国を挙げてのキャッシュレス化推進の後押しもあり、日常生活で利用シーンの増えてきたクレジットカード。加盟店の数も増え、高額決済だけでなくコンビニやスーパーなどでの少額決済にも対応しやすくなったことから、活用の幅は広がるばかりです。
クレジットカードと言えばこれまで、券面に「カード番号・有効期限・セキュリティコード」などが記載されていましたが、2021年に入り、そうしたカード情報を券面からなくした「ナンバーレスカード」や、そもそもプラスチックカードを発行しない「カードレスカード」を三井住友カードが立て続けにリリースして、注目を集めています。
なぜ今、クレジットカードに変化が起きているのでしょうか。プロダクトの責任者を務めた三井住友カード 商品企画開発部グループ長の横田貴之さんにお聞きしました。
(取材・文:ライター・大正谷 成晴)
※情報はいずれも記事公開時点のもの。
目次
安心・安全を追求した1つの答えが「ナンバーレスカード」
三井住友カードが2021年2月にリリースしたナンバーレスカード「三井住友カード(NL)」は、これまでクレジットカードの券面に記載されていたカード番号・有効期限・セキュリティコードなどの情報をなくした、新しいタイプのクレジットカードです。カードの表面にはカード会社名と国際ブランドであるVISAやタッチ決済のロゴマークがあるだけで、裏面にもカード会社名と会員名、発行日が記載されているくらい。従来のクレジットカードに比べると非常にスッキリとした「両A面」仕様のデザインで、表面に個人情報がないので盗み見などによる不正利用の防止に役立ちます。
三井住友カード(NL)表
三井住友カード(NL)裏
なぜこのようなカードが誕生したのでしょうか。そこには「安心・安全なキャッシュレスの環境を提供する」という三井住友カードが掲げる理念が関係していました。
「当社ではこれまでもお客様の利用状況を24時間365日体制で監視したり、利用のたびにスマートフォンアプリで通知するなど、安心・安全に配慮した取り組みを行ってきました。そうした中、さらにお客様に安心・安全を感じていただけるセキュリティとはどうあるべきかをチームメンバーで検討し、たどり着いたのがナンバーレスカードです。そもそも、券面に記載された情報はとても重要なので、厳重に管理してくださいと日頃からお伝えしているのですが、店頭などでご利用いただく際は店員さんにカードを一旦お渡しする場合があります。これではパスワードや暗証番号を紙に書いて渡すのと同じことです。券面から重要情報をなくすことで安心・安全に対するお客様の信頼度が向上し、クレジットカードをよりご利用いただけるきっかけになると考えました」(横田さん、以下同)
中には「それではカード情報を忘れてしまって、ネットショッピングで利用するときに困るのではないか?」と不安を感じる方がいるかもしれませんが、心配は不要です。専用アプリ「Vpassアプリ」をスマートフォンにダウンロードし、あらかじめ会員情報を登録しておくと、必要なときにアプリをチェックして確認できます。デジタルデバイスを活用してカード情報を管理するのも、三井住友カード(NL)の特徴です。
「アプリ内のカード情報を確かめるには一般的に二段階認証などを求められますが、それではお客様に手間をかけてしまいます。そこで、セキュリティ対策と利便性を両立させるためスマートフォンの生体認証を活用し、2回目以降のログインはストレスなくカード情報が表示されるようにしました」
一方、今年10月に登場したのが、プラスチックカード自体を発行しないカードレスタイプの「三井住友カード(CL)」です。VISAブランドのクレジットカードとしては日本初の試みで、カード情報は先述のVpassアプリで管理。店頭で買い物をする場合はApple PayやVISAのタッチ決済などモバイル決済を利用します。
カードレスカード
「モバイルSuicaやQRコード決済が普及しているように、モバイルオンリーの決済サービスはすでに確立されています。我々も以前から構想していて、近年はモバイル決済に対応する加盟店側のインフラが整ってきたこともあり、カードレスでもお客様の利便性を確保できると判断しました」
安心・安全性、利便性、利得性の3点がヒットを後押し
ナンバーレスカードとカードレスカードの特徴として注目されるのは、セキュリティの高さに加えて、2つとも年会費が永年無料な点です。
「年会費の永年無料を実現できたのは、コスト削減との関係です。ナンバーレスカード、カードレスカードともに申し込み方法をオンラインのみに絞り、アプリの利用を促進した結果、電話による問い合わせ対応をはじめ、紙の書類の取り扱いや管理に関するコストを削減できると想定しました」
利得性にも注目で、大手コンビニ3社とマクドナルドでの利用で、タッチ決済なら最大5%のポイント還元を実施。一般的なクレジットカードの還元率0.5%に比べると、驚異的な高さです。
「カードをよくご利用いただくお客様の中には、ビジネスパーソンや親子連れの方も多くいらっしゃいます。そうした方々が日常的に買い物をするのは、コンビニやファストフード店が多いと考え、日常シーンでお得になる特典を付けることでカードの新規顧客獲得につながるのではないかと仮説を立てました」
ナンバーレス、カードレスのキャッチーな要素に加えて、タッチ決済や年会費の永年無料という利便性、セキュリティの高さに伴う安心・安全への信頼感、5%還元の利得性など、消費者がクレジットカードに求める機能・サービスをバランスよく取り揃えたことで、スマートフォンに慣れ親しんだ若年層だけでなく、ミドル世代以上からの申し込みも目立つといいます。
「入会された皆さまからもこうした総合力の高さをご評価いただいております。Vpassアプリでカード情報を管理することに対してもネガティブな意見はほぼありません。スマートフォンが広い世代に普及していて、デバイスの活用に対する抵抗を感じない人が多数派になってきたのだと実感しています」
なお、Vpassアプリにはカード情報だけではなく、利用明細、ポイント残高、カードを使うたびに届く利用通知サービス、月ごとの収支や収入・支出の内訳をチェックできる家計管理機能が搭載されています。
「クレジットカードに対する不安でよくあるのが、『使いすぎが怖い』という声です。そこで利用明細を請求ベースではなく、使ったタイミングで家計簿のようにわかるようにすれば家計管理に役立つだけでなく、不安の解消にもつながると考えました。他にも、ボタン1つでカードの利用を止められる利用制限機能もアドオンするなど、安心・安全に配慮した設計になっています」
テレビコマーシャルやWebのプロモーションで安心・安全の面やポイント還元率の高さなど総合力に優れている点を訴求したところ、ナンバーレスカードとカードレスカードを合わせた累計発行枚数は70万枚を突破、カードの新機軸として消費者に受け入れられることに成功しました。「これは、我々が単体で発行するクレジットカードの中では、過去最高レベルの実績です」と横田さんも驚きを隠しません。
「まだ2つのカードをご存じない方も多いので、どのような㏚をすれば身近に感じていただけるか、試行錯誤しながらプロモーションをしているところです。また、クレジットカードを利用する機会の多い方に向け、年間100万円以上のご利用で10,000ポイントが還元される特典などが付いたゴールドカードを7月にリリースしました。しかもゴールドカードなのに一度でも年間100万円以上をご利用いただくと、翌年以降の年会費(5,500円)が永年無料になるので、一層多くの方に興味を持っていただけるのではないかと考えています」
ゴールドカード(NL)表
より見やすく、使いやすくなるよう、VpassアプリのUIUX改善にも日々取り組んでいます。
「我々が目指すのは、あらゆる買い物シーンでクレジットカードをご利用いただける世界です。これからはスマートウォッチなどウェアラブルデバイスにも決済機能の搭載は進んでいくでしょう。そうした進化の流れをフォローしながら、今後も安心・安全で快適なキャッシュレス環境を提供していきたいと考えています」
カード情報を見えなくするだけでなく、ユーザーが日常生活でもお得を実感できるように開発された2種類のカード。三井住友カードが掲げる理念の実践と顧客視点に基づくプロダクト開発が、ヒットの理由と言えそうです。
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