コロナ禍になり流行したものはたくさんありますが、その中のひとつが“キャンプ”です。密を避けながら非日常を楽しめるレジャーとして、在宅に飽き足りた人々がこぞってキャンプ場に繰り出しています。
老若男女問わず愛好家が増えている中で、女性のキャンパーも多く見受けられるようになりました。そんな女性キャンパーの注目をあつめているのが、キャンプを愛する女性のためのコミュニティー「キャンジョ」です。
運営するのは、福岡を拠点に活動する「キャンプ女子株式会社」。SNSを通じてキャンプの楽しさを発信するほか、キャンプ道具のレンタルやプロデュースなどを手がける会社です。そこで今回は、代表の橋本華恋さんに事業の仕組みや狙いなどについて話を聞きました。
(取材・文:ライター・モリカワカズノリ)
目次
SNSは純粋に「キャンプ女子」が楽しめるコミュニティー
「キャンジョ」のはじまりは2018年。化粧品メーカーの営業として働いていた、代表の橋本さんが立ち上げたキャンプのコミュニティーです。特徴的なのが、「キャンプ女子」という明確なターゲットがあるという点。今でも続けているInstagramのアカウントとしてスタートしているのですが、当時は今ほどの盛り上がりがあったわけでもなく、女性のキャンプ人口もそこまで多くなかったはず。ではなぜ、こうしたコミュニティーが誕生したのでしょうか。
「確かに当時は、キャンプにおいて、女性に特化したグループやコミュニティーはとても珍しいものでした。それでもアウトドアを趣味とする女性はいて、そうした人たちと情報をシェアしながら楽しみたいなという思いがあり、『キャンプを楽しむ女性』のためのコミュニティーを作ろうと思いました」と橋本さん。
代表の橋本華恋さん(右)と共同代表の柴垣道宏さん(左)
例えば、ある媒体を立ち上げるとして、ターゲットを明確にしなければ、本当に届けたい情報がぼやけてしまう可能性は高いでしょう。「キャンプ女子」とターゲットを明確にすれば的確に情報を届けられますし、その層の女性たちと抵抗なく気軽に交わることもできます。
そして、2019年には、本格的にビジネスを進めていくために「キャンプ女子株式会社」として法人化に至ります。情報発信ツールとして、Instagram、Twitter、Facebookを活用しながら、キャンジョならではの目線で顧客との交流は続いています。
Instagramのフォロワーは現在7万人(2022年3月8日現在)と、各種SNSの中でも注目度の高さがうかがえます。TwitterもFacebookも同様ですが、「キャンプを楽しむ素敵な投稿」を募集し、キャンジョのアカウントでシェアするのが基本です。インターフェースの仕様にもよると思いますが、写真を一覧で見られるInstagramがユーザーにとっては特に使いやすいとのこと。そこで、SNSを利用する際のポイントについても聞いてみました。
「基本的にはすべて素敵なキャンプ写真をシェアしていますが、Twitterではキャンジョのニュースや出演情報などタイムリーな話題も多く投稿しています。SNSの性質によって多少出し方を変えてはいますが、『楽しいキャンプの様子を伝える』理念は変わりません。そこで大切になってくるのがポジティブな姿勢です。それを続けることで本当にキャンプを楽しみたい人しか集まりませんし、良質なコミュニケーションができるのです」
「自分たちが楽しいと思えること」を意識し、SNSを通じて情報発信をすることで、コアなファンが多く集まっています。その流れもあって、この3月からInstagramを鍵アカウントにしました。
「オープンのInstagramにして誰でも参加できるよりも、フォロワーさん限定で楽しめる安心感・特別感を感じていただきたく承認制にしました。フォロワーさんを増やすことではなく、今のフォロワーさんが楽しめる企画を優先して考えたいと思ったからです」(橋本さん)
Instagramをクローズドにしたことで、キャンプ好きのフォロワーがさらに居心地の良さを感じられるようなコミュニティー運営ができそうです。
その一方、キャンプ道具のレンタルやプロデュース業など、売り上げを構築するプロジェクトをいくつも展開。多くのファンが活用するSNSとお金を生むビジネスライン、その関係性についても気になります。その棲み分けの仕方についても橋本さんは教えてくれました。
「SNSを売り上げに直結させるような仕組みにはしていません。Instagramなどは、純粋に“キャンプ女子”に向けた情報発信にのみ特化しています。自分たちの世界観やブランドを大切にしたいので、SNSはそれを表現しながら純粋に楽しめる場にすることを心がけています。なので、他の事業内容とは棲み分けながら運用しているのです」(橋本さん)
顧客にとっても橋本さんたちにとっても、「キャンジョ」は大切な場所となっており、そこはあくまでも楽しく情報をシェアする場となっているようです。ビジネスにおいて、SNSを活用したマーケティングが求められるケースはよくありますが、「キャンジョ」ではSNSをマネタイズの手段ではなく、ブランドイメージを守り、ファンに楽しんでいただく場として位置づけているようです。
無人のレンタルサービスが人気
さて、ここからは、「キャンジョ」の事業内容について解説していきましょう。前述したように、「キャンジョ」では、キャンプ道具レンタルのほか、キャンプ場サポート、商品プロデュース、アウトドア装飾&セミナーなどの事業を展開しています。大きく、道具レンタルは「個人向け」、キャンプ場サポートやセミナーなどは「自治体・企業向け」といった棲み分けです。
キャンプ道具レンタルは、今、多くのユーザーが活用する、好評のサービスだそうです。利用できるアイテムは、テントからテーブル、イス、そのほか細々したギアまで、キャンプに必要なモノの多くがそろっています。レンタルの仕方も、LINEで予約をすれば、レンタルボックスで貸し出しから返却まで可能な無人のシステムを採用しています。橋本さん曰く「少しでもユーザーが気軽に楽しめるように、レンタルができる場所を用意しています。お試しでキャンプをしたい人はもちろん、チェアやテーブル、ストーブのような季節モノなど、手持ちの道具にプラスしたい人にもご好評をいただいています。最近では、人を介すること自体も面倒と感じる人も多く、こうしたサービスが今求められているのだと実感しています」と、利用のしやすさが人気の秘密となっています。
キャンプ道具レンタルサービス
これほど“使える”システムであれば、売り上げにも大いに貢献していそうですが、実際はそうでもないそうです。橋本さんは「レンタル事業は多くの方に利用していただいていますが、実は売り上げの1割も満たしていません」と言います。
そこで重要になってくるのが、「自治体や企業向け」の事業です。例えば、最近ではキャンプで地域を盛り上げたい自治体が多く、キャンプ場を新たに作る際に企画をプロデュースしたり、実証実験のアドバイザーになったりと、企画から運営まで携わっているそうです。
自治体がこうしたプロに頼る理由としては、キャンプ場の利用者が増えている中で、適切なサービスを提供できているかどうか不安があるからです。そこで、橋本さんたちは、実際に依頼をもらった自治体のキャンプ場をモニターとして回りながら、アドバイスや提案をすることで、既存のキャンプ場のアップデートを目指しています。
キャンプ場の現場を熟知したプロによる提案
場合によってはキャンプ場のリノベーションや新たなサービスの提案など、専門家として最善の方法を探っていくのだそうです。では、実際にキャンプ場サイドは、どのようなことで悩んでいるのでしょうか。
「これは、民間の運営で、かつ指定管理者を立てているキャンプ場でたまに見られるケースです。指定管理者が必ずしもキャンプやアウトドアが好きではなく、あくまで業務の一環として粛々と管理業務だけを行っているところでは、利用者と運営者との間で温度差が生じてしまい、結果、キャンプ場としてユーザーに適切であるとは言えない状態になっていることが往々にして見受けられます」(橋本さん)
そうした課題と向き合い、「本当に求められていることは何か」を見極めながら、顧客と施設とのギャップを埋めていくのが「キャンジョ」の役割なのです。
企業向け事業の一環として行われた積水ハウス「おうちキャンプ」企画のセミナー
積水ハウス「おうちキャンプ」企画の展開例
そこでポイントとなるのが、「キャンジョ」は「ただのキャンプのインフルエンサーではない」ということ。いわゆるインフルエンサーとの大きな違いは、自社でキャンプ場を運営し、その経験やノウハウをもとにさまざまな提案を行っている点です。
「実際にキャンプ場で運営者として携わり、利用者とも触れ合うなかで、ユーザビリティに根ざしたサービスについていろんな学びを得た」という橋本さん。レンタルアイテムのラインアップや求められている設備など、それらを現場レベルで最大限落とし込めるのは、「キャンジョ」にしかできないことなのだと言います。
自然に優しい“良いキャンパー”を増やしたい
そんな橋本さんたちは、今、新たなキャンプ場開設に向けて準備の真っ只中。熊本県阿蘇市に今年(2022年)、その名も「阿蘇キャンジョランド」のオープンを控えているそうです。しかも、その基本姿勢がある意味先進的。
水は雨水を利用し、電気はソーラー、トイレはバイオガストイレにするなど、環境に寄り添った資源を使うことが前提だそうです。「実際には不便に感じるかもしれませんが、限られた資源でクリーンにキャンプをするという意識がとても大事なのです」と橋本さん。
オープン後しばらくは一般利用というよりも、土日はイベントを絡めたキャンプ体験を実施し、平日は企業や団体での利用を目指すと言います。その根底には、自然のありがたみを実感し、正しいキャンプを一人でも多くの人に伝えたいとの思いがあるからなのでしょう。
確かに、キャンパーが増えることで、ゴミ問題やマナー違反が増え、結果、環境問題を生んでしまうような悪循環だけは避けたいものです。橋本さんの話を聞いて、今キャンプがこれだけ流行しているということは、もうひとつ先の次元に進まなければいけないのだと感じました。
九州佐賀国際空港でのイベントの様子
「今後は、キャンプを楽しむ人を増やすだけでなく、“良いキャンパー”を増やしていきたいです。そのために、例えば、100均やプチプラなどのキャンプ道具は極力使ってほしくないですね。今や、そうしたショップに行けばいろんなキャンプグッズがそろいますが、数回使っただけで捨ててしまうのはとても問題だと思いますし、道具を大切にする精神も理解してほしいです」(橋本さん)
「キャンプがある人生はもっとたのしい」をテーマに掲げる「キャンジョ」。九州には多くの魅力的なキャンプ場がありますが、まだまだ課題は尽きないそうです。
「キャンプブームとはいえ、キャンプ場はなかなか儲かりづらいのが現状です。土日は予約が取れないほど埋まりますが、やはり平日や冬などは客足が鈍ります。また、キャンプ場によっては、ホームページが機能しておらず、いまだに電話予約のみの施設も少なくありません。私たちはそうした施設に対して、ホームページの制作や活用法、予約システムなどのサポートも行っており、ソフト面からもキャンプ場の活性化を目指しています」(橋本さん)
キャンジョはキャンプ場の問題点を見据えて、これからも現場に寄り添い続けます。
キャンプ女子株式会社
https://www.camjyo.com/
キャンジョInstagram(鍵アカウント。写真や動画を見るには、フォローリクエストが必要)
https://www.instagram.com/camjyo/