コロナ禍をきっかけに急伸したライブ配信市場。中でもDeNAのライブコミュニケーションアプリ「Pococha」(ポコチャ)は2017年1月のサービス開始から7年目となる現在も成長を続けており、国内だけでも2023年6月末時点で累計512万以上ダウンロードされています。サービスは米国、インドでも展開されていて、DeNAではゲーム事業に次ぐ第二の柱となりました。
YouTubeやInstagram、TikTokなどのSNSがライブ配信サービスとして活用されるなど市場が群雄割拠する中、Pocochaが急成長した背景には独自の戦略と、それを支える優秀な組織の存在がありました。
今回は株式会社ディー・エヌ・エー ライブストリーミング事業本部 Pocochaプロデューサー 水田大輔さんに話を聞きました。
(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:永山 昌克)
目次
急成長の原動力となった「先を読む力」
――Pocochaのサービス開始は2017年1月。後発ながら現在ではiPhone・Androidの国内主要ライブ配信サービス6社の中で月間利用者数No.1に急成長したとのこと(※1)。何が良かったのでしょうか。
※1 iPhone・Android国内主要ライブ配信サービス6社 2023年2月1日~2023年9月30日期間の月間集計(Sensor Tower調べ)
ライブ配信アプリでのアマチュアの時代到来を予測して、当初から準備を進めてきたことが良かったと思います。
インターネットサービスの歴史を振り返るとわかりますが、大体初めはプロフェッショナルなコンテンツから始まり、次第にアマチュアが作る普通のコンテンツへと裾野が広がっています。
例えば、動画といえばテレビが中心だったのが、今ではYouTubeのほうがたくさんのコンテンツを視聴できます。ほかにも、最初は主に人気モデルらがコーディネートやメイクの様子を投稿していたInstagramに、次第に読者モデルが増え、今では一般人に近いマイクロなインフルエンサーの投稿もよく見られるようになりました。以前のヤフオクにはせどり目当てや中古販売業者も目立ちましたが、今では普通の人がメルカリでタンスの奥にしまっている物を出品するようになっています。ブログも最初はタレントから始まり、多くの読者を持つアルファブロガーと呼ばれる人たちが裾野を広げ、次に普通の人たちによるmixiの日記へと広がっていきました。そんなふうに最初に火をつけるのはタレントやモデルなどプロの人たちですが、次第にその領域に興味のあるアマチュアが参加して自由に発信するようになり、それがクチコミというコンテンツとなって拡大していくというトレンドが以前からありました。
ライブ配信アプリ業界でも、先行するサービスの中には芸能事務所などと連携してテレビタレント、アイドル、クリエイターの人たちを起用し主役に押し立てているところがあり、配信のはしりを作っていたと思います。
一方、Pocochaは、インターネットの歴史から今後の動きを先読みし、ライブ配信アプリ業界でもプロではなくアマチュアが中心となって活躍する時代が来ると考え、アマチュアの人たちにあえてフォーカスするようにしました。実際にアマチュアの時代が来たときに、アマチュアに一番エンゲージできているのがPocochaだというポジションを築いておこうと考えたわけです。これまでのところ予想通り、アマチュアの人たちがどんどんPocochaに参加していて、我々の戦略がうまくいっていると感じます。
――なるほど。ただ、インフルエンサーなら拡散力があると思うのですが、アマチュアにフォーカスして、よく拡散していくと考えられましたね。
アマチュアの人がたくさん集まれば、大きな力になると考えていました。例えば、YouTubeは一日に何千、何万もの動画がアップロードされるので、テレビ局が一日に放送する番組数と比べると、数の上では圧倒的に上回っています。Pocochaも毎日数万人のライバーが配信しているので、個々のライバーのインフルエンス力が仮に1人、2人、あるいは5~10人くらいしかなくても、数万人の人たちが束になれば総量としては大きな影響力を作ります。それこそがプラットフォームの伸ばし方として我々が目指してきたところです。
Pococha
https://www.pococha.com/ja-jp
毎日数万人が配信するサービスへと成長した理由
――草の根的に広がっていったわけですね。ただ、最初にPocochaの存在を知ってもらうための施策はどうでしたか。YouTube広告はよく見ます。
マーケティングで獲得しているのは実はリスナー向けがメインで、YouTube広告は、「YouTubeとは違う、“ライブ配信アプリ”という世界がありますよ」と紹介してリスナーに視聴いただくことを目的にしています。一方、ライバー向けのマーケティングはほとんど実施したことがありません。ほぼクチコミだけで、おのずと参加してくださっています。
――ライバー向けのマーケティングはあまりしていないにもかかわらず、毎日数万人のライバーが配信するところまで成長したとはすごいですね。
でも、インターネットサービスは本来、そういうものだと思います。例えば、InstagramのテレビCMってあまり見たことないですよね?YouTubeやTwitterのテレビCMも。ブランディング広告のようなものはありましたが、テレビCMを中心的手法としてユーザー獲得を行ったわけではないと思います。
テレビCMを見てTwitterを始めた人はちょっと情報感度が低くて、実際は普通の人たちがTwitterが流行りだした頃に学校や職場で「Twitterって知ってる?」「え、何それ!?」という感じでクチコミで拡散していったはずです。
――なるほど。とはいえ、ライバーが興味を持ってくれたとしても、「アプリのダウンロード」→「実際の配信」までは、それぞれハードルがある気がします。競合のライブ配信アプリの中にはそのハードルでつまずく人もいると聞きますが、スムーズな参加を促すためにどんな工夫をしていますか。
この記事は会員限定です。無料の会員に登録すると、続きをお読みいただけます。 ・可処分時間の争奪戦におけるPocochaの優位性 |