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インタビュー

文房具エバンジェリスト2人が徹底討論!「MONO消しゴム」が令和の時代にも売れ続ける理由とは?

最終更新日:2023.04.07

誰もが見覚えのある青・白・黒の3色ストライプ。今年で発売50周年を迎える「MONO消しゴム」は、消しゴムを使わなくなって久しい人たちでさえ、馴染み深いデザインとして脳裏に焼き付いています。

「MONO」と聞くと消しゴムのイメージが先行しますが、誕生時は鉛筆のブランド名であり、消しゴムは無料で付いてくるおまけに過ぎませんでした。なぜ、単なるおまけが主役に躍り出て、これまで50年間も国内トップブランドとして君臨し続けることになったのでしょうか。

今回はこれまでと趣向を変え、文房具に造詣の深い識者のユーザー視点と、商品を開発するメーカー目線という2つの異なる立場から、「MONO消しゴム」がロングセラーになった理由を探ります。

(取材・文・撮影:Marketing Native編集部・岩崎 多)

目次

「MONO消しゴム」が売れ続ける3つの要因

テレビや雑誌、Webなど各メディアで文房具の魅力を伝えている、プロの目利きの方たちは「MONO消しゴム」が市場に長く受け入れられている理由を、どのように考えているのでしょうか。

テレビ東京系「TVチャンピオン」の全国文房具通選手権で3連覇を果たし「文具王」の異名を持つ高畑正幸さんと、文房具に詳しいライターの納富廉邦さんに話を伺いました。

▲写真左:高畑正幸さん、写真右:納富廉邦さん

――今日はお二人に、なぜ「MONO消しゴム」が50年以上も愛されるロングセラー商品になったのか、文房具に関する専門家 兼 ヘビーユーザーとしての立場からお伺いできればと思います。

高畑さん(以下、高畑) 早速ですが「MONO消しゴム」がロングセラーになった理由は、以下の3つの要因が、偶然か何かで重なり合ったからだと思います。

①ブランド:ジャンルの黎明期に圧倒的知名度を得た
②性能:最初から高かった
③デザイン:普遍性があった

最初から順に説明すると、「MONO消しゴム」が誕生したのは塩化ビニールというプラスチック消しゴムが普及し始めた頃なんですね。プラスチック消しゴムはそれまで主流だった天然ゴム製の消しゴムよりも、非常に消えやすいという特性がありました。

納富さん(以下、納富) 「MONO消しゴム」の誕生は1969年ですけど、これは単体で発売された年で、最初は「MONO100」という高級鉛筆1ダースにおまけとして付いていました。それが1967年で、「おまけの消しゴムがよく消える」と評判になって消しゴム単体での販売が始まったというのが経緯です。当時は「消しゴムがほしい」というお客さんの声にお店が答えて、おまけだけどバラ売りしちゃったということもあったそうです。

高畑 プラスチック消しゴム自体は1950年代の終わりごろから文具メーカー各社で発売され始めていますが、一般の家庭に普及したのは「MONO消しゴム」が出始めた頃です。そして1970年に、商品テストに定評のある雑誌『暮しの手帖』が消しゴムの性能比較記事を載せたんですね。ここで、海外製の値段が高い消しゴムよりも、日本の消しゴムのほうがよく消えることを実証した記事が出るわけです。ただ、この記事でもっとも絶賛された消しゴムは「MONO消しゴム」ではなかったんですけどね。

――それなのに、なぜ「MONO消しゴム」がトップシェアを占めることになったんでしょうか?

高畑 やはり、最初に「よく消える消しゴム」としてブランドが認知されたからでしょうね。高級鉛筆のおまけとしてついてくる、当時はまだ珍しい特別な消しゴムであったことも、大きかったんじゃないかと思います。

納富 私はこの頃まだ小学生でしたが、プラスチック消しゴムはまだ高級消しゴムだったので使っていた人はあまりいませんでした。だから本当に『暮しの手帖』が特集した後に普及し始めたという実感があります。

▲「MONO100」よりも前の鉛筆と消しゴムのセット。この頃のおまけの消しゴムは天然ゴム。一番手前は「MONO」よりも昔にあったトンボ鉛筆のブランド「HOMO」の鉛筆&消しゴムセット。高畑さんの所有品。

高畑 カップヌードルやコカ・コーラ、ポカリスエットみたいに、新しいジャンルが誕生したとき、最初に広く認知された商品が結局残るんですよね。最初に挙げた3つのうちの「性能」に話が移るんですが、誕生当初から完成度が高く、性能的な変化が起こりにくいジャンルにその傾向があります。

そもそも塩化ビニールのプラスチック消しゴム自体の完成度が高いので、現在の消しゴムが数十年前の消しゴムよりも2倍消えやすいということはないんですね。本質的にこれ以上消えるものを作るのが難しいということです。これがスマートフォンやデジカメなどのジャンルだったら10年前、20年前の性能と現在とではまったく比べ物にならないのですが、消しゴムやカップヌードルなどはそこまでの差がなく、現在に至っても本質的な価値が変わっていません。

納富 カップヌードルも最初からおいしかったですもんね。かつて消しゴムのジャンルが天然ゴムからプラスチックに置き換わったときのような入れ替わりが起きないので、安定した地位にいられるわけですね。

高畑 そして「MONO消しゴム」がロングセラーとなった理由の最後として、「デザイン」がわかりやすくてキャッチーなことが挙げられると思います。「MONO消しゴム」が良いのは3色の横縞のカラーリングによって、商品が小さくても「MONO」だと認識しやすいというデザインだった点と、このイメージを現在まで大きく変えてない点です。

大きく変えなかったからこそ、色彩商標を取得できるくらい圧倒的な知名度を得たわけです。もちろんこの色彩商標は他社に真似されないようにするために取ったわけですが、例えばマンガなどで消しゴムを表現するときに、3色のストライプが入ったスリーブがないと消しゴムとはわかりにくい。それほど「MONO」のデザインが一般的な消しゴムのイメージとして浸透しているのです。

納富 「MONO消しゴム」のすごいところは、よく消えるという意味ではほかのメーカーの消しゴムも同じくらいよく消えるものなのに、それでも今も首位に君臨し続けているところですね。これはやはり、登場したときからもともとの完成度が高く、消費者の信頼を最初に獲得できたというブランドの強さですよね。

▲新旧入り混じった「MONO消しゴム」たち。現在の青・白・黒に当てはまらないカラーリングのものも見受けられる。高畑さんの所有品。

マトリックスのど真ん中を変更しない

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記事執筆者

岩崎多

いわさき・まさる
出版社2社でビジネス誌やモノ・グッズ誌の編集、週刊誌の編集記者を経験し、2019年1月CINCにジョイン。編集長として文房具ムックシリーズを立ち上げ、累計30万部以上を記録。
X:@iwasaki_mn
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