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インタビュー

JTB CMO風口悦子が語る、グローバル企業へのブランディングと、旅行業から交流創造事業への成長の取り組み

最終更新日:2024.05.10

The Marketing Native #63

JTB 執行役員 CMO

風口 悦子

日本人の多くが一度は利用しているであろうJTB。1912年(明治45年)の誕生以来、学校行事や社員旅行、家族や友人同士の旅行など、数えきれないほどの旅を演出してきました。

最近では2023年、コロナ禍で旅行業が大きな被害を受けたのを踏まえ、「日本交通公社」からJTBに名を変えた1988年以来となる35年ぶりのリブランディングを実施。タイミングを合わせる形で、日本IBMでCMOを務めていた風口悦子さんがJTBにジョインし、CMOに就任しました。

外資系のテクノロジーカンパニーで培ったマーケティングの知見を、風口さんはJTBでどのように活かそうと考えているのでしょうか。今回はJTB CMOの風口悦子さんに話を聞きました。

(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:永山 昌克)

目次

日本IBMのCMOからJTBのCMOへ

――日本IBMのCMOからJTBのCMOへの転職。華麗なキャリアを歩んでいるマーケターのひとりとして、以前から注目していました。まず経歴から教えてください。

新卒で日本IBMに入社し、25年間の勤務を経て、昨年(2023年)9月にJTBに転職しました。IBMでの始まりはエンジニア配属です。大学が文系だったので少し驚きましたが、会社からは「研修制度が充実していて、必要なスキルセットはイチから身に付く。何も心配する必要はない」と言われていました。実際にその通りで、異例なのですが、入社2年目から年間の半分以上を1人で海外出張して、製造業のお客さまがグローバル展開でシステムを納入する際の契約を詰める業務に携わることができました。

エンジニアとして5年過ごした後、営業職に異動になりました。IBMがUNIXサーバというWebサーバの領域に後発で進出する際に、技術面の理解ができる営業でないと競合と比較しながらお客さまを説得するのが難しいということで、技術職から営業職へ大勢異動した際のチームの1人でした。結果、「技術面がわかる営業」をポジショニングにできた点はプラスだったと思います。

――エンジニアと営業を経て、マーケティング職へ。志望ですか、それとも人事異動に従って…という感じですか。

基本的には流れですね。ただ、マーケティング志望であることは日頃から上司や先輩、同僚らに伝えていたので、周りの人たちが気にかけてくれていたのだと思います。振り返っても、エンジニアと営業の経験はマーケティングの仕事をする上で非常に役に立っていますので、良い形でキャリアを積んでこられました。

――日本IBMのCMOとはどんな役割ですか。

業務としては、グローバルのIBMが戦略に基づいて立てたブランディングやマーケティングを、日本のお客さま、市場に対してローカライズして提供していく際の統括を担当していました。日本の市場の要件をグローバルにインプットすることも重要な役割の一つです。日本IBMのマーケティングCMOとして、国内では日本の社長に報告する形で、グローバルのCMOが直接のレポートラインです。

日本の企業文化に浸透させたいグローバル企業の仕組み、知見

――わかりました。IBMでの25年の経験を経て、JTBに入社されたと。大企業のCMOから大企業のCMO、しかも25年働いた上での初転職とあって、かなり大きな意思決定だったと思います。決断の背景など教えていただけますか。

もともと前向きな性格なので、「大変さ」などはあまり意識しませんでした。むしろお話を頂いて、聞けば聞くほど挑戦したいという気持ちでワクワクしました。

決断した背景は主に3つあります。1つはそれまで身に付けた知見やスキル、経験を活かせそうだと感じたことです。私のバックグラウンドにタグをつけると「IT」「BtoB」「マーケティング」「外資系企業」の4つだと思います。一方、私の認知していたJTBは「BtoC」と「ツーリズム」(旅行業)に強い。この2つは私の4つのタグとは異なるので、私が貢献できるのか、JTBという会社を変えられるのか、最初は少し悩むところもありました。

しかしお話を伺うと、BtoBの領域がJTBの中でそれなりの割合を占めているとわかり、それまでグローバル企業でBtoBマーケティングをリードしてきた経験を役立てられると感じました。

2つめは本社からの指示を出す側と受ける側の両方の気持ちを理解できると考えたことです。IBMではグローバルのヘッドクォーターから日本IBMが受け取った指示や情報を、日本のCMOとして国内のマーケットに授与する立場で、ローカライズを中心にさまざまな施策を実行してきました。一方、JTBでは逆の立場で、日本の本社からグローバルに存在する支社やグループ会社への授与を考えるときに、統制と権限委譲のバランスにおいて、授与する側・される側の両方の気持ちが理解できるという点が私の強みになると考えました。

3つめはIBMで学んだことを日本の企業文化に広く浸透させていきたいと考えたからです。今、BtoBマーケティングのコミュニティにいくつか参加しているのですが、IBMでは当たり前だった環境や仕組み、ツール、キャリアなどの人事制度が、日本の企業では必ずしも当たり前ではないことに、ハッとする瞬間がここ数年、何度かありました。そこで、私が学んだことを日本の企業に広く伝えていくことで、生産性の向上だけでなく、本来の良さを最大化させるのに役立てられるのではないかと感じました。

――例えばどんなことですか。

BtoBの領域なら、組織やマーケティング投資の考え方、マーケティングオートメーションのようなツール選択とプロセス設計、営業との連携や、そこに関連した各KPI設定の仕方・動き方、あとはマーケターのキャリア設計などが挙げられます。キャリアについてIBMでは「デジタル専門」「キャンペーン専門」「市場調査専門」「パートナーアライアンス専門」というように、それぞれのジョブディスクリプションがきちんと定義されていて、自分がどこのキャリアに行くために何を学べばいいかが可視化されクリアになっています。そういうところは今の日本企業の課題だと、BtoBマーケティング担当者の方々とお話しして感じます。

――なるほど。ちなみにJTBのBtoBとはどんなことですか。

企業の持続的な成長に向け、従業員やお客さまとのエンゲージメントに対する課題解決を実現するサービスで、大型カンファレンス、組織内のインセンティブ・研修旅行、展示会をはじめとするビジネスイベントの体験創造や運営などが主流です。ほかにも人事の課題解決や生産性向上を目的としたHR支援、経理・財務業務のサポートなどを幅広く手掛けています。ツーリズムに加えて、それらの領域をスケールさせることが求められますので、マーケティングや広報、DXなどの観点で加速させていきたいと考えています。また自治体や学校も、BtoBビジネスの主要なお客さまです。企業と自治体、学校と自治体など、私たちの幅広いネットワークで、お客さまやビジネスパートナーとの共創にも注力していきます。

グローバルのブランディングと交流創造事業への注力

――風口さんはCMOとしてブランディングを担当しているとのこと。JTBのブランディングはどんなことですか。

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・マーケターに求められるテクノロジーの進化へのキャッチアップ
・複数の居場所を持つ大切さ

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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