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インタビュー

「WHO、WHAT、HOW」を決める前にマーケターがすべきこと――コレクシア 芹澤連インタビュー

最終更新日:2024.05.29

キーパーソン深掘り!#04

コレクシア コンサルティング事業部 執行役員

芹澤 連

『“未”顧客理解』に続き、『戦略ごっこ』(いずれも日経BP)と2冊の著書が話題になっている株式会社コレクシア 執行役員でマーケティングサイエンティストの芹澤連さん。

マーケティングの重要フレームワークである「WHO、WHAT、HOW」について、「WHOで顧客を絞る前にマーケターが考えることがある」と問題提起しているのをはじめ、従来「当たり前」とされてきた考え方に異論を投げかけ、注目されています。

具体的にはどんなことなのか。みる兄さんの「キーパーソン深掘り」第4回は、2冊の著書が話題の芹澤連さんに話を聞きました。

(構成:Marketing Native編集部・早川 巧、撮影:永山 昌克)

目次

小さなブランドの浸透率を上げるには

みる兄さん 最初は「書籍が話題になったポイント」を伺います。バイロン・シャープの『ブランディングの科学』(朝日新聞出版)が以前、1つの事例として話題になりましたが、事業会社や広告代理店のマーケティング従事者にとっては、日本の話として実際に適用できるのかどうか、今ひとつ測りかねているところがありました。芹澤さんの著書『“未”顧客理解』と『戦略ごっこ』は『ブランディングの科学』で取り上げられた事例を少し解きほぐしながら、日本の著者として日本人に馴染みやすいように説明しているところが読者には面白かったのかなと思っていますが、どうでしょうか。

芹澤 『戦略ごっこ』に関しては、これまで当たり前とされていた「ロイヤルティ」「差別化」「STP」「新規獲得と離反防止の優先順位」などを実証研究と照らし合わせて検証し、「必ずしも当たり前ではないのでは?」と一石を投じた点が一定の評価につながったのではないかと思います。そうした理論やフレームワークは、いずれもビジネスゴールを達成するための”道具”なわけですが、その“使い方”をちゃんと理解して使っているマーケターは意外に少ないのかもしれません。

『ブランディングの科学』の日本市場における再現性については、現在、消費財・耐久財・サービス財それぞれのカテゴリーの実購買データを使って実証研究を進めているところです。こちらも、そう遠くないうちに紹介できると思います。

みる兄さん 『ブランディングの科学』を読んだとき、多くの人が「では何をすればいいの?」「強いブランドが結局勝って、弱いブランドは打つ手がないの?」と諦め半分、反発半分の複雑な気分だったところに、芹澤さんの著書で「カテゴリーエントリーポイント」(CEP)という言葉とともに、浸透率(顧客数)をどう上げるかが重要だと示されていたため、そこで文脈がつながり、読者の疑問が少し解消されたのかなと思います。

芹澤 ありがとうございます。CEPをはじめとして、拙著で紹介しているエビデンスの多くは、南オーストラリア大学アレンバーグ・バス研究所に由来します。簡単におさらいすると、売り上げを顧客数、購入頻度、単価と分解したときに、大きなブランドと小さなブランドで何が決定的に違うかというと顧客数、つまり浸透率です。大きなブランドでは購入頻度や平均単価もやや高くなりますが、そこまで劇的には変わりません。つまり、ブランド成長のメインドライバーは浸透率だということです。いわゆる「ダブルジョパディの法則」(Sharp, 2010)ですね。

<ダブルジョパディの法則>

売り上げ=顧客数×購入頻度×平均単価

  • 大きなブランドの売り上げ=顧客数(非常に多い)×購入頻度(やや高い)×平均単価(やや高い)
  • 小さなブランドの売り上げ=顧客数(非常に少ない)×購入頻度(やや低い)×平均単価(やや低い)

大きなブランドと小さなブランドの主な差は顧客数であり、ロイヤルティの高さに大差はない。顧客数が増えればロイヤルティはやや高まるが、ロイヤルティだけを高めることはできない。そのため小さなブランドは売り上げにつながる顧客数と購入頻度(ロイヤルティ)の両方が低くなり、二重に不利という意味。

では、どうしたら浸透率を増やせるのか。すごく質の良い商品でも、認知率の高い成熟ブランドでも、需要が発生したときにブランドを思いついてもらわなければ買われません。あるいは手近になければ買えません。であれば、その「需要が発生するシーンやタイミング」こそマーケティングの介入点なのではないか、と気づきます。つまり、そうしたシーンやタイミング、アレンバーグ・バスの用語で言えばCEPに合わせて4P(商品、広告、流通、価格)をデザインし、各シーンやタイミングでの思いつきやすさ=メンタルアベイラビリティと、見つけやすさや買いやすさ=フィジカルアベイラビリティを継続的に高めていくわけです。

本のタイトルは『戦略ごっこ‐マーケティング以前の問題』ですが、実は「マーケティング以前の問題」が主で、「戦略ごっこ」はキャッチコピーのような認識でいます。私が本当に言いたいのは「ビジネスにはいろいろな理論やフレームワークがありますが、ちゃんと自分で確かめましたか?思考停止して会議や企画書、意思決定の場面で使っていませんか?」ということです。

芹澤連さん

「WHO、WHAT、HOW」の前に考えるべき問題

みる兄さん 『戦略ごっこ』というタイトルが話題を呼びましたが、真意は従来のマーケティングの考え方に一石を投じることだった、と。

芹澤 はい。例えば、マーケティングというと「WHO、WHAT、HOW」、つまり「誰に、何を、どのように」を考えるわけですが、カテゴリーエントリーポイントはそれ以前の問題として、「WHEN、WHERE、WHY」、つまり「いつ、どこで利用するのか、それはなぜなのか」という利用文脈を消費者視点で理解する考え方とも言えます。5W1Hのうち「WHEN、WHERE、WHY」こそ先に捉えるべきファクトで、それが「WHO、WHAT、HOW」へつながっていくのだ、というのが『戦略ごっこ』の主張です。

みる兄さん 慣例的なマーケティングのフレームワークでは、まず「誰」、すなわち「WHOを決めよう」が大体初めに来ます。デモグラフィック的に「誰」をいろいろ見た上で、人に対する「WHAT」のオケージョンを考えて戦略整理する方法と、先に「WHO」を決めてしまうと、その後のオケージョンが絞られて想像できる仮説が減るから、「WHO」を決める前にカテゴリーの調査設計から入るべきだとする考え方があると思いますが、芹澤さんはどのように捉えますか。

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・パーセプションチェンジに対する疑問と実態
・スポーツマーケティングにおける既存顧客と未顧客への対応
・サンプリングの効果は?
・みる兄さんの取材後記「刺激的だった『戦略ごっこ』の考え方」

記事執筆者

早川巧

株式会社CINC社員編集者。新聞記者→雑誌編集者→Marketing Editor & Writer。物を書いて30年。
X:@hayakawaMN
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