紫陽花(あじさい)の花咲く、梅雨の6月。新入社員の人たちは研修期間を終え、そろそろ配属先が決まる人も多いと思います。
今回はマーケティングの部署に配属になった新人マーケターの皆さま向けに、キャリア豊富なCMOからアドバイスを頂く企画を考えました。お話しいただくのはレノボ・ジャパンCMOのリュウ・シーチャウさん。
優れたマーケターを数多く輩出してきたP&Gを経て、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)では香港のカントリーマネージャー(現地社長)を務めるなど高い実績を持つ方です。
シーチャウさんはどんな新人マーケターだったのか、CMOの立場から今、アドバイスできることは何か、お話を伺いました。
(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:永山 昌克)
※肩書、内容などは記事公開時点のものです。
目次
1枚のレポートで40回ダメ出しされた新人時代
――CMOから新人マーケターにアドバイスを頂く企画です。まずシーチャウさんの新卒時代の話からお聞きします。なぜP&Gのマーケティング部門に入社しようと思ったのですか。
初めからP&Gを志望していたわけではありません。外資系の銀行やコンサルティング会社を中心に面接を受けていたのですが、就活仲間に「P&Gのグループディスカッションが練習になるから行く?」と誘われたのが興味を持ったきっかけです。
実際にP&Gを受けてみたら面白そうで、「自分に向いている」とピンと来ました。コンサルもP&Gも戦略を考える点は同じですが、P&Gは数字をただ数字として捉えるのではなく、戦略の中心に消費者を置いています。どうすれば自社の商品で消費者にハッピーになってもらえるか。そんな戦略を考える仕事をしたいと思い、入社しました。
――あらためて、マーケティングの魅力はどんなところにあるとお考えですか。
仕事に限らず、幅広く役に立つところが魅力のひとつだと感じます。マーケティングとはイコール、物が売れ続ける仕組み作りであり、お客さまに継続して購入いただけるように工夫することです。私はもともと、物が売れているタイミングで「なぜこの商品は買われているのか」「お客さまが購入する前にどんな認知があったのか」を考えるのが好きで、プライベートで友達が経営するレストランに遊びに行ったときも、「こんなふうにすれば、もっとお客さんが増えるのでは」「メニューをこう変えたら売り上げが上がるのでは」とマーケティングの知見を活かして、よく提案しています。
また、部下の育成面でも、その人の特徴やインサイトを探って、行動変容を起こすために何をすべきかを考えるのは、マーケティングのフレームワークと基本的な考え方は同じです。そんなふうにいろんなシーンで効果的に活用できるから、マーケティングは面白いですね。
――新卒1年目のシーチャウさんはどんな感じでしたか。
1年目はとにかく眠かった記憶があります(笑)
P&Gでは1年目から大きな裁量を与えられることが多く、私は「ヴィダルサスーン」というヘアケアブランドを担当していました。ファンダメンタルのスキルを身に付けるべく、競合の「LUX」や「TSUBAKI」などの市場シェアが毎週発表されるたびに、なぜシェアが下がったり上がったりしたのかを考え、シェアに影響を与えたであろう施策や競合の今後の動きを分析して「1pager(ページャー)」と呼ばれる1枚の紙にまとめていました。
ところが、上司に何度そのレポートを提出しても赤ペンで真っ赤にダメ出しされて突き返されるのです。同じ内容を1カ月かけて40回くらい書き直したこともありました。そのときは「なぜこんなことをさせられるのだろう」と疑問を感じたこともあったのですが、何度も思考して書き直すうちに分析の甘さや、見えていなかったポイントが次第に見えてくるようになりました。実はP&Gを辞めたときにオフィスから唯一持ち帰ったのが、このダメ出しされ続けた40枚の紙でした。当時は本当に大変でしたが、あきらめずにマーケットを分析して1枚の紙にまとめ続けた経験が、今も自分の中に活きています。時間をかけて40回も赤ペンを入れてくれた上司のことは今でも感謝しています。
――マーケターとしてやっていけると感じたのはいつですか。
そんなことを考えたことはないです。やっていけないとも思っていなかったので。
――「少し自信がついてきたかな」と感じたことはなかったですか。
基本的に私、自信ないです。自信はないけど、目の前にある課題は解決したいし、目標も達成したい。それは自信があってもなくてもやるべきことで、自信がないから無理とは思わないし、自信があるからできるとも思いません。わかりづらいですか?(笑)。自分が何かをするのに、自信の有無を気にしない性格なのです。だから新卒1年目のときと今の気持ちはそんなに変わらないと思います。目の前にチャレンジすべき目標や課題があるなら、自信があろうとなかろうと、達成や解決に向けて全力で取り組むというスタンスです。
同期と比較するより、自分らしさの追求を
――この記事が公開されるのは6月。その頃には新卒の配属を決める会社も多いと思います。中には研修期間で同期に差を付けられたり、 自分が行きたかった部署に同期が配属されたりして、焦ったり妬ましさを感じる人も出てくる頃です。
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