マットレスの上でジャンプしても、マットレスに置かれたワイングラスは倒れず、赤ワインはこぼれないまま…そんな優れた“速”振動吸収性を強調した「ワイングラスチャレンジ」の動画で知られるコアラマットレス。
日本は先進国の中でも最も睡眠時間が少なく、睡眠不足の人が多いとして、近年は睡眠改善ブームとも言うべき、睡眠ビジネスが盛り上がりを見せています。
そんな市場の追い風を受け、競合ひしめく寝具メーカーの中で、オーストラリア発のコアラマットレスはどのような戦略で顧客と向き合っているのでしょうか。
今回はコアラスリープジャパン株式会社 最高マーケティング責任者の尾澤恭子さんに話を聞きました。
(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:矢島 宏樹)
※肩書、内容などは記事公開時点のものです。
目次
シリコンバレーで身に付けたマーケティングの実践知
――尾澤さんは国内メーカーの広告宣伝部から米シリコンバレーのスタートアップで働いた後、テンピュール・シーリー・ジャパン、PR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、オリックスを経て、2022年11月にコアラスリープ ジャパンにジョインしたとのこと。マーケティングにはいつ頃から、どんなきっかけで携わるようになったのですか。
もともとマーケティングの仕事を志向していたわけではなく、そもそも新卒当時の日本に独立した「マーケティング部」のある会社も多くはありませんでした。
ひょんなことからシリコンバレーに行くことになり、そのときのパートナーと一緒に決済会社を立ち上げました。これからはオンラインのeコマースの時代になるからオンラインの決済会社をつくれば儲かるだろうと考えたのです。
アメリカで会社を登録し、オフィスを借り、電気や水道の手続きをしたり家具を買ったりと手作りでイチから始めて、ネットで物販をしそうな人に「弊社の決済サービスを利用しませんか」と営業メールを送るところからスタートしました。ところが、ネットで物を売ろうにもホームページを持っていない人がたくさんいるとわかり、まずは簡単にカート付きホームページを作成できるサービスを始めました。すると今度は「ホームページはあるけど、お客さんが来ない」という悩みが寄せられたので、どうすれば検索エンジンの上位に載るかを調べたり、コンバージョンを増やすためにサイトのUI/UXを改善したり、コンテンツをチェックしたり、商品の写真を撮ってPhotoshopで加工したりもしました。さらには自分でサイトをデザイン・コーディングをしたり、訪問してくれた人がまた来てくれるようにリマーケティングをしたりして、目の前の課題を1つずつ勉強しながら解決するうちに、自然とマーケティングの知見やデジタルマーケティングのノウハウが身に付いていったのだと思います。
――実践で学んでいったのですね。
会社を整理して2008年に帰国後、派遣会社に登録してWebプロデューサーなどを務め、その後テンピュールに入社しました。最終的にはマーケティング部門のヘッドを担当したのですが、最初はデジタルマーケティングとeコマースのポジションで入りました。ただ、実務経験の言語化に苦戦して“私の指示に従えば売れるはずなのに”という確信はあったのですが、言語化できないからメンバーに再現性があることをうまく説明できず、“いいから私の言う通りにやって”のように伝わってしまいました。メンバーはトップダウンで命令されたみたいで納得できず、モヤモヤしたと思います。
そうした経緯もあって能力に限界を感じ、MBAが取得できる経営大学院に行って、経営やマーケティングなどを包括的に学び直しました。その結果、ロジカルに言語化できるようになっただけでなく、私がそれまでやってきたことは、日本で名乗るなら「マーケティング」であると初めて明確に認識できるようになり、マーケティングはニアリーイコール「経営」や「商売」だと腹落ちしました。
クリエイティブ集団からビジネスで戦う企業への変革
――わかりました。次に、コアラにジョインするきっかけを教えてください。魅力や課題など、ジョイン前後でどんなことを感じましたか。
テンピュールでの勤務経験から、寝具メーカーの定石はある程度身に付いていると思ってコアラのお話を聞いたのですが、最初の対話でコアラがその定石をまず踏めていないと感じました。さらに面接の段階で、売り上げを上げるために何をすべきかという話が出てこなかったことに違和感を覚え、私が入ったらビジネスパーソンとして売り上げを上げるところから貢献できると興味が湧いたのがジョインの理由です。
――コアラは成長過程における初めのほうのフェーズにあったのですね。
入社前は業績が伸びている時期があったのですが、入社時点ではその勢いが一段落していて、それまでと同じ施策を打ってもほとんど引っかかることなく、落ちる一方の状態でした。
具体的には、ソーシャルメディアを使って認知を取り、インフルエンサーを起用して購買につなげる施策を打っていて、面白おかしな動画を作成してYouTubeなどで公開していました。実際、最初は物珍しさがあったのと、火がつき始めてすぐコロナになり、家の中の質を上げることに世の中の意識が向いて、新しく家具や寝具を新調する人が増えたため、売り上げも大きく伸びていました。ただ、いわゆる巣ごもり需要が一段落すると、何をやっても売り上げが落ちていくという状態だったときに私が入社したのです。
入って驚いたのは、「今日の売り上げはいくらで、昨日は何枚売れた」という話がほとんど聞こえてこないことでした。マーケティングと名前は付いていましたが、メンバーはクリエイティブの人が多く、売り上げの数字やアナリティクスを見られる人がジャパンに1人もいなかったのです。だから最初に手をつけたのは、KPIを設定して数字進捗を常に意識することを習慣づけ、売り上げはどのように作られるのか、自分たちの給料や会社を運営する資金はどこから来ているかを共通認識として持つという意識改革でした。
――なるほど。では当時の状況を経て、現在尾澤さんはどのような仕事をしているのですか。
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