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デジタリフト鹿熊亮甫が解説! Post Cookie時代のデジタル広告にマーケターはどう備えるべきか?【ビタミンゼミレポート#14】

最終更新日:2021.12.16

Marketing Nativeの「ビタミンゼミ」(※)レポート第14回は、広告運用やコンサルティング事業を展開する株式会社デジタリフト取締役 鹿熊亮甫さんの「Post Cookie時代のデジタル広告」をお届けします。

世界的な個人情報保護の動きに伴い、Cookie規制が急速に進行しています。デジタル広告では従来のような形で効果測定を行うのが難しいと言われており、どのような影響があるのか気になっている方もいるでしょう。

今回は鹿熊さんの講義で取り上げられた、個人情報保護の歴史的な背景や規制の詳細などをご紹介します。

(構成:Marketing Native編集長・佐藤綾美)

※ビタミンゼミ:ビタミン株式会社が運営し、スタートアップ企業の経営者やCMO候補のマーケターがゼミ生として参加するコミュニティ。参加は有料で紹介制。Marketing Nativeでは、月1回開催される「朝ゼミ」の内容を不定期でレポートしている。

目次

押さえておきたい広告業界の最新トレンドと歴史的背景

鹿熊さん 今回の講義では、10年に1度の大変動期とも言われているアンチトラッキングの実情に迫り、理解を深めていきます。

広告業界では、長らくCookieと呼ばれる仕組みを使用して効果計測が行われてきました。しかし、GoogleがGoogle Chromeにて2023年後半に3rd Party Cookieを廃止することを発表する(※)など、今後は Cookieの使用が制限されていくことから、広告の仕組み自体も変化しており、大きな変動期にあります。

※あくまで予定で、変動する可能性があります。

歴史的な話もあり、少し難しいかもしれませんが、全体を通してお伝えしたいのは「正しい」は「難しい」ということです。

▲Cookieは主にログインIDや閲覧履歴、訪問回数などの情報を保存する仕組みで、1st Party Cookie と3rd Party Cookieの2種類がある(イラスト:Marketing Native編集部)。

iOS14.5のリリース

2021年4月26日(現地時間)にiOS14.5がリリースされ、ATT(AppTrackingTransparency)の導入により、すべてのアプリにIDFA(Identifier for Advertisers)の追跡許可を求めることが義務付けられるようになりました。IDFAとはAppleがユーザーの端末にランダムに割り当てているデバイスIDのことで、ユーザーの識別やユーザー行動の計測に用いられます。ATTは、Appleがユーザーのプライバシーを保護するために導入したフレームワークです。

iPhoneをお持ちの方は、アプリをダウンロードしたり、開いたりしたときに「●●が他社のAppやWebサイトを横断してあなたのアクティビティの追跡することを許可しますか?」とメッセージが表示されたことがあるのではないでしょうか。ユーザーが「Appにトラッキングしないように要求」を選択すると、IDFAを追跡できません。トラッキングされる行為に対し、ユーザー側に選択の自由が与えられたのです。

この変更により、おそらく多くの人がトラッキングを許可しないだろうと推測されています。それに伴い、ターゲティングや効果測定の精度の悪化、配信する広告のパフォーマンスの低下などが予想されています。

個人情報の規制強化に関する流れ

個人情報の規制強化は今に始まったことではありません。これまでどのような流れをたどってきたのか、歴史的背景を振り返っておきましょう。

主な出来事
2017 9月:AppleがITP1.0をリリース

3rd Party Cookieによるデータ収集に制限がかかる。24時間で利用不可の状態となり、その後30日間で削除される。

2018 5月25日:GDPR(EU一般データ保護規則)の適用が開始

9月:AppleがITP2.0をリリース

3rd Party Cookieが即座に利用不可の状態となり、その後30日間で削除される。

2019 3月:AppleがITP2.1をリリース

JavaScriptによって生成された1st Party Cookeが7日間で削除される。

4月:AppleがITP2.2をリリース

JavaScriptによって生成された1st Party Cookeが特定の条件に当てはまる場合、 24時間で削除される。

6月:Mozilla(Firefox)が3rd Party Cookieをデフォルトでブロック(※1)

9月:AppleがITP2.3をリリース

特定の条件を満たす場合に、LocalStorageが即時または7日間で削除される。

2020 1月:GoogleがChromeで3rd Party Cookieの利用を段階的に規制することを発表(※2)

3月:AppleがSafari 13.1をリリースし、3rd Party Cookieをデフォルトでブロック

2021 4月:AppleがiOS14.5をリリース

ATTの導入により、すべてのアプリにIDFAの追跡許可を求めることが義務付けられるようになる。

※1:Mozilla「Firefox Now Available with Enhanced Tracking Protection by Default Plus Updates to Facebook Container, Firefox Monitor and Lockwise
※2:Google Japan Blog「サードパーティ Cookie 廃止に関するタイムラインの変更について

ITP(Intelligent Tracking Prevention)とは、Cookieなどを使用したWebサイトのトラッキングを制限する機能で、閲覧したサイトの情報や購入した商品のデータの保有期間または有効期間を制御したり、情報が残らないようにしたりするシステムです。上記の表を見ると、ITPは頻繫にアップデートされているとわかりますが、これが世の中の情報をややこしくしている一つの原因だと思います。ITPで規制が入る度に広告代理店側で対策が講じられ、その回避策に対応するために、Appleによるアップデートが行われてきたのです。

▲規制と回避策の流れ(イラスト:Marketing Native編集部)

これまでは規制が強化されても、都度異なる対策が講じられ、何とか効果を計測できる状態が続いていました。しかし、iOS14.5のリリースによってIDFAの追跡に許可が必要となった今、今後はきちんと対策を打たなければ、広告の効果をうまく計測できなくなるおそれがあります。

ちなみに、よく「規制はアプリだけの話ではないのか」と言われることがありますが、広告の配信に携わるすべての方に関係する話です。ATTではアプリとWebサイトの横断的なトラッキングも規制しているからです。例えば、Facebook広告はFacebookアプリ内の広告をクリックして、Webビューが開きます。これがアプリからWebサイトへの遷移となります。

これに対応するために、AppleはPCM(Private Click Measurement)というレポート機能を提供していますが、このPCMもかなりの制限があります。

クロスドメインの計測の難易度が上がるPCM

PCMでは、複数のサイトをまたがる計測ができません。FacebookやInstagram、TwitterからWebサイトへ遷移させる際のトラッキングには制御がかかります。その際の注意点として、ラストクリックと優先度の高いコンバージョンのみが結果として通知されます。それ以外は削除されるため、データの欠損が生じます。

ATTの影響で欠損するデータをPCMでカバーすることはありますが、以前の水準までは計測できません。計測ができないことから、機械学習によって効率的に成果を上げていた運用型広告の自動入札に影響が出ると言われています。これまでの広告配信プラットフォームは、機械学習によってサイトの閲覧履歴や興味関心、コンバージョンの有無などのデータを何万通りも組み合わせ、よりコンバージョンしやすい人に広告を配信するように最適化を図っていたからです。

また、クロスドメインのトラッキングが制御され、クライアントサイトにユーザーが来訪したことを広告配信プラットフォームが検知できないため、リターゲティング広告の配信も難しくなります。

ただし、媒体社すべてがPCMの影響を受けているわけではなく、代替策を打ち出しているところもあります。例えばFacebookはiOS14.5以降のデバイス利用者からのWebイベントとアプリイベントの測定を可能にする計測方法(合算イベント測定)を導入しています。Googleは新たなパラメータ「wbraid」の付与と推定コンバージョンを強化するなど、PCMに関して対応を行っています。

ATTはそもそもアプリ内の話であるのと、アプリとWebを横断する際の規制です。WebからWebへの横断は対象外であるため、そもそもPCM機能を利用する必要はありません。Googleの話は「YouTubeアプリ→広告クリック→Web」や「Gmailアプリ→広告クリック→Web」といったアプリからWebへの話であり、例えば検索広告のような「Web→Web」には関係がありません。

日本は世界の中でもiOSのシェアが高い国です。2021年4月時点で、66%がiOS(※3)と言われています。この事実を踏まえると、iOS14.5のリリースに伴う個人情報の規制強化がいかにマーケターにとって重大な事態であるか、ご理解いただけるかと思います。

※3:内閣官房デジタル市場競争本部事務局「今後の競争評価に関する討議⽤資料」(令和3年6月30日)

今後難しくなると予想されていること

今後のデジタル広告では次のようなことが困難になると予想されています。

  • 過去に興味関心を示した人へのリーチ
  • 顧客にとって有益な広告の配信
  • コンバージョンを目的とする広告の最適化
  • キャンペーンの成果の正確な測定とレポート

こうした変化の背景には、消費者のプライバシーに対する意識の高まり、プライバシーやデータの保護に関する法律の制定、それを受けた大手IT企業の対応などがあります。広告業界もその流れを無視するのではなく、以下の事柄を意識するようになっています。

  • 利用者の意向を最重要視し、顧客データを保護
  • 必要に応じて同意を得ることで、利用者の選択を尊重
  • 1st Partyデータに基づく永続性のある基盤開発への取り組み

こうした流れを受けて、我々の予算や目標は変わらなくても、それを達成するための方法、判断基準となるデータが変わります。そのため、マーケターはその点を意識してマーケティング活動を変更する必要があります。

プライバシーの保護に伴う規制の強化を、消費者の信頼を高める機会として捉えましょう。

GoogleやFacebookの計測環境の未来

GoogleやFacebookではCookieによる制限を受けないコンバージョンの計測方法を提供しています。

Google

3rd Party Cookieのサポートを段階的に終了させることを発表しているGoogleは、当面の間Cookieとほかの新しいテクノロジーを併用しますが、いずれはCookieを使用しなくなる可能性があると思います。代わりに導入されているのが、推定コンバージョンや新しいパラメータを活用したコンバージョン計測です。Googleの機械学習を活用しているので精度は高いと思いますが、本当にコンバージョンしたのかわからない推定コンバージョンが計測値に含まれる…というのは認識しておくと良いでしょう。

さらに、拡張コンバージョン(Enhanced Conversion)、Server Side GTMなども用意されています。拡張コンバージョンは既存のコンバージョンタグを補完するもので、暗号化された1st Partyデータを活用します。Server Side GTMはWebサーバーにデータを保持し、コンバージョンを捕捉する方法です。

Facebook

FacebookではコンバージョンAPIを提供しています。Webブラウザを使用せずにサーバーから直接Facebookへデータを送信するため、Cookieの制限による影響を受けません。

各媒体社によるリターゲティングに変わるターゲティング手法

Cookieが制限されるようになると、リターゲティングが難しくなります。そこで、各媒体社は代替手段や補完となるターゲティング手法を提供しています。

Googleファインド広告

Discover、YouTubeホームフィード、Gmailの広告枠に配信できるディスプレイ広告メニューです。特定のキーワードを設定してディスプレイ広告を配信するもので、過去にそのキーワードを検索したことがあるユーザーにアプローチできます。

Yahoo! コンテンツキーワードターゲティング

広告を配信、または配信除外する記事の内容をキーワードで指定するターゲティング機能です。弊社では配信除外でよく使用します。

Yahoo!ではほかに、Yahoo! JAPANから自社サイトに遷移したユーザーに広告を配信する「自社サイト流出ターゲティング」などのターゲティング手法も提供しています。

Criteo コンテクスチュアルターゲティング

Webページのコンテンツに広告をマッチングさせる手法です。特定のユーザーをターゲティングしないため、3rd Party Cookieに依存しません。

Post Cookie時代を迎えるにあたり、マーケターは何をすべきか

類推のコンバージョンデータが含まれたり、データが欠損したりすることがあるため、計測を鵜呑みにしないようにしましょう。データを参考にする際は、1つを見るのではなく、複合的に捉えて判断することが大切です。

また、Server Side GTMやGoogle Analytics 4(GA4)、Google Cloud Platform(GCP)は弊社では将来的にトレンドになると予測しており、使えるようにしておくと良いと思います。今後もアップデートが行われたり、設定が変更されたりする可能性があるため、エンジニアの方とはきちんと連携し、優先度高く対応してもらえるように協力を仰ぎましょう。

今回お伝えした内容は難しい内容も多く含まれますが、これからマーケターに求められる技術難易度も徐々に上がっていくと予想されます。それだけに、わかる・わからないや、できる・できないの差が生まれてくると思いますので、理解して取り組めるか否かが他社との差を付けるポイントにもなるでしょう。

【今回の講師Profile】
鹿熊 亮甫(かくま・りょうすけ)@kakuma3
株式会社デジタリフト取締役
学生時代に株式会社フリークアウトにて新規事業の立ち上げなどを経験。2016年に株式会社デジタリフトに入社。現在は取締役兼AE Div統括を務め、マネジメントや事業統括を担う。

 

 

 

【ビタミン株式会社】
高梨大輔(たかなし・だいすけ)@dtakanashi
高松裕美(たかまつ・ひろみ)@_romihee_
株式会社リジョブ(現株式会社じげんグループ)の創業役員の2人が2015年に創業し、エクイティファイナンス型のスタートアップを専門に、インハウスマーケティング支援やエンジェル投資活動を行う。100名を超える紹介制ビタミンゼミでは、信頼できる専門家から「一次情報」をスタートアップに届ける活動をしている。
https://vitaminzemi.studio.site/

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記事執筆者

佐藤綾美

株式会社CINC社員、Marketing Native 編集長。大学卒業後、出版社にて教養カルチャー誌などの雑誌編集者を経験し、2016年より株式会社CINCにジョイン。
X:@sleepy_as
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