ブロックチェーン技術を活用してデジタルデータに希少性や識別性をもたらすNFT(Non-Fungible Token)。アートやマンガといった領域に新たなマネタイズモデルと新産業を生み出すと期待されるNFT市場にDeNAが本格参戦し、話題を集めています。
それがNFTと紐付けて横浜DeNAベイスターズ所属選手のプレイ動画をコレクションできる『PLAYBACK9』です。
「スポーツとファンの方々とのエンゲージメントを高める最高のファングッズに育てていきたい」と言う、DeNAスポーツ事業本部戦略部デジタル推進グループの下島海さんに、その真意と未来像を聞きました。
(取材・文:ライター・箱田 高樹)
目次
マッキーのホームラン動画を、自分だけのものに
『PLAYBACK9』は、DeNAが2021年11月に立ち上げたNFTを活用したデジタルコンテンツのコレクションサービスです。
コレクションできるのは横浜DeNAベイスターズ所属選手のプレイ動画。例えば牧秀悟選手の豪快なホームランシーンや、神里和毅選手のすばらしい守備など30秒ほどのデジタル動画を、専用Webサイトから購入できます。
動画はサイト上のアルバムで自分だけのコレクションとして、いつでも閲覧できる仕組み。SNSにサンプル動画のURLをアップして、ファンのコミュニティで披露することも可能です。
スポーツファンは自分が応援するチームや選手のすばらしいプレイ、名シーンを何度も見て楽しみたくなるものです。『PLAYBACK9』はこうしたニーズをまず満たします。DeNAスポーツ事業本部戦略部の下島海さんは「“プロ野球チップス”に付いている選手のカードのデジタル動画版と思っていただくのが最も近いです」と言います。
『PLAYBACK9』で購入した動画は、スマホやPCでいつでも再生できる
動画にはブロックチェーンによってデジタル署名が発行されたNFTが紐付いています。一つひとつの動画にシリアルナンバーが記録され、複製や改ざんができません。販売数に上限ももうけられています。まさにプロ野球チップスのカードやスポーツトレーディングカードのように、ファンのコレクション欲をくすぐる仕掛けです。
現段階での販売価格は120円~1980円。4段階のレアリティに分かれ、「逆転の2ランホームランを放った動画」や「サヨナラタイムリーヒットで勝ち越した動画」などはレアリティが高いため、高値になっています。
「ユーザーが手持ちのシーンを売買できるマーケット機能も実装準備を進めています。まさしくトレーディングカードの楽しさを提供していく予定です」(下島さん)
参考にしたのは2018年にローンチされた米国プロバスケットボールのデジタルトレーディングカード『NBA Top Shot』だったそうです。『NBA Top Shot』は難易度の高いスラムダンクや神業的なスリーポイントシュートの動画をNFTと紐付けたデジタルトレーディングカードで、熱狂的なファンの多いNBAだけにすぐさま大人気となり、マーケットプレイスでの二次販売では4000万円ものプレミア価格で売買されるほどでした。
「もっとも、二次流通での投機的な盛り上がりをあおる気持ちはありません。ファンの方々に支持されるファングッズとしてしっかりと根付かせることが最重要のミッションだと捉えているからです」(下島さん)
DeNAスポーツ事業部の下島海さん。同社でスポーツ×デジタル領域のビジネスを牽引する。
ガチャ的要素をいれないワケ
DeNAが『PLAYBACK9』を投機目的ではなく、あくまでファングッズとして浸透させたい理由のひとつには「NFTへの投機的な期待が高まりすぎていること」への危惧があります。
「もちろん二次売買市場が期待されることもNFTの魅力のひとつですが、本質ではありません。マネーゲームの材料とだけ捉えられると、“これからはサッカーのNFTだ”“アイドルのNFTだ”と二次流通の価値だけを基準にユーザーが右往左往してしまうこともありえます。それはチームや選手、ひいてはスポーツファンの方々に対して、失礼だと考えています」(下島さん)
そもそもベンチマークしている『NBA Top Shot』も、NBAの熱狂的ファンが支持層として根付いているからこそ、NFTが高騰する構造になっています。つまり、熱狂的ファンに支持される仕組みやファングッズあってこその二次売買の盛り上がりであり、チームとファンのエンゲージメントを高めることがスポーツビジネスの肝と理解しているDeNAの思いが反映された形です。
また、『PLAYBACK9』は、どの選手のどんな動画かを事前にチェックした上で購入する仕様になっていて、シーンの購入に関して『NBA Top Shot』のように、どんな動画が入っているかわからない「ガチャ」的要素を含んでいません。だからこそ、より一層ファングッズとしての価値を高めて、ユーザーにリーチしていきたいとしています。
動画の長さは約30秒。アプリはスタイリッシュなデザインに
いずれさまざまなスポーツへ拡大へ
純粋なファングッズとして浸透させるために、『PLAYBACK9』にはいくつかの工夫が施されています。
例えば動画は単なるシーンの切り売りではなく、前後にドラマチックに演出された扉動画が入っています。ボールが奥から飛んでくるような演出をはさんでから、各選手の名シーンが勢いよく立ち上がるイメージです。試合の記憶をエモーショナルにひきあげるとともに、何度も見たくなるような効果が期待されています。
「僕自身、野球同様に総合格闘技が好きなのですが、総合の試合もKOシーンを何度も見たいと思うし、入場などの盛り上げる演出は巧みだと感じます。他の競技も参考にしつつ社内のデザイナーと膝を突き合わせて、リッチな演出になるように実装しました」(下島さん)
技術的には試合会場などで、限定のシーンを配布することも可能。例えば横浜スタジアムの来場者、あるいはファンミーティングの来場者だけがもらえるシーンを配布して、チームとファンのエンゲージメントを高める使い方も企画中だそうです。
一方、アプリやWebサイトなどのプラットフォームのデザインには、また別の思いも込められています。DeNAベイスターズのファングッズでありながら、チームカラーのブルーなどはあえて使わず、白や黒を基調にしたフラットなデザインを採用しました。
「今はベイスターズの試合のみを販売していますが、NPBの他球団にも参画していただきたいと考えているからです。さらにはサッカーやバスケットボールなど他のスポーツにも拡大させていきたい。いずれにしてもNFTを使ってスポーツとファンの方々を新しい形でつなぐ最高のファングッズとして育てていきたいです」(下島さん)
いよいよ来月からはプロ野球が開幕。オフシーズンが明けたタイミングでより積極的に『PLAYBACK9』のプロモーションも仕掛け、普及を目指していくそうです。
ペナントレース同様に、アツい盛り上がりが期待できそうです。