マーケティング部門のマネジメントの役割は、プロダクトやサービスをグロースさせる中でチームをうまくまとめて成果を上げ、事業を前に進めることです。
それはわかってはいるものの、実際はなかなか成果を出せず、チームの雰囲気がギスギスしてしまうことがあります。そんな状態から抜け出すにはどうすればいいのでしょうか。
今回はマーケティング部門などのマネジメント経験が豊富で、マネジメントに関する講演の機会も多い、株式会社ディー・エヌ・エー(以下DeNA)のエグゼクティブビジネスプロデューサー・今西陽介さんに話を聞きました。
(取材・文:Marketing Native編集部・早川 巧、写真:矢島 宏樹)
目次
停滞している事業を前に進める「潤滑油」のバリュー
――今西さんがどんな人なのか、簡単にキャリアを教えてください。
マーケティングの専門家というよりBizDevの何でも屋になります。新規事業を推進するためにマーケティングもしますし、さまざまなスキルが必要なのでチーム組成もします。目標を達成し持続的に事業を拡大させるのが主な役割です。
経歴で言うと、新卒で入社したお菓子メーカーを2年で辞めてDeNAに転職してから今年で20年になります。大きな転機が2つありまして、1つは入社3年目に経験したギャル服の通販事業立ち上げ。服に関して素人の自分がギャル服を売るため、若者が集うクラブやSHIBUYA109に通ったりナンパのようなこともしたりしながら知り合いをつくり、仲良くなって彼女たちを理解し、どんな服を買うのか必死に勉強しました。
そのときに感じたのは、「戦略」だけ語って実行が伴わずに失敗するケースが多いので、現実感(手触り)のある戦略戦術の想定が大事だということです。事業を進めていくと、物事はどこかで停滞期を迎えます。そのときは戦略を考えるだけではダメで、せっかくの戦略が画餅にならないように実行力を持って前に進めることが大切です。もちろん1人で全部行う必要はありませんが、どんな役割でも担う気概を持つことが規模の小さなプロジェクトでは必須になります。そんな物事の進め方をギャル服プロジェクトで学びました。
もう1つの転機は、絶対に失敗できないグローバルでのゲーム事業のマーケティング責任者をしていた4~5年間の経験です。日本と海外を含めて、アライアンス企業やステークホルダーを考えると数百人以上の規模のプロジェクトになるので、ボードメンバーと現場の中間地点に立って事業を回し前に進めることの難しさにもがいたことが、現在の仕事やマネジメントにつながっています。
特に私はゲームを自分自身が作れるわけでもありません。そのため、チームから信頼を得る1つの方法として、ユーザー視点に立って誰よりもアプリゲームをプレイすることによって、コアユーザーとしての意見をすぐにチームにフィードバックすることを心がけておりました。この「誰よりもサービスを使い込む姿勢」は、開発チームから見ても「わかってる人だな」という印象を持っていただきやすく、その瞬間から信頼が生まれ、仕事がしやすくなります。私の場合、開発チーム全員の中で、私が一番レベルが高くなるようにゲームをやり込んでいます。開発者以上にゲームに詳しかったり、のめりこんでいたりする姿勢が周囲を惹きつけるものです。これは知識だけでなく、やる気の問題で、明日からできる話ですから、全てやり切った状態を作るのが重要と思います。
――すごいですね。今はどんな仕事をしているのですか。
もうすぐ詳細発表できるのですが、DeNAのスマートシティ事業、街づくりに関する仕事です。スケールが大きい上、ずっとデジタルやアプリ畑で生きてきた自分には街づくりに関する経験も知見もないのですが、マーケティングで培った顧客視点を持ちながら新規事業を行っております。
――DeNA内でもすごいプロジェクトに位置づけられていそうです。そんな仕事に就いている今西さん自身、人より優れていると社内で認知されているのだと思うのですが、ご自身ではどういうところが優れている、もしくは人より頑張っていると考えていますか。
私はあまり自分が優れているとは思っておらず、DeNAのスタッフは総じて私より優秀です。マネージャーの役割は自分より優秀な人と一緒に気持ちよく仕事ができるチーム組成ができるかどうかが第一歩です。マネージャーがチーム内で一番優秀であるべきという考えは、まず捨てたほうがいいと思います。
その中で、私の役割は潤滑油だと考えています。社内でも、あるいは複数の会社との協働プロジェクトにおいても、組織にはそれぞれの正義があり、皆がそれぞれ正しいことをしようとして、正しさ同士がぶつかり、前に進まないという事態がよく起こります。それは私の経験上、多くの場合「コミュニケーションエラー」と「視点の違い」です。
例えば、キーパーソンのAさんと古くから部署にいるベテランのBさんの意見が食い違っているとします。AさんもBさんも優秀で、C部長はどうしていいかわからない。でもプロジェクトを進捗させなければならない――そんなときにA・B・Cの全員を集めて、うまく前に進めるようなことを心がけます。
――どんなふうにするのですか。
意見の食い違いは現場の具体策で起こっていることも多く、その場合は具体と抽象の行き来で一度抽象度を上げて議論をするのが大事です。議論の際に意識しているのは「パッションとロジックの5対5」。入社以来20年、どのプロジェクトでもこのスタイルでやっています。副業でメガバンクやベンチャーの支援もしていますが、そこでも同様で、いろんな人がいろんなことを言うのをパッションとロジックの5対5で交渉、説得し、プロジェクトを前に進める仕事をしています。5対5とはいえ、最初はロジカルで入るのが大切です。ロジカル9の場合、事業として正しくてもワクワクしないし、パッション9の気合いだけでは事業はグロースしないので、バランスを意識します。
図解提供:今西陽介
強いチームの特徴は「勤勉」「謙虚」「実行」、そして「陽」
――次に、成果を出し続けられる強いチームの作り方について教えてください。まず前提としてチーム作りで大切なことを挙げるなら何でしょうか。
メンバー全員に求められるのは「勤勉」であり「謙虚」であることです。特にチームリーダーはメンバーの誰よりも勉強が必要だと思います。例えば、マーケティング部長が「TikTokに広告を出すと若い世代の集客に効果が良い」と指示しておきながら、自分はTikTokアプリのダウンロードもしていないというのでは、メンバーは付いてこないでしょう。誰よりもサービスを利用するというマインドは必須です。
もう1つ加えると、やはり「実行」が大事です。有名マーケターの方々も戦略を作って指示して終わりではなく、泥臭い実行を繰り返して成果を上げてきた人が大半だと思います。だから新しい部署でリーダーになったときは、小さなことでいいのでまず実行し実績を上げるのが非常に大事です。それで初めて部署間で信頼関係が生まれます。そのためには「勤勉」と「謙虚」、加えて人や環境、仕事に対して「リスペクト」することが大切です。
――リーダーの資質としてはいかがですか。
この記事は会員限定です。無料の会員に登録すると、続きをお読みいただけます。 ・嫌われる上長の特徴 |