば教えてください。

木下 リクルート勤務時代に行った求人広告の取材で身に付いたところが大きいですね。求人広告の作成は意外と難しく、価値観を全く理解できない人にも話を聞かなければなりません。例えば、ある会社が求人募集しているとします。ところが、給料は安いし、仕事内容に魅力を感じないので、私はその会社に行きたくありません。しかし、そこの社員はその会社を気に入って働いています。その状態でそこの社員がなぜその会社を良いと思っているかを取材して、魅力的な求人広告の原稿を作るわけです。その際に自分の価値観に置き換えて質問しても理解はできず、良い原稿は書けません。そこの社員の価値観に立って会社の優れたポイントを理解する必要があるのです。自分ではなく、相手の価値観で質問し、良さを理解すること。それさえできれば、相手・業種・商品を問わず話を聞けて、良い求人広告を作成できるようになります。

求人広告の作成スキルについては、もともと持ち合わせたセンスによってすぐ身に付けられる人もいますが、そうでない人は自分の価値観を置き換えにくい異性や子供に聞く練習をするとヒアリング力を上げるトレーニングになると思います。例えば、子供が何かのゲームにハマっているとします。ハマっている理由を明確に言語化できる子供は少ないでしょうから、質問を繰り返していって「次はこういうゲームならやりたいでしょ?」と相手の好きそうなゲームを当てられるところまで掘り下げていくことが大事です。

エルモ 最近、江副浩正さん(リクルート創業者)についての本を読んで、あらためてリクルートはすごい会社だと思いました。木下社長も新卒でリクルートに入社して特に影響を受けたことがあればお伺いしたいです。

木下 やはり求人広告の作り方からクリエイティブについて学びました。クリエイティブの作り方について、著書に書いた『「誰に」×「何を」×「どう」伝えるか』を意識する手法は求人広告の作成から来ています。求人広告は大企業から順番に掲載されますので、普通に作ったのでは中小企業への応募はまず来ません。いかに差別化を図れるかを前提に、「どういう価値観の人に対して」「その会社のどんなことを」「どんなふうに表現すればよく伝わるか」を考えて作る必要があります。それがクリエイティブの基礎です。

スキルだけでは生き抜けないWebマーケターのキャリア戦略

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記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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