創業期のスタートアップを対象とした講座「シード・ゼミ」(主催・ビタミン株式会社)のレポート第5回は、株式会社才流 代表取締役社長・栗原康太さんによる「PMF(プロダクトマーケットフィット)のパターンと必要なアクション」をお届けします。
押さえておきたいPMFの基礎知識をはじめ、PMFを達成する際のパターンや取るべき行動など、創業期のスタートアップ企業の経営者、スタッフともに必読の内容です。
(構成:Marketing Native編集長 佐藤綾美、画像提供:株式会社才流)
目次
PMFしていないシグナルとPMFシグナル
栗原 才流では、PMFを「商品と市場が適合している状態」と表現しています。もともとはアメリカのベンチャーキャピタル・Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)の創業者であるMarc Andreessen(マーク・アンドリーセン)氏が2007年に自身のブログでPMFの重要性を述べたところ(※)、世界中のスタートアップに考え方が広がったとされています。日本では、上場企業経営者やスタートアップへ投資を行う投資家の方々が「まずはPMFを見つけることが重要だ」と会話するようになったのを1つのきっかけに、「PMF」という言葉自体が広く知られるようになってきました。
※The Pmarca Guide to Startups, part 4: The only thing that matters(Wayback Machine上のアーカイブ)
マーク・アンドリーセン氏の発言内容に、「市場を満足させることができる商品で、正しい市場にいること」という言葉があります。例えば100億円規模の企業が存在できるような大きな市場で、お客さまのニーズや悩みを解決可能なプロダクトがあると、スタートアップは成功できますが、小さすぎる市場で優れたプロダクトを供給したり、大きな市場でお客さまのニーズにマッチしないプロダクトを提供したりしても成功できません。
また、下のイラストはモバイル決済企業のSquareに買収されたWeeblyの創業者デイヴィッド・ルセンコ氏が表現していたPMF前後のイメージを図にしたものです。PMF前は大きな岩を押しながら山を登っているかのように大変ですが、PMF後はその山から大きな岩が転がるようになり、それを必死になって追いかけるような状況になります。PMF前は顧客のニーズを満たせていないことが多く、どれほど努力してもプロダクトが売れませんが、PMF後は次第に問い合わせが来るようになり、対応する人手が足りなくなると言われています。
スタートアップでは「知り合いには売れるが、それ以上に広がっていかない」「200件の商談を獲得したが、受注率は1%以下だった」などのケースが散見されます。そうした状況に陥ると、新規事業責任者やスタートアップ企業の経営者の多くは、「もっと営業やマーケティングを強化すれば売れるのではないか」と考えるでしょう。例えば営業が弱いと考えて営業研修やロールプレイングを実施したり、SFAを導入したり、「知り合いには売れているから、プロダクトは良いはずだ」と考えてWebサイトのリニューアルやSNS運用、広告出稿をしたり、「ハウスリストはあるからMAを導入してナーチャリングしよう」となったりしがちです。
しかし、私の経験上、売れていないプロダクトを営業やマーケティングの強化で伸ばそうとしても売れることはありません。スタートアップの中でもシリーズC~D、もしくは上場しているケースであれば、営業や広告宣伝のような施策も効果が出ますが、シードラウンドやシリーズAの段階ではうまくいかないでしょう。
以下に挙げる「PMFしていないシグナル」が出ているときは、見直しが必要なフェーズと言えます。例えば、営業なら「商談から受注までの期間が長く、見込み客の検討の熱量が低い」、マーケティングなら「リード数が増えても受注につながらない」などが挙げられます。BtoB企業で象徴的なのはお客さまが満足していないときに見受けられる「事例インタビューが増えない」「既存顧客から紹介が発生していない」などのシグナルです。
では反対に、PMFしているとどのようなことが起こるのでしょうか。代表的な例を3つご紹介します。
プロダクトのローンチ初期にPMFを達成したサイボウズ株式会社では、有料ライセンスの申込書のFAXが止まらず、1期目から計画の3倍弱もの売上を達成したとインタビューで語られていました。また、株式会社SmartHRは、コンセプト検証の段階でFacebook広告を予算2万円で出稿し、登録者が1カ月で約200名集まったそうです。他にも、スタートアップの例ではありませんが、「片づけコンサルタント」のこんまり(近藤麻理恵)さんは「片づけコンサルタント」として独立後すぐに半年先まで予約が埋まる状態になったと言います。
以上の例はベスト・オブ・ベストのケースですが、明らかにPMFのシグナルが出ている状態です。例えば下の図にあるようなPMFシグナルが出ているほど、PMFに近い状態であると判断できます。
PMFのパターン【Product側を変える】
ここからは、2022年10月に刊行した書籍『新規事業を成功させる PMFの教科書』には未掲載で、改訂版を出せるとしたら載せたいと思っている内容です。書籍の執筆にあたって14社ほど取材したり、才流で新規事業を支援したりする中で、PMFを達成するために見直すと良いポイントが見えてきたので、「PMFパターン」としてまとめました。
PMFは「Product Market Fit」の略なので、変数としては「Product」と「Market」に分けられます。そのため、PMFに至るパターンは「Product側を変える」と「Market側を変える」の大きく2つに分類でき、そこからさらにいくつかのパターンに分かれます。それぞれ例とともに解説します。
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