[最終更新日]

2019/11/13

 

文房具エバンジェリスト2人が徹底討論!「MONO消しゴム」が令和の時代にも売れ続ける理由とは?

 

誰もが見覚えのある青・白・黒の3色ストライプ。今年で発売50周年を迎える「MONO消しゴム」は、消しゴムを使わなくなって久しい人たちでさえ、馴染み深いデザインとして脳裏に焼き付いています。

「MONO」と聞くと消しゴムのイメージが先行しますが、誕生時は鉛筆のブランド名であり、消しゴムは無料で付いてくるおまけに過ぎませんでした。なぜ、単なるおまけが主役に躍り出て、これまで50年間も国内トップブランドとして君臨し続けることになったのでしょうか。

今回はこれまでと趣向を変え、文房具に造詣の深い識者のユーザー視点と、商品を開発するメーカー目線という2つの異なる立場から、「MONO消しゴム」がロングセラーになった理由を探ります。

(取材・文・撮影:Marketing Native編集部・岩崎 多)

    

目次

「MONO消しゴム」が売れ続ける3つの要因

テレビや雑誌、Webなど各メディアで文房具の魅力を伝えている、プロの目利きの方たちは「MONO消しゴム」が市場に長く受け入れられている理由を、どのように考えているのでしょうか。

テレビ東京系「TVチャンピオン」の全国文房具通選手権で3連覇を果たし「文具王」の異名を持つ高畑正幸さんと、文房具に詳しいライターの納富廉邦さんに話を伺いました。

▲写真左:高畑正幸さん、写真右:納富廉邦さん

――今日はお二人に、なぜ「MONO消しゴム」が50年以上も愛されるロングセラー商品になったのか、文房具に関する専門家 兼 ヘビーユーザーとしての立場からお伺いできればと思います。

高畑さん(以下、高畑) 早速ですが「MONO消しゴム」がロングセラーになった理由は、以下の3つの要因が、偶然か何かで重なり合ったからだと思います。

①ブランド:ジャンルの黎明期に圧倒的知名度を得た
②性能:最初から高かった
③デザイン:普遍性があった

最初から順に説明すると、「MONO消しゴム」が誕生したのは塩化ビニールというプラスチック消しゴムが普及し始めた頃なんですね。プラスチック消しゴムはそれまで主流だった天然ゴム製の消しゴムよりも、非常に消えやすいという特性がありました。

納富さん(以下、納富) 「MONO消しゴム」の誕生は1969年ですけど、これは単体で発売された年で、最初は「MONO100」という高級鉛筆1ダースにおまけとして付いていました。それが1967年で、「おまけの消しゴムがよく消える」と評判になって消しゴム単体での販売が始まったというのが経緯です。当時は「消しゴムがほしい」というお客さんの声にお店が答えて、おまけだけどバラ売りしちゃったということもあったそうです。

高畑 プラスチック消しゴム自体は1950年代の終わりごろから文具メーカー各社で発売され始めていますが、一般の家庭に普及したのは「MONO消しゴム」が出始めた頃です。そして1970年に、商品テストに定評のある雑誌『暮しの手帖』が消しゴムの性能比較記事を載せたんですね。ここで、海外製の値段が高い消しゴムよりも、日本の消しゴムのほうがよく消えることを実証した記事が出るわけです。ただ、この記事でもっとも絶賛された消しゴムは「MONO消しゴム」ではなかったんですけどね。

――それなのに、なぜ「MONO消しゴム」がトップシェアを占めることになったんでしょうか?

高畑 やはり、最初に「よく消える消しゴム」としてブランドが認知されたからでしょうね。高級鉛筆のおまけとしてついてくる、当時はまだ珍しい特別な消しゴムであったことも、大きかったんじゃないかと思います。

納富 私はこの頃まだ小学生でしたが、プラスチック消しゴムはまだ高級消しゴムだったので使っていた人はあまりいませんでした。だから本当に『暮しの手帖』が特集した後に普及し始めたという実感があります。

▲「MONO100」よりも前の鉛筆と消しゴムのセット。この頃のおまけの消しゴムは天然ゴム。一番手前は「MONO」よりも昔にあったトンボ鉛筆のブランド「HOMO」の鉛筆&消しゴムセット。高畑さんの所有品。

高畑 カップヌードルやコカ・コーラ、ポカリスエットみたいに、新しいジャンルが誕生したとき、最初に広く認知された商品が結局残るんですよね。最初に挙げた3つのうちの「性能」に話が移るんですが、誕生当初から完成度が高く、性能的な変化が起こりにくいジャンルにその傾向があります。

そもそも塩化ビニールのプラスチック消しゴム自体の完成度が高いので、現在の消しゴムが数十年前の消しゴムよりも2倍消えやすいということはないんですね。本質的にこれ以上消えるものを作るのが難しいということです。これがスマートフォンやデジカメなどのジャンルだったら10年前、20年前の性能と現在とではまったく比べ物にならないのですが、消しゴムやカップヌードルなどはそこまでの差がなく、現在に至っても本質的な価値が変わっていません。

納富 カップヌードルも最初からおいしかったですもんね。かつて消しゴムのジャンルが天然ゴムからプラスチックに置き換わったときのような入れ替わりが起きないので、安定した地位にいられるわけですね。

高畑 そして「MONO消しゴム」がロングセラーとなった理由の最後として、「デザイン」がわかりやすくてキャッチーなことが挙げられると思います。「MONO消しゴム」が良いのは3色の横縞のカラーリングによって、商品が小さくても「MONO」だと認識しやすいというデザインだった点と、このイメージを現在まで大きく変えてない点です。

大きく変えなかったからこそ、色彩商標を取得できるくらい圧倒的な知名度を得たわけです。もちろんこの色彩商標は他社に真似されないようにするために取ったわけですが、例えばマンガなどで消しゴムを表現するときに、3色のストライプが入ったスリーブがないと消しゴムとはわかりにくい。それほど「MONO」のデザインが一般的な消しゴムのイメージとして浸透しているのです。

納富 「MONO消しゴム」のすごいところは、よく消えるという意味ではほかのメーカーの消しゴムも同じくらいよく消えるものなのに、それでも今も首位に君臨し続けているところですね。これはやはり、登場したときからもともとの完成度が高く、消費者の信頼を最初に獲得できたというブランドの強さですよね。

▲新旧入り混じった「MONO消しゴム」たち。現在の青・白・黒に当てはまらないカラーリングのものも見受けられる。高畑さんの所有品。

マトリックスのど真ん中を変更しない

高畑 「MONO消しゴム」はノック式、スティック型、薄型などバリエーションが多いんですけど、もっともど真ん中でプレーンの「PE」タイプのイメージを変えていないことが重要ですね。消しカスがまとまるタイプだとか、黒色の消しゴムだとかを市場に合わせて新たに作っていますが、本丸の「PE」は変更していません。

▲もっともスタンダードな「MONO消しゴム」の「PE」タイプ(写真はPE-01A)。画像提供:トンボ鉛筆

納富 カップヌードルもシーフードとかトムヤムクンなど味のバリエーションは多く出ていますけど、結局一番売れているのは、通常の醤油味のカップヌードルだったりするじゃないですか。新商品を作る側からすると、こういうスタンダードは、ある意味、目の上のたんこぶみたいなところもあると思いますが…。結局、一番プレーンな「PE」の形が使いやすくて消しやすいんですよね。

高畑 そうですね。もう少しやわらかいもの、硬いものなどの特徴をつけようと思ったときに、認知度の高い「PE」タイプの商品そのものを変更してしまうのは、リスクが非常に高いと言えます。マトリックスの中心にあるものなので失敗したときにブランドを失いかねないためです。だから、「PE」とは別のバリエーションとして販売してリスクを抑えています。

やはり、天然ゴムからプラスチックへの入れ替わりが起きた際に、「MONO消しゴム」が一番いい場所を確保できたことも大きいですね。入れ替わりは「圧倒的な便利さ」が出てきたときにしか起きません。銀塩カメラからデジカメに入れ替わりが起きたのは、コストも安く画質も良いというカメラの本質で圧倒的な便利さが生まれたからです。消しゴムの本質である「消しやすさ」を圧倒的なレベルで実現するような技術は今のところ見当たらないので、「MONO消しゴム」は今後も一番手の位置を確保できるでしょう。一番手だから、他社から新しい機能の消しゴムが出てきても、後発で商品を開発して対抗できるという点も強いと思います。

入れ替わりが起きて最初の数年間が勝負だと思います。「MONO消しゴム」は天然ゴムからプラスチックへの入れ替わりにスタートダッシュをかけて揺るぎない地位を確立しました。最初に地位を確立したことで、あとは「使ったことある」「知っている」でブランド資産を貯めていけたのだと思います。

納富 それこそ何らかの技術的なブレイクスルーが起きたり、「ヒュッとなでるだけで消える」みたいな別角度のものが出てきたりしない限りは、本当に入れ替わりようがないですよね。

高畑 そうなると次に考えないといけないのは、そもそも鉛筆で書いて消しゴムで消すという行為自体がなくなるとき、何をするのかということです。例えばタブレットの中で文字を消す際のアイコンが「MONO」になるかどうかはわからないわけですよ。ワコムのタブレットの操作方法が良いとなったら、消すアイコンはワコムに変わるかもしれません。

平成に入ってからデザインを大きく変えていない

▲限定発売の「モノカラー誕生50周年記念セット」。代表的な歴代モデルが並んでおり、デザインの変遷がわかる。左から1969年、1980年、1990年、2000年、2013年の発売モデル。

――MONO消しゴムのデザインの変遷についてどう思いますか?

高畑 この「モノカラー誕生50周年記念セット」を見ていると、本当にデザインが安定する1990年くらいまでは割とデザインは変わっていますね。青色の濃さも初期から大きく変わっています。ロゴも最初は「MONO」の最初の「O」がよく見ると鉛筆の軸になっているんですが、もはや消しゴム単体で販売しているから鉛筆のアイコンを使う理由がなくなって1990年から変更しています。そして、2000年以降は微調整ですよね。デザインの変更と言っても、トンボ鉛筆の会社のロゴの変更くらいです。

納富 そうですね。あとは、消しゴムを折れにくくするため、スリーブの端を切るなどしているくらいですかね。

高畑 大きな性能差がないときには、歴史や伝統、物語などがパワーになるんですよ。だけど、歴史は今日明日では作れず、重ねることでしか作れません。デザインをあまり変えていないということが歴史の積み重ねになっています。

納富 色彩商標を取得した年に発売した、文字のない「試験用消しゴム」(「MONO消しゴム」文字なしタイプ)もうまく時代にはまりましたね。

高畑 この「試験用消しゴム」がひとつ残念なのは、スリーブに描かれたデザインの線の幅が若干違うんですよ。真ん中の白の幅が細いんですね。文字がなくなると広く感じるから幅を変えたんでしょうけど、変えなくて良かったと思うんですよね。バランス込みでデザインが定着しているので、偽物に見えてしまいます。

▲左が通常の「MONO消しゴム」、右が試験持ち込み用の「MONO消しゴム」文字なしタイプ。

納富 1990年からざっくり30年、ほぼ平成を通してデザインが変わっていないということが大きいのでしょうね。時代に合わせていじらなければいけないようなものではなく、シンプルで力強いデザインだったということですね。

高畑 消しゴムというジャンル自体が、すでに昭和のときからひとつの落ち着いた場所を見つけられていたということですね。

「MONO消しゴム」の原風景

――お二人の「MONO消しゴム」との出合いってどういうものでしたか?

納富 私は「MONO100」のおまけの消しゴムが最初の出合いですが、その頃は消しゴムの片側半分が砂消し(ボールペンの文字を削り落とすタイプの消しゴム)でした。そもそも「MONO100」が製図用の高級鉛筆ということもあったからでしょうが、子供の頃は砂消しのことをあまりわかっていないので、よくノートに穴を開けていました。プラスチック消しゴムの部分は鉛筆の文字がよく消えるのに、もう半分の砂消し部分は穴が開いてしまうので使いにくかったですね。しばらくしたら、紙スリーブの「MONO消しゴム」が出て、「これは、よく消えるほうの消しゴムだ」と気づいたんですね。

ただ、小学5年生くらいから消しゴムを使わなくなるんですよ。それまではシャープペンシルの後ろの消しゴムまで使っていたんですが、だんだん、きれいに消してもう一度上から書くのと、文字の上にジャジャッと線を引いて次の行に書くのとどっちが早いかって言ったら消さないほうが早い。消しゴムを上手に使えなかったのもあるのですが。

高畑 そうしたら、鉛筆で書く必要もなくなるじゃないですか。

納富 だから途中からボールペンに切り替わりました。

高畑 それはかなり割り切りが早いですね。きれいにノートを仕上げる必要性は感じていなかったんですね。

納富 中学校の時点で教科書に書き込むようになっていましたから。ノートは学習用とは別の用途で使っていました。テストの点数さえ取れればノートのきれいさは関係ないので、字をきれいに整えるという方向には行かず、今に至ります。

高畑 私はまた世代が違うんですけど、小学校の頃はファンシー文具全盛時代なんですよ。消しゴムはキャラクターグッズのひとつでおもちゃのように買える時代。どれも普通に消えたので何を買っても大差ないし、選択肢が多かった。中学校になってシャープペンシルにこだわり始めて「0.3mmより0.4mmのほうが書きやすいな」みたいなことを考え始めたときに、消しゴムの消し心地の違いなどを意識するようになりました。関西圏なので他社の消しゴムのほうになじみがあり、「MONO消しゴム」を実際に多用するのは大学で上京してからですね。ファンシー消しゴムや機能消しゴムなど選択肢が多かったのですが、ジャンルのど真ん中に「MONO」があるというイメージは昔から抱いていましたね。

Profile
高畑正幸(たかばたけ・まさゆき)(写真左)
テレビ東京の人気番組「TVチャンピオン」に出場し、1999年、2001年、2005年に開催された「全国文房具通選手権」を3連続で優勝して「文具王」と呼ばれるようになる。文房具メーカー「サンスター文具」にて13年間、商品企画・マーケターを経て退職後、同社とプロ契約。現在は文房具の情報サイト「文具のとびら」の編集長を務め、個人でもYouTubeチャンネルを開設。2007年より、文房具ライターのきだてたく、他故壁氏(たこ・かべうじ)と共に、文房具トークユニット「ブング・ジャム」を結成し、各地でイベントを開催している。

納富廉邦(のうとみ・やすくに)(写真右)
フリーライター。文房具、雑貨、小物などアナログなアイテムからデジタル機器まで、グッズの選び方や楽しみ方について造詣が深い。All About「財布・革小物」「男のこだわりグッズ」ガイド。TBS「マツコの知らない世界」では、ボールペンライターとして、少し高級で長く使い続けることのできるおすすめのボールペンを紹介している。著書に「40歳からのハローギター」(幻冬舎)、「大人のカバンの中身講座」(玄光社)などがある。

 

メーカーが考えるロングセラーの理由

それでは、実際に商品を開発しているメーカーは、自社商品のロングセラーの理由をどう捉え、売れ続けるためにどのような企業努力を重ねているのでしょうか。

株式会社トンボ鉛筆の上席執行役員で、マーケティング本部長を務める亀井明憲さんに話を伺いました。

――「MONO消しゴム」の発売当初は、どのような層が想定ターゲットだったのですか?

亀井さん(以下、亀井) デザイナーやアーティスト向けに開発したプロユースの最高級鉛筆「MONO100」のおまけの消しゴムでしたので、消しゴムもプロユースを想定していました。通常の鉛筆が1本10円の時代に、1本100円と10倍の価格で販売していました。しかし実際には、感度の高い人や学生も反応してくださり、広く普及しました。

▲1967年発売の最高級鉛筆「MONO100」(写真上)とおまけで付いてきたプラスチック消しゴム(写真下)。画像提供:トンボ鉛筆

――よく消えるということで人気を博したそうですが、この商品は「MONO100」の発売にあたり開発したものなのですか?

亀井 新たに開発したわけではありません。ハイエンド仕様の高級鉛筆のおまけのため、消しゴムも高級にした結果、予想外の人気になったというのが真相です。当時はまだ天然ゴムタイプの消しゴムが主流で、製造され始めて間もないプラスチック消しゴムは高級品でしたから。

――発売当時に大きな人気を得た要因はどこにあると思いますか?

亀井 当時何か特別な施策を行ったという記録は残ってはいませんが、10年計画で鉛筆の販売店舗の拡大を図っていたようです。推測になりますが、背景として考えられるのが、高度経済成長期でオフィス需要が非常に伸びたことと、出生率が向上して子供が増えて、学校教育の現場での需要も増えたことの2つです。

また、プラスチック消しゴム市場の黎明期に、品質の高い商品をインパクトあるビジュアルで導入できたことも、一気に先行者としての地位を築くことができた要因だと思います。

▲「MONO消しゴム」の商品化第一号(1969年)。画像提供:トンボ鉛筆

――ビジュアルといえば、「MONO消しゴム」の象徴的なパッケージのデザインはどのように決まったのですか?

亀井 社内デザイナーの井出尚(いで・ひさし)さんが、四角くて小さいものを目立たせるには「国旗」が良いだろうと考えたそうです。さらに消しゴムの形状には横縞がふさわしいとのことで、現在のトリコロールデザインになったと聞いています。

色の選定に関しては、当時そこまで深い意味は考えていなかったみたいです。今にして思えば、白と黒という正反対の色に、彩度の高い青の組み合わせが印象深かったのではないかと思います。

また、白は清潔さや真面目さ、黒は高品質感、青は知性や静謐さを感じさせる色なので、オフィスや学習用に使う道具のパッケージとしてふさわしい組み合わせだったのではないでしょうか。

――その青・白・黒の組み合わせが、2017年に特許庁から「色彩のみからなる商標」の登録を認められましたが、このいきさつと効果を教えてください。

亀井 「MONO」ブランドは弊社の中で最も重要な資産のため、いち早く対応する姿勢をとり、商標法が改正された2015年に出願しました。主な理由は2つあります。1つ目は「MONO」ブランドの商品ラインナップに、従来の消しゴムのような四角形に限らず、ペン型などさまざまな形の商品が増えていたため、配色だけの商標権を取得する必要があったということが挙げられます。色彩商標には輪郭の定めがありませんから。2つ目は、模倣品や便乗品も様々な形状のものが増えているので、それらにもより対応しやすくなるためです。

効果については数値化できているわけではないですが、「色彩商標第1号」ということでメディアに多く取り上げられて社会にブランドを再認知できたことと、パロディ商品に対する弊社の警告も受け入れてくれるようになったこと、社内でもブランドに対する認識が高まったことが挙げられます。

新しい消しゴムを開発するための情報の集め方

――「MONO消しゴム」はスタンダードな「PE」タイプのほか、スティック型や消し心地の軽いものなど39種類あるそうですが、さまざまな需要をどのようにキャッチアップしているのですか?

亀井 大きく分けて5つの経路で情報収集しています。

①顧客観察や洞察による情報収集
②展示会や見本市での情報収集
③社内の営業担当の週報による情報共有
④マーケティング本部内で毎週行う情報共有ミーティング
⑤品目ごとの使用実態調査

①は売り場や商品を使用する現場でのお客様の行動観察から得た気付きをもとにしています。②で参加される各社の流通担当、営業担当の方々からいただいた意見を集めており、③は企画担当者が全員見られるようになっているため、市場の動きをいち早く察知できます。④のミーティングは各自が社会全般のトレンドから商品開発のヒントを得る目的で行っており、⑤は使用頻度、重視するポイント、不満などを主に聞いています。

――実際にそうした情報収集から、どのようにして新しい消しゴムが生まれるのか具体例を教えていただけますか?

亀井 例えば、④のミーティングで行う社会全般のトレンドから生まれた商品がわかりやすいと思います。

1980年代半ばに住宅の床が畳からフローリングへと変化したことによって、それまで畳の隙間に入り込んでいた消しゴムの消しカスが、フローリングで目立つようになりました。そこで、消しカス同士をまとめて捨てやすい消しゴムの需要が増え、「MONO NONDUST」につながりました。その後、今から5~6年前からリビング学習が話題になって、今度は消しカスが消しゴムにくっつく「MONO dust Catch」へと進化しました。

▲「MONO dustCatch」吸着力を高めるタックポリマーを配合することで、消しクズが消しゴム本体にくっつき、周りを汚さずに済む。画像提供:トンボ鉛筆

「MONO stick」「MONO KNOCK 3.8」などの携帯用消しゴムも時代の需要に合わせて開発されたものです。ここ15年ぐらい、ビジネスマンが机の上でノートを開いて文字を書かなくなってきていて、手帳に書くスタイルへと変化しているからなんですね。

また、これは「MONO」ではないですが、今、学童用の鉛筆は2Bが中心になっていて、4B、6Bなど、どんどん力をかけずに書ける濃い鉛筆を使う方向に進んでいます。その状況を反映して、学童向けに「ippo! 濃いえんぴつ用消しゴム」を開発しています。

――顧客観察から生まれた商品にはどのようなものがありますか?

亀井 最も印象深いのは「MONO one」です。ほかのスティック型の消しゴムと比べると背丈が短いのですが、これは鉛筆を持ちながらでも消すことができるように設計しているためです。お客さんを見ていると、通常の消しゴムを使うときは鉛筆を持ったままというケースが多いのですが、ほかのスティック型消しゴムの場合、鉛筆と消しゴムを持ち替えて使用していることが多いんですね。ただ、そうなると作業や思考の流れを止めてしまうので、わりと使いにくい。そこで、通常の消しゴムと同じ背丈のショートタイプのスティック消しゴムの発想が生まれました。

▲「MONO one」鉛筆と一緒に持ちやすい、短めのスティック型消しゴム。画像提供:トンボ鉛筆

これなら消しゴムも前方部をひねって繰り出すだけなので、片手で操作できます。また、お客さんの観察を続けていると、約8割の人が3文字以下を消す際に使用していることがわかりました。さらに、ノートはA罫、B罫いずれも使用する人が多かったので、どちらの場合でも罫線内の文字が一回で消去しやすい直径(6.7mm)を割り出しました。

もうひとつ「MONO zero」もお客さんの観察から生まれたものですが、自分のこだわりから生まれた商品でもあります。というのも、「究極の細いノック式消しゴムを作りたい」という思いがありまして…。ただ、手書きで製図を行う機会は減っていたので、時代には逆行していました。企画を通すためにも、ほかのニーズはないかなと探していたところ、趣味で同人誌を描いている人にニーズがあることをヒアリングで掴んだんですね。シャープペンシルで描いた人物の細かい部分、髪の毛のニュアンスだとか表情の細部を手直しするときに超極細の消しゴムがあると便利なのです。

▲「MONO zero」(丸型)細部を狙い撃ちで消すことができるよう、ガイドパイプが付いた超極細のスティック型消しゴム(写真下は使用シーン)。商品画像(写真上)と、実際に使用するシャープペンの画像提供:トンボ鉛筆

「MONO zero」の丸型の消しゴム直径は2.3mmでこれは「MONO」ブランド最小です。これだけ細いと替えゴムの作成に非常に手間がかかるのですが、その分、類似品も作りにくい。他にも1mm以下の細かいピッチで繰り出せるメカニズムや、視界の良い金属製のロングガイドパイプなど、通常のノック消しゴムにはないこだわりが詰まっています。実は国内だけでなく海外のクリエイターやアーティストにも評価が高くて、「MONO」ブランドの消しゴムの中では海外で一番売れています。

――そのように新たな需要を見つけて新商品を開発するサイクルはどのくらいですか?

亀井 何年ごとという風に意識して開発しているわけではないですが、おおよそ3年間隔で新商品が出ている状況です。

ただ、消しゴム自体のベースが進化しているのではなく、新たな機能を付与したり付加価値を付けたりする方向での進化です。スタンダードである「PE」タイプの配合は変えずに、新しい消しゴムは数多くのバリエーションのひとつとして発売しています。正直なところ、消しゴムの消字率は90%超ですが、これ以上の改善は技術的に難しいのが現状です。

失敗から得た学びと今後の展望

――あえてお聞きしたいのですが、失敗したなという施策はありますか?

亀井 一度だけ「PE」の材料を一部変更したことがあったんですね。もちろん性能評価や官能評価も行って、差はほぼないという結果だったのですが、一部のユーザーの方から「何か消し心地が違う」「材料を変更したのなら元に戻してほしい」という声がかなり寄せられたんですね。官能評価も一定の条件下で人間が行うものなのですが、すべての使用状況を再現できるわけではなく、ここまで大きな拒否反応があるとは思っていませんでした。そういう経緯があったため、すぐに材料は元に戻しました。

――逆に手応えを感じた施策は何でしょうか?

亀井 50周年記念のキャンペーンはおおむね成功したと言えます。とくに「MONO消しゴム」でラッピングしたロンドンバスの周遊広告はTwitterなどSNSで、「消しゴムが走ってる!」と大きく拡散されました。

▲話題を呼んだ「MONO消しゴム」がラッピングされたバス。画像提供:トンボ鉛筆

また、歴代のスリーブデザインを再現した「モノカラー誕生50周年記念セット」(ピンバッジ付き)も発売直後から品薄状態が続き、現在は入手困難となっています。さらに販売店さんを対象に「陳列コンテスト」を行ったところ、各販売店さんが陳列を工夫し、大きく盛り上げてくれました。このほかにもジャンボMONO消しゴム、「MONO消しゴム」を模したリュックやスニーカーなどのオリジナルグッズが当たるキャンペーンも多くの方にご応募いただき好評でした。

――さまざまな施策を重ねる中で、「MONO消しゴム」ならではの強みはどこにあると考えていますか?

亀井 まずは市場での地位そのものですね。ブランド認知率が世代を問わず8割近くある商品のため、どのチャネルでも定番品として目立つ場所に置いていただいています。

戦略面ではリーダー的地位にあるため全方位戦略をとっています。例えば市場で黒い消しゴムが台頭した頃、調査したら一定の支持があるとわかりました。そこで「MONO消しゴム[ブラック]」を発売しました。後発でしたが、今では定番化して大きい売り上げを持っています。

――今後の「MONO消しゴム」の展望について教えてください。

亀井 消しゴムという領域だけで考えれば、いずれ市場はシュリンクしていくのは明らかです。引き続き国内市場については現在のリーダー的地位を活かして、シェアをより高めていく努力をしていこうと考えています。

海外に目を向けると、中国を中心にアジア地域で消しゴムの需要が高くなっていますので、さらに開拓していこうと考えています。もともと「MONO」ブランドの商品が入っていたことと、アジア地域の所得水準が上がり、日本製の高品質なものを求めるようになったことが背景にあると思います。

――最後にお聞きしたいのですが、これからのペーパーレス化社会を見据え、「MONO」ブランドでのデジタル商品開発も考えていますか?

亀井 可能性はあると考えています。ブランドステートメントには「知的活動を完璧にサポートする」ための道具とだけ規定されており、どこにも「消しゴム」など商品ジャンルを限定する言葉は入っていません。過去にも、修正テープ「MONO AIR」やシャープペンシル「MONO graph」も発売し、成功しています。そもそも、始まりは鉛筆だったわけですから、今後も「消す」ことだけに限らず、知的活動に役立つ商品を開発していきたいと思います。

▲「MONO」のブランドステートメント。「消しゴム」という定義はどこにも入っていない。画像提供:トンボ鉛筆

――本日はありがとうございました。

 

株式会社トンボ鉛筆

1913年、創立者の小川春之助が浅草で開業した「小川春之助商店」を前身とする大手文房具メーカー。1927年にトンボのマークを商標登録。以降、数度のロゴ変更を経て、創立100周年の2013年に現在のロゴマークに一新。トンボが上向きになることでチャレンジ精神を、羽の形で無限大(∞)を表しており、トンボの張りのある頭部には、トンボの複眼のように人間を注意深く観察し洞察するというものづくりの姿勢が込められている。また、鉛筆型化粧品を半世紀以上作り続けている化粧品OEMメーカーでもある。

創立:1913年2月
本社:東京都北区
代表取締役社長:小川 晃弘
公式ホームページ https://www.tombow.com/

記事執筆者

岩崎多

岩崎多

いわさき・まさる 出版社2社でビジネス誌やモノ・グッズ誌の編集、週刊誌の編集記者を経験し、2019年1月CINCにジョイン。編集長として文房具ムックシリーズを立ち上げ、累計30万部以上を記録。

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